6−3: 大探査2−3
二隻の降下船がこちらの母船から離れ、ゆっくりと着陸したとき、一つのモニュメント――Aと呼ぶ――は夕暮れ時、もう一つ――Bと呼ぶ――は真夜中過ぎだった。両方が視野に納まる高度に、私たちとエラン、そしてヴェールコール人の母船は集まっていた。AとBの降下船はこちらの母船と通信を行ないながら接触を試みた。
「大気はやはり窒素-酸素だな。ガブリック、人が集まってきたな」
アンセルが計器からのデータを読み上げる。上空で探査はしていたが、地上での確認だ。
夕暮れではあっても、おそらく覆いを操作する建物からだろう、数十人が出てきた。まだ大勢がいるのだろうか。あるいは、エズラが言っていたとおり、それなりに自動化されているのか。
この人々は上下の顎が迫り出しており、顔だけの印象なら犬に近かった。だが、骨格をスキャンすると、全身はむしろ人間に近い。
船内で観察していると、その中の一人は興奮気味に叫んでいた。
「通じた! 通じた!」と。
正確には通じたわけではない。充分な言語情報があったわけではない。言葉を操っているときの脳の状態、つまりはクオリアとでも言えるものをこちらが把握していたわけではあいのだから。
ただ「着陸地点。敵意なし」と、光の明滅で示していただけだ。「着陸地点」という光の明滅に情報はない。モニュメントの横なのだから。「敵意なし」にしても、そのまま信用するわけもない。
エズラから両方の降下船に、ハードスーツを着ての着陸が提案された。
「ハードスーツか」
提案を降下隊に伝えると、全員が壁に吊してあるハードスーツに後向きに一歩下がる。足、腕、胴とスーツが体を包むよに閉まり、最後に頭のパーツが、やはり閉まった。ブンと音がするわけではないが、センサーが起動し、視野が開ける。
「ガブリック、開けてくれ」
こちらのスーツも起動したのを確認したのだろう。後からラビノヴィッツが言った。
私は船に指示し、船体の横にあるドアを開けた。
「アンセル、船を頼む」
そう言い、コクピットから出た。後でアンセルがうなずいているのが見えた。
こちらのモニュメントAでは夕暮れから、少し暗さが増していた。
「ローガ、モニュメントから最後の教えが読み出されたのは一万年未満の間なんだな?」
文化程度を考えると、おそらくその半分くらいではないかと思うが。
「あぁ。もっと最近だと思うが」
どうも納得が行かない。
「こちらの言葉が伝わればいいのですが」
私はゆっくりと話し始めた。
その言葉が終る前に、集まった人々は大きく声を上げた。
「言葉が通じる」
「文明の主だ」
「私たちも主に認められた」
そういう言葉が飛び交っていた。
「このスーツを来ていることは許して欲しい」
続けて私はそう言った。
「感染症予防だ。私が言ったとおりだ」
「ウーラが言ったとおりだ」
そういう言葉がまた飛び交った
「ウーラという人がいるのですか?」
一人が周囲から押し出されてきた。胸を張り、堂々と現われたのなら格好もつくだろうが、むしろその逆だった。
「さっき、『通じた』と言っていた人ですか?」
押し出されてきた人に訊ねた。その人は耳を上げて答えた。
「はい」
「この星にはモニュメントが二つある。そのどちらでも火を燃やしていた。それはどちらもあなたの立案ですか?」
「はい」
自信などなさそうに答えた。
「ラビノヴィッツ、この人でともかく言語体系を補完してみたらどうだろう」
後にいるラビノヴィッツらに訊ねた。ラビノヴィッツはうなずくと、船内に残っている隊員にマスクを持ってくるよう提案した。
「ウーラ、私たちはあたなたちの言葉をまだうまく理解できない」
ウーラは、また耳を上げた。
「はい」
「そこで、あなたからあなたたちの言葉について学びたい」
「はい」
「船に入ってくれることを認めてくれるだろうか? もちろん、船はここに着陸させたままだ。おそらく一晩かかることになる」
「はい」
どうにも自信がなさそうなのが気になるが。ウーラがこの方法を提案し、感染症についても言っていたのだとしたら、ぜひウーラから言語体系と知識を得たい。
船から一人降りて来た。手にはマスクと、タンクが握られている。こちらに来る前に、一旦膝を着き、タンクを操作する。バシュっという音が聞こえたような気がする。当面のここの大気は確保できたと、スーツのマスクに表示される。
また腰を上げ、こちらに近づいてくる。
「今、この星の大気をあれに取り込んだ。船に乗ってしばらくの間はあのマスクを着けてもらいたい。すぐにウーラに呼吸できる無害な大気で満たした部屋を作る」
ウーラはまた耳を上げた。
「はい」
その答えを確認し、ウーラから他の者にしばらく船に入ると伝えてもらった。
降下船一隻では充分な計算資源はない。軌道上の母船たちと通信が必要だ。B班も同じことをやっているだろう。計算そのものよりも帯域が問題になりそうだ。エランはちょっとした通信にも量子もつれを使っているらしいが、テランの技術ではそれはまだコストに合わない。
「ラバル、君の疑念がこちらにも漏れて来た」
私はエズラ=ラバルとなり考えた。
「そうか」
ラバルが静かに答えた。
「君が考えていたとおり、β-1で最後の教えが読み出された時期はおかしい」
「あぁ」
「ヴェールコール人は他にも隠していると思うか?」
「いや、そこまではわからない。ただ状況がおかしいという疑念だけだ」
私はしばらく考えた後、提案した。
「ナブロスに帰ったら話し合おう」
ラバルから首を縦に振るのがわかった。




