愛しき勝者に鶏手羽を
<前章までのあらすじ>
魔術師住まう天空都市バルスドーラにて。都市最強の魔術素質を持って生まれたノスコン・ダーク(24)は、10年前に自分を魔術で負かせた少女オリィ・ザッテ(13)と再会。激昂して再勝負を挑む。人違いを強く主張するオリィは、平均以下の魔力ながら謀略をかけてノスコンを一蹴。都市は新チャンピオンに沸き立つ。ショックで家出したノスコンは月夜にオリィと会話し、元気を取り戻す。
本日も青空を征く天空都市バルスドーラ。
ノスコン・ダークはすっかり立ち直っていた。
ある日
「再戦ー!」
と叫んでドアを開け
「いません!」
と返され。
またある日は
「たのもー!」
と来て
「留守です!」
と返され。
それまで夕闇の外壁沿いでしょぼくれていた男が、日中堂々長老マルクの家に元気よく通うようになった。
「困る。流石に手品のタネがバレた直後の再戦は困る」
予想外の宿敵の立ち直りに、オリィ・ザッテ13歳はちょっと頭を抱えた。
「前回は無策で来るのがわかってたから上手くハメられたけど、次回は絶対対策される。早撃ちで来られたらサンダルじゃ間に合わないし、奴くらいの規格外なら利き手でない方にパスを通すこともできるかもしれない。あらゆる手段で来られる可能性に対抗し、負けないためには……」
オリィの星を隠す黒い瞳がきらめいた。
「戦わない」
「戦わない。」
たしかに戦わなければ負けることは絶対ない。
「というわけで、ウィリィ、じーさん、ちょっと耳貸して」
ぽそぽそと話し込んだ作戦は。
はたしてその昼もノスコンが押しかけてきて
「勝負ー!!」
と扉を開いたのだが
「あっ、ロリコンだ」
「ロリコン」
「ロリコン来たか」
住人3人が冷ややかに返したので
「うわあああああああああぁあああぁあああああああ!!」
反転して叫びながら走って去った。バルスドーラにのどかな爆発音が響いた。かくして彼は3日は来なかった。
さて、仇敵や恩人に唐突にロリコン呼ばわりされて大いに傷つき、しばらく自室で悶えて、家族にうるさいうるさい言われていたバルスドーラ最強の白い怪物であったが、ここしばらくの出来事が彼の根性をいくらか逞しく育てていた。
思い立てば懲りることなくマルクの家へ。今度ロリコン言われたらこう言い返してやろうああ言い返してやろうと対策も万全である。
その日はなんとなく普通に扉を開けて。
部屋にいつもの3人にプラス1人の大男が、並んで山盛りの鶏手羽をむさぼっているという謎のシチュエーションに出くわした。
ノスコン・ダークは無口である。もうちょっと酷く言えばコミュ障の部類に入る。
初対面の、四十路くらいのよく日焼けした精悍な男に対して咄嗟に出た言葉は
「……お父さん?」
というたいへん間抜けなもので
「『お嬢さんをお嫁にください』?誰がアンタと結婚を前提に交際してるのよ」
オリィは一言どころか二言三言多いのがデフォである。
「おう、お前がノスコン・ダークだな!見るのは初めてだが目立つ奴だから一目でわかったぜ!お前も鶏手羽喰うか?」
男は快活に笑って片手をあげた。ウィリィが説明する。
「この人、石工のゼムさんです。屋根の修理してもらったんです」
「ああ……」
そういえばこの家に屋根が無かったのはノスコンが爆破したせいだった。
「いい商売させてもらったぜ。まあ鶏手羽食いねえ食いねえ。オレはアンタのことはそんなに嫌いじゃねえよ。アンタがやらかすたびにオレらの歩合がよくなるからな!」
ゼムは気持ちよく笑うとノスコンの腕を無理矢理ひっぱって席に着かせた。
「……これはなに??」
マルク宅の3人で食べるには多すぎる量の鶏手羽にノスコンはちょっと引いた。
「もちろん、可愛いオリィちゃんへのプレゼントさ!」
「ちゃん??」
これはなんだ?これが正真正銘のロリコンなのか?なんでガキとジジイとロリコンに囲まれて鶏手羽食べるのか?
「ノスコンさん、ゼムさんの世代は、あの、御前試合が中止された方々で……あの、今回のオリィの決闘で、この世代の方が喜んで、すっごいファンが増えたんです」
ウィリィは有能な説明係なようだ。
「それで今年の大祭の巫女乙女はオリィにしようって盛り上がってて」
「でも13歳で巫女乙女はさすがに早いじゃん?だから4、5年してあたしが文句のない麗しき乙女になったら輿に乗ったげるって」
「うるわしき?」
ぼそっと出た単語の後をのみこんでノスコンは絶句した。
「それで『オリィちゃんを5年後に絶世の美少女にする会』が発足したんだな」
「で、鶏手羽が贈られてきました。コラーゲンたっぷりとって、つやつやお肌になってね!って」
理由はわかった。しかし量が。あまりにも量が。
「ノスコン・ダークに勝ったオリィ・ザッテちゃん」の人気が目に見える質量になってノスコンの前に立ちはだかるという謎展開。
「ご近所にも配ったけど食べきれないし減らないし。ゼム兄貴ももっと食べて美少女になりなさいよ?」
「兄貴?!」
20代の自分を「おっさん」と呼んだオリィが40代のゼムを「兄貴」と呼ぶのに、ノスコンは無駄なダメージを受けた。
「兄貴は兄貴なのよ。おっさんとは漢の格が違うのだよ」
「オリィちゃん、それはちょっとかわいそうだぞ。オレがノスコンの歳でおっさん呼ばわりされたら泣くぞ。せめておにいさんと言ってあげなさい」
ゼムは善良にオリィをなだめ
「いやあ……ノスコンはノスコン以外の呼び方で言ったらおっさん以外無いのよね……」
ぶちぶち言いながら、その日を限りにオリィはノスコンのおっさん呼びを止めた。ついでにロリコンネタで擦るのもやめた。
そしてノスコンは大量の鶏手羽をお土産に持たされた。
「あの……」
コミュ障と書いて無口と読むノスコンの口からやっと出たのはその程度の呻きであったが
「勝負のことなら心配するな。それから御前試合の話もな」
ゼムは頼もしくこう言った。
「今年の大祭で十余年ぶりに御前試合が復活する予定なのさ」
<続>




