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肩越しの青空  作者: 蒲公英
蛇足。
72/73

おまけ。

クリスマスイブの前の日に、昭文を家に連れて帰った。

あたしもテキレイキってヤツだし、昭文の職業は安定してるし、見てわかる通りの身体頑健で、何の問題もない。

父は相変わらず複雑な顔をしてるけど、一緒に昼食のあと、ビールなんか出してきた。

「気の強い娘だけど、大丈夫ですか」

そんな言葉が、唯一の抵抗らしい抵抗だった。


で、昭文の御用納めの一日前に冬休みに入ったあたしは、こうしてお鍋の支度なんかしながら、昭文の帰りを待っていたりする。

うう、不本意だ。

大体ここはまだ、あたしの家じゃないっつーの。

なのに、部屋で帰りを待ってると言った途端、昭文が「晩飯の支度してくれんの?」なんて超嬉しそうに言うもんだから、「それはやだ」って言えなくなった。


「ただいまー」

顔が解けきった状態の昭文が帰宅する。

「おかえりー」

もう、お鍋に出汁は張ってあって、泊まるつもりだから、お酒も買ってある。

「裸エプロン、期待してたんだけど」

なんですと?

「誰がするか!昭文がするんなら、後姿を見てやってもいいけど」

言った瞬間、思わず想像して眉間に皺を寄せてしまった。

「・・・何を想像した?」

「フリルのエプロンと、筋肉質の尻」

「見るか?」

「いい。いらない」


二人しかいないのに、9号の土鍋って一体どうよ?

日本酒を飲み始めると腰が落ち着いちゃうから、食事中はとりあえずビールにしておくことにして、すぐに夕食にする。

ポン酢を手渡すと、昭文は不思議そうな顔をした。

「水炊きって、塩味ついてるだろ?」

「え?ポン酢と大根おろしでしょう?」

まさかお鍋だけで、家庭によって違うとは、思ってなかった。

これからも、そんなことは沢山あるんだろうな。


「俺、シャワーだけでいいや」

あたしは夕方前に、スポーツクラブでお風呂に入って来たので、お風呂の支度はしてなかった。

こういうとこ、気を利かせとけば良かったのかしらん。

でもまだ、あたしはここではオキャクサマ・・・

「静音ーっ!パンツ持ってきてー!」

・・・客ではないらしい。


日本酒をちびりちびりと飲みながら、動物の生態番組を一緒に見ていると、ペンギンの子育ての映像が出た。

親ペンギンより一回り小さくて、グレーの羽毛の子ペンギンが、親のくちばしをつついて、餌をねだっている。

その仕草のあまりの可愛さに、つい真似してみたくなった。

昭文の胸倉を掴んで下を向かせ、唇でつついてみる。

何度か繰り返してるうちに、後頭部をがっしりと掴まれた。

「なんだ、その中途半端なの」

「子ペンギンっ!可愛かったんだもんっ!」

「映像で見るだけで触れないようなものより、そんなことされてると、催すんだけど」

何の催し物でしょうか。

昭文はとっととテレビを消して、居間との境目の引き戸を開き、寝室でCDをセットした。



夜更かしはしない昭文が眠ってしまった後、腕を抜け出して一人で居間に座った。

隣の部屋から聞こえる健やかな寝息を邪魔しないように、薄暗い部屋でテレビの音を絞る。

こっそり残りのお酒を飲みながら、これから先について考える。

お正月の三日には、昭文の実家に挨拶に行く。

我が家より少し田舎風味の地域で、我が家とは反対に全員が大柄だという家族だ。

お嬢さんらしい服装の上に、猫の皮を三枚着用しなくてはならない。

昭文の育った家なんだから、猫の皮はいらないかな。


昭文を全部知ってるわけじゃない。

昭文にも、あたしの考えていることすべてが、わかっているわけじゃない。

焦ることはない、一生かけてのんびりと、お互いを理解すれば良いのだ。

隣の部屋から、昭文が寝惚け声であたしを呼ぶ。

「いつまで起きてんだ、ここに来て寝ろ」

はいはい、休みの日でも7時に起きる人だもんね。

一緒のお布団に入ると、毛布は昭文の体温で暖まっていた。


fin.


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