第45話 元同級生達との再会 その1
ブックマークありがとうございます。
ノルンを腕に抱え、その傍らに契約精霊であるカノンを含む下位精霊達を侍らせたナキは、強張った表情で目の前の小屋を見つめていた。
目の前の小屋は、定期的に行われる村の集会で使われる以外で普段は空き家なのだが、今現在本来の使用目的とは別の理由で使われていた。
「ナキ、大丈夫か?」
「顔が物凄く怖いことになってるわよ?」
「……ゴメン、あんまり余裕がない」
「そりゃそうだろう? だってこの中にお前の“同郷”の奴らがいるんだから……」
ナキのことが心配で着いてきたクルークハイト達は、極度の緊張状態と余裕のなさを目の当たりにし今にもナキが暴走するんじゃないかと心配していた。
小屋が使用されている理由は、アネーロが言ったように襲撃に加わったナキの元同級生達が中に閉じ込められているからだ。
「でもまさか、あの状況で助かっていたとは思わなかったよ。
正直全滅してても可笑しくなかったのに」
「話によると、一緒にいたディオール王国の騎士達が対応しようと魔法で攻撃して実質囮になったのと、自分達は逃げるのに必死で魔法を使わず逃げ隠れしてたそうよ。
でも災害級相手に勝てるわけもないし、呪術師の子味方の魔法士の魔力を根こそぎ奪ったせいでまともな補助もなかったのもあって、言ってなんだけど、速攻で全滅したみたい」
「そのあと、ミスリルゴーレムがナキを追いかけたのもあって、助かったみたい……」
「なんか、納得いかない」
ローロとシャートッロから元同級生達が生き残った理由を聞いたナキは、自分でも意図せず助けて担っていたことに納得がいかない様子だった。
元いた世界で自分を虐めていた相手を助けたという事実だけでも、嫌悪感が湧くほどだ。
ナキから話を聞いていたクルークハイト達も、元同級生達に対しあまり良い感情を抱いていていないが、ナキが今にも目の前の小屋目掛けて魔法を発動させてしまうのではないかという様子である以上、ナキを落ち着かせることを優先する。
「まぁ納得いかないにしろ、結果的に追放されたあとの情報が手に入る訳だし、結果オーライじゃね?」
「そうね、もうちょっとポジティブに考えましょう!」
《ノルンたちがついてるからダイジョウブだよ〜》
《もし相手がなにかしようものなら、ワタシたちがいじめっ子たちをやっつけてあげる!》
《火ぜめ〜》
《水ぜめ〜》
元同級生達が何かしてこようものならノルンやカノン達下位精霊達も全面的に追撃する気まんまんだ。
そんなやり取りをしている内に、ナキも落ち着きを取り戻してきた。
「ありがとう、皆。少し落ち着いてきた」
「ここで突っ立っててもしょうがない、そろそろ中に乗り込んじゃおう。
精霊経由でここに来ることは伝わってるんだ、少しでも情報を手に入れて今後どう動くか考えよう」
「クルークハイトの言う通り、だな。クライム、頼む」
「おう、任せとけ!」
クライムはナキ達の間をぬって小屋の前に立つと、ドンドンと扉を強く叩いた。
すると扉が開き、中からオフィーリア帝国から来た兵士が顔を出した。
「ん? 君達は?」
「すみません、中に突撃します!」
「トツゲキ宣言してどうすんだバカ! ある意味間ちがっちゃいないけども!」
「すみません、俺達小屋の中にいる子供達に用事があって来たんです。
精霊達に言付けをお願いして伝わってると思うんですけど……」
ある意味間違ってはいないだろうが、実質間違っているクライムの突撃宣言に思わずツッコミを入れキレ気味になった。
その様子を見かねたアネーロが中から顔を出した兵士に自分達が来た目的を伝えると、兵士は納得した様子だった。
「あぁ、君達が連絡にあった子達か、いきなり突撃宣言されてちょっとビックリしたよ。
少し待っててくれ。班長、連絡にあった子供達が来ました。中に通しても宜しいでしょうか?」
兵士は中にいる現場の責任者にナキ達が来たことを告げ、中に入れても問題ないか確認を取る。
現在進行系で事情聴取をしているのもあるが、中にいる元同級生達がスキルで暴れないよう準備をする必要もあるのだろう。
中に入っても良いか確認が行われている中、扉の奥から聞き覚えのある声が聞こえて来たため、ナキは思わず身を強張らせる。
《ナキィ、どうしたのぉ?》
「中から北村達の声が聞こえてくる、なんか、わめいてるっぽい」
「助かったと思ったら小屋に入れられて混乱してるんじゃないか?」
「あ〜、自分達は特別なんだから特別扱いしろーっ! ってなってそう……」
中で元同級生達達が喚く声が聞こえると聞いたローロは、撤退戦の際に元同級生達が自分達の事をどのように見ているのかをナキ経由で聞いているため、可哀想だとは思わなかった。
他のメンバーも同じ意見らしく、これから直接はナスとなったら生意気な態度を取るに違いいないと思った。
それから一刻みもしない内に顔を出した兵士が扉を開ききった。
「お待たせ、班長から許可が出たよ。中へどうぞ」
「ありがとうございます。ナキ、準備は良いか?」
「スゥー、ハァー。よし、皆行こう」
クルークハイトに背中を押され、ナキは先陣を切って小屋の中へと入っていく。
ナキのあとに続いて、クルークハイト達も小屋の中に入り、事情聴取を受けている元同級生達と対峙する。
一応手当てはされているものの、災害級のミスリルゴーレムに襲われたことで元同級生達の姿はボロボロになっていた。
ふと、その内の一人であるコウスケがナキ達が入って来たことに気が付き、声を上げながらナキ達を指さした。
「あぁっ! コイツらあの時にげた“ヒトモドキ”どもだ!」
「本当だ! なんでここにいるんだよ⁈」
「アンタ達のせいで、ワタシ達死にかけたのよ?!
おまけに服もボロボロだしお気に入りのブキだってコワレたのに、なんでアンタ達は無傷な上にキレイなのよ⁉
二足歩行するだけのケモノのくせにぃ!」
「助かったと思ったらこんなへんぴな所に閉じ込められるし、お前らがさっさとつかまってれば、こんな事にならなかったんだぞ!」
「そうよそうよ! 今からでもアタシ達のドレイになってセキニン取りなさいよ、このレットウ種が!」
「「「「「これは酷いっ!」」」」」
対面してそうそう、元同級生達の口から出る差別用語や口と態度の悪さを目の当たりにしたクルークハイト達は、ドン引きしながら全く同じ感想を口に出した。
ナキに至っては、目の前にいる元同級生達の思考が完全にディオール王国に染まっていることに対し顔を引き攣らせて軽蔑の眼差しで見ていた。
「コラお前達、全員席につくんだ! それに彼らはヒトモドキではなく獣人という、身体能力に優れた素晴らしい種族だ!」
「我々の前で二度と奴隷になれなどど言わない方が身のためだ。
我がオフィーリア帝国では奴隷を含む人身売買は重罪、場合によっては極刑に問われるほどの犯罪に認定されているのだからな」
事情聴取を執り行っている兵士達は常識人のようで、クルークハイト達に対する元同級生達の態度の悪さを厳重注意する。
元同級生は兵士達の厳重注意に威圧され、一端は大人しくなった。
ようやく本題に入れる雰囲気になり、ナキの様子を確認しながらクルークハイトが話を切り出した。
「すみません、精霊経由でも説明したように俺達一年前から今年の稲苗月中旬までのディオール王国の様子の様子を確認したいんです」
「ディオール王国の様子かい? それなら問題なく答えられるよ」
「本当ですか? 例えばどんな?」
「君達も被害者だから知ってると思うが、昨年の稲苗月中旬から水張月はディオール王国周辺の人間以外の種族に対する奴隷狩りが行われたことだな。
だが、一番大きな出来事となると、七夕月辺りだろうか?」
「そうだな、確か一ノ月もの間、全てのスキルが使えなくなったり、棒蔵する事態が発生したという報告が上がったな」
「そんな事があったんですか⁉」
一ノ月もの間、スキルが暴走、使えなくなるという自体がディオール王国で発生したと聞いたクルークハイト達は信じられないと言った様子だった。
ナキも自分が追放されてからさほど時間が経っていない間にそのようなことが起こっているとは思わなかったため動揺していると、周囲にいた下位精霊達が声を揃えていった。
《《《アイツらナキのことイジメた〜》》》
「皆?」
のほほんとした喋り方ではあるが、その雰囲気はドコかピリピリしており怒っていることが伝わってくる。
そのまま下位精霊達は、次々と証言し始めた。
《おしおき〜》
《アイツらもそこにいる子たちも、ナキのこと一方的にワルモノあつかいしてた》
《ワルイことしてないのに、ナキを大海の森にすてた》
《ナワでグルグルまきにして、フクロにつめて動けないようにしてた》
《ボク達がナワを切らなかったら、ナキうごけないままだった》
《ナキにイジワルする奴らなんて大キライ!》
《だからスキルを使えないようにイタズラしちゃった》
《それからオーラをちょちょいと注いでボウソウさせたりも》
ノリは軽いものの下位精霊達からもたらされたのは、ディオール王国と元同級生達によってナキが大海の森に追放されたのを目の当たりにした精霊達が拘束を解き、その後スキルを使えなくし暴走させていたという事実だった。
それを聞いたナキは、クルークハイト達に下位精霊達が言ったことを伝えると、聞いた直後はポカンとしていたものの、すぐに納得した様子だった。
「なんだ、結局はディオール王国の自業自得ってことじゃない」
「七夕月となると、ナキが事実を知って怒り狂った月だから時期的にも合うな」
「あの時はこれまでのウップンがバクハツしてたからなぁ〜」
「むしろ、良く一ノ月だけで済んだよね? もっと続きそうなのに」
「スターリットにいる誰かがお願いしたんじゃない?」
《ねぇ、あのコたちにおはなしきかなくてもいいのぉ?》
「うん、最初に疑問は解決したから、これから聞くよ。
すみません、あの子たちからディオール王国について何か聞けましたか?」
ノルンが元々の目的を口にしたため、下位精霊達が起こした現象に関しては一区切りつけることとなり、クルークハイトが再度兵士に尋ねる。
だが兵士は困った様子で、事情聴取の様子を話し始めた。
「すまない、あの子達からはディオール王国の様子を聞くどころか名前も聞き出せてないんだ」
「えぇ、そんなに口が硬いの⁉」
「違うよローロ。口が硬いんじゃない、相手が一方的で話にならないんだ」
元同級生達の口が硬いと思い驚くローロに対し、今も行われている事情聴取の様子を見ていたアネーロが呆れた様子で理由を述べた。
アネーロの発言を聞いたナキ達は、釣られる形で事情聴取の様子を確認する。
兵士達が事情聴取を進めながらも気を使ってくれていると言うのに、元同級生達が一方的に自分勝手な要望を要求するという、ナキからすれば見るに耐えないやり取りが行われていた。
「だから僕たちは勇者である優君の仲間で、特別な人間なんだよ!
こんな扱い受けるような立場じゃないんだからさっさと解放しろよ!」
「早くあのヒトモドキ達にバツを与えてちょうだい!
アタシ達は何も悪くないんだから!」
「そうだそうだ! 俺達は何も悪くない! 悪いのはアッチだ!
なんで優君の仲間である俺達がこんな扱いされなきゃいけないんだ!」
「さっさと俺達をディオール王国に返せ!
でないとディオール王国のシュゴ神である月の至高神のバツが起きるぞ!」
「アンタ達とちがってワタシ達は特別なのよ?
もっと敬いなさいよ!」
「だからここはオフィーリア帝国領内でディオール王国じゃないんだ。
いくら特別だろうとオフィーリア帝国の方に従ってもらう必要があるんだよ」
一方的に話を聞かない元同級生達に対し、事情聴取を担当している兵士は大変苦労している様子だった。
その様子を見ていたナキは恥ずかしくなり、顔を真赤にしながらたまらず俯いた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
《ナキ、ダイジョウブ?》
《ドコかいたい?》
「あ〜、心中察するよ、ナキ」
(((この状況ってナキが一番の被害者な気がする……)))
元同級生達の失態を目の当たりにしたことで、同郷の身であるナキとしてはかなり恥ずかしい思いだ。
事情を知るクルークハイト達もナキの心中を察し、これから情報を得るためにナキの身の上話もするとなるとかなり不憫に思えた。
ナキ自信このまま無関係を貫きたいところだが、覚悟を決めて元同級生達を指さしながらフルネームを答え始めた。
「右の方から北村浩介、上原和樹、原静香、清水友樹、霜沢由麻!
これがこのバカ連中の名前だ!」
「「「「え?」」」」
「な、なんでヒトモドキが俺達の名前を知ってるんだよ⁉」
ナキが自分達の名前を言い当てたことで和樹、静香、友樹、由麻の四人はあっけにとられたが、浩介はナキを指さしながら何故自分達の名前を知っているのかとナキに問いただした。
自分を獣人と勘違いしているどころか、自分が誰かわかっていない元同級生達の反応を目の当たりにしたナキは、ブチギレて右腕に炎の魔力を纏わせていた。
「一年前に俺を大海の森に追放したくせに俺がダレだかわからないだぁ?
ふざけるのもタイガイにしろよお前ら〜っ!」
「ヤバい! 皆、ナキを抑えろ! 小屋が火事になるぞ!」
「ノルン、危ないから私の所にいようね⁈」
《あわわわわわ〜っ!》
元同級生達の自分に対する反応に切れたナキが、そのまま魔法を発動させて暴れようとしているのを見たアネーロは急いで指示を出し、クルークハイト達は慌ててナキを抑え込む。
アミに至ってはナキの腕の中にいるとノルンが危ないと判断し、急いで自分の方に避難させるほどだ。
今にも暴れそうなナキに対し、クルークハイトはとある事を指摘した。
「落ち着けナキ! 自分の容姿が変わっちゃったこと忘れたのかよ⁉」
「容姿? 容姿が今どう関係してるんだよ⁉」
「ブラッディ・ベアと戦ったあとに容姿の色が変わっちゃっただろう⁈
それに髪型も変わっちゃったからこの子達もナキのことがわからないんだよ!」
「あっ、そうか……」
クルークハイトに指摘され、自分の容姿について思い出したナキは右腕から炎の魔力を消す。
ナキが一旦落ち着いたことを確認したクルークハイト達は、ナキから離れてどうするかを話し合う。
「とりあえず、あの子達にお前が神座ナキだってことを伝えて驚かしてやろうぜ。
驚いた拍子に何か聴けるかもよ?」
「それに関しては賛成。けど、神座じゃなくて才賀な?
そっちじゃないと伝わらないと思う」
「でも俺がナキだって言ってアイツらが信じるか?」
「確かに、ナキが自分達が追放したサイガナキってどころか、種族を間ちがえるような奴ら出しな」
「髪型を戻せば、気付くんじゃないかな?」
「でも色はどうするの? 髪は染めるにしても肌は染められないわよ」
「懐中時計を見せるだけってのも難しいかな?」
ナキの正体をバラすにしても、ナキのことについて全く気付いていない元同級生達の様子からナキの容姿を前の状態に戻す必要があるが、髪型を除けばナキの容姿が変化した原因は未だ不明のままだ。
ナキ達が悩んでいると、下位精霊達の一部がナキのもとに集まってきた。
《ナキ、ワタシたちが色をもどしてあげようか?》
「え? 色を戻せるのか?」
《うん! ボクたち光のセイレイだもん!》
「……って感じの話をしたんだけど」
「ナキ、それ使えるよ。光の精霊は視覚を操作できるんだ。
俺達もルオさんと一緒に遊んだことあるから保証する!」
クライムの話を聞いてあきれるものの、光の下位精霊達からの提案を受け入れることにした。
作戦の内容が決まったことで、ナキは元同級生達の方に向き直ると、少しでも前の容姿に近付けるために左側前髪の三つ編みを解き、髪型を崩し、強く睨みつける。
「お前ら、これを見ても同じことが言えるか?」
それを合図に、光の下位精霊達がエレメンタルでナキの容姿に変化を加える。
星空を思わせるミッドナイトブルーの髪が、始まりの世界の月を連想させる蒼銀の瞳が黒く染まり、元いた世界の月と同じ白い肌が通常の肌色へと変化しておいく。
ナキの姿は、完全にとは言わないが変化する前の容姿になっていた。
そして決めつけと言わんばかりに懐に入れていた花金鳳花の意匠が施された懐中時計を取り出し、目の前に突き出す。
それを見た元同級生達はしばらくナキと懐中時計を交互に見て困惑していたが、ナキの次の言葉で愕然とした。
「俺はひととせ、いや、一年前、お前らに無実の罪を背負わさた挙句、ディオール王国の国王と神官と共謀して大海の森に追放された才賀ナキだ‼」
ご覧いただきありがとうございます。
もしよろしければコメント、いいねお気軽にいただけたら幸いです。




