懐かしくて狂った、果実。
誤字報告ありがとうございます。
それからしばらくして先にアンちゃん、その後ブラッキー君が戻ってきた。
テーブルを拭きながら二人をチラリと見る。
…セピア君がどうなったかは聞かないでおこう。
そういえばショコラさんのご両親ってどんな感じなんだろう。
「そうですね…50代後半まで夫婦揃って生き延びて来たのですから、運がいいとも言えますね。」
ショコラさんは花を飾りながら考えこむ。
「私が1番上でしてね、ショコラが1番下です。兄弟姉妹は他に五人おりましたが、任務や病気でもう…」
ブラッキー君が付け加えた。
ガチャカチャ。
その手はシルバー磨きをしている。働きモノの良い手である。
「名前は確か、私の次からレッド、シルバー、ブラウニー、ホワイティ…だったかな。」
「ちなみに上二人が兄、下二人が姉です。」
ショコラさんが遠い目をする。
おお、カラーシリーズか。
ん?ひとり足りない?が?
キョトンとする私を見て、
「やはり気がついてしまわれましたか?」
ブラッキー君が苦笑する。
「実は…もうひとりはセピアと言う名前でした。とっくに亡くなりました。病気で…小さい頃に、10歳かそこらで。ショコラのひとつ上でした。」
なんと。
「だからオレもショコラもアイツを気にかけてしまうんでしょうな。髪の色も同じセピアでしたからね。」
ブラッキー君はため息をつき、ショコラさんは横をむいた。
「キミらのご両親ねえ。あまりオレとの絡みは無かったがね。
どっちかというとスケカクさんの派閥だ。
ま、ここんとこは平和だけどネ。ずっとギガントと小競り合いをしてたでしょ。その中生き抜いて保養所に入って余生を送ってるから、まあ、確かに運は良いカモね。
足を怪我したりしてもう現役は無理なんだって?」
アンちゃんが来客用の茶器を出しながら言う。
「はい、アンディ様。どこぞの商会に夫婦で住みこんで草まがいの活動をしてましたけど、保養所ができたからそこから近所の農家に通って手伝いとかしてるようです。」
「両親も多忙で、あまり一緒にいなかったので、あまり関係ないんですけど。ブラッキー兄とレッド兄が育ててくれたようなモノですし。」
ショコラさんはため息をつく。
「別に成人した娘の相手が誰だろうと、一緒に住むからって許可をとらなくても良いんですけど。」
まあ、そうだな。
「エドワードがうるさいのさ。付き合ってやってくれよ。」
アンちゃんが肩をすくめる。
そしてショコラさん兄妹も、私達も着替えるために部屋に戻った。
「やっぱり私も同席?」
「そりゃそうでしょ。レイカちゃん。ここのレストランのオーナー夫妻なんだから。それにショコラはオレの部下だし。」
「ねえ、ハンゾー君は?」
「さっきメアリアンさんが、霊視の仕事があるからってランドさんと三人で出かけて行った。
ま…気をきかせてくれたんだよね。」
そうか。
落ち着いたワンピースに着替えて出る。
アンちゃんはきちっと三揃いだ。
おや、もうレストランにはショコラさんご一家が到着だ。
「レイカさん、ウチの両親です。」
「いつもショコラとブラッキーがお世話になっておりまして。」
「ご迷惑をおかけしておりませんでしょうか。」
ペコペコと頭を下げる初老の夫婦。実年齢より老けて見える。
見た感じ別荘の管理人さんとか学校の事務員さんみたいな感じだ。
ああ、確かにこの人たちなら印象に残らない。
潜入任務にピッタリだわね。
焦茶色の髪と瞳。ショコラさんと同じ色だ。
紺色の上品な服を着ている。
「急に呼びつけて悪かったワね?エドワードが急に挨拶したいと言うもんだからね?」
「いいえ、アンディ様。滅相もない。」
二人とも頭を左右にふる。小市民と言う感じだ。
「農場の手伝いをして、もらったんですの。お口汚しですがどうぞ。」
お土産をいただく。
まあ!枇杷にさくらんぼ!こんな高級なフルーツをすみませんね!
「嬉しい。ありがとうございます。」
私、枇杷好きだったわ。佐賀の納所や長崎でつくってる茂木枇杷とか。
千葉の房州びわも。
ああ、道の駅の枇杷倶楽部よ…。枇杷ソフトよ…。枇杷ゼリーよ…。
「喜んでいただけて嬉しいです。」
おっといけねえ。
ショコラさんのお母様の声で追憶から戻ってきた私。
「母さん。エドワード様にはジャムを用意しているんだね?」
「ええ、ブラッキー。」
それからまもなくしてエドワード様とヨーゼフ君が現れた。
「お待たせして申し訳ないでごわす!」
「大丈夫だよ、時間ピッタリだ。」
アンちゃんが席に案内する。
「うむ。ヨーゼフ。みんなキミの為に集まってくれたのですからな!」
「はい。皆様ありがとうございます。」
「こ、こちらこそ。いつもお城で拝見しておりました…。エドワード様。まさかこんなご縁ができますとは。」
うん、なんだろう。この二人がくると、まわりがぱあっと明るくなる。
リード様が太陽の化身なら、エドワード様は五月の青空のような人だ。雲ひとつない、どこまでも澄んで美しい心の持ち主だ。
清廉の騎士の別名のように、この二人ならどんな少額でも、ひろった小銭を交番に届けるだろう。
「走れ、正直モノ♫って感じですね。」
「うむ。レイカさん、何だか知らないが褒めて下さっているのでごわすな!」
からからと笑うエドワード様。
その圧倒的な正のパワーの前に強張る、ショコラさんの親御さん達。
影の存在にこの二人の明るさはキツかろう。
元々お貴族様相手ということで彼らの腰がひけているのだ。
「皆様コーヒーで宜しいかしら。」
母が顔を出す。その足元にキューちゃんが身体を擦り付けている。
まあ、来てたの?
「あ、なるほど?キューちゃんに連れてきてもらったのネ。」
アンちゃんが口元をあげた。流石エドワード様だ。
「こ、これは!神獣様!」
ショコラさんのご両親は頭を下げる。
初めてキューちゃんを見た人として、まったく良くある反応である。
「おお!モルドール夫人。いつもお世話になってござる!」
(あー、母の家の前の筋トレでね。)
エドワード様は母に笑顔を向ける。
「キューちゃんはお子様達と遊びたいそうでごわすよ。
さっき、自分の結界を赤い女狐の気配を纏った、セピア色のオス狐(…こほん、キューちゃんが言ってる通りに伝えておるでござる…)
が、行ったり来たりして気分が悪いそうでしてな!
お子様と遊んで気分転換したいそうである。」
エドワード様は複雑な顔をして話すのだった。
うわお。もしかしたらセピア君はキューちゃんに締められるところだったのか。
「アッ、ハイ。お母さん、ランやアスカやガルドルの所にご案内して。」
「そうだ、ホラ。あのクッキーがあったよな、母さん。」
今度は父が奥から顔を出す。
エドワード様はうちの家族とも付き合いが長くて、家族同様なんだものね。
キュー?
舌舐めずりをするキューちゃん。
だけどそのクッキーってさあ。
賞味期限間近で棚から下ろしたやつじゃないのっ?
やめて、お父さん。尊い神獣様でフードロスを行うのは。
仕方ない…。
「それより、枇杷をもらったから。子供達と食べてもらったら。」
「いいわね!レイカ!
さ、キューちゃん。枇杷食べる?ん?皮はむく?え?むかなくていいの?」
キュー!
ああ…私の口には入らないかも知れない…ぐすん。
「レイカさん、またお待ちしますから。」
おずおずと私に話しかけるショコラママ。
わあ、口から出てた?
「うん、お母さん、頼むわ。」
微苦笑するショコラさんに、笑いを堪えているアンちゃん。
ショコラさん達に気を使わせてしまったのだが、それで緊張がほぐれたので良かった。
昔、父が良く茂木枇杷を買ってきてくれました。
枇杷倶楽部の近くには「猫!パーク」という猫のテーマパーク?がありましたね。
あの、ニャンニャンニャーン♫ってBGMが忘れられません。
ディープパープルのスモークインザウォーターを猫の鳴き声で再現されてましてね。
「狂った果実」は本を読んだことも、映画を見た事もありません。




