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ForeRunner  作者: 宮沢弘
大探査
9/26

5−3: 大探査1−3

 遺伝情報の解析は三つの降下隊の中から合同の一班が、テランの船においてあたることにした。その間に三隊は、ネセムを代表として聞き取りを行なうことにした。

「さっき、地上でずいぶん叫んでくれていたのが助かるな」

 アブダクトした対象を惑星の大気組成からエランの船に移送した。ここを中心にテラン、ヴェールコール人の船とも接続し、彼らの言語の解析を行なうことにした。

 降下船の操縦はコラスに頼み、私はその様子を見ることにした。

 ファーストコンタクトの場合にはたまにあることらしいが、翻訳にはテラン、エラン、ヴェールコールの三隊の降下船の演算能力をかなり使うことになった。母船であっても一隻では少なくとも時間がかかる処理だ。特に正確さを期する場合には。今回は正確さの前の段階で済ませることにした。

 マイクロ領域fMRIによる脳機能マップ、脳量子場の観測、音声、表情、ジェスチャーの解析を行なった。数時間でほぼ翻訳が可能となった。

 こちらのジェスチャや表情も含めた翻訳のためのグラスを装着してもらった。装着を納得してもらうまでに着けては投げ捨てを何回繰り返したか。

 これまでの最初の扱いが、対象にとってあまり好意的に思えないだろうことは想像できる。

 対象に丁寧に椅子を勧め、私も腰を降ろした。

「まず、何についても謝る。君たちも君も不快な思いをしただろう」

 対象はマスクをしているネセムと私を変るがわる見ている。

「彼のマスクについては気にしないでくれ。呼吸する大気が違うんだ」

 それが通じたのかどうか、対象は私を見た。

「また壊しに来たのか?」

 それがどういう意味なのかわからなかった。教えをもたらした者にしても、これまで破壊をもたらしたと言われているなどということは聞いたことがない。

「どういうことなのか説明してれないか? 私たちは君達のところに何かを壊しに来たわけじゃない」

「なら何をしに来た?」

「そうだな…… 君たちもここの先に新しい土地があるとわかれば、調べに行くだろう?」

「すぐにではない」

「もちろん、すぐにというわけではないかもしれない。だがいずれは行くだろう?」

 対象の表情が変わった。共有感覚空間から、それが同意のジェスチャであることがわかる。

「私たちはこの宇宙を調べているんだ」

 また対象の表情が変わった。それが疑いであることがわかる。

「そうやって壊していくのか? 柱をもたらした者のように?」

 私はネセムとセラーに顔を向けた。ネセムは訳がわからないという表情をしている。対象への翻訳を有効にしたまま少し話す。翻訳を切る方がなおさら疑われかねない。

「そんな話はどこでも聞いたことがない」

 ネセムは翻訳を有効にしていることに少しばかり不満ではあるようだ。

「柱というのはモニュメントのことだろう。さっき君たちがいた場所にあった大きな柱のことだね?」

 セラーが訊ねた。対象の表情から同意であることが伝わる。あまり大きなジェスチャは使わないのだろうか。ほんの小さな瞼の動き、顎の動き、その程度のもののようだ。爬虫類にも見える外見から、表情が豊かにも思えない。

「柱をもたらした者がここを壊しに来たというのはどういうことなのだろう? もし構わなければ教えてくれないか?」

「全て言い伝えだ。あの柱がすべてをもたらした。この世界は焼き尽されそうになった」

 私はセラーを見た。セラーもうなずいている。

「君たちは核を手に入れていたのか?」

 対象はまた疑いの表情を浮かべる。

「その言葉はわからない。だが、それが世界を焼き尽くせるのなら、それなのだろう」

「ネセム、そこまで行っていて、技術を手放した種族はいるのか?」

 ネセムは首を横に振っていた。私たちの多くに伝わるジェスチャを選んでくれている。

「核は火と同じだ。扱いを誤れば全てを焼き尽くす。教えにそうあったはずだ。少なくとも私たちは文字を手に入れるとともに、焼き尽くすものには慎重になれと伝えられたと記録されている。青銅にせよ鉄にせよ、それを得る際にすら同じく言える」

「そういう言い伝えはないのか?」

 対象に顔を戻し訊ねた。

「あったらしい。だが火を手懐けるのは難しい」

「それで全てを手放したのか?」

 対象が同意した。

「全てを焼き尽すよりもましな方を選んだだけだ」

「その先を見ようとは思わなかったのか?」

「焼き尽くされた後に何が残る?」

 疑いの表情を浮べていた。

 焼き尽されたら、何も残らないかもしれない。それを選んだのなら、他の種族が口を出す事柄ではないのかもしれない。

「ネセム、こういう場合はどうなるんだ?」

「例がないと思うな。そもそも君たちだって例がない」

「では、私が判断してかまわないな?」

 ネセムはうなずいた。

「私たちはマレビトとして、時にこの星を訪れたいと思う。それを許して欲しい」

 また対象が疑いの表情を浮かべる。

「私に決められることではない」

 その言葉で文化の違いを思いだした。対象はサイバースペースも共有感覚空間も持っていない。古いやりかたで決めるしかないのだろう。

「それでは時間をかけて決めて欲しい。私たちはたまに柱のあたりを見に来る。許してくれるなら、柱の横に石で丸を描いておいて欲しい」

 そう言いながら私は右手で丸を描いた。

 対象は同意の表情を浮かべた。


 対象を歓待とまではいかないが、DNAや内臓の分析から無害と思えるものでもてなした。悪意は持っていないということだけはわかって欲しい。


 対象のDNAからは、対象の言い伝えの裏付けになる可能性がある部分がみつかった。DNAの破損と修復の痕と思える部分があった。その修復が人為的に行なわれたのか、それとも生き延びた結果としての修復なのかはわからないが。


 対象を地上に戻し、私たちもそれぞれの降下船に戻った。

「ネセム、この場合、星図にはどうマークすればいいんだ?」

「モニュメント有り、知性体存在が青。モニュメント有り、知性体がいない場合が黄色。ならその間で緑にしておこう。注釈を付けておけばいいだろう」

「それと、不干渉も忘れずにな」

 セラーが付け足した。

 私たちはそれぞれの母船に戻り、そのように処理した。


「君たちは『例がない』というのに取り憑かれているのか?」

 探査の結果を確認してからローガが言った。

「どうやったらそんなものに取り憑かれるんだ?」

 エズラが答えた。

「それにしても『焼き尽くす』という言葉に思い当ることがあったようだが」

 私もエズラも少し返答に詰まった。

「実際にそこまで行ったわけじゃないのは知っているだろう。だが、その可能性に行き着いたことは確かだ」

 私はそう答えるしかなかった。

「まったく、『例がない』のが好きな種族だな、君たちは」

「教えがなかったからな」

 エズラが声に皮肉を浮かべて答えた。

「いや、そう言ってしまうのはここの種族に失礼だが」

 慌ててそう付け加えた。

「だが、だからこそ君たちは面白い」

 その答を聞きながら、小さな疑問が浮かんだ。慎重にその疑問を手に包んだ。共有感覚空間に漏れることがないように。私はその疑問をしばらく眺めていた。

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