鎮魂。そして。
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そしてヤグラの上から下を、まわりを、見まわす。
ああ、祭りだ。屋台の灯りが懐かしくも美しい。
やぐらにも提灯が下がっている。
よく再現したものだ。
「レイカサン、倒れタッテ?大丈夫ナノ?」
龍太郎君が飛んで来た。
その顔には何故か龍太郎君モデルのお面をつけている。
「大丈夫よ、お面。似合うじゃない。」
「ハハハハ。王妃様のキャラデザだからカワイイヨ。
能面モ買ってハイドニモタセタ。メリイへのお土産ニスル。」
えっ、それ喜ぶかな。
「さア、オレのウロコの粉ヲアビテ!元気にナルヨ!」
龍太郎君がヤグラの上を飛ぶ。黄金色の粉を撒いてくれている。
以前も思ったが、オカメインコの脂粉みたいだな。
でも、ありがとう。
肩がスッキリ軽くなったわ。
そして音楽が始まった。
チャカポコ♪チャンチャン♪
炭鉱節を2回踊ってからの東京音頭も2回の予定だ。
「サア、皆様。壇上のお手本を見てお踊り下さい。」
この声はマーズさんか。
「月があ、出た出ったあ♪月があ出た♪」
ドンとリッキーが歌う。声が通っているな。
「サノヨイヨイ!」
これは龍太郎君だな。
私の手もなめらかに動く。
気のせいか金色の水蒸気が立っているように見える。
下では、レプトンさんが綺麗どころと踊っている。
あら母や子供達がいる。ショコラさんやラーラさんもいるわ。
ふふ、ランやアスカ達も踊ってるじゃない。
いつのまにかミネルヴァちゃん達も来てる。
一緒に踊っているわ。可愛い。
どよめきのなか、輝く一団が現れた。
王妃様とリード様が踊ってらっしゃる。
エリーフラワー様もいる。
彼女らを囲んで輪ができている。
鎮魂の踊りは続く。曲は東京音頭になっている。
手を振るたびに、足でトン、とやるたびに。
心が落ち着くのが見える。
ああ。横にぼんやりと人影が見えてきた。
前世の私じゃないか。
あの日着ていた、紺色の地に白百合の花の浴衣だ。
孫の香織とお揃いの。
そして背景には横浜の祭りの風景が見え隠れする。
――これは幻なのか。他の人には見えていないのだろうか。
重なるように踊っていく。
すっとかき消えた。
それと入れ替わりに幼児の姿が見えた。
ああ、あれも私だ。
白地に金魚の柄だ。頬が赤く高揚している。
得意気だ。おぼつかない手つきと足取りで。
でも本人は一人前に踊っているつもりだ。
背景に目を凝らす。
若き日の父母が居ないかと。一目でも会えないかと。
まるでカラクリ人形になったかの様に私の手と足は自動で動いている。踊り続けている。
ああ、いた。
若い父と母の姿が現れた。小さい私の手を引いている。
そして目があった。
お父さん、お母さん。
私はもう一度貴方達に会いたかったのです。
三十代で両親をいっぺんに無くすのは、なかなか辛かったんですよ。
まだまだ一緒にいられると思ってた。親孝行もろくに出来なかったじゃない。
もっと甘えて頼りたかったんです、お母さん。
いつか亡くなったら会えると思っていました。
その時抱きしめてもらおうと。
どうして迎えに来てくれなかったの。
だから私はこの世界が夢の様な気がしていたのです。
父母は私に寄ってきて抱きしめてくれた。
光がまとわりつく温かさを感じる。
私も抱きしめ返したいのに、思うように身体は動かない。
踊りを踊っているだけだ。表情も変えられない。
涙だけが溢れている。
メアリアンさんがショッピングセンターの窓越しに私を見ていた。
大きく頷く。彼女の目にも涙が光っている。
ああ、貴女には、貴女だけには彼らが見えているんですね。
歌声が響く。アキ姫様だ。
ビブラートが効いた彼女の歌声。
「離れ離れえの、切なさにィ、
夢でサマちゃんとぉぉ、
語りたいー、
サノ、ヨイヨイ♪」
また炭鉱節に戻っている。
アキ姫様の所の転生者も夢で語りたい人がいたのだろうか。
金色の光が形をとって、また人の姿となる。
先日亡くなった兄と、五年前に亡くなった妹じゃないの。
みんなして私を置いてきぼりにして。
さっさと、逝っちゃって酷いじゃないか。
寄って行きたいのに、
ずっと踊りが止まらない。前世の私が泣いている。
お父さんお母さん、私は59まで生きたのよ。
最後は孫を庇ったの。
まあまあの人生だったでしょう。
ねえ、よくやったと、褒めてちょうだい。
小さい頃の様に頭をなでて、
えらかったね、ミキちゃんって言ってよ。
金色の光を纏って父母が。兄と妹と、そして小さい私が近づく。
私に抱きつきながら光となってほどけていく。
――消えないで。
踊りながら、涙を飛ばしながら声無き声をあげる。
そこでわかった。
ずっとみんなは私の中にいたのね。会えなかったんじゃない。
ずっと側にいてくれたんだ。
転生先まで。
ああ、もう。ごめんなさい。
私はもう大丈夫。
パン。
手を打つたびに少しずつ前世の家族達は揺らぎながら、消えていく。
足を出すたびに動くたびに、彼らが昇っていくのが見える。
金色に煌めきながら、祭りの提灯の光を受けて輝きながら。
「レイカさん?周りに光が見エルヨ。」
龍太郎君が声をかけてくる。
下でリード様が目を細めて視線を上に向けられているのが見える。
メアリアンさんが祈ってくれてるのが見える。
キューウ。
そしてキューちゃんが現れて青い光を放った。
一瞬ほどけた金色の光はもう一度、私と私の家族の姿を取って、
……手を振り消えて行く。
そして、音楽が終わった。
「さあ、皆さん!この後花火が上がります!
白狐様のお力です!
お楽しみくださいませ!」
マーズさんの声が響く。
キュウウウウ、ココココーン!
キューちゃんがヤグラの上空に浮かぶ。
そして口から光を放った。
ドーンドドーン。
ドォン。
夜空に広がる大輪の花。
花火は広がる。人の悪意や霊魂を糧にして。
私の中の小さい子供と、
初老の女も浄化して。
この美しい光は生きとし生けるものを癒しているんだ。
いつのまにかメアリアンさんが横に来ていた。
「レイカさん、お疲れ様。」
「メアリアンさん。私、自分が自分では無いようでした。ひとりでに身体が動いて。
な、涙だけが止まらなくて。死んだ家族が来ていて。」
「ええ。」
メアリアンさんは私をそっと抱きしめた。
そこにエドワード様も現れた。
「キューちゃんが、運んでくれるそうでござるよ。さ、もうゆっくり自宅で休むでござる。」
「は、はい。」
「さあ、レイカちゃん。」
アンちゃんに抱きかかえられた途端、私の意識は途切れた。
崩れ落ちた。
「―――――――――!!」
誰かの絶叫が聞こえる。
そして温かい光に包まれて私は深い夢の中へ沈んで行った。




