カッコ悪い振られ方をしたなら、二度と会えないのかしら。
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レプトンさんはエメリンと会うことについて腰が引けていた。
「ええ。頭ではわかっております。彼女にしっかりと引導を渡さなければいけないとは。
距離を置けば良いと、中途半端に避けてきたのがいけないのですね。」
メリイさん家のリビングのソファにゆっくりと身を沈めている。
その膝の上には猫のチャチャが乗っている。
癒してあげてるんだね!お利口さん。
おお、高速でチャチャを撫で回すレプトンさん。
「ううっ。チャチャちゃーん。お兄ちゃん。ドキドキするよおおっ。」
「うにゃあ。」
そのまま猫の背中に顔を埋めるレプトンさん。
そんなのは自室でやりなはれ。
大の男が人前で猫に顔を埋めてるのは、何だかなあ。
猫カフェでもなかなか見ないぞ。
「ああっ、落ち着く。スーハー。フフハー。」
「にゃあおん?(何してんですか?)」
うわあ。猫吸いまで始めた。
何となく遠巻きにするワタシたち。
「メリイ。サード兄貴に追っかけまわされてたカレーヌ様もこうだったんだよね。気の毒なことをしてしまった。」
顔を上げて、潤んだ目でメリイさんを見つめるレプトンさん。
みんなが引いているのに気がつきましょう。
「レプトン兄さん。サード兄さんがやり過ぎたのを貴方が気に病む必要はありませんわ。」
目を伏せるメリイさん。
「ソウダヨ。お部屋に無理矢理訪問するエメリンが悪いンダヨ。住居侵入罪と言う犯罪ダヨ。」
「ここで会うのは嫌でしょ。エメラーダさんに自宅の場所がバレるから。
ネモさんがホテルの一室を貸して下さいます。
移動しますよ、さ、レプトンさん。」
アンちゃんが起立をうながす。
「みにゃおおおん。」
「エッ。ソウナノ?偉え!
レプトンサンが心配だから、ツイテ行くってよ!
チャチャちゃん。」
「まああ!そうなの?健気ねえ。」
アンちゃんの目が潤む。
本当。良かったね、レプトンさん。
……吸われても怒ってないのねえ。
レプトンさんと龍太郎君。アンちゃんと私とネコちゃん、ミッドランド氏とで出発だ。
メリイさんは、
「妊婦が、そんな修羅場にいくものじゃないわ。」と
マリーさんとお留守番だ。
ホテルの部屋についたら、リード様とネモさん、エメリンにエリーフラワー様がいた。
ふううううっ!シャアアアアアアア!ガアッ!
いきなりエメリンに威嚇するチャチャちゃん!
身体膨らんでるぞ!耳は水平だぞ!
「ま!なんですの。怖いっ。茶色の悪鬼ですわあー!」
びびるエメリン。
「猫にゃんちゃん。ちょっと落ち着いてね。」
ネモさんがなだめる。
「ううう。ありがとう。キミのおかげでチカラが湧くよっ!」
チャチャを抱きしめるレプトンさん。
そして、エメリンを睨みつける。
「エメラーダ嬢。僕は、キミが大嫌いだ。寄るな。触るな。近づくな。」
マイナス196℃の冷たい声だ。
「え。」
固まる一同。
いや、そうだろうけどさあ!あまりにストレートじゃないか?
「レプトンくぅぅん?いきなりだねえ?
まあ、みんな席につきたまえよ。」
リード様が声をかける。
「……取り乱してすみませんでした。」
「まあなア。落ち着けよ。」
「アンディ様。ミッドランド義父さん。エリーフラワー様。レイカさん。龍太郎君。
それに何よりリード様、ネモ様。
今回私の為に集まって下さってありがとうございます。
でも、もう限界なんです。だってほら、」
レプトンさんが手を前に出す。
「こ、こんなに手が震えてる。彼女が近くにいるだけで。体が受け付けない。」
ポロポロと涙が落ちていく。
「にゃ。」
チャチャがレプトンさんの頬を舐める。
これは立派なカウンセリング案件である。
無理だな。レプトンさんはエメリンを受け付けない。
「オイ、しっかりシロ。」
龍太郎君がレプトンさんの肩に乗る。
エメリンは石のように固まっている。
「…キミは何をしたかったんだ。何故、俺の部屋に忍び込んだ。
その前だって。トイレに行くふりをして俺の部屋に入ろうとした。」
地を這うような低い声。下からじっと睨みつける。
「ひっ。」
「レプトン様。落ち着いて。エメリンさんの話を聞きましょう。」
「そ、そんなに嫌われていたなんて。
どうしてそんなに嫌うんですか。」
エメリンの目も真っ赤だ。
「エメラーダ先生。貴女ならどうですか?
夜中に異性が押し入ってこようとしたら。
それにせっかく引っ越して距離を置いたのに、留守の間に入り込んできたとしたら。」
ミッドランド氏が静かに諭す。
「…はい、本当にただお話したかっただけなんです。
後でみんなに叱られて、夜に異性の部屋に行ったらお互いの醜聞になると、やっと気がつきました。」
はあ。
「貴女にはそういうことを教えてくれる家族がいなかったのだもの。
仕方ないかもしれないけど色んな意味でまずかったの。」
「レイカさん、ええ。今なら深夜の訪問は乙女のピンチだったとわかります。」
「何を言う!こっちがピンチだった!あと少しで結婚に持ち込まれるところだったんだぞ!」
わめきたてるレプトンさんだ。
「だから反省しました!それで訪問は昼することにしたのです!」
「いや、それも違うぞ。普通ご令嬢はピッキングして壁と、同化しねえって。」
アンちゃんの突っ込みだ。
「君ねえ。思い込みで突っ走ったらダメだよ。
相手がレプトン君で良かったものの、
不審者はその場で切り伏せられてもおかしくないんだよ。」
リード様はため息をつく。
「だけど!引いてダメなら押してみろ!と押して押して行けば真心は伝わると。
アドバイスをいただきまして。」
「え?誰から?」
「エリーフラワー様。アラエルさんです。」
……へええ。
私とエリーフラワー様は目を合わせる。
「チッ。あの腹黒メガネめ。振られたところにつけ込む魂胆か。」
アンちゃんの顔が怖い。
「ねえ。エメリンさん。よく聞いて?」
エリーフラワー様が立ち上がって、
エメリンさんの手を取る。
「私はね、以前、リード様に夢中で追いかけ回していましたのよ。ねえ?リード様。」
「あ、ああ!才女殿。そ、そんなこともあったね?」
リード様の目が泳ぐ。
「だから何というか、貴女のことが他人事に思えないんですのよ。
ただ、私のリード様への愛は勘違いでしたの。
そうでしたわよね?アンディ様、リード様。」
「まあ、そうだね。」
リード様は頷く。
アンちゃんは口元を緩めて下を向く。
「 ? 」
目をパチクリするエメリン。
「私がずっとリード様だと思って恋焦がれていたのは、リード様の影武者をしていたエドワードですのよ。」
「ヘエエ。ソウダッタノカ。」
龍太郎君が素っ頓狂な声をあげた。
ネモさんや、レプトンさんや、ミッドランド氏も目を見開く。
「だからね、貴女が恋してるレプトンさんは貴女の、思い込みの彼であって、本人では無いと思うのよ。」
エリーフラワー様は、静かに告げた。
「ねえ。憧れの人の幻を追いかけているのは、楽しいでしょう?」
そしてエリーフラワー様はエメリンを見る。
「でも貴女も、気がついているはず。彼は貴方の王子様じゃない。現実の彼は貴女を拒んで震えているの。」
エメリンは下を向いてくちびるを噛み締めていた。
大江千里さんの歌ですね。




