その2
「じゃ、考えてることとやらを、言ってみろ」
うわ、ムカつく。熊のくせに人間様に向かって大上段に。
「だから、話を勝手に、どんどん進めないでよ」
「勝手に進めてんじゃない筈、だけどなぁ。おまえさん、泊まっても文句言わなくなったじゃん」
うう、そうだけどさ。
「で、俺と一緒に居るのも、好きだよな」
その通りなんだけどさ。
「大体、続けていこうって意思のない男とやり続けるほど、プライド低くないよな。あんだけ時間かかったんだから」
ああ、なんだか、とてつもなくムカつく!
「昭文が、あたしのことをどう考えてるのか、あたしは聞いたことない!」
結婚だの手元に置きたいだのって言葉より、もっと前にある筈のものを、あたしはもらってない。
もっとも、あたしも口に出したことなんてないけど。
だって、理由が欲しい。
好きだから一緒に居たいんだって、言って欲しい。
じゃないと、あたしは昭文のペースに巻き込まれっぱなしで、言われるがままに自分の感情を動かしちゃったみたいな気がする。
「だから、結婚しようって」
「なんで?」
「手元に置きたいからって」
「だから、なんで?」
「気が合って、相性がいい」
「それだけ?」
引いてなんかやらない。展望台の下に投げ捨てられたって、絶対に言わせてやる。
昭文の根拠を聞かせて。そうしたら、私用も公用も使い分けないで、全部昭文に明け渡す。
「言わないと、わかんないのか」
「虫除けなんていらない。見た目に寄って来る男なんて、どうせ先に進まないんだから」
昭文は腰を伸ばして、気合を入れるように空を仰いだ。
「言やあいいんだろ。言いますよ」
不貞腐れた口調だ。
「静音は可愛い。外見じゃないぞ、その強気で慎重なところが気に入ってる」
「だから?」
だあっ!と声を上げて、頭を掻き毟る熊。
「好きですっ!だから、結婚しましょうっ!」
はい、よくできました。だから、あたしも逃げないで、ちゃんとお返事しましょう。
「はい。謹んでお受けいたします」
うーん。また子供抱っこされちゃったな。
ん、でも許してやるか。目尻いっぱいの皺が可愛いからね。
背景は夜景なのに、昭文の肩越しに見るのは、いつかの青空。
見上げなくちゃならない昭文は、いつも後ろに空を背負っている。
昭文の背負う空が、どんな色だとしても、あたしはそれを見続ることにする。
昭文の「結婚しない?」で始まったあたしたちは、あたしの承諾の言葉で先に進む。
はい。謹んでお受けいたします。
fin.
本編は、ここでおしまいです。
長々と、ありがとうございました。




