近くで遠いのか。遠くて近いのか。男女の仲はわからないと言うが。
誤字報告ありがとうございます。
すっと、アンちゃんが席を立つ。
「……レプトンさん。まア言いたい事は色々あるが、まずはおめでとう、でいいですな。
龍太郎君を呼びましょう。メリイさんは妊婦だから、来れないでしょうけどね。」
「え?」
「ニブイねえ。神獣様が味方につけば、誰も横やりは入れられないさ。
アンタはメリイさんと仲良しの兄上だ。
龍太郎君はきっとアンタの味方ですよ。」
あー、リード様対策か。
そこでアンちゃんは手を打つ。
「うん、レイカさんのお母様にも来てもらうといいですね。その方がスムーズだ。
龍太郎君は彼女が大好きだから。
……おい、シンゴ。」
「はい。」
カーテンの後ろからすっ、とシンゴ君が現れた。
「シンゴ君、いたの!?」
「ええ。レイカさん。レプトンさんとペー爺さんも気づいていましたよね。
じゃアお義祖母さんを連れて来ます。」
「うん、飴作りが一段落ついたから子供達を遊ばせようって事でいいだろ。ランとアスカも一緒にな。」
そこで優しい顔をしてカレーヌ様を見るアンちゃんだ。
「カレーヌ様。貴女のしあわせが一番ですよ。貴女の選択ならオレは味方しますから。」
「アンディ、ありがとう!」
「レプトンさん。カレーヌ様は私が昔仕えていた家のお姫様だ。決して疎かにしないで下さいよ。
私にとっても妹のような御方なんだ。」
圧をかけるアンちゃんだ。
「は、はい。」
そして隅っこにレプトンさんを連れて行く。
「水を差すつもりはないが、形だけでも辞表を書くんですな。リード様が受け取るかは別として。
ケジメです。あんたはリード様の顔に泥を塗ったんだ。
ま、勝手に話を進められていたのは同情の余地はあるけどね。」
「……ええ。」
「…アンディ?何こそこそ話してるの?」
アンちゃんはカレーヌ様に満面の笑みを浮かべた。
「なあんでもありませんよ、カレーヌ様。これでエメリン先生に付き纏われずに良かったですネ!と祝福していたんデスヨ。
さ、レプトンさん。龍太郎君に連絡を。こちらに来てもらって。」
「は、はい。」
エメリン。忘れてたぜい。
「それにレイカちゃんが、さっき彼女のことについて触れなかった。
それも、その方が良いと思ったんでしょ。」
「まあ。レイカにまで、気を使わせて。」
ああ、うん。
アンちゃんが言う彼女は【アキ姫さま】で、
カレーヌ様が言う彼女は【エメリン】なんだよね。
アンちゃんも私の選択を受け入れたんだ。
「うん、周りに根回しをしてね、本人だけが知らないうちに話が進むっていうのもどうかと、思いますからね。」
ああ、これもアキ姫さまのことだな。
「エメリンさんの騒動のことね。話は聞いてるわ。手紙を送ったり家に押しかけて家族公認みたいに振る舞ってたんですって?」
「――まあ、そうです。」
「ウフフ。あんなエキセントリックな、諦めの悪い女には負けなくってよ!」
おや?カレーヌ様の闘志に火がついたようだ。
「ビレイーヌ、おいで。もうすぐランちゃんとアスカちゃんが遊びに来るわよ。」
「わあっ。」
「レプトンさん、お電話は終わったかしら?」
「はい、龍太郎君は来てくれるそうです。」
「そうだわ。ビレイーヌ。このレプトンさんが貴女の新しいお父さんになるのよ。」
「えっ。」
「エエッ!」
「あら。」
「……」
上から、ビレイーヌちゃん、レプトンさん、私、そしてアンちゃんである。
「本当ですか、カレーヌ様!それは私の、申し出を受けて下さると。」
満面の笑みを浮かべるレプトンさん。
「ごちゃごちゃうるさいわね。」
赤くなって横をプイと向くカレーヌ様だ。
照れてますね、可愛いです。
「やったあ。綺麗でわかくて、うれしいわあ。
ハゲのおじさん、しつこいし。赤毛のにいさん、なんかくさいし。あー、よかった。」
「フン。私を目当てに通ってくる奴らね。大丈夫よ。結婚したら(多分)来なくなるわ。」
「やったー!」
「ビレイーヌちゃん、喜んでくれるんだね、嬉しいよ。
……ああ、カレーヌ様。これは夢ではないでしょうか。
こんな事なら大きな指輪を用意して、ネモ様のホテルの最上階のレストランを予約しておくのでした!!」
「それは、今度お願い。」「はい!」
とんとん拍子に進んで行くなぁ。
まあ、結婚は勢いだからね。
「本当、そうね。レイカ。」
「カレーヌ様、口から出てましたか?」
そこにウチの母がシンゴ君に連れられてウチの子供達と到着した。
「こんにちは!カレーヌ様。道すがらシンゴ君に聞いたのですけども。レプトンさんとご縁があったのですって?
まああ!おめでとう!」
善人パワー全開の母だ。
「ありがとうございます!おばさま!」
カレーヌ様が抱きつく。
「だってカレーヌ様はひとりで子育てして、お仕事も頑張ってらしたんですもの。偉い。」
「ウウ。優しい言葉が沁みるわ……」
そこに飛び込んできたのは龍太郎君だ。
「こんにちは!レプトンサンに呼バレテ来たヨ!
……アレ?オッカサンキテたの?
何でカレーヌサンと抱き合って泣いてるノ?」
「おめでとう!龍太郎ちゃん!あなたのお家のレプトンさんが、カレーヌ様との結婚を決めたのよ!
私、嬉しくって!ホラ、レプトンさんがカレーヌ様を大好きなのは知ってたでしょ?」
龍太郎君は驚いた。驚いて一回転した。
「エエ?え?えええ?ナンデ?昨日の話デハ……」
そうだよね、混乱するよね。
「レプトンさんがね、カレーヌ様にプロポーズしたのよ。それをカレーヌ様が受けたの。」
説明する私。余計な事言うなよ?と視線を送る。
「……ソウナンダ。」
母の顔は上気してはしゃいでいる。アキ姫さまとの縁談を知らないからだ。
「ねえ、龍太郎ちゃん。貴方の家族のレプトンさんの純愛が実ったのよお!おめでたいわね?嬉しいわね!」
母の満面の笑みに、困惑しながらも頷く龍太郎君。
「ウン、ソウダネ。オッカサン。……レプトンサンが今日カレーヌサンに会いにいくのは知ッテタンダ。
上手くいったんダネ?」
「うん!龍太郎君!初恋が叶ったんだよ!応援してくれるかな?」
レプトンさんも笑顔で畳み込む。
「ウン。……そうか!ソウナンダな!ワカッタ!」
龍太郎君はレプトンさんの肩に乗った。
「マア、メデテエな。カレーヌサンのお菓子はオイラのお気に入りダシ。」
「光栄ですわ。」
「カレーヌサンとレプトンサンのやり取りも面白カッタ。仲が良い、気が合うンダロウナア、とは思ッテタサ。」
「龍の字。うるさい外野から守ってやってくれるだろう?」
「あら、そうなの?アンディさん。
ねえ、龍太郎ちゃん。二人のチカラになってあげるんでしょ。ホラ、また掻いてあげるから。」
「ウン!キクキク。オッカサンには敵わねえナア。もちろんメリイの兄貴ダモン。オイラもチカラにナルヨ。」
それにね、と母は続ける。
「カレーヌ様は意に沿わぬ結婚を強いられたのですもの。その後も鬼姑のせいで苦労して。
ねえ、今度こそしあわせにならなくては、ね?」
「おばさまー!本当に良い人〜」
母に抱きつくカレーヌ様だ。
「さて、この後はリード様達に話を通さなくてはね。」
アンちゃんの言葉に固まるレプトンさんだ。
「私も出来るだけの事はしますヨ。カレーヌ様の為だからね。」
カレーヌ様の方を見ると子供達と龍太郎君に、試作品の千歳飴を振る舞っていた。
「まだ、温かいからね。食べやすいでしょ。」
「ほんと、おいしい。」
「ウワア、千歳飴だあ!」
「流石龍太郎君、読めるのね。」
平和な光景である。
「カレーヌ様達は飴作りがあるだろうから。明日二人で朝イチでリード様の所に行きますよ。
メリイさんやミッドランド夫妻にはご自分で話しておいてくださいな。」
「はい。」
アンちゃんの言葉に頷くレプトンさんだった。




