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ブルーウォーター公国物語(続グランディ王国物語のそのまた続き)  作者: 雷鳥文庫


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74/306

新しい浴衣には。ねええ、笑えないエピソード。思い出の数を数えてみる。

※交通事故の描写があります。お気をつけ下さい。


誤字報告ありがとうございます。

 そこにアンちゃんが来た。

「エドワード、ご苦労様。警備に戻ってくれ。」 

子供達やエドワード様と別れて王妃さまのところへ行った。

「遅ーいっ、もう。何やってたのよ?レイカ。

あら?カレーヌ?」

「はい、王妃様。ご挨拶申し上げます。」

「あら、ちょうど良かったです。おほほ。カレーヌ様も一緒に着ればいいですわ。」

エリーフラワー様の手には浴衣が用意されてる。

「えっと、これ浴衣?私のですか?」

「おーほほほ。予備を持って来たのよ。レイカにも着てもらおうと思って。サプラーイズ!」

「あ。ありがとうございます。懐かしいですよ…」

青い紫陽花の柄だ。いいね。


ん?何かひっかかる。新しい浴衣か、懐かしいだけじゃなくて…。


おや?奥に赤紫の紫陽花の柄を着たお嬢さんたちが三人程いる。清楚な感じの娘さん達だ。

「やあ、気がついたかい?あのレディ達はウチで働く侍女や女官さ。

性格も見かけも選りすぐりだよ。」

王妃様の隣にはリード様がいらして微笑んでらっしゃる。


――ははーん、レプトンさんのお相手候補かあ。


「レプトンくぅん?彼女達の世話と護衛をお願いするよ。一緒に踊りたまえよ。

彼女達には母上デザインの浴衣を広めてもらうんだからね?」

「はい、リード様。」

何も知らないレプトンさんがかしこまる。

本当に気がついてないんだなあ。

「ほら、屋台もオープンしたみたいだよ。彼女たちを連れて見回りに行ってきたまえ。龍太郎君もいるみたいだよ。合流してメリイさんの土産を選んだらどうだい?」

「そうですね、リード様。お気遣いありがとうございます。」

シスコンのレプトンさんは明るい顔になって三人のお嬢様達と出て行った。


「さあ、レイカにカレーヌ。あちらで着替えを。」

「お手伝いしますわ。」

あら、イリヤさんじゃないか。彼女も呼ばれたのか。

浴衣が似合ってる。


さてどうか。

一枚の浴衣を取って身体に当ててみる。



その瞬間。




ノリが効いた浴衣の匂いに、


その手触りに。


―――ズキリ。


いきなり頭と胸に痛みが。

ガタガタ震える。悪寒がする。

心臓を直接掴んで揺さぶられる様な、動悸。


何故、何故、何事?


ぐらり。


足元が揺れる。

「レイカさん?どうしたの!」

エリーフラワー様の声が遠くから聞こえる。


色んなことが、ぐるぐると、渦を巻いて。

頭の中を流れて行く。

これは何?何なの? 

弾ける光。

前世の記憶?

記憶なの?!


頭の中に光景が広がる。

記憶が写し出されて行く。


夏祭り。出店で食べた綿アメ。ヨーヨー釣り。

金魚すくい。

取れなくてモナカの皮が水でふやけていくのが、見える。


ああ、これは子供の頃の記憶だ。早く亡くなった私の父と母。そして兄と妹。

みんなで出かけた近所の神社のお祭りだ。

母が浴衣を縫ってくれた。妹とお揃いで。

新しい浴衣が嬉しくて得意で。

あの幸せな一日。


そう、夏の夜の匂いを覚えている。草いきれ。

アスファルトが温まった匂い。

蚊取り線香の匂い、花火大会の火薬の匂い。

そして、国道沿いの排気ガスの匂い。

 

視点が変わる。

これは。

大人になってからの記憶だ。

新しい浴衣。


町内会の動員の盆踊りは娘と交代で出る。今回は私が行った。

祭りに行きたいカオリを、夫と一緒に祭りに連れていった。

(娘夫婦はかき入れ時だから、食堂を開けて営業している。)

三人で踊って、出店も見て。孫にお面とヨーヨーと綿菓子を買ってやって。


その帰り道。

歩道に突っ込んできた軽自動車。

良くあるアクセルとブレーキの踏み間違いだったのか。

運転席で目を見開く老婦人。


カオリを守って突き飛ばして、それで。それから?


渦巻く赤い光。救急車の音?


身体が震える。立っていられない。


「どうしたの!レイカ!真っ青よ!」

隣にいたカレーヌ様も悲鳴をあげる。

「危ない、レイカちゃん!」

倒れ込む私を支えてくれたのはアンちゃんか。


「…き、記憶が。じ、事故の記憶がっ…ああああ!

うっ、ふふうっ。

祭りの日です、夏祭りの日でした、多分。」

頭を抱える。

王妃様が駆け寄って来られた。

「レイカ、貴女、最後…やはり交通事故にあったのね?」


「…はっ、はあはあはあ!!」


ダメだ、立っていられない。

冷たい汗が背中をしたたり落ちる。

目の前が暗くなる。

「そこへ、横になって!ソファに!」

「レイカしっかり!」

「レイカさん!」

アネさん!」

カレーヌ様やエリーフラワー様、イリヤさんの声が遠くなる。


思い出すのは、道路にひしめく人達。

危ない、と思った瞬間の光と衝撃。

痛い。

…避けれたと思ったのに。 

車から逃げ切ったと思ったのに。

病院に集まった家族、管に繋がれた身体、機械のモニター音。

ああ、孫の香織カオリもいる。ひかれずにすんだのね。


この、苦しさは、何?


「あ、ああああ!」

弾かれたようにソファの上に起き上がる。

「レイカ!」

アンちゃんか、では私は生きているのか。

自分が汗まみれで涙を流していることに気がつく。

「あ、あれは。やはり祭りの日でした。新しい浴衣を縫って着て。孫にも着せて。突っ込んできた車から孫を庇ったのです。」


「浴衣がきっかけなの?それで思い出したの?」

泣きそうな顔の王妃様だ。


アンちゃんがずっと背中を撫でてくれている。


「王妃様?ええ、はい。多分自分の死因は事故だとはぼんやり思っていました。

きっと浴衣が引き金となったけれど、祭りの準備で少しずつ記憶が、あふれようと、してたのか、と。」


だけど今まではっきりとしてなかった、思い出していなかった。

……龍太郎君の死因が交通事故だと聞いて、気分が悪くなってその場から離れたこともある。


いつも、どこか一枚膜を隔ててこの世界を見ていた気がしていた。

そしてそれが今、砕けた。


「王妃様。転生者と言うことは終わらせた人生があったと言うことなんですよね。

今までそれにしっかりと向き合っていなかったと思うんです。

思い出してたと思ってた。でもちゃんと思い出していなかった…!」


涙はポタポタと落ちていく。


「ええ、そうね、そうよね。レイカ。」

王妃様も泣いてらっしゃる。

「きっとね、貴女の気持ちがわかるのは私とメリイと龍太郎君だけよ。

誰が自分の死の瞬間を思い出したいものですか。」


私の体を抱きしめてこられる王妃様。


温かい涙が染みてくる。


「混乱してるでしょう、レイカ。もう帰って休みなさい。」


私から身体を離す王妃様。

みんなが私を心配そうな顔で見ている。

特に泣きそうな顔なのはアンちゃんだ。


手を握ってくる。


その時、私の身体にすっと何かチカラが入ってきたような気がした。


「いいえ、王妃様。私踊りますわ。」

「レイカっ、無理をしちゃダメよう!」

カレーヌ様が悲鳴をあげる。


「王妃様。盆踊りは鎮魂の踊り。私は自分で自分自身を、猫の目食堂の未来みきを。慰めてあげたいのです。」


自分の声が遠くから聞こえる。まるで自分の声ではない様だ。

「レイカさん、今のキミは何かの依代の様に見えるよ。」

リード様の目が私を捉えて細くなる。


「うん、鎮魂の踊りを踊る方がキミの心身の為には良いのかも知らないね。」

「はい。」

アンちゃんに抱きつくようにして立ち上がる私。


そしてみんなの手を借りて奥の更衣室で浴衣に着替えた。

背筋がしゃんとする。

「レイカちゃん、無理したらダメだ。」

「大丈夫よ。」

終わったら寝込むかも知れないなあ。


その時、ドアを乱暴にあけて入ってきた人がいる。


「レイカさん!大丈夫ですか?」

「メアリアンさん?」

「私が呼んだのじゃ。ホテルでの占いをキャンセルして来てもらったの。」

王妃様、またロイヤルパワーを。


「視てあげて。レイカを。」

メアリアンさんが私を半眼で見る。

「…ああ、本当に。揺らいでいます。レイカさんを包む前世の魂が。金色の焔のように立ち上がっていますわ。」


「それはどうすれば落ち着くんだ?」

「アンディ様。まず貴方が落ち着きましょう。」

シン・ゴジ○で聞いたようなセリフを吐くメアリアンさんだ。

「私は何か逆にチカラがみなぎって。ざわざわして。踊りたいの。」

メアリアンさんは頷く。

「それがいいですわ。まず手を打ってみて下さい。」


ぱん!


「あ、何か落ち着くわ。」

「今、余計な揺らぎが収まったのが視えました。」


「ではやはり盆踊りじゃの。」

「ええ、王妃様。」


そしてヤグラの上に立った。


アキ姫様、エメリン、ドンとリッキーと一緒に。


その他には伴奏をする楽団と私を見守るアンちゃんと、泣きそうな顔のカレーヌ様が立っているのであった。



ジュディマリの「そばかす」の歌詞がタイトルネタです。

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― 新着の感想 ―
これは・・・つらいですね。 本人も周りも。 明るく今の人生を謳歌しているようなレイカさんでも、奥底にはそのつらさ・悲しさを秘めていたんですね。 レイカさんでさえこうなら、お茶目な昭和ボーイの龍太郎君は…
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