[情報部隊]
潤は情報部隊隊長の部屋の前にいる
ドアを3回ノックした
「どうぞ」と短く中から返事がした
ドアを開けて潤は部屋の中に入って直ぐに敬礼した
「射撃・狙撃部隊の真中潤です」と自己紹介した
潤の目の前にいる情報部隊隊長の夏目は三神隊長と比べれば、かなり若く見える
「ふんふん。真中君ね。三神隊長から話は聞いているよ」と夏目は潤を品定めする様に見つめた
「ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願い致します」と潤は頭を下げた
「本当に迷惑!ってならない様に、真中君と一緒に任務する隊員の言う通りにしてね」と言って夏目はニコリと笑った
「はい!必ずお約束致します」と潤は答えた
「じゃ、まず今までの任務で分かったターゲットの情報を説明するね」と夏目は言った
「ターゲットは水嶋樹。大学4年生だよ。どうやら大学を卒業した先輩に頼まれたのがキッカケで麻薬を売りさばく様になったらしい。その大学の先輩がヤクザと繋がりがあるみたいなんだ。そして、水嶋が巻き込んだ一般人は水嶋と同じ大学の同級生と後輩だよ。」と夏目は今分かっている情報を話し始めた
「水嶋が主に麻薬を売るターゲットは女子高生だと分かったんだ。古くさいけど、最初はダイエットに良い薬とか言って買わせるみたい。大学の同級生と後輩に適当にカモに出来そうな女子高生を見付けてこさせて、薬を言葉巧みに売るのは、水嶋の役割みたいなんだ。そして、薬漬けになった女子高生が行き着くのは、親からお金を盗んでまでも、または体を売ってでも麻薬を求めるお人形さんさ」と夏目は怒りを言葉の節々に込めながら言った
「実は、薬漬けの女子高生がもう3人も自殺しているんだ」と夏目は言った
「3人も亡くなっているんですか!」と潤は驚き大きな声をあげてしまった
「そうなんだ。薬を買うお金が無くなり、幻覚や幻聴が出て苦しんだ後錯乱した彼女達は自殺をした」と夏目は憐れな少女達の死に悲しみながら言った
「ターゲットは間接的に人を殺しているんですね」と潤は改めて水嶋の罪の深さを思いしった
「今うちの部隊の隊員が女子高生になって水嶋の同級生に近付いて、麻薬の売買がされている場所を特定中なんだ。場所が特定出来たら実際に売買する瞬間を押さえるよ。真中君には売買する瞬間を押さえる時に同行して貰うよ。だからそれまで待っていてね」と夏目は潤が一緒に同行する時を教えた
「分かりました。連絡はどうすれば?」と潤が聞くと
「三神隊長に任務の前日に伝えておくよ。伝言を聞いたら、訓練後にまた僕の部屋へきてね。次の日に行動するメンバーを紹介するから」と夏目は答えた
「分かりました」と潤はふたたび敬礼した
「うん。じゃあ真中君。情報部隊の任務頑張ってね」と夏目は言った
「はい!失礼しました」と言って潤は夏目の部屋を出た
夏目と潤が会ってから1週間後、三神からの連絡を受けて、潤はふたたび夏目の部屋の前に立った
潤はノックをして、夏目の返事を待ってからドアを開けた
部屋に入ると、夏目の側に男性2人と女性2人がいた
女性の内1人は高校生の制服を着ていた
潤は夏目に向かって敬礼をした
「やぁ、真中君。やっと君に任務を伝える事が出来るよ」と夏目は言った
「今日は真中君が明日一緒に行動するメンバーを紹介するよ」と夏目は言ってさっき潤が確認した男女に右手を向けた
「潜入任務をしている、月城茜って言います。真中君よろしくね!」と高校生の制服を着た女性が元気良く言った
「月城さんですね。よろしくお願いします」と潤も挨拶した
「僕は尾行任務についている、高梨悠里です」と言って小柄な体つきの高梨は微笑みながら言った
「高梨さん。よろしくお願いします」と潤は言った
「同じく。尾行任務をしている花房碧」と女性にしてはぶっきらぼうに花房は自己紹介した
「花房さん。よろしくお願いします」と潤は言った
「俺は藤堂寛治だ。盗聴任務をしている。真中君。よろしく」と最後は体がガッチリしていてメガネをかけた男らしい顔の藤堂が自己紹介した
「はい!藤堂さん。よろしくお願いします」と潤は言った
「以上が今回真中君と任務にあたるメンバーだよ。明日は彼等に従って行動してね」と夏目が言った
「はい!」と潤は威勢良く返事をした
「明日は月城君がいよいよ麻薬売買の現場に潜入するからね。月城君に盗聴機と発信機を持っていて貰うよ。真中君には高梨君と藤堂君と行動して貰うね」と夏目は潤に明日の任務を伝えた
「具体的に何をするかは、彼等が指示してくれるから安心してね」と夏目は付け加えた
「はい!皆さんよろしくお願い致します」と潤は改めて挨拶した
「じゃ、僕からは以上だよ」と夏目は言った
「夏目隊長。少々よろしいでしょうか?」と高梨が言った
「なんだい?高梨君」と夏目が聞いた
「明日いきなり一緒に任務ってよりは、もう少し真中君と打ち解けておきたいのですが」と高梨は提案した
「そうだね。それなら今から今回のメンバーでミーティングしたらいいよ。僕はもう帰るから、この部屋を使って良いよ。じゃ、皆お疲れ様」と言って夏目は荷物を持って部屋を出て行った
そして、情報部隊の隊員と潤のミーティングは始まった
「言い出したの僕だから僕が進行役するね」と高梨が言った
全員異論の声は無かった
「じゃ、まず真中君の為にも、今回の任務の人物相関図を作りながら、説明していくね」と高梨がホワイトボードの前に立った
「まず、これが今回のターゲットの水嶋樹。大学4年生」と言って、高梨は水嶋の写真をホワイトボードに張り付けた
「そしてこれが、水嶋の先輩で麻薬売買を水嶋に依頼した多田正高、24才」
ホワイトボードには堅気な仕事はしてないだろうなと思わせる風貌の男の写真が貼られた
「次に、水嶋が巻き込んだ一般人の同級生で大学4年生の天草武瑠」
貼られた写真には中々の美男子が写っている
「同じく、同級生の神崎沙織」
モデルの様に綺麗な女性が写真の中に写っている
「最後はターゲットの後輩の松下瑞季」
いっけん普通に見えるが、眼光が鋭く何か内に秘めているような青年が写っている
「以上が、今回の任務の人物相関図」と高梨が言った
「これに調べた情報を付け足していくね」と言って高梨は潤の方を見た
「あ、はい!分かりました」と潤は慌てて言った
「警察からの情報と僕が尾行や調査して分かった事を書き込むね。僕はまず、ターゲットの担当者を調べたんだ。中絶児が犯罪をしているのに気づかない訳無いからね。だけども、担当者は本当に何も知らなかったんだ。やっぱり水嶋は相当頭が良く犯罪を犯しているみたいだ。水嶋を知るために1ヵ月行動パターンを調査した。4年生だから大学には殆ど行かずに、1週間の内に5日はバイトをしている。5日の内、3日が遅番勤務。昼間は家にいることが多い。家を出入りしている人物は天草と神崎と松下と多田と複数の女子高生。水嶋の家で麻薬売買がされている可能性が高い。後、どうやら水嶋と神崎は恋人として付き合っている様だ。僕からはこんなもんかな」と高梨は言った
「次は私が話そう」と花房が言った
「私は良く二人で一緒に行動している天草と松下の尾行調査をした。松下は3年生なので、大学には良く通っている。天草は大学にはあまり行かずに、実家が商売をしているからその手伝いをしている。将来は社長だ。松下と天草はほぼ毎日クラブに夜通っている。クラブは何軒か違う所に出掛ける。クラブには麻薬を売る女子高生探しに通っている。仲良くなると、女子高生に神崎の事を紹介する。神崎も女子高生と仲良くなると、松下と天草と神崎に連れられて女子高生は水嶋の家に連れて行かれる」と花房が話した所で
「ここからは俺の調査の話だな」と藤堂が口を出した
「そうだな」と花房はぶっきらぼうに言って藤堂にバトンタッチした
「俺の盗聴捜査では、水嶋の自宅が麻薬売買の場所として使われているのは間違いない。そして、水嶋の自宅での売買は、初めて麻薬を買う女子高生しか出入りしていない。リピーターの女子高生はクラブで松下と天草から買っている様だ。そして一番重要なのは、一般人がプロジェクトを知っているかだが、知っているのは神崎と多田の二人だ。松下と天草は何も聞かされていない。水嶋の自宅で麻薬売買がされた後、松下と天草は女子高生と一緒に部屋を出て行く。二人が行った後は、水嶋と神崎と多田で部屋に残りお金のやり取りや麻薬売買について話し合っている。盗聴捜査の会話で分かったのはこの位だ」と藤堂は話を区切った
「じゃ、最後はアタシね。アタシは詳細な麻薬売買の現場に潜入する為に女子高生になって、クラブに通って天草と松下から声をかけられるのを待っていたわ。やっとクラブでナンパされたのが、1ヶ月前。まず松下と天草と仲良くなったわ。仲良くなると、友達に読者モデルがいると言われて、神崎を紹介されるの。女子高生には神崎が憧れの存在みたいになるんでしょうね。で神崎から自分の彼氏として水嶋を紹介したいって言われるの。その水嶋を紹介されるのが明日って訳」と月城は潜入捜査の成果を話した
「ざっとこんなもんかな。今までの捜査で分かった情報は」と高梨が言った
「はい。大体分かりました」と潤は人物相関図を見ながら言った
「明日、茜ちゃんが潜入捜査するから、茜ちゃんには盗聴器と発信機を持って行動して貰うんだ。僕達は水嶋の自宅近くにて車中から茜ちゃんのサポートをするよ。確実な証拠の為と暗殺がどのタイミングが良いかなどを見極める重要な任務だよ!」と高梨が明日の任務について話した
「それに、明日は暗殺のターゲットも確定するんですね」と潤は言った
「そうだな」と花房が言った
「真中君のが暗殺については詳しい。明日君には暗殺のタイミングと今後の任務の為に暗殺場所を下見すると良いな」と花房が潤の方を見て言った
「分かりました」と潤は答えた
「明日は皆頑張ろう!」と高梨が言って
全員がそれぞれに返事をしてミーティングは解散した
翌日午前9時
情報部隊の部屋に情報部隊隊員達と潤は集合した
情報部隊の部屋には色々な機械やパソコンが置いてあり、他の隊員達が忙しくしている
「じゃあ、アタシは行ってくるわね」と制服姿の月城が準備万端で言った
月城の鞄には飴の袋の中のひとつの飴が発信機になっていて、音楽プレーヤーの形をした盗聴器も入っている
制服のリボンには小型なカメラが仕込んである
月城は午前10時に神崎と待ち合わせて、水嶋のバイトが6時に終わり自宅に行くまでの間遊ぶ事になっている
「行ってら」と花房が月城にヒラヒラと手を振った
「気を付けてな」と藤堂も見送る
「茜ちゃん。気を付けて行ってらっしゃい」と高梨も言った
「あ、行ってらっしゃい」と潤も挨拶した
月城は部屋を出て行った
「じゃあ、真中君。今日の行動スケジュールを伝えるね」と高梨が言った
「はい」と潤は返事をした
「真中君は僕と一緒のスケジュールで行動して貰うね。取り合えずは僕と真中君は水嶋の自宅近くで、バイト終わって水嶋が神崎と茜ちゃんと一緒に来るまで待機するね。茜ちゃんは神崎と待ち合わせして、午後6時まで神崎と一緒。花房君は天草と松下の行動を監視。寛治は僕達と一緒に車に乗って盗聴しながら待機」
「はい。分かりました」と潤は言った
「じゃあ、任務開始」と高梨が言った
情報部隊は任務中には隊服を着ない
街中に溶け込む為に全員私服だ
「真中君。ちょっとこれ持ってくれないか?」と藤堂が聞いた
藤堂は重そうなケースを2つ持ってリュックも背負っている
藤堂の前にはもう1つケースがある
「これですね。はい」と潤は返事をしてケースを持った
四人は部屋を後にした
花房は``お先に´´と言って、一人任務に向かった
三人はそれぞれの言葉を言って見送った
三人は駐車場に向かった
駐車場に着いた三人は黒色のバンに乗り込んだ
運転は高梨、助手席に潤、後部座席に藤堂が乗った
三人は水嶋の自宅に出発した
後部座席では藤堂がリュックやケースから色々取りだし、車の後部座席に盗聴、盗撮ベースを作っている
「水嶋の自宅まで40分ぐらいだから、今の内にリラックスしていて」と高梨が潤に話しかけた
「はい。分かりました」と潤はどう見ても緊張した顔で返事をした
「こんな無茶なお願いしてくるから、どんな人かと考えていたけど、以外に真面目な好青年で良かったよ」と高梨が微笑みながら言った
「そうだな。五十嵐君程の狙撃の腕前だと聞いていたから、どんな勘違いクソガキが迷惑かけにくるかと思ってたが、真中君を見て自分が勘違いしていたよ」と藤堂が話しに入ってきた
「寛治。言葉が悪いよ!真中君。今のは真中君が良い人で良かったって意味だからね」と高梨がフォローした
「大丈夫です。高梨さんに藤堂さん。今日は本当にありがとうございます。よろしくお願いします」と潤は改めて挨拶した
「よろしくね」
「よろしくな」と二人は返事を返してくれた
潤は二人から情報部隊の任務についてや夏目隊長の話しなどを聞いたりした
潤は談笑しながら車中を楽しく過ごした
「出来た!」と藤堂が言った
どうやら盗聴、盗撮ベースが完成した様だ
車が出発してから30分たった頃だ
「今から月城の盗聴器の音出すな」と言って藤堂はパソコンをいじった
街中の喧騒が聞こえてきた
「まだ神崎とは合流してないな」と藤堂は言った
「次に映像だな」と言ってまたパソコンをいじると、別のパソコンのモニターに月城のリボンのカメラ動画が映った
「OK!全て順調」と藤堂が満足げな顔をしている
「こちらも、そろそろ着くよ」と高梨が言った
潤は再び緊張した
三人を乗せた車は水嶋の自宅近くに着いた
「寛治。水嶋宅の盗聴器まだ生きてる?」と高梨が聞いた
「OK。ばっちりだぜ」と藤堂は答えた
「自宅に誰かいる?」と高梨はまた聞いた
「人のいる気配はしないな」と藤堂は言った
「じゃ、水嶋は予定通りバイトだね」と高梨は笑顔を見せた
「安心して待機出来るな」と藤堂は言った
「しばらくはね」と高梨が言った
「真中君。今の内に暗殺場所を下見しておいで。動きがあったら電話するから、番号を教えて。電話したらここに戻って来て。僕達はずっと駐車してると怪しいから、適当に移動しながら、待機してるから」と高梨が潤に言った
「分かりました。水嶋の自宅は何階のなん号室ですか?」と潤は聞いた
「703号室だよ」と高梨が答えた
「703号室ですね。では行ってきます」と潤は言って車を降りた
潤は暗殺するあらゆる場面を考えた
取引は昼間なのか?今日の様に夜なのか?
複数の人間を同時に暗殺出来る場所か、それともバラバラの場所から同時に狙うのか?
水嶋の自宅近くは住宅街で一軒家が多いが、マンションもちらほら建っている
潤は取り合えず、マンションをしらみつぶしに当たって、屋上に入れるか確認した
屋上に登れるマンションは少なかった
少ない内の1つのマンションから双眼鏡で覗くと水嶋の自宅マンションの出入り口がハッキリと見えた
マンションの屋上からは近くに団地があるのが見えた
潤は団地に行ってみる事にした
その団地は小規模な団地だった
潤は水嶋の自宅に一番近い団地の屋上に登ってみた
潤は双眼鏡を覗いた
ここからも水嶋の自宅マンションの出入り口がスコープを覗けばハッキリ見えそうだった
団地の屋上から双眼鏡で色々覗いていると潤の携帯が鳴った
着信は高梨からだった
「はい。真中です」と潤は電話に出た
「真中君。高梨だけど、茜ちゃんと神崎が合流したから、さっきの場所に戻って来て」
と高梨が言った
「了解です」と潤は短く返事をして電話を切った
潤は急いでさっき居た場所まで戻った
潤がさっきの場所に戻ると、高梨達の車はまだ居なかった
潤は2~3分待ったが車はまだ来ない
潤は高梨に電話をする事にした
さっきの着信履歴から電話をした
「真中君。ごめん!僕が道を間違えてしまったから、渋滞してる道に来てしまったんだ。15分程でそちらに着くから、待っていてね」と高梨が申し訳なさそうに言った
「分かりました。俺はここで待機してます」と潤は言って電話を切った
潤はその場から水嶋の自宅マンションをもう一度見てみた
誰も居ない部屋のドアをじっと見つめた
この部屋のなかでどんなやり取りが行われ自殺者が出てしまったのか
潤は考えをめぐらした
しばらくドアを見つめていると、視界の端に制服の女の子が見えた
潤は視線をドアから女の子に移した
慌てて双眼鏡で覗いた
このマンションの住人だろうか?
女の子は早足でマンションの廊下を歩く
あるドアの前で女の子の足は止まった
それは703号室
水嶋の自宅だった
女の子はチャイムを押した
しかし、反応はない
誰も居ないから当たり前だ
女の子はチャイムを連続で押した
女の子の行動に焦りが見える
次に女の子はチャイムでなくドアをノックした
反応がない事に、諦めたのか女の子は水嶋の自宅のドアから離れて、廊下をさっきとは逆に歩き戻っていく
潤は急いで携帯のカメラで女の子を写した
高梨達に報告する為だ
水嶋の関係者である事に間違いない
その後女の子は水嶋の自宅マンションを出て、潤のいる方向へ向かってくる
潤は帽子を目深にかぶり、うつむき携帯をいじっている振りをした
すれ違う瞬間にわずかに視線を女の子に向けた
一瞬だが、女の子の眼には10代らしいイキイキとした輝きはなく、どんよりとしていた
女の子は潤を気にせずにすれ違い、去って行った
潤は人物相関図には居なかった人物であると確認した
女の子が去って行ってから5分後、高梨達の車が潤の側で止まった
潤は直ぐに助手席のドアを開けて車に乗り込んだ
「ごめんね。真中君」と高梨がまた謝った
「いえ、気にしないでください。それより、報告があるんです」と潤は話を切り出した
「実は、高梨さん達を待っている間に、水嶋の自宅に訪問者があったんです」と潤は言った
「本当に!どんな人?」と高梨が驚きながら聞いた
「女子高生です。人物相関図に居なかった人物で。あ!写真撮りました」と潤は言って携帯で写した写真を見せた
「顔がハッキリ分からないけど、確かに制服を着ているね」と高梨は言った
「寛治。見覚えある?」と高梨が盗聴に集中している藤堂に訊ねた
藤堂がヘッドホンを外して携帯の画面を見た
「ハッキリ分からないが、花房が天草と松下を調査中に、今カモにされてる女子高生だと言って見せてくれた写真の女子高生に似ているな」と藤堂は言った
「麻薬を買いにきたのかぁ…」と高梨は呟いた
「真中君。報告ありがとう。写真まで撮っていたり、情報部にスカウトしたい位だよ」と高梨が微笑みながら言った
「いやー、とっさに思い付いて」と潤は照れくさそうに言った
「水嶋が不在だったからこの子また来るかもね。寛治そっちはどう?」と高梨は聞いた
「二人が合流してから、取り合えずお茶している様だ」と藤堂が答えた
「茜ちゃんの方は大きな動きは無いみたいだね。この女子高生は気になるけど、僕達は予定通り、ここで待機しよう」と高梨は言った
「分かりました」と潤は言った
藤堂は盗聴を続け、時々内容を報告した
三人は車で水嶋の自宅マンション付近をぐるぐる回りながら、待機した
「報告。月城と神崎はカフェを出てこれからカラオケに行く」と盗聴していた藤堂が言った
「カラオケね。引き続き盗聴よろしくね寛治」と高梨が言った
「おう」と藤堂が短く返事をした
その時だった
「藤堂聞こえるか?」と花房の声がした
「どうした?花房」と藤堂が答える
「天草と松下が女子高生ともめている」と花房は冷静に報告した
「まさか、さっきの…花房さんその女子高生って茜ちゃん以前にターゲットにされてた女の子?」と高梨が花房に確認した
「あぁ、たぶんそうだ」と花房は答えた
「その女子高生、さっき水嶋の自宅マンションに来ていたみたいなんだ」と高梨は花房に伝えた
「買うお金が尽きたんだろうな。すでにジャンキーか…」と花房が悔しそうに言った
「もめているってどんな感じだ?」と藤堂が聞いた
「天草と松下は冷静だが女子高生が声を張り上げて興奮している様子だ」と花房は報告した
「まずいなぁ…今日の任務は中止かも」と 高梨はイレギュラーな事態に困った顔をした
「天草が女子高生に何かを耳打ちしたら、急に女子高生が大人しくなった」と花房から再び報告が入った
「何を話したかは聞き取れなかった」と花房が残念そうに言った
「もめ事は解消されたって事だね。その女子高生には充分気をつけながら、尾行よろしく」と高梨が言った
「了解」と花房は返事をして、無線は切れた
「寛治。茜ちゃんと神崎は?」と高梨が聞いた
「カラオケで昼食中だ」と藤堂は言った
「そう。まだまだしばらく待機だね」と高梨が言った
「そういえば、真中君。狙撃場所は見つかったかい?」と高梨が潤に聞いた
「よさげな狙撃ポイントを2つ見つけました」と報告すると
「さすが真中君。この短い間に!」と高梨は言った
「いやー」と潤はなんだか照れくさく言った
「要約神崎の口から、薬の話がでてきたぞ!」と藤堂がさっきまでの事務的な報告の声とは違い、少しトーンの高い声で報告した
「本当!寛治!僕達にも聴こえる様にして」と高梨が言った
藤堂はヘッドホンを外して盗聴音が車内で聴こえる様にした
「だからぁ、茜ちゃんもアタシと一緒にダイエットしない?」と神崎の声が聴こえた
「えー!本当にその薬、ダイエット出来るんですか?」と月城の声も聴こえた
二人の会話は続いていく
「前も話したけど、アタシの彼氏が起業してね、売ってるダイエットサプリメントなんだけどね、本当に痩せるの!アタシも飲みはじめてから、5㎏痩せてそれでスカウトされて読者モデルをしているの」と神崎が自分も飲んでいる事をアピールする
「5㎏ですか!どのくらいで5㎏痩せれるんですか?」と月城は質問した
「アタシは早くて1ヵ月くらい」と神崎が答える
「えー!すごく早い。サプリメント飲んでみようかな」と月城が話しにノッテいく
「あっ!じゃあさ、茜ちゃんに今日アタシの彼氏紹介するって言ってたじゃない。その時にダイエットサプリメントの話も聞いていく?」と神崎が月城に聞いた
「そうですねー、じゃあ彼氏さんに詳しく教えて貰おうかな」と月城は返答した
「決まり!一緒にダイエット頑張ろうね」と神崎が言った
「はい」と月城が返事をした
「じゃあ、お昼も食べたし歌おうか」と神崎は満足そうに言った
「歌いましょうー!」と月城はテンション高く言った
二人はカラオケを始めた
「成る程ね。こんな感じで最初は誘うんだ」と高梨が呟いた
「ダイエットサプリメントね…」と藤堂も呟いた
「水嶋は利口ですね。ターゲットを10代の女の子に絞って、女子高生に強い影響力を与えるカリスマ読者モデルを使って誘うなんて…あんなに軽い気持ちで始めたら麻薬だったなんて…自殺者まで出ているのに」と潤は段々怒りの感情が沸々とわきだしてきた
「水嶋は天草と松下と神崎を使ってボス気取りでカモが来るのを待っている。ずる賢い男だ」と藤堂も冷たく言った
「水嶋も大学の先輩の多田に出会わなければ、普通の中絶児として生きていたかも知れない。全ては多田が水嶋に麻薬を売らせた事から始まってるからね」と高梨は加害者はまだいるのだと主張した
重い空気の流れる車中に、神崎と月城の明るい歌声が響いていた
藤堂は車内の重い空気に不釣り合いなカラオケの歌声を再びヘッドホンに切り替えた
シーンと静まり返る車内
「僕たちに出来るのは、これ以上被害者を出さない事だね。その為には今日の任務に全力を出そう」と高梨が言った
「そうですね」と潤は返事をした
しばらく車は水嶋の自宅付近をぐるぐるめぐった
「腹へったな」と藤堂が言い出した
「そうだね。茜ちゃん達がお昼食べたのに、僕たちはまだだったね。完治二人に動きは?」と高梨が聞いた
「相変わらず歌ってる」と藤堂は短く答えた
「じゃあ、ご飯にしよう」と高梨が言った
「この近くに吉田屋があったから、そこでかまわない?」と高梨がまた聞いた
「おう」と藤堂がぶっきらぼうに返事をした
「真中君は?」と高梨が潤に聞いた
「俺も意義なしです」と潤は答えた
「じゃあ、向かうね」と高梨が言って車は吉田屋に向かった
吉田屋に三人を乗せた車は着いた
食べている間に動きがあるといけないので高梨が代表で、吉田屋の牛丼をテイクアウトで買いに行った
三人分の牛丼を手に持った高梨が戻ってきた
そのまま、吉田屋の駐車場で三人は食事をした
ちょうど三人が食べ終わった頃だった
再び花房から報告が入った
藤堂はもう一度花房の声が車内で聞こえる様にした
「藤堂、天草と松下が神崎達のカラオケに合流した」との報告だった
時刻は午後2時を過ぎていた
「了解。花房さんは引き続き天草と松下に着いていて」と高梨が指示した
「OK」と花房は返答した
「さて、役者が揃い始めたね。お腹も満たされたしそろそろ水嶋の自宅にもどろうか」と高梨が言って車は移動した
車は水嶋の自宅近くに戻った
しばらくすると、水嶋の自宅703号室に向かう男の姿が現れた
時刻は午後3時くらいだ
潤は双眼鏡でその人物を覗いた
その男は人物相関図にいた水嶋の大学の先輩の多田だった
合鍵を持っているらしく、多田はまるで自分の家の様な顔をして、部屋の中に入って行った
「完治!水嶋宅の盗聴器聞かせて」と高梨が冷静に言った
「了解」と言って藤堂が素早く切り替えた
部屋の中の音は足音の後、ドサッと椅子に座る音がした
シュボッと音がしてどうやら、煙草を吸っている様だ
「やっぱり、多田も現れたね」と高梨が言った
「だな。水嶋宅での取引時には必ず居るからな」と藤堂が言った
「そうなんですか!」と潤は初耳の情報を聞いた
「あぁ。多田は水嶋宅での取引時に水嶋や天草や松下や神崎がクラブで売り上げた売り上げ金の回収に現れるんだ」と藤堂が話した
「でも、今日はやけに来るのが早いね」と高梨が言った
「何か引っ掛かるな」と藤堂も怪しんで言った
二人の勘は当たった
あの女子高生が再び水嶋の自宅マンションに現れたのだ
女子高生が水嶋宅のチャイムを鳴らした
多田が女子高生を出迎えた
あまりにも予想外な出来事に車内は静まり返った
車内で聞こえるのは盗聴の音だけだ
「あんたがパク・ユナちゃん?」と多田が女子高生に聞いた
「はい。天草さんと松下さんの先輩の多田さんですか?」とパク・ユナも確認する
「そうだ。話は何処まで聞いてる?」と多田がまた聞いた
「あなたに会えば…あの…」と言ってパク・ユナは黙ってしまった
「分かった。中に入ってゆっくり話をしよう」と多田はパク・ユナを水嶋宅に入れた
どうやら二人は水嶋宅のリビングに移動した様だ
リビングのソファーに腰かける音がした
「単刀直入に聞くが、あんたはアレが欲しいんだな?」
「はい!」とパク・ユナは答えた
はいと答えたその声は切羽詰まっていた
「しかし、金がないんだな」と多田は言った
「貯金は使いきってしまって…」とパク・ユナはまた黙ってしまった
「金を作る方法がひとつある」と多田は言った
「まさか!」と盗聴していた高梨が突然言った
車内にいる全員が思った事だった
「あんた身体売れるか?あんたは韓流美人だ。マニアに受けは良い」と多田は何気ない事の様に言った
「やっぱり、それしか方法が無いんですね」と彼女はある程度予想していた様だ
「そうだな」と多田は返事した
「どうする?」と多田は彼女の答えを急かした
「少し考えさせてください」とパク・ユナは速答せず、迷っている様だ
「分かった。しばらくあんたに時間を与える。決心がついたらベットルームに来い。俺が商品になるあんたを確かめる為だ」と多田は冷たく言った
「はい…」とパク・ユナは弱々しく返事をした
パタンと音がして、多田はベットルームに移動した様だ
パク・ユナが大きくため息をついた
車内にはまたも重苦しい空気が流れた
自殺した少女の中にも、多田がウリを斡旋したのだろうか?
潤は心に殺意にも良く似た感情が芽生えるのを感じていた
しばらくシーンとしていた車内に突然悲鳴が聞こえた
潤達は何事かと仰天した
「アタシの体に虫がいるの…早くアレを飲まなくちゃ!」
どうやらパク・ユナが幻覚を見て悲鳴をあげた様だ
「アレを下さい。お願いします!」
そう言いながらパク・ユナの声はベッドルームへと消えて行った
盗聴器はリビングにしかないので、その後の二人のやり取りは分からない
こうして、また1人多田の食い物になった
車内には今まで以上に苦い空気が流れた
30分ぐらいたった頃、ベッドルームのドアが開く音がした
「シャワー浴びて来いよ」と遠くで多田の声がした
パク・ユナの足音はバスルームに消えた
しばらくすると、再びリビングで多田が煙草に火を付ける音がした
「久しぶりの上玉だな」と多田が呟きくくっと笑った
潤は多田のげすな言葉に、猛烈な殺意を抱いた
それは、車内の人間全員が同じ思いだった
「花房君。こっちに動きがあった」と高梨は冷静さを取り戻す様に、花房に状況を報告した
「ケッ!とんでもないげす野郎だな」と花房は多田を罵った
「こっちもそろそろ、4人と水嶋が合流しそうだ」と花房も報告した
「わかった。こちらは準備万端。待機してるよ」と高梨は言って無線を切った
「さぁ、そろそろターゲットが揃うよ。気持ちに流されないで、任務に集中しよう」と高梨が言った
「おう」と藤堂が返事をした
潤も気持ちを切り替えて「はい!」と返事をした
PM5:30
水嶋宅の盗聴器からまた声が聞こえはじめた
「多田さん。薬ありがとうございます」とシャワーの終わったパク・ユナが多田にお礼を言う声だった
情事の後、パク・ユナは多田に麻薬をもらったのだろう
「アレだけじゃ足りないだろう?今から頼みたい事が有るんだ。それ出来たらもっとあげるよ」と多田が言った
「本当ですか!?何でもします!」とパク・ユナは喜んで返事をした
「さっきよりは簡単さ。今から来る女の子に、あんたの大好きな薬を勧めて欲しいのさ」と多田は言った
「そしたらまたお金無しで薬くれるんですか?」とパク・ユナが聞いた
「あぁ」と多田は返事をした
「分かりました。やります」とパク・ユナは答えた
「もうすぐ来るから、宜しく頼むわ」と多田が言った
「はい!」とパク・ユナは返事をした
PM6:00
「4人と水嶋が合流したよ!」と花房から報告が入った
「今から水嶋宅に行く」と花房が言った
「了解!待機しているよ」と高梨が緊張した声で返答した
いよいよここからが本番の潜入捜査だ
潤は心を引き締めた
PM7:00
待機している潤達の車の側を男女5人の集団が通り過ぎた
水嶋達だ
天草と松下が手にチキンのバスケットを持っている
今夜の夕飯なのだろう
潜入捜査している月城は既に水嶋と打ち解けたのか楽しそうに談笑している
集団は潤達の車を追い越して水嶋宅のマンションに向かった
「茜ちゃんは本当に潜入捜査向きだよね。直ぐにその場になじめるから」と高梨が呟いた
「ヤツの七変化にはいつもびっくりだ!」と藤堂も続けて言った
「潜入捜査は今回だけじゃないんですか?」と潤は七変化と言う言葉が引っ掛かったので聞いた
「月城は潜入捜査のプロだ。OLにキャバ嬢からナースまで、何でもござれだよ」と藤堂が言った
「そうなんですか!凄いですね」と潤は素直に驚き言った
「そうなんだ。だから今回も大丈夫。茜ちゃんを僕達が全力でサポートしていこうね」と高梨が言った
潤が返事をしようとした瞬間、車の窓をコツコツ叩く音がした
それは天草と松下を尾行していた花房だった
高梨がロックを解除すると花房が車に乗り込んだ
「花房君。ひとまずお疲れ様」と高梨が花房を労った
「あぁ、お疲れ様」と花房はいつもの様にぶっきらぼうに言った
「盗聴してた藤堂は知ってると思うが、一応道中のヤツらの様子を報告する」と花房は言った
「6時に水嶋と4人が合流した後、全員地下鉄に乗り、水嶋宅近くの駅で降りた。駅に最寄りの店でチキンを購入した。購入中に多田から水嶋に電話があった。自宅にパク・ユナがいるとの連絡だろう。たぶんパク・ユナが協力者になったと言う報告だろう。水嶋は月城に神崎の友達の女の子が先に来てると、パク・ユナの存在を伝えた。水嶋宅への道中のヤツらはただの若者そのものだ。これから、恐ろしい交渉が行われるなんて雰囲気は微塵も無い。10代のガキなんて直ぐに騙せる!」と花房は目に炎を宿して報告した
「花房君。落ち着いて!気持ちは僕達も一緒だよ。だけど今は任務に集中しよう」と高梨がやんわりと言った
「チクショウ!分かってるよ…」と花房は自己嫌悪してるのか頭を抱えながら言った
「おい!ヤツらそろそろ部屋に着くぞ」と盗聴任務をしていた藤堂が皆に伝えた
水嶋宅のドアの前にパク・ユナが立っており、多田の姿は無い
藤堂が再び盗聴器の声が皆に聞こえる様にした
神崎が久しぶりとパク・ユナに手を振り挨拶している
「沙織さん。久しぶりです!私も今来たばかりですよ」とパク・ユナは嘘をついた
多田にそう指示されているのだろう
「ユナちゃん今日は来てくれてありがとう」と神崎が言った
「紹介するね。こちらは月城茜ちゃん。ユナちゃんと同い年だよ」と神崎が月城の事を紹介した
「はじめまして。月城さん。私はパク・ユナです。宜しくね」とパク・ユナは挨拶した
「こちらこそ宜しくね。ユナちゃんは韓国の方?」と月城が知ってるのにわざと質問した
「いえ。私は在日なんです」とパク・ユナは答えた
潤は成る程と思った
普通なら名前を聞いてそう訪ねたくなるのが、一般的な反応だ
月城の潜入捜査でのテクニックなのだろう
「自己紹介も終わった所で、そろそろ家に入ろうか」と水嶋が言った
「俺お腹ペコペコ」と水嶋が情けない声で言った
6人は水嶋の部屋の中へと入って行った
月城が水嶋の部屋へ入って行くのを確認した藤堂は、月城の制服のリボンに仕掛けた隠しカメラのスイッチをオンにした
藤堂の操作している複数のパソコンの内の1つのモニターに水嶋の部屋が映しだされた
水嶋宅の玄関で靴を脱いでいる天草と神崎の様子が映しだされた
水嶋と松下とパク・ユナはリビングに続く廊下を歩いている
「お邪魔します」と言って一番最後に月城が靴を脱いでリビングへと向かった
隠しカメラがリビングで最初に映したのは一人暮らしとは思えない程広々とした部屋に置いてあるソファーだった
ソファーには水嶋と神崎が並んで座っている
テーブルを挟んで向かい側に天草と松下とパク・ユナがいる
天草と松下は買ってきたチキンと飲み物を袋から取り出して夕飯の準備をしている
パク・ユナは手伝うでも無く、ソファーに座り向かい側にいる水嶋と神崎をボーッと見つめている
「あら、茜ちゃん。座らないの?」と神崎が言った
「えっと…何処に座るか悩んでしまって」と困った口調で月城は答えた
「茜ちゃん。気付かなくてごめんね!初めて来たお家だもんね。隣においで」と神崎が月城を優しく呼び寄せた
「はい」と月城が返事をして、神崎の隣に座った
カメラの映像はテーブルの上のチキンを映した
「流石だな」と藤堂が呟いた
「何がですか?」と潤は聞いた
「月城さ。アイツ今わざと座らなかったんだぜ」と藤堂は言った
「何処に座るかじゃあ無くてですか?」と潤はまた聞いた
「あぁ、そうだ。俺達にリビングの間取りと人物位置を伝える為にだ」と藤堂は言った
「確かに、さっきの映像でリビングの間取りと人物位置が俺達にもはっきり分かりましたね。月城さん凄い人だ」と潤は月城の演技にすっかり騙された内の一人になっていた
「言ったでしょう。茜ちゃんは潜入捜査のプロだって」と高梨が何処か誇らしげに言った
しばらく、映像はテーブルのチキンを映していた
「ジンジャーエール誰だった?」と天草が言うと
「アタシのー」と神崎が返事をした
「ユナちゃんには適当に紅茶買って来たけど、飲める?」と松下が隣でボッとしているパク・ユナに聞いた
「はい。大丈夫です」とパク・ユナは答えた
「武瑠と瑞季サンキュー!さて、じゃあ夕飯食うか」と水嶋が言って、驚く程和やかに食事が始まった
食事中に盗聴器から聞こえてくる会話は至って普通だった
大学の変わった教授の話やら、バイト先の愚痴やら、ごく普通の若者の会話だった
楽しそうに、皆がゲラゲラ笑ったりしている
談笑しながらチキンを食べ尽くした頃、月城が本格的に潜入捜査に動きだした
「あ!そうだ。沙織さんから聞いたんですけど、水嶋さんって、大学生なのに会社の社長さんなんですよね?」と月城が言った
月城のこの一言が一瞬だけその場の雰囲気を変えた
「あぁ。そうだよ。大学の先輩と一緒に立ち上げたんだ」と水嶋が答えた
「凄いですね。えっと、サプリメントの会社なんですか?」と月城がまた質問した
「うん。色々なサプリメントをあつかっているよ」と水嶋は言った
「茜ちゃんね、アタシが飲んでるのと同じサプリメントが欲しいんだって」と神崎が言った
「本当に!?アレは彼女特権で沙織専用に作った物だから、売るとなるとかなり値段が高いよ。厳選したオーガニックな物しか使ってないし」と水嶋は買う気が無くなるような言い方をした
モニターに映る水嶋の顔はニコニコとしている
「いくらくらいですか?どうしても沙織さんと同じ物が欲しいんです」と月城は食い付いていく
「そうだなぁ、じゃあ特別にお試し用5回分で、一万円かなぁ」と水嶋は言った
「一万円なら有ります!売って貰えますか?」と月城が聞いた
「そうか。うん。分かった。持ってくるからちょっと待っててね」そう言って水嶋は自分の部屋に取りに行った
モニターには神崎が映っている
「良かったわね。茜ちゃん!」と神崎は嬉しそうな顔で言った
「はい。沙織さんありがとうございます」と月城は神崎に礼を言った
「お礼はアタシじゃ無くて樹に言ってね」と神崎は言った
「はい」と月城は返事をした
「お待たせ~」と言ってリビングに水嶋が戻って来た
月城の制服のリボンのカメラが水嶋の手元を映した
透明の袋に錠剤が5つ入っている
その袋を月城が受け取りお金を水嶋が受けとれば、取り引き成立だ
この映像が動かぬ証拠となるだろう
潤は改めて考えていた
この映像があれば水嶋の犯罪は確定となる
しかし、暗殺される程なのか
中絶児で犯罪者とはいえ、一人の命なのだ
潤はまだ迷っている
一番罪深く死刑に値するなら多田の様な気がしていた
「水嶋さん。ありがとうございます」と月城が袋を受け取り、財布から一万円を出した
「沙織専用だから茜ちゃんの体に合わなかったらごめんね」と言いながら、水嶋はお金を受け取った
これで、証拠となる物が確保出来た
後は月城がさっさとこの場を立ち去れば良い
現在PM8:00
普通の高校生なら親が心配し始める時間だが月城が演じて来たのは夜クラブに通って遊んでる様な高校生だ
親が心配するからなんて理由では説得力が無い
どうするのかと潤は見守った
突然、高梨が携帯を取り出し電話をかけはじめた
すると、映像の中で着信音が流れた
月城の携帯だった
「あっ!ごめんなさい。彼氏からだ」と言ってから月城が電話に出た
「もしもし。うん。えぇ~!今からぁ~。今ちょっと無理。誰とって、友達だよ~!うーん。分かったよ」そう言って月城は高梨からの無言電話を切った
「沙織さん。ごめんなさい。急に彼氏が家に来いって…」と月城はごめんなさいのポーズをした
「そうかぁ。もう少し一緒に居たかったけど、残念。じゃ、彼氏の所行ってあげて」と神崎が言った
「じゃ、彼氏に殺されない様に駅まで俺が送って行くよ」と天草が言った
「あぁ、そうだな」と水嶋が言った
「あっ!んじゃ俺も行きます。煙草切らしちゃって」と松下も名乗り出た
「おう。行ってら」と水嶋は短く返事した
「あっ、そうだ。茜ちゃん。さっきのサプリメントなんだけど、内緒にしといてくれる?お店には出してないヤツだから」と水嶋が言った
「あ、はい。分かりました。じゃ、遅くなると彼氏に殺されるんで、お先に失礼します。楽しかったです。ありがとうございます。お邪魔しました」と月城は言って、天草と松下と共に水嶋宅の廊下に向かった
「またクラブでね~」と神崎が言った
「はい。沙織さんまた~!」と言って月城はドアを開けて、天草と松下と一緒に水嶋宅の玄関を出た
これで、月城が駅まで着いたら潜入捜査の任務は完全に完了だ
そして潤達の任務も完了する
潤達3人も緊張から解き放たれた
しかし、車中の3人がホッとしたのもつかの間、事件は起こった
「私の時とまったく一緒…」と今まで黙っていたパク・ユナの呟きが聞こえた
四人は盗聴している声が流れるスピーカーに一気に注目した
4人は彼女の存在をすっかり忘れていた
「彼女、そういえばずっと黙っていたな。多田に援護を頼まれたはずなのに…」と藤堂が言った
「そうだね…」と高梨も言った
4人は何か悪い予感を本能的に感じていた
「どうして?私、あの薬が無いとおかしくなってしまうの。本当にダイエットのサプリメントなの?」とパク・ユナは自分に起こっている事態に気付き始めた様だ
「ねぇ、水嶋さん。沙織さん。教えてよ!」とパク・ユナはだんだん混乱して来た様だ
「ユナちゃん落ち着いて」と神崎がなだめた
「沙織さん!確かにダイエットできたわ。でもあの薬が無いと私苦しいの。本当の事教えてよ!」とパク・ユナが声を張り上げた
「そんなに知りたきゃ教えてやるよ!」と多田の声がした
今まで寝室で事の成り行きを傍観していたのだろう多田が突然現れた
「お前が飲んでるのは麻薬だよ!薬が切れれば、幻覚を見て苦しむ事になる。お前はもう抜け出せない!一生麻薬漬けだ。薬がほしけりゃせいぜいその綺麗な顔で男を引っ掛けて、金を稼いで来い」そう言いはなった多田がガハハと笑った
「いやぁぁぁ~!!」とパク・ユナの悲鳴が響き渡った
やり取りを聞いていた4人は多田の言葉に虫酸が走った
今すぐにでも現場に飛び込みパク・ユナを救いたいと思った
しかし、それは叶わぬ事だった
「あんた達のせいよー!」とパク・ユナが水嶋と神崎に矛先を向けた
「ユナちゃん。君がくれと言ったから、俺達は提供しただけさ。選んだのは君だ!」と水嶋が冷たい声で言った
「そうよ。アタシはユナちゃんが欲しいと言ったから、ここに連れて来たのよ」と神崎もパク・ユナの責任であると主張した
「黙れ!この詐欺師共が!許さない」パク・ユナがそう言った後、暴れている様な物音がガタガタと聞こえた
「チッ!面倒くさい女だ。おい!樹。その女始末しろ」と多田が言った
「えっ!?始末…」と水嶋は驚いていた
「そうだ。どこから俺達の事がバレるかわからんからな。俺が押さえるから、お前がやれ」と多田が水嶋に命令した
「分かりました…」と水嶋は返事をした
「沙織!ガムテープ持って来い」と多田がまた命令した
「はなせ!やめて!」とパク・ユナは抵抗している
潤はたまらずに、パク・ユナを救出する為に車から出ようとした
それを高梨が止めた
「真中君。ダメだ。僕らには救出出来ない」と高梨が潤を止めた
潤はもどかしい気持ちを何とか押さえ込んだ
「人が殺されかかっているのに!」と潤は悔しさから、車のドアを叩いた
「僕らには、何も出来ないよ」と高梨が言った
スピーカーからは口を塞がれた、パク・ユナの叫びが聞こえてくる
やがて、その声は聞こえなくなった
「水嶋。沙織。俺達は共犯者だ!いいな」と多田が高圧的に二人に言った
゛はい〝と二人は返事をした
「水嶋。お前の担当者は、本当に気付いて無いんだな?」と多田が確認している
「はい。中絶省の人にはバレていません」と水嶋が返答した
「よし。じゃ、こいつは俺が始末するから、お前らはここで俺からの連絡を待て」と多田は言った
「酷い…」と呟いた潤の瞳からは涙がボタボタと流れていた
「花房君と僕とで多田が死体遺棄する場所を尾行してくるから、完治と真中君はIAP本部に戻って情報部隊長の夏目さんに報告してきてくれ」と高梨が言った
「あいよ」と藤堂が返事した
潤は腹の底からこの事件に関わった人物を殺してやりたいと思った
まだ10代のパク・ユナには麻薬を絶ちきって、更正する事だって出来たはずなのだ
そう思うとまた涙がこぼれた
「あっ!そうだ。さっきの会話で多田と神崎が中絶児の存在を知っているのは、確定だ。これも報告してきて」と高梨が言った
「言われずとも、ちゃんと報告してくるよ」と藤堂は少しムスッとして返事をした
「Ok。分かった。じゃ、頼んだよ!」と高梨が言った時だった
マンションからおおきな旅行カバンを持った多田が現れた
「じゃ、よろしく」と言って二人を降ろして高梨と花房で車の追跡を開始した
潤と藤堂は言われた通りにIAP本部に向かう事にした
タクシーに乗って、潤と藤堂は東京タワーにあるIAP本部に着いた
今日の報告を待ちわびているだろう、夏目の部屋にノックをして二人は入った
「やぁ。真中君と藤堂君。報告を待っていたよ。既に月城君から潜入捜査は成功したと聞いているけどね。…ってあれ?後の二人は?」と夏目が言った
「隊長!それがイレギュラーな事が起こってしまいまして…調査対象が人を殺しました」と藤堂が報告した
「えっ!水嶋が?」と夏目は仰天して聞いた
「はい!多田の指示で殺害しました。殺害したのは、月城より前にターゲットになっていた、パク・ユナと言う女子高生です」
「その場に居たのは?」と夏目が確認した
「水嶋と多田と神崎です」と藤堂は答えた
「そしてやはり中絶児の存在を知っているのは、この二人でした」と藤堂が続けて報告した
「じゃ、最初の想定通りターゲットは3人だね…」と夏目は言った
「じゃあ、高梨君と花房君はターゲット達を追って?」と夏目はまた確認した
「はい。正確には多田を追ってですが」と藤堂は言った
「そっか。じゃ、二人からの報告を待とう。本当は明日ゆっくりとだったけど、今すぐ警察にも報告しなくちゃね」と夏目は言った
「俺が二人からの報告を待ちますから、隊長は警察へ報告してきて下さい」と藤堂は言った
「じゃ、藤堂君に任せるね。事が重大だから警察へ報告しに行ったらしばらく戻って来れないと思う。よろしくね」と夏目は言った
「後二人から報告があったら、僕にも連絡よろしくね」そう言って夏目は部屋を出て行った
「真中君。君も一緒にここで待機してくれ」と藤堂は潤に言った
「はい!」と潤は返事をした
潤が時計を確認すると、夏目に報告しに本部へ来た潤達と、多田を追って行った高梨と花房と別れてから一時間は経っている
多田は死体遺棄現場を探すのに必死になっているだろう
潤は本部に向かうタクシーの中で心を決めた
パク・ユナの無念を晴らすべく自分の出来る事はただひとつだけだと
いや、パク・ユナだけでは無い
被害者の無念を晴らすにはこれしか無いのだと、潤は腹を決めていた
夏目が警察に報告しに出かけてから 三十分後、藤堂の携帯が鳴った
「もしもし、藤堂だ。高梨か?あぁ、そうか。分かった。夏目隊長には報告をした。隊長は今警察へ報告しに行っている。場所を隊長に報告する事になっているから、隊長からの指示があると思う。だからお前達はそこで、待機していてくれ」と言って藤堂は電話を切った
そのまま、今度は藤堂が電話をかけた
藤堂は夏目に高梨から聞いた場所を報告した
藤堂は、“はい、はい”と頷きながら返事をしている
夏目から指示が出ているのだろう
「分かりました」と言って藤堂は電話を切った
「真中君。君はどうするか、答えは出たのか?」と藤堂が突然聞いた
潤は出したばかりの答えに少し戸惑いはあるがはっきりと伝える事にした
「はい。決まりました。水嶋を暗殺します!」と潤は言った
「ならば、君にも隊長からの指示を伝える。水嶋、多田、神崎の暗殺が正式に決定した。情報部が暗殺のタイミングを探り、狙撃部隊に報告するとの事だ」と藤堂は言った
「はい。分かりました」と潤は返事をした
「三神隊長からの指示を待てとも言っていた。後、これで君の情報部隊での任務は完了だ」と藤堂は潤に伝えた
「はい。今日はありがとうございました」と潤はお礼を言った
「あぁ。ご苦労様。狙撃任務頑張れよ!」と藤堂は潤に握手を求めた
「はい!」と潤は言いながら、藤堂と硬い握手を交わした
潤は今までの任務より、一層気が引き締まった




