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第16話 【テレシウス・エーレント編】耳飾りは 貴様と私の 絆の証

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物語の登場人物・世界の【総まとめ】はこちらの短編を:

https://ncode.syosetu.com/n3739lz/

挿絵(By みてみん)


テレシウスは、フラリと俺んちに来てからすぐ、

ディモイゼの上流階級に煙草を売り込み始めた。


そして、すぐに注文を集めてきた。

それも、大量に。


そして、それを基盤に、恐るべき体力と脚力と謎の交渉力で、

ディモイゼだけでなく「上流階級の嗜み」として、

煙草を各州の上流階級に伝播させていったのだ。


1年経つ頃には、煙草の売り上げは30倍以上になっていた。


各州に点在する猫族は嬉しい悲鳴。

狭い場所で、高価なものを、早く、大量に作る俺の技法で、

隅っこで震えていた猫族が潤うさまは感慨深かった。


猫族の王として、猫族を立て直そうと寝る間も惜しんで仕事をし、研究しているのに、

俺のやり方に不満を抱く猫族の一派に殺されかけたこともあるし、

今だって、俺に反発する奴らは多い。

しかし、この状況が続けば、誰も文句が言えなくなるだろう。


それもこれも、全て、テレシウスが扉を開いてくれたからだ。


********


しかし、テレシウスは、絶対に中抜きしなかった。


自分がかけた時間も労力も金も何もかも、

見返りを全く要求しない。


どれだけ苦労したのかと気遣っても、

話そうとしない。


俺が何を、どれだけ言っても、

「ハッ」と馬鹿にしたように笑って、

プカプカと葉巻を吸って、

「おい、暑いから窓を開けろ」

とか、

「前に行ったアソコの店がうまかったから、今夜行くぞ」

とか、


…いつも他愛のないことを言うだけだった。


*******


テレシウスが俺んちにいるのは、月の半分より少ないくらいか。

フラリとやってきて、フラリと去る。


滞在中、外出することもあるが、

どこに行くかは知らない。

必ず、使い込まれた匂いのする剣を持って行き、

「おい、腹が減った。」

などと言いながら帰ってくる。


夜遅くに出かけることもある。


猫族の王ではあるが、

俺は狭いアパルトマンに住んでいる。


居候のテレシウスが寝台で、

俺が床か長椅子で寝るもんだから、

出掛ける時はすぐに分かる。


薄目を開けていると、剣だけ手にして、

静かに扉から出て行くのが見える。


白銀の髪が残光のように目に残る。


…そして、夜明け前に帰って来る。


微かに血の匂いをさせて、

横たわる俺の前で一瞬立ち止まり…


静かに寝台にもぐり込む。


朝、恐る恐る寝台を覗くと、

いつもの通り、

絹糸のような白銀の髪を乱れさせ、

不思議と寝相よく眠り込んでいるテレシウスを発見するのだった。


******


俺んちにいる間は、見事なほどに何もしない男だった。


テレシウスが自分で動くのは便所くらいだ。

面倒になったら素っ裸で外出しかねない。


勝手に俺の服を着る。

…というより、何も持っていないから、俺の服ばかり着る。


テレシウスの方が図体がデカいから、あの男が着た後は服が緩くなっている。


その服も、破れても千切れても気にしないから、

大体、俺が繕う。


「ハッ!猫の手は最高に役に立つな!!」


と、俺が繕っている隣で居眠りをする。


服を買って来ると、やけに素直に着て、

「ハッ!野蛮なくせにいい趣味だな!!」

とか言って、肩を叩く。


各州の上流階級を回るときはどうしているのか…


まさか、こんな姿で行くわけがないだろうが…

いろんな場所に、俺んちのような拠点を持っているのかもしれない。


食べ物も適当だ。

「食うのも面倒だから、貴様が私の口に入れろ」と言うこともある。


俺が働いている隣で、女と寝ることもしばしばだが、

金を握らせるのは俺の役目だ。


そういったときに「俺が煙草を助けてやっている」というような、

恩着せがましいことは一切言わない。

というより、全く、思いついてすらいないようだ。


*********


そのくせ、たまに哀しそうな目をして、ぼんやりと葉巻を吹かしている。


「アンタ、何考えてんだ」と聞くと、


「ハッ」と笑うだけ。


それなのに、俺が、猫族の反発なんかで、一人で気を腐らせていると、

急に「おい、これをやろう。」と言って、物を買って来る。


「耳飾りか?なんだ、急に…」


「俺の瞳と同じ色を見つけた。喜べよ。」


「喜べるか!アンタなァ!!!

恋人じゃねェんだぞ!!!

恥ずかしくて着けられるか!!!」


俺が蹴り倒して羽交い絞めにすると、


「ハッ…野蛮が過ぎるな…」


とうめくが、特に怒る様子もない。


「細かいことを言うな。

貴様と私の絆の証だろう。」


「台詞がクセェ!!!」


「ハッハッハッ!!!否定せんのだな!!!」


腹の底から笑ったかと思うと、

今度は俺を羽交い絞めにして、無理やり耳飾りを着ける。


「ハッ!ハッ!!やっぱり似合うじゃないか!!!喜べよ!!!」


と意気揚々と笑う。


そして、俺が、次に一人で落ち込むときには、


「おい、今度は、貴様の目の色にしてやったぞ。喜べよ。」


とくるのだ。


******


俺の前にいるテレシウスは、

そんな奴だった。


俺は、当初、

「なんでコイツが俺んちにいるんだ」

と思っていたが、

気付けば

「コイツがいないときは、どんな生活だったっけか」

と思うようになっていた。




十二支と神鼠は猫に「こい」


第Ⅰ章(人生の 最後のページで 見えるもの):https://ncode.syosetu.com/n5418ls/

第Ⅱ章(猫に恋する神鼠 妹に恋する禁忌の竜):https://ncode.syosetu.com/n3802lt/

第Ⅲ章(神山ゴテスベルクと猫天神):https://ncode.syosetu.com/n9385lu/

第Ⅳ章(神鼠の中に 住まう者):https://ncode.syosetu.com/n2574lx/


カクヨムでも連載:https://kakuyomu.jp/works/2912051595951960067


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