第104話 風穴の奥で見つけたもの
「何があるのかな?」
白雪は、小さな穴の前にしゃがみ込んでいた。
穴の奥からは、ひゅうっと風が吹き出している。
先ほど青く光る粒が吸い込まれていった場所だ。
「うーん……」
指を入れてみる。
少し先で岩に当たった。
当然、奥までは届かない。
「狭いね」
白雪は穴の周囲を調べた。
すると、すぐ横に細長い石が挟まっていることに気づく。
「これ、動くのかな?」
指先で押してみる。
ぐっ。
石は少しだけ動いた。
その瞬間、穴から吹き出していた風が止まる。
「お?」
今度は反対側から風が吹き始めた。
ひゅうう……。
白雪の髪が反対方向へ揺れる。
「おおっ、風向きが変わった!」
白雪は面白くなって、石を少しずつ動かしてみた。
右へ動かすと、風が強くなる。
左へ戻すと、風が弱くなる。
「これ、風の調整ができるのかな?」
石をもう少し押し込む。
かちっ。
小さな音が響いた。
その直後、洞窟の奥で何かが動く音がした。
ごごご……。
白雪は顔を上げる。
壁の一部がゆっくりと開き、細い通路が姿を現した。
「わあっ!」
白雪は立ち上がった。
「また道が出てきた!」
通路の向こうから、青白い光が漏れている。
白雪は迷わず進もうとした。
けれど、その前に一度だけ後ろを振り返る。
「よし、帰り道は覚えた!」
もちろん、途中で迷う可能性は十分にある。
それでも白雪は気にせず、通路へ入っていった。
通路の先は、少し広い空間になっていた。
天井には細い亀裂がいくつもあり、そこから風が流れ込んでいる。
床には青白い石が点々と埋まっていた。
その中央に、小さな水たまりがある。
「お水だ」
白雪は近づいてみた。
水面には天井の光が映り、青く揺れている。
水たまりの周囲には、細い草が生えていた。
《風水草》
「草も生えてる」
白雪は一本だけ採取する。
そのすぐ横には、丸い青色の実が落ちていた。
《風水の実》
「また実!」
白雪は拾い上げて、鼻を近づけた。
少しだけ酸っぱい香りがする。
「これは……どうしようかな」
先ほどからいろいろな実を食べてきた。
甘いものもあれば、舌がしびれるものもあった。
「ちょっとだけなら大丈夫かな?」
白雪は小さくかじった。
ぱきっ。
「んっ……」
最初は酸味が広がった。
そのあと、口の中に冷たい感覚が広がる。
「ひゃっ、冷たい!」
白雪は思わず口元を押さえた。
飲み込んだあとも、舌の上に冷たい感覚が残っている。
「これ、冷えるね……」
その瞬間、体が少しだけ震えた。
状態変化:《冷え》
「えっ、また!?」
白雪は慌ててアイテム欄を開いた。
以前も冷えの状態になったことがある。
今回はすぐに状態異常用の薬を取り出し、飲み込んだ。
しばらくすると、体の震えが収まっていく。
「ふぅ……。びっくりした」
視界に通知が表示された。
《味覚》の熟練度が上昇しました。
《冷え耐性》の熟練度が上昇しました。
「おっ、耐性が上がった!」
白雪は少し嬉しそうに笑った。
「でも、これはちょっと冷たすぎるかな」
残った実はアイテム欄へしまう。
水たまりの奥で、何かが動いた。
ぴちゃ。
「ん?」
水面に小さな波紋が広がる。
白雪が覗き込むと、青白い小魚が泳いでいた。
尾の先が淡く光っている。
「お魚さん!」
魚は水面近くまで上がってくると、白雪の指先をつついた。
「くすぐったい!」
魚はすぐに離れ、また近づいてくる。
白雪が指を水面に浮かべると、魚はその周囲をくるくると泳いだ。
「ふふっ。遊んでくれるの?」
魚は尾を振った。
すると、水たまりの底から小さな泡がいくつも浮かび上がる。
ぽこぽこ。
泡は水面で弾けず、ふわりと浮かんだ。
「おおっ、また泡だ!」
白雪は指先で泡をつついた。
ぷにっ。
泡が少しだけ形を変える。
「やっぱり触れる!」
白雪は泡をひとつ、ふたつと追いかけた。
そのうち、一つの泡が魚の周りを回り始める。
魚が泳ぐと、泡も一緒に移動する。
「すごいね!」
白雪はしばらく魚と泡で遊んでいた。
すると、魚が水たまりの端へ移動する。
そこには、小さな石が積み重なっていた。
魚はその石の隙間へ入り込む。
「あっ、そっち?」
白雪は石をひとつ持ち上げてみた。
その下から、青白い貝が現れる。
《風水貝》
「貝だ!」
さらに、石の奥には小さな透明の粒が落ちていた。
《風水晶粒》
白雪はそれらを拾い上げる。
「きれいなものがいっぱい!」
そのとき、水たまりの奥から風が吹き込んできた。
水面が大きく揺れ、泡が一斉に浮かび上がる。
魚はその泡の間を泳ぎ回った。
白雪も手を伸ばしてみる。
泡が指先に触れ、ふわりと持ち上がった。
「わっ、また浮いた!」
白雪は笑いながら泡を追いかけた。
その様子を見ていた魚が、水面から小さく跳ねた。
ぴしゃん。
白雪の頬に水滴が飛ぶ。
「わっ!」
そして、視界に通知が表示された。
未登録の水棲生物を発見しました。
未発見の小規模水場を発見しました。
イベントポイントを獲得しました。
「おおっ、また見つけた!」
白雪は嬉しそうに頷いた。
水場を離れようとしたとき、白雪は床に落ちている青い石に気づいた。
手のひらほどの大きさで、表面には風車のような模様が刻まれている。
《風輪石》
「これ、どこかで見たような……」
以前拾った石にも似ている。
白雪は石を持ち上げ、軽く振ってみた。
何も起こらない。
今度は耳元へ近づける。
かすかに、ひゅうという音が聞こえた。
「音がする!」
白雪は石を地面へ置いた。
すると、石の周囲の風が少しだけ強くなる。
「おおっ!」
風は石の周りをくるくると回り、白雪の髪を揺らした。
「これ、面白いね!」
白雪は石をアイテム欄へしまった。
そして、来た道を戻り始める。
途中、最初に通った穴のところまで戻ると、先ほど動かした石がそのままになっていた。
「ここを動かしたんだったね」
白雪は石を元の位置に戻した。
すると、風の向きが変わり、壁の仕掛けが小さく音を立てた。
「お?」
けれど、特に何も起こらない。
「……まあ、いっか」
白雪はそのまま洞窟を抜け、草原へ戻った。
一方、黒羽は根に覆われた遺跡の奥へ進んでいた。
石板の仕掛けを解いた先には、円形の部屋が広がっている。
壁には根が張り巡らされ、中央には大きな石柱が立っていた。
その根元には、四つの小さな石が埋め込まれている。
「今度は四つ……」
黒羽は周囲を観察した。
石柱の表面には、短い線がいくつも刻まれている。
そして、壁の根にも同じような線があった。
「石柱の模様と、根の模様が対応しているのね」
黒羽は石柱の周囲を歩き、線の位置を確かめた。
四つの石のうち、ひとつだけ色が違う。
「これが最初かしら」
石を押す。
かちっ。
続けて、壁の根にある小さな突起を押す。
かちっ。
二つ目の石が淡く光った。
「やっぱり、連動している」
黒羽は慎重に順番を探っていく。
そして、四つ目を押した瞬間。
ごごご……。
石柱がゆっくりと回転した。
壁の根が左右へ開き、奥に隠されていた部屋が姿を現す。
その中央には、古びた宝箱が置かれていた。
「宝箱……!」
黒羽は周囲を確認してから、ゆっくりと近づいた。
宝箱の蓋には、木の葉を模した装飾が施されている。
そして、その中央には小さな青緑色の石が埋め込まれていた。
「これも仕掛けかしら」
黒羽は蓋の石に触れた。
すると、宝箱の留め具が外れる。
かちり。
蓋がゆっくりと開いた。
中には、細長い金属片と、淡い緑色の結晶が入っていた。
《古樹銀片》
《根風晶》
黒羽はそれらを回収する。
「……これで一区切りかしら」
けれど、宝箱の底には小さな紋様が残っていた。
黒羽はそれを見つめる。
「まだ何かありそうね」
彼女は紋様を記憶し、部屋の奥を調べ始めた。
ユウマは、水晶水亀との戦闘を続けていた。
首元の水晶に入ったひびは、少しずつ広がっている。
「あと少し……!」
ユウマは剣を構えた。
水晶水亀が首を伸ばす。
その周囲の水が集まり、青白く光った。
「来る!」
ユウマは横へ跳んだ。
水流が走る。
しかし、今回は攻撃の軌道がわずかにずれていた。
ユウマはすぐに反転し、亀の横へ回り込む。
水晶水亀が首を引っ込めようとする。
「逃がすか!」
ユウマは一歩踏み込み、剣を振り抜いた。
ガキンッ!
首元の水晶が砕けた。
水晶水亀の体が大きく揺れる。
そして、周囲の水が一気に引いていった。
「よし……!」
ユウマは距離を取って構える。
水晶水亀は動きを止め、その場に崩れ落ちた。
討伐完了の表示が浮かぶ。
《水晶水亀の甲片》
《水晶水》
《水流結晶》
「ふぅ……。思ったより時間がかかったな」
ユウマは剣を納めた。
その先には、まだ奥へ続く道が見えている。
「……少し休んでから進むか」
彼は水場の近くで腰を下ろした。
そして白雪は、草原へ戻っていた。
「んー、次はどうしようかな」
白雪は空を見上げる。
イベントの時間は、まだ残っている。
少し離れた場所では、草原を歩くプレイヤーたちの姿も見えた。
「あっ」
そのうちの一人が、地面に落ちていた白い綿毛を拾っている。
別のプレイヤーは、草むらの中を覗き込んでいた。
どうやら、この辺りにも探索に来ている人が増えているらしい。
白雪は特に気にせず、近くの岩に腰掛けた。
「いっぱい歩いたねえ」
アイテム欄を開く。
今日もいろいろなものが増えていた。
草、石、実、貝。
何に使うのかはわからない。
でも、見つけると嬉しい。
「あとで何か作れるかな?」
そう呟いて、白雪はアイテム欄を閉じた。
今はまだ、作るよりも見つける方が楽しい。
少し休んだあと、白雪は再び立ち上がった。
その視線の先に、小さな白い花が揺れている。
「……あれも気になる」
白雪はまた歩き出した。
イベント2日目は、まだ終わらない。




