男たちは戦闘したい
天空行くバルスドーラの、魔術師達が異端の神々を祭る季節を前にして。
「御前試合を復活させようって話は、先輩達の時代からもうあってね」
青年会役員のブロンスは黒眼鏡の奥の人の良さそうな空色の瞳を輝かせて言った。
「石工達って昔から御前試合への熱量がすごかったんだ」
「石工?」
リインナはちょっと眉根を寄せた。
「あの粗暴で学もない連中?暴れたいだけでしょ?」
月長石の都バルスドーラの建材である月華石は、魔法のみでは精製されない鉱物である。肉体労働を重ねてそれを作る石工達は、一流の魔術師からは下に見られる存在だった。
「暴れたいっていうエネルギーが、バルスドーラの大祭を熱くするんだよ。お嬢さんにはわからないだろうけどね」
どちらかといえば頭脳労働タイプのブロンスが悪童のように笑う。
「私、高等学校で薬学を専攻したのよ」
リインナは頭痛をこらえるように指を額に押し当てた。
「連中、煙草や深酒で体ボロボロにして、博打と女ですっからかんになって、痛み止め処方しても勝手に無茶な使い方して、寿命削ってあっさりポックリするの、医学に対する敬意ってもんがゼロすぎて、許せないのよね」
「太く短く生きてるよねえ」
ほがらかに笑って、ブロンスは資料を手渡した。
その資料と同じものを、長老マルクの家に集まったオリィ、ウィリィ、ノスコン、ゼムは開いて、赤字で書き加えられた新ルールに目を吸い寄せられた。
『なお物理攻撃も有効とする』
「反則公式化かよ!」
怒ったのはノスコン一人で
「だってその方が面白いし、オリィちゃんの勝率が上がるし」
「魔術オンリーとかノスコンの力押し一人勝ちしか見えんもんね」
「さすがにそれはつまらなすぎる」
他の面々はたいへん好意的に受け止めた。
「それはいいが」
長老マルクが横から口を挟む。
「いいんだ?」
恩人まで敵に回ってノスコンの味方は皆無である。
「問題はノスコンの力押しが神殿前広場に大穴を開けられるレベルであることと、それで怪我人を出さずに『試合』をどうやってやるかということなのだが」
「うーん……」
オリィは目をつむり思索する。
「長老会議堂ホールなみの強度のコロシアムを建設……」
「あの壁高いぞ?維持費もかかるぞ?ついでに四神殿前広場の地価もすごいぞ?大祭以外の日の使い道は??」
職人の的確な反論。
「……とかいうことは、オレ達は十年前から考えてきたってことさ。そこでこれだ!」
ゼムは藍色のプリズムを取り出した。折からの光が分散し、夕闇色の内と外へ虹になってきらめく。
「魔術吸収結晶体」
マルクの眼が好奇に見開かれる。
「……の試作品。これが完成したら、器物破損も怪我人もなく魔術試合が可能になる。もちろん、手伝ってくれるよな?じーさん、ノスコン?」
突然名指し指名されて、ノスコンは大いに面食らった。
「……え?」
<続>