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第133話 林の奥のせせらぎと水辺の住人

 水音のする坂道


 林の奥へ続く緩やかな坂道を、三人はゆっくりと下っていた。


 さらさら……。


 木々の向こうから、水の流れる音が聞こえてくる。


「やっぱり水の音だね!」


 白雪は楽しそうに耳を澄ませた。


「川か、小さな水路かもしれないわね」


 黒羽は地図を確認しながら答える。


「この辺りは少し低くなっている。水が集まりやすい地形なんだろう」


 ユウマが足元を見た。


 坂道には、ところどころ湿った土が見える。落ち葉の隙間から小さな草が伸び、地面には細い水の跡が残っていた。


 白雪はその跡を見つけると、しゃがみ込んだ。


「ここにも水が流れたのかな?」


「雨が降ったときの跡かもしれないわね」


 黒羽が答える。


「でも、こっちに続いてるよ!」


 白雪は地面の水跡をたどるように、少し先へ進んだ。


 その先には、木の根元を通る細い溝があった。


 溝の底は湿っていて、わずかに水が流れている。


「本当だ。水があるな」


 ユウマが近づいて確認する。


「この溝が川につながっているのかもしれないわね」


「じゃあ、行ってみよう!」


 白雪はまた歩き出した。


 今度は急がず、足元を確かめながら坂を下りていく。


 先ほどユウマに注意されたばかりだ。


 不安定な根や岩を踏まないように、ちゃんと見ている。


 ……ただし、気になるものを見つけると立ち止まるのは相変わらずだった。


「あっ、キノコ!」


 道の端に、小さな茶色いキノコが生えている。


 白雪は近づいて、傘の形を眺めた。


「これは何だろう?」


「食べられるかどうかは分からないわよ」


 黒羽がすぐに言う。


「うん。今回は見るだけ!」


 白雪はキノコを眺めたあと、満足そうに立ち上がった。


「よし、川に行こう!」


「今度はちゃんと進むのね」


 黒羽は小さく笑った。


 小さな川


 坂道を下りきると、木々の間が少し開けた。


 そこには、細い川が流れていた。


 幅は大人が数歩で渡れるほど。


 水は透明で、底にある丸い石までよく見える。


 川岸には苔が生え、ところどころに背の低い草が集まっている。


「わあー!」


 白雪は思わず声を上げた。


「きれいな川!」


 流れは穏やかで、浅い場所なら足首ほどの深さしかない。


 木々の隙間から差し込む光が水面に反射し、小さな光の粒が揺れているように見えた。


「水が澄んでいるわね」


 黒羽は川岸にしゃがみ込む。


「底まで見えるな。流れもそれほど速くない」


 ユウマも水の深さを確認した。


 白雪は靴の先を水に近づけた。


「入ってもいい?」


「足場を確認してからならね」


 黒羽が答える。


「分かった!」


 白雪は川岸の石を一つずつ踏み、浅い場所へ足を入れた。


 ちゃぷん。


「冷たい!」


 水が足元を包む。


 白雪はもう一歩進み、水面を指でかき混ぜた。


 小さな波紋が広がっていく。


「気持ちいい!」


「転ばないようにね」


「大丈夫!」


 白雪は水の中で軽く足を動かした。


 流れが足首に当たる。


 水は透明で、細かな砂が底を流れていくのが見えた。


「川の中にも何かいるかな?」


 白雪は水底を覗き込んだ。


 小石の隙間で、小さな影が動いている。


「あっ!」


 白雪は目を凝らした。


 丸い身体に、薄い茶色の殻。


 小さな生き物が石の上をゆっくり進んでいる。


 《川石ヤドカリ》


「ヤドカリだ!」


 白雪は嬉しそうに声を上げた。


 生き物は白雪の足音に気づいたのか、殻の中へ身体を引っ込めた。


「隠れちゃった」


「水底に住んでいるのね」


 黒羽が近づいてくる。


「石の隙間にいるみたいだな」


 ユウマは少し離れた場所から観察した。


 白雪はしゃがみ込み、手を水の中へ入れた。


「こんにちはー」


 殻は動かない。


「出てこないね」


「警戒しているんでしょう」


 黒羽は川岸の石を調べた。


 石の表面には、薄い緑色の苔が生えている。


 その近くに、小さな白い貝殻のようなものが落ちていた。


 《川石の殻片》


「これも素材ね」


 黒羽が拾い上げる。


 白雪も水辺を探し始めた。


 水辺の小さな素材


 川岸には、さまざまな植物が生えていた。


 白雪は水際に広がる細長い葉を見つけた。


 《流れ葉》


 葉の先端は細く、水の流れに沿うように横へ伸びている。


「水の中に生えてる!」


 白雪は葉を傷つけないように採取した。


 《流れ葉》を採取しました。


 さらに少し先には、丸い葉が水面に浮かんでいる。


 《川浮き草》


「こっちは浮いてるよ!」


 白雪は手を伸ばし、葉を一枚拾い上げた。


 表面には水滴が丸く残っている。


「かわいい!」


 黒羽は川岸の土を調べていた。


「この辺りは水が染み込んでいるわね。土の中に何かあるかもしれない」


 指先で土を少し掘ると、小さな青灰色の粒が出てきた。


 《川砂晶》


「砂の中に結晶が混じっているみたい」


 黒羽は数粒だけ採取した。


 ユウマは川の上流を見ていた。


「上の方にも水が続いているな。少し見てくる」


「私も行く!」


 白雪がすぐに反応する。


「一緒に行くなら、足元に気をつけてね」


 黒羽も立ち上がった。


 三人は川岸に沿って上流へ向かった。


 途中、流れが少しだけ狭くなっている場所があった。


 水が石に当たり、細かな泡を作っている。


 白雪はその泡を指先でつついた。


 ぱちん。


 泡が弾ける。


「泡だ!」


 もう一つ。


 ぱちん。


「こっちにも!」


 白雪はしばらく泡を追いかけていた。


 黒羽はその様子を見て、呆れたように笑う。


「水辺に来ると、なかなか先へ進まないわね」


「だって、泡があるんだもん!」


「泡は逃げないから、あとで遊びなさい」


「はーい!」


 白雪は最後にもう一つ泡をつついてから、二人の後を追った。


 石の下の住人


 上流へ進むと、川の流れが少しだけ速くなっていた。


 大きな石がいくつも並び、その間を水が通り抜けている。


「ここは少し深そうね」


 黒羽が水面を確認する。


 ユウマは石の配置を見ていた。


「流れが石にぶつかって、左右に分かれているな」


 白雪は水の中を覗き込んだ。


 石の陰に、細長い影が見える。


「何かいるよ!」


 水面が小さく揺れた。


 影は石の下へ隠れてしまう。


 白雪は少し場所を変え、別の角度から覗き込んだ。


 今度は、青みがかった小さな魚が見えた。


 《青尾ハヤ》


 魚は流れに逆らうように泳いでいる。


「魚だ!」


 白雪は目を輝かせた。


「水の流れに合わせて泳いでいるみたいね」


 黒羽が観察する。


「流れが速いところでも、あまり動かされていないな」


 ユウマも魚の動きを追った。


 青尾ハヤは石の陰に入り、また流れの中へ出てくる。


 白雪はその動きに合わせて、顔を左右に動かした。


「こっちかな?」


 魚が右へ動く。


 白雪も右を見る。


 魚が左へ戻る。


 白雪も左を見る。


「ふふっ、追いかけっこみたい!」


 魚はしばらく泳いでいたが、やがて水草の奥へ消えていった。


 その近くに、小さな青い鱗が落ちている。


 白雪が拾い上げた。


 《青尾の鱗》


「鱗だ!」


 黒羽も周囲を確認する。


「脱落したものかしらね。魚を捕まえなくても、こうして手に入ることがあるのね」


 白雪は鱗を光に透かしてみた。


 青色が薄く輝く。


「きれいだね!」


 インベントリへしまう。


 その後、川岸の石を少しずつ確認していくと、石の裏側に小さな白い貝が付着していた。


 《水縁貝》


「貝もある!」


 白雪は一つ採取した。


 ユウマは川の流れを確認しながら、少し上流を指差した。


「この先、岩が重なっている場所があるな」


 そこから水音が少し強くなっている。


「滝かな?」


 白雪が尋ねる。


「小さな段差があるのかもしれない」


 黒羽は地図を確認した。


「まだ地図には何も表示されていないわ。行ってみましょう」


 水の段差


 三人は川岸を進み、岩が重なった場所へ向かった。


 そこでは、川の水が少し高い岩の上から下へ流れ落ちていた。


 大きな滝ではない。


 高さは腰ほどで、水が岩肌を滑るように流れている。


「わあ、小さな滝だ!」


 白雪は近づいていった。


 水が落ちる場所には浅い水たまりができている。


 水面には細かな泡が浮かび、流れ落ちた水が円を描いて広がっていた。


「ここ、きれいだね!」


 白雪は水たまりの周囲を歩いた。


 岩の表面は濡れていて、苔が生えている。


 足を滑らせないように、慎重に進む。


「この岩、つるつるだよ!」


「苔があるから滑りやすいわね」


 黒羽が注意する。


 白雪は岩に手をつき、表面を確かめた。


 そこには、細かな筋が刻まれている。


「模様がある!」


 黒羽が近づいて確認する。


「自然にできた模様にも見えるけれど……」


 ユウマは水の流れを見た。


「この岩の形、少し不自然だな」


 水が落ちている場所の両側には、平たい石が並んでいる。


 まるで、水を中央へ集めるように配置されている。


 白雪は岩の端にある小さな窪みを見つけた。


「ここ、穴があるよ!」


 窪みの中には、丸い石が一つ入っていた。


 白雪は石を持ち上げる。


 《水路石》


「石が入ってた!」


 石の下には、小さな溝が隠れていた。


 その溝は岩の表面を伝い、水たまりの奥へ続いている。


「水の流れを調整する仕掛けかもしれないわね」


 黒羽が言う。


 ユウマは周囲を確認した。


「ほかにも同じ窪みがあるかもしれない。探してみよう」


 三人は岩の周囲を調べ始めた。


 小さな仕掛け


 水たまりの反対側に、もう一つ窪みが見つかった。


 そこには丸い石が置かれている。


 白雪が石を持ち上げると、下から別の溝が現れた。


「こっちにもあった!」


 黒羽は二つの溝の位置を確認する。


「どちらも中央の水たまりへつながっているわね」


 ユウマは水路石を一つ目の窪みに戻し、二つ目の石も元の位置へ戻した。


 すると、水の流れがわずかに変わった。


 それまで岩の端へ流れていた水が、中央へ集まっていく。


 さらさら……。


 水たまりの表面に小さな渦ができた。


「おお!」


 白雪が身を乗り出す。


 渦はゆっくり回り、中央の石の隙間へ水を流し込んでいた。


 その直後、岩の表面に刻まれた筋が淡く光る。


 《水の流れを整えました》


 システムメッセージが表示された。


「仕掛けだったんだね!」


 白雪は嬉しそうに跳ねた。


 岩の隙間から、小さな箱がせり出してくる。


 箱は木製で、表面に水の模様が刻まれていた。


 黒羽が慎重に蓋を開ける。


 中には、いくつかの素材が入っていた。


 《水路石の欠片》

 《清流砂》

 《水泡草》

 《水縁貝》


「水辺の素材が入っているわね」


 黒羽が確認する。


「仕掛けを直した報酬みたいだな」


 ユウマが頷いた。


 白雪は水泡草を手に取った。


 小さな葉の周囲に、透明な泡がいくつも付いている。


「これ、かわいい!」


 葉を少し動かすと、泡が一つ弾けた。


 ぱちん。


「わっ!」


 白雪は驚いて笑った。


「泡が出てくるんだ!」


 黒羽は水泡草の説明を確認する。


「水辺に生える植物みたいね。生産素材にも使えるかもしれないわ」


「料理にも使えるかな?」


「用途はまだ分からないけれど、持って帰って調べましょう」


「うん!」


 白雪は水泡草を大切にインベントリへしまった。


 まだ先へ


 仕掛けの確認を終えた三人は、少し離れた岩の上で休憩することにした。


 白雪は水面を眺めながら、今日手に入れた素材を確認する。


 《流れ葉》

 《川浮き草》

 《川砂晶》

 《川石の殻片》

 《青尾の鱗》

 《水縁貝》

 《水路石の欠片》

 《清流砂》

 《水泡草》


「今日は水辺のものがいっぱいだね!」


「そうね。林の中とはまた違った素材が集まったわ」


 黒羽が答える。


 ユウマは上流の方を見た。


「この川、まだ先まで続いているみたいだな」


「もっと奥に行けるの?」


 白雪が顔を上げる。


「ああ。ただ、今日はそろそろ戻る時間を考えた方がいい」


 黒羽も頷いた。


「林の中を通って帰るなら、今のうちに戻り始めた方がよさそうね」


「そっかぁ」


 白雪は少しだけ残念そうに川を見つめた。


 水の中では、青尾ハヤが一匹、石の間を泳いでいる。


「また来ようね!」


「そうね。上流も気になるし」


「今度はもう少し早い時間から来よう」


 ユウマが言った。


 白雪は立ち上がり、川に向かって手を振った。


「またねー!」


 三人は来た道を戻り始めた。


 林の木々の間から、夕方の光が差し込んでいる。


 帰り道にも、木陰リスが一匹、枝の上からこちらを見ていた。


「あっ、リスさん!」


 白雪は足を止める。


 リスは尻尾を揺らし、木の幹を登っていった。


「また会えたね!」


 白雪は嬉しそうに笑った。


 黒羽とユウマも立ち止まり、その姿を見送る。


 イベントは終わった。


 けれど、こうして歩いているだけで、新しい発見はいくらでもある。


 白雪は林の出口へ向かいながら、次に訪れる場所を考えていた。


「今度は川の上流に行こうね!」


「時間を作っておきましょう」


「楽しみだな!」


 三人の声が、静かな林に響いた。


 水の流れる音は、少しずつ遠ざかっていった。

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