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インターリュード1

今回は幕間劇的な話です。決して本編に繋がる重要な話ではありませんが、読んでいただけるとよりお楽しみいただける話になっています。

 帰還した翌日、紫炎陸軍州兵基地の第三下士官クラブの一角にて、俺の歓迎会と随伴斥候分隊の初陣戦勝記念を兼ねた、ダイニングインが行われた。


 テーブルの上には所狭しと並べられた料理の皿、飲み物はドリンクサーバーごと借りてきて、盛大なパーティが始まる。


 野郎どもが料理を前に、まだかまだかと待つ中、旗ヶ谷と俺は皆の前に出る。


 旗ヶ谷が咳払いをして


 「長ったらしい挨拶はいいか、緋那神分隊長の就任と、戦勝記念を祝してッ」


 とお題目を言い終えると、俺にアイコンタクトをしてくる。


 「乾杯!」


 と、グラスを上げて声を張ると、あらん限りの声での乾杯と、グラスがぶつかる小気味よい音が聞こえてく。

野郎どもは料理にがっついたり、飲み物片手に先の戦闘での出来事を茶化しながら盛り上がったりしている。

マキナと浜野の方を見ると、浜野が嬉しそうにマキナに話し、マキナが楽しそうに浜野の話を聞いていた。

 隣の旗ヶ谷がコーラを一気に飲み干し、声をかけてくる。


 「しかし、緋那神、飛び降りたときは焦ったぞ」


 「必死だったからなぁ、アレしかないと思ったんだよ」


 我ながら無茶したなぁと思う。

思わず苦笑で返し、旗ヶ谷の空になったグラスにコーラを注ぐと、旗ヶ谷も笑いながら、コーラを飲む。


 「全く、無茶しやがる。次は無しで頼むぜ」


 「俺もゴメンだが、難しい注文だ。上の気分と戦況によるな」


 「違いない」


 俺も手元のコーラを飲み干すと思わず笑ってしまい、旗ヶ谷もそれを見て破顔してみせる。

少し間をおくと旗ヶ谷が口を開く。

 「此処じゃ教化兵に過去を聞くのは法度なんだが......なぁ、この前の作戦での戦いぶりや、部隊の指揮に慣れてる所をみてどうしても隊長の事が気になるんだ。無礼講のついでに何処から来て、何を見て来たか教えちゃくれないか?」


 旗ヶ谷が様子を伺いながら聞いて来る。

そう言えば過去の事は聞かれた事がなかったか、今後の為にも自分と言う人間を知ってもらうのも良いかもしれない、そう考えて口を開く。


 「あぁ、過去の事を聞かなかったのはそう言う事情があったのか......俺は幼年学校から来たんだ、階級は幼年生徒軍曹だった」


 「幼年学校!?どうりでなぁ.....なぁ、幼年学校ってのはどんな感じの奴らが居るんだ?」


 旗ヶ谷は驚きと納得の表情を浮かべ、更に食い入るように聞いてくる。


 「どんな感じか.....曲りなりにも選ばれた士官候補生の集まりだけあって、優秀な奴らがおおいよ。でも、面白いもんで、良いトコ出の若様から、何処にでもいそうな奴や、孤児院出身の奴まで色々な出自の奴が居たね。」


 「はぇぇ、そうなのか。俺はてっきり上流階級のご子息様共の巣窟かと」


 「よく言われるな、確かに有名企業や政治家、高級軍人の息子は多いよ、実際軍人になろうとならなかろうと、箔付けには十分だろうしな」


 「へぇ、んじゃ其奴らは卒業後は大学行ったり留学したりして、将来は家督を継ぐ感じなのかねぇ......時に、幼年学校ってどんな訓練やなんかをやってんの?」


 「訓練か、1年と2年は普通の中学生と殆ど変わらないと思う。日中に授業を受けて、週三回は放課後に軍事科学の授業があって、二週に一回週末に集中訓練があるって感じか。3年と4年で高校生分の授業をしながらより高度な軍事科学......戦術学や戦史、兵站学や軍事法制なんかの基礎を学ぶのさ、そして二週に一回の週末集中訓練に加えて、学期毎に学期末演習が加わって来る感じだ。5年と6年で軍事科学と大学の教養課程程度の授業を受けながら、士官候補生としての完成を目指す科目が始まるよ、一番忙しいらしい、んでもって卒業後は学生准士官だ」


 「卒業後、18で准士官かぁ......すげぇなぁ。営内生活ってどうだった?」

 俺がコーラをコップに注ごうとボトルに手をのばすと、旗ヶ谷はボトルを取って注いでくれ、続きを促すように聞いてくる。


 「おっすまん、学生寮かぁ、だいたい此処と似たような物だが、うちの生徒隊は週末のパレードに力入れてたな、規律違反のツアー......罰直行進も他の生徒隊より厳しかったね。あと、清掃に一番うるさい生徒隊でなぁ、上級生や教官からの台風も過酷を極めたよ......ひどい時には俺の班のベットとロッカー全部がグラウンドのど真ん中で祭壇になってたっけか」


 コップを握り、思い出しなら語る。やはりこの手の話は軍隊共通らしく旗ヶ谷の顔も少し歪む。


 「うへ......新兵訓練所の少年兵課程を思い出すなぁ......俺の方もそんなんだったよ。ベットとロッカーが入れ替わってたっけか......やっぱ飯は美味かったのか?」


「幼年学校の飯はなぁ、朝飯は取り放題だったからともかく、昼夕飯は当たりハズレの落差がひどかったなぁ......まさかカレーが外れメニューなんて思わなかったな、だが全体的に美味かったよ、ただ上級生と教官たちに食事の作法について怒鳴り散らて急かされながら食う飯だったがね」


 旗ヶ谷がコーラを一気に飲み干すと口を開く。


 「ハズレはともかく飯がうまかったのはいいな、俺の卒業した新兵訓練所は飯がまずくてなぁ......訓練期間中の土日はずっとPXで買食いしてたぜ。」


 「うわぁ、飯って数少ない娯楽の大部分を占めるからな、やっぱり不味いのはたえがたいよな......」


  旗ヶ谷にコーラを注ぐと、また口を開き話し始める。


 「課業が終わってボロボロで腹が減った所にあの夕飯だ.....たまったもんじゃなかった、ホント。野外勤務訓練で出た携行食料のほうが旨いなんて何事だよと」


 「あぁ、それはたまらないよなぁ......そう言えば新兵訓練所で同期の分隊員とかもいるのか?」


 「あぁ、忍がそうだよ、あいつは小中と新兵訓練所とずっと一緒だったな、家も近い、何かと縁があるのかもな」


 「ずっと一緒ってのはいいな、俺には幼年学校までついてきてくれた奴は居ないから羨ましいよ」


 コーラを飲みながら料理をつまむ、腹も膨れてくると口も回り始める。旗ヶ谷がピザをつまみながら話し始めた。


 「そういえば、うちの分隊員のアレキサンドラと戸部いるだろ、あいつらは新兵訓練所で同期同班だったんだ。」


 「あぁ今回のA2タスクの二人か。そうだったのか、同じ班で同じ部隊ってのはいいな。本当に勝手知ったる仲って感じで」


 「実際そうだな、やっぱ一番苦しい時を一緒に過ごした仲だからさ、良いも悪いもそれなりに分かってるって奴だ。アレキサンドラは今でこそ突撃役や一番槍を買って出るほどの男だが、最初は弱虫でな、教官に毎日怒鳴り散らされては毎晩泣いてたっけか......」


 「意外だな、そう言う風には見えなかったし、資料を見たところ格闘徽章や近接戦闘技能章持ちなので、元々気性が荒かったり、根っからの戦士のような奴かと」


 だいたいの軍人において近接戦を得意とする者には気性の荒い物が多い。アドバーサリーを目の前にして近接距離で戦うなど、並の精神では出来ないからだ。それ故に新兵の頃から気性が荒く、反骨心に溢れ、身体能力が高い者に素質を見出される。


 「あいつなり強くなったのさ、特にフレスターからこの分隊を守るためにな。戦場にでて存在意義を証明できないんならせめて演習や検閲、検定や競技会で優秀な成績を取ろうと頑張っていたからな。あいつが一番槍や突撃役を担ったり、強くあろうとするのはこの分隊、ひいては自身の存在意義を証明する為ってのが大きい」


 「そうだったのか......己の存在意義の為に戦うか、考えた事もなかったな....戸部はどんな感じだったんだ?」


 「戸部か、戸部は今と変わらず調子者だが、今より要領が悪くてなぁ、特に武器の取扱に関しちゃ最初の検閲でドベだったが、その日から死ぬ気で努力して射撃、分解整備、銃剣術共に3本指に入るくらいの実力者になったんだ」


 「凄いな......特に射撃や分解整備は苦手なやつはとことん苦手な部類のもんなのにな。相当な努力をしたんだろうな」


 「あぁ、小銃の幻覚を見る程度にはイメージトレーニングを繰り返して、休日の度に教官に付き合ってもらって訓練したな......最終検閲の野外演習で、テントの中で寝ながら手だけは小銃の分解清掃のふりをしてるのをみて、やべぇなとすら思った。因みに分隊内ではマキナの次に射撃が上手いぞ、選抜射手マークスマンの資格も持ってるしな」


 「マークスマンか!すごいな......将来的には狙撃手や前哨狙撃兵も視野に入るな。積極的に狙撃手としての訓練を積ませるのもアリか」


 「やつには向いとるかもな」


 俺も旗ヶ谷も手元のコーラを飲み干すと、代わりの飲み物と食い物を取りに行く。適当に手で摘めるもの......フライドチキンやポテトなどを取ってきて席に座りながら話を再開する。


 「時に旗ヶ谷がこの部隊に来た時ってどんな感じだったんだ?」


 「俺がこの分隊に来てからか、フレスターが分隊長をやっててな......物資は足りない、武器は規定数がない、書類も偽造だらけ、何かも嘘で足りない分隊だったなぁ。団本部や野戦軍から補給も気がついたら闇市や他部隊に吸われてる有様さ」


 フライドチキンを齧りながら、相槌を打ち、飲み込んで口を開く。


 「ひどいな......上の連中は何をやってたんだ」


 「去年の12月に宮司先生が来て、憲兵と軍検察の一斉検挙が入るまで酷いもんだった、なにせフレスターの野郎、仲間と手下と弱みを握った人間を使って上と通じてやがったからな。小隊長はおろか編成隊、群本部の士官まで奴のいいなりだった」


 「部隊の中にギャングが居るようなもんだな......よくそんな状況でまともに部隊を回せたな」


 「正直な話、訓練も満足に出来なかったんだ。部隊運営もままなってなかったし、年間の必須訓練も簡素化されたし、演習に行けば他の部隊の物資を集るという有様だった。部隊の雰囲気も、貧しくなるたびに悪くなっていったさ」


 「分隊が持ち直したのは宮司教師が来てからなのか?」


 「そうだ、あの人が不正に関わっていた士官や下士官共を粗方一掃して、どこからか分からんが必要な物資を取り揃えてきて、兵科学校の派遣教官を連れてきてくれて、1から再訓練を始めた結果、最近ようやくまともな戦闘部隊として成り立つようになったのさ」


 旗ヶ谷が感慨深そうに、思い出に耽るように話して来る


 「まぁ、そんなところだ。なぁ、隊長の話ももっと聞かせてくれや、そう、此処にくるまでの話さ」


 「あぁ、そうだな......語るべきだよな。あれは第16歩兵旅団での戦地研修に行ってた頃の話さ......」


 話し始めようとした時、下士官クラブの館内放送が営業終了直前の放送を知らせる、旗ヶ谷が悪態をつき残念そうに此方を見てくる。


 「仕方ない、またの機会に話すよ」


 「ちぇ.....絶対だぞ、約束だからな?」


 「あぁ、約束だ、必ず話そう」


 宴が終わり、隊員達が下士官クラブから立ち去ってゆく、楽しい宴の終わりは何時も寂しいものだと思った。

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