第16話 【テレシウス・エーレント編】耳飾りは 貴様と私の 絆の証
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テレシウスは、フラリと俺んちに来てからすぐ、
ディモイゼの上流階級に煙草を売り込み始めた。
そして、すぐに注文を集めてきた。
それも、大量に。
そして、それを基盤に、恐るべき体力と脚力と謎の交渉力で、
ディモイゼだけでなく「上流階級の嗜み」として、
煙草を各州の上流階級に伝播させていったのだ。
1年経つ頃には、煙草の売り上げは30倍以上になっていた。
各州に点在する猫族は嬉しい悲鳴。
狭い場所で、高価なものを、早く、大量に作る俺の技法で、
隅っこで震えていた猫族が潤うさまは感慨深かった。
猫族の王として、猫族を立て直そうと寝る間も惜しんで仕事をし、研究しているのに、
俺のやり方に不満を抱く猫族の一派に殺されかけたこともあるし、
今だって、俺に反発する奴らは多い。
しかし、この状況が続けば、誰も文句が言えなくなるだろう。
それもこれも、全て、テレシウスが扉を開いてくれたからだ。
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しかし、テレシウスは、絶対に中抜きしなかった。
自分がかけた時間も労力も金も何もかも、
見返りを全く要求しない。
どれだけ苦労したのかと気遣っても、
話そうとしない。
俺が何を、どれだけ言っても、
「ハッ」と馬鹿にしたように笑って、
プカプカと葉巻を吸って、
「おい、暑いから窓を開けろ」
とか、
「前に行ったアソコの店がうまかったから、今夜行くぞ」
とか、
…いつも他愛のないことを言うだけだった。
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テレシウスが俺んちにいるのは、月の半分より少ないくらいか。
フラリとやってきて、フラリと去る。
滞在中、外出することもあるが、
どこに行くかは知らない。
必ず、使い込まれた匂いのする剣を持って行き、
「おい、腹が減った。」
などと言いながら帰ってくる。
夜遅くに出かけることもある。
猫族の王ではあるが、
俺は狭いアパルトマンに住んでいる。
居候のテレシウスが寝台で、
俺が床か長椅子で寝るもんだから、
出掛ける時はすぐに分かる。
薄目を開けていると、剣だけ手にして、
静かに扉から出て行くのが見える。
白銀の髪が残光のように目に残る。
…そして、夜明け前に帰って来る。
微かに血の匂いをさせて、
横たわる俺の前で一瞬立ち止まり…
静かに寝台にもぐり込む。
朝、恐る恐る寝台を覗くと、
いつもの通り、
絹糸のような白銀の髪を乱れさせ、
不思議と寝相よく眠り込んでいるテレシウスを発見するのだった。
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俺んちにいる間は、見事なほどに何もしない男だった。
テレシウスが自分で動くのは便所くらいだ。
面倒になったら素っ裸で外出しかねない。
勝手に俺の服を着る。
…というより、何も持っていないから、俺の服ばかり着る。
テレシウスの方が図体がデカいから、あの男が着た後は服が緩くなっている。
その服も、破れても千切れても気にしないから、
大体、俺が繕う。
「ハッ!猫の手は最高に役に立つな!!」
と、俺が繕っている隣で居眠りをする。
服を買って来ると、やけに素直に着て、
「ハッ!野蛮なくせにいい趣味だな!!」
とか言って、肩を叩く。
各州の上流階級を回るときはどうしているのか…
まさか、こんな姿で行くわけがないだろうが…
いろんな場所に、俺んちのような拠点を持っているのかもしれない。
食べ物も適当だ。
「食うのも面倒だから、貴様が私の口に入れろ」と言うこともある。
俺が働いている隣で、女と寝ることもしばしばだが、
金を握らせるのは俺の役目だ。
そういったときに「俺が煙草を助けてやっている」というような、
恩着せがましいことは一切言わない。
というより、全く、思いついてすらいないようだ。
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そのくせ、たまに哀しそうな目をして、ぼんやりと葉巻を吹かしている。
「アンタ、何考えてんだ」と聞くと、
「ハッ」と笑うだけ。
それなのに、俺が、猫族の反発なんかで、一人で気を腐らせていると、
急に「おい、これをやろう。」と言って、物を買って来る。
「耳飾りか?なんだ、急に…」
「俺の瞳と同じ色を見つけた。喜べよ。」
「喜べるか!アンタなァ!!!
恋人じゃねェんだぞ!!!
恥ずかしくて着けられるか!!!」
俺が蹴り倒して羽交い絞めにすると、
「ハッ…野蛮が過ぎるな…」
とうめくが、特に怒る様子もない。
「細かいことを言うな。
貴様と私の絆の証だろう。」
「台詞がクセェ!!!」
「ハッハッハッ!!!否定せんのだな!!!」
腹の底から笑ったかと思うと、
今度は俺を羽交い絞めにして、無理やり耳飾りを着ける。
「ハッ!ハッ!!やっぱり似合うじゃないか!!!喜べよ!!!」
と意気揚々と笑う。
そして、俺が、次に一人で落ち込むときには、
「おい、今度は、貴様の目の色にしてやったぞ。喜べよ。」
とくるのだ。
******
俺の前にいるテレシウスは、
そんな奴だった。
俺は、当初、
「なんでコイツが俺んちにいるんだ」
と思っていたが、
気付けば
「コイツがいないときは、どんな生活だったっけか」
と思うようになっていた。
十二支と神鼠は猫に「こい」
第Ⅰ章(人生の 最後のページで 見えるもの):https://ncode.syosetu.com/n5418ls/
第Ⅱ章(猫に恋する神鼠 妹に恋する禁忌の竜):https://ncode.syosetu.com/n3802lt/
第Ⅲ章(神山ゴテスベルクと猫天神):https://ncode.syosetu.com/n9385lu/
第Ⅳ章(神鼠の中に 住まう者):https://ncode.syosetu.com/n2574lx/
カクヨムでも連載:https://kakuyomu.jp/works/2912051595951960067




