第20話 【テレシウス・エーレント編】国一番の剣士は 猫族の王を守るためにやってきた
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気が付いたときは、ガタガタ揺れる幌馬車に鎖付きで転がされていた。
テレシウスは生きているのか…?
なぜこんなことが起きたか、
俺には大体分かる。
80を超えた爺さん大王が、ちょうどあの時死んで、
テレシウスが神鼠を継承したのだ。
そして、そこにいた俺が獣化した…
こういうことなんだろう。
俺…猫族の王が神鼠を襲ったのだ。
ただでさえ、迫害されていた猫族が、今後どうなるのか。
それに、猫族が、神鼠を襲った場合、
例外なく処刑される。
軌道に乗った煙草産業はどうなるのか。
俺が処刑された後、誰かが新しい猫族の王を継承するが、
その王のもとで存続できるのか。
テレシウスは…
俺を処刑しても、この煙草産業に…猫族に手を貸してくれるんだろうか…
俺を処刑しても…
処刑…?
…ああ、そうか。
俺は、俺自身はダチと思っていた奴に、
遠からず処刑されるのだ。
(貴様はダチじゃない)
不意に思い出されたテレシウスの言葉に、
心臓が切り裂かれた。
処刑されることより、
テレシウスの「ダチじゃない」宣告の方が余程こたえるとは…
飼われていたのは、
俺の方だったのかもしれない。
********
こうなったら、いっそテレシウスも死んでいればいい、と思えてきた。
俺は転がったまま声を上げた。
「テレシウスはどうなった?生きているのか?」
すると、俺が転がされている荷台の隅から、低い声がした。
「生きている。」
俺は顔を上げた。
黒い長髪の、ガタイのいい男が、荷台の隅に座って俺を見ている。
「…ロベルトか?」
「お久しぶりだね。」
「テレシウスは…?」
「大怪我も大怪我。
普通の人なら死んでるよ。
でも、あの人は、国一番の剣士テレシウス…
すぐに治るさ。」
俺は安堵すると同時に、驚いた。
テレシウスが、国一番の剣士…
しかし、妙に納得できる。
「ところで、長い間、テレシウスがやっかいになったね…」
「死ねよ!!!クソ野郎!!!!!!!!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は、怒りを噴出させた。
「なんで、猫族の俺んちに、鼠のテレシウスを寄越したんだよ!!!
ザケてんのかよ、テメェ、あ!?」
「こっちにも色々あるんだよ!!!」
意外にも、温厚なロベルトがキッとなって言い返した。
「それに、テレシウス…
いや、テレシウス様が、君のところに住みたいと強く希望したんだ。」
「その我がままの結果が、これかよ…!!」
馬鹿馬鹿しくなった俺は、
ゴロリと横たわった。
「ロベルト…
アイツは、コルデールに、何しにきてたんだ?」
「…」
「話せよ。誠意を見せろ。」
ロベルトは深いため息をついて、
ゴトゴト揺れる荷台にもたれかかった。
「コルデールで内乱の動きがあって…
その調査と鎮圧のために、テレシウス様が送り込まれたんだよ。」
「…俺んちに泊まる必要ねェじゃん。」
「その内乱に、猫族の王に反発する猫族が加担していたんだ。
神羊コルデールの王は、猫族を使って神鼠を襲う…
その一方で、神羊は、猫族が君を暗殺することに協力する…
そういう計画だよ。」
「…へェェ…」
俺は、「相当数の猫族に狙われている」とテレシウスに言われたことを思い出した。
「密命を受けたとき、テレシウス様は、
『拠点をエーレントという猫族の王の家にする』
と、自分から提案した。
そうすれば、猫族の王の命を守れる、とね。」
「別に、俺の護衛は必要ねェだろ…?」
「そう、そのとおり。
我々にしてみれば、内乱を鎮圧できれば、
猫族の王が死のうと生きようと、どうでもいいからね。」
「はっきり言うねェ。」
「ハハハ」
ロベルトは整った顔を綻ばせた。
「でも、テレシウス様は違った。
『ハッ!猫族の王を守ってやろう!
つまらん内乱は、そのついでに鎮圧してやる。』ってね。」
俺は驚き、そして、呆れ返った。
「ハァ?何様なの?」
「テレシウスは、いつでも『テレシウス様』だよ。
…亡くなった前の大王は、試合を観覧するのが趣味だったから、
ディモイゼでは、ひっきりなしに大会や観覧試合があった。
奴隷や猛獣が殺し合うやつだよ。
人間が恐怖で叫んだり、逃げ回ったり、狂ったように暴れたり…
正直、私は、胸糞悪かった。
あるとき、テレシウス様が、
『ハッ!つまらんな!私が芸術にしてやろう!』とか言って、
急に剣一本持って、観覧席から飛び入り参加してね。」
「…」
(次話に続く)
十二支と神鼠は猫に「こい」
第Ⅰ章(人生の 最後のページで 見えるもの):https://ncode.syosetu.com/n5418ls/
第Ⅱ章(猫に恋する神鼠 妹に恋する禁忌の竜):https://ncode.syosetu.com/n3802lt/
第Ⅲ章(神山ゴテスベルクと猫天神):https://ncode.syosetu.com/n9385lu/
第Ⅳ章(神鼠の中に 住まう者):https://ncode.syosetu.com/n2574lx/
カクヨムでも連載:https://kakuyomu.jp/works/2912051595951960067




