2−2: ナブロス星系探査2
「マーグ、これはモニュメントなんてもんじゃないぞ」
降下船の中からクアクが怒鳴った。
共有感覚空間を通して、その威容は私にも見えている。
「普通にあるモニュメントの、幅にしても高さにしても5倍はありそうだ」
ヴェールコール人の降下隊のヌモアが続けた
テランの降下船からもガーダーが母船に同様の報告をしている。
「ヌモア、銀河ハビタブルゾーンの内側ギリギリだ。こんなところに対象になる凖知性体がいたのか?」
クアクがまた怒鳴った。怒鳴る必要などないのだが。
「それが未踏だった理由だ。恒星磁気圏のちょっとした変動で銀河宇宙線に曝される。こんなところで遺伝情報媒介物質がそこそこ安定していられるとは、そして歴史を重ねるとは考え難い。私たちのものにしても」
そうヴェールコール人は珪素有機体-塩素呼吸生物だ。炭素有機体のDNA、あるいはDNA様物質よりも彼らのそれは安定だ。
三隻の降下船はモニュメントの近くに着陸した。降下中の分析により、窒素が主体で酸素が充分に含まれる大気だった。三班とも簡単な気密服とマスクを着けていた。テランとエランは念のために。ヴェールコール人は呼吸のために。
目の前には巨大なモニュメントがある。この表面のすぐ下に結晶があるはずだ。
「結晶を使ってくれ」
ヌモアが母船に伝えた。
こちらの船の結晶に反応が現われるとともに、モニュメントの表面に変化が現われた。
「どういうことだ」
ヌモアが呟いた。
「六個あるということか?」
クアクの目を通して、モニュメントの表面に六角形の頂点に結晶の共振による輝きが現われたのが見える。
「こんなモニュメントは見たことないぞ。ヌモア、こういう例はあるのか?」
ガーダーも声をひそめるように呟いた。
三人とも、そして他の降下班の者もモニュメントと、その表面現われた輝きに目を奪われている。
「あるわけがない」
そう言いながら、ヌモアは六角形の中心を見ているのがあちらの共有感覚空間を経由して私にも見えた。
「共振をもう少し強くしてくれないか?」
ヌモアが母船に依頼した。
ヌモアに何が見えているのか、そこまではわからなかった。だがこちらの船の結晶の共振が強まるとともに、ヌモアに見えていたものが私にも見えて来た。
六角形の内側に、対角線を引いた時に現われる六角形の部分が青白く光った。それは次第に青黒く、そして黒くなった。
「何だ、これは」
ヌモアがまた呟いた。
「降下船、これは何だ!」
今度は叫んだ。
しばらくの後、ヴェールコール人の降下船と、そこに残っている者から返答があった。
「余剰次元窓が開いている」
「ンバス、どういうことだ」
思わず私は声を上げた。量子もつれで抉じ開けるものじゃないのか。それも相互に干渉し空間そのものを余剰次元に押し込み、そして抜け出すものじゃないのか。
「なぜ、平面になっている。いや、平面になっているように見える」
「わからない。高共振性結晶のこんな使い方は知らない。それにここに何かを放り込んだとして、それが出てくるのかもわからない。単に平面に配置されているから、こうなっているだけで、実際には立体的に配置するものなのかもしれない」
「だとしても、なぜここにこんな物があるんだ」
「わからない」
誰もが黙り込んだ。
ともかく記録を取り、降下隊はそれぞれの船に戻ることとなった。
「つまり、高共振性結晶はモニュメントに埋め込まれた、ただのマーカじゃなかったということだ」
ンバスが切り出した。
「量子工学が一定の段階に到達すると、機会はどうあれモニュメント内の結晶が反応する。それを見て、私たちはその複製を作る。マーカとして使い、マーカを見付けるために」
「今まではそうだった」
ケリーが付け加えた。
もちろん、それも問題だが。なぜここにこんな形で残っているのか。
「ここが教えをもたらした者が生まれた……」
「いや違う」
ケリーの言葉をンバスが遮った。
なぜそう言えるのか。
「ここであるはずがないんだ」
なぜそう言える。
「そのうちに話そう。だがここであるはずがないことだけは確かなんだ」
「なら、あのモニュメントは何だ」
ケリーが訊ねた。
「モニュメントの形は同じだが、大きさといい、結晶といい、他に見られないものだ」
それに星系の状態だ。
「それは…… 教えをもたらした者の第二、第三の母星だったのではないかと思う」
そして、星系を食い潰してどこかへ消えたのか。
「どこかへ、ではないが。そういうことだ」
今、話したくないのなら仕方がない。だが、モニュメントに現われた余剰次元窓についてはどう考える。
「試してみないとわからないが。前か次の母星に繋がっているのだろう。余剰次元窓として機能するならだが」
ヴェールコール人が、他の種族に何かを隠していることはわかった。それはいずれ話してくれることを期待しよう。
今は、結晶の使い方を明らかにすることが先だ。それが教えをもたらした者へと繋る一つのヒントであることは確かだ。




