無いものねだりの子守り歌、はもう歌わない。
誤字報告ありがとうございます。
とにかく私もここから立ち去ることにする。
「おい、セピア立てよ。それからハンゾー、いつまでも呆けているんじゃねえよ…」
アンちゃんの声を背に裏口からレストランに入る。
「レイカ姉さん。お騒がせしてすみません。」
レストラン内でショコラさんが私にペコペコと頭を下げる。
さっきまで男どもと対峙していた時と、まったく違うよ。
「ううん。なんかすっとした。私の方がアネゴと呼びたいくらい。」
「まあ。」
ショコラさんの顔がほころぶ。
そして真顔になった。
「私はね、セピアの暴言をそこまで気にしていたワケじゃ無かったんです。アイツがカッコつけてるのはわかってましたし、他の女みたいに軽々しく扱っては来ませんでしたからね。
アイツが私に一目置いてる、それなりに本気なのはわかっていましたから。
それにね、クノイチをしていれば、品定めされることなんかしょっちゅうです。…職業柄耳が良いので、聞こえてしまうことも。」
そうなんだ?
「だけど、ストッパーにはなっていたんです、時々あの発言を思いだしては、…セピアになんか惚れるもんか!ってね。
アイツが私に本気で求愛してきたら、『あんなこと言ってくせに!覚えてないのか!』って言ってやろうとは思っていました。」
ああ、なるほど。
ショコラさんの表情は晴れ晴れとしている。
「うーん、あのままにしていて大丈夫かな。セピア君もハンゾー君も固まっていたよね。」
「レイカ義母さん。後はアンディ義父さんが上手くやりますよ。セピアとハンゾーを宥められるのはあの方しかおりませんからね。」
シンゴ君が苦笑する。
「シンゴ。アンタも孤児なのに…良くまっすぐに育ったね。」
ショコラさんが真顔で言う。
「そりゃどうも?俺は早くから王家の影になる為に引き取られたんだ。
ヤー・シチさんやスケカクさんやもちろんアンディ様にも目をかけられていたからね。」
今まで深く考えなかったけど。
「小さい子を…孤児を引き取って王家の影に育てる場所が…あるのね?」
「ええ、レイカ義母さん。グランディにあります。
隣の集会所にいる若い奴らはもう、独立したというか一人前の奴らです。アラン様やリード様のお子様の将来護衛になる候補者もそこで育てられています。」
ショコラさんも頷く。
「もちろん、ヤー・シチさんに引き取られたアンディ様の様な例もありますし、ウチみたいに代々影の家系はそこで育ちます。」
ふうん。
「もちろん、愛情不足だからってみんなセピアみたいになる訳じゃないですよ。」
シンゴ君は苦笑した。
「ヤマシロだって立派に育ってる。
ハイドだって…あの惨劇を乗り越えたんです。
それなのにアイツの心にはひねたところが無い。凄いヤツですよ。
…時々人間の格が違う、とは思うんです。」
シンゴ君は静かに笑った。
そうだね。だからこそハイド君は龍太郎君やメリイさんに選ばれたんだ。
「ショコラ。」
ブラッキー君がモップを持って現れた。
まだ掃除してたんかい。
「アンディ様がウチの両親を連れてきた。今、俺の部屋で待機をしてもらってる。」
「あ、あら。大変。顔を出してくる。」
「…エドワード様がいらっしゃるのは午後三時だそうだ。
おまえも準備して腹をくくれよ。…本当に覚悟があるんだな?」
「フフフ。兄さん。エメリンには渡さない、という覚悟ならね。」
ショコラさんの目には強い意志がある。
「そうか。俺は何も言わん。」
眉間のシワを深くするブラッキー君だ。
手だけは動いて今度はレストランの柱や壁を拭き始めた。
うん、高い所に手が届かないからおざなりになってたのよ、そこら辺のお掃除が。
(私もアンちゃんも小柄だから)
やってもらうと助かる。
すみませんねえ。
「あら、兄さんは私の味方をしてよ。ヨーゼフさんとは仲良しでしょう?」
ショコラさんが艶然と微笑む。
「…い、いや、あのな?ヨーゼフは…のほほんとしてるけど、あれでお貴族様なんだぞ。」
「男爵家の三男だもの。何も受け継がないと聞いたわ。ご両親も亡くなってるし。お兄様達とは疎遠にしてるって。万が一にも領地や財産を欲しがってるって思われると嫌だからって。」
「だから、親代わりというか、ご親戚としてエドワード様が来られるのか…」
「ええ。エドワード様がヨーゼフさんを可愛がってるのは、皆んな知ってるから。第一騎士団とかでも伸び伸びと働けていたそうよ。」
もともと伸び伸びとしている性格だとは思うが。傍若無人とも言う。
「清廉の騎士、白狐様に愛されているエドワード様だもんな。
あの方が後ろだてなら、誰も文句は言えないよ。
ウチの親だってな。」
ブラッキー君は今度は磨き粉をつけて壁の燭台を磨き始める。
いや、本当ありがとう。キミのおかげであちこちピカピカです。
「兄さん、落ち着かないなら裏庭の馬鹿たれをしめてきたら?ふふふふ。」
わあ。容赦ないぞ、ショコラさん。
よっぽど怒ってるんだね。
「…まーた、性懲りもなくセピアが来てるのか?」
…馬鹿たれで誰かわかるのが凄い。
「ええ、『ショコラさあん、アイツのとこに行かないでえ!せめてあなたの豊かな胸で泣かせてええ!』って縋ってきたわ。」
えっ?そこまでのセクハラ発言は、しとらんと思うばってんが?
「あの色魔!許せん!」
ブラッキー君は雑巾を投げ捨てて出て行った。
「…おい、ショコラ。煽りすぎだぞ。死人が出たらどうするよ。」
シンゴ君が慌てる。
「フン。大丈夫よ。あれで兄さんはセピアを気にいってるから。無意識に手心をくわえると思うわ…多分ね?」
……それからセピア君の姿をしばらく見ることは無かった。
「東京ららばい」ですね。




