第十話 異世界
「で、何か分かったの?」図書館を出て少ししたところで姉崎が聞いてくる。
「だいたいな」
「え、何?」
「教えるとは言ってない」
「お願い」
「お前に教えてもろくなことがなさそうだ」
「いーいーかーらーー」
「とりあえず、あのカードに書かれていた『扉』の場所はわかった」
「じゃあ! 会えるんだね!」姉崎は嬉しそうに言う。
「ああ、それはたぶん無理だ」
「なんで!」
「そろそろ本気で首を突っ込むのをやめたほうがいい。死ぬぞ」俺が脅しではなく、本気で言っているのが伝わったのか、一瞬ひるんだ様子を見せた。
だが、次の瞬間には俺の目をしっかりと見据えていた。
あきらめないのか。
仕方ない。
「明日、学校へ行った後『扉』へ向かう」
「じゃあ」
「ああ。勝手にしろ。日持ちする食糧を持ってこい。あと、家族に別れのあいさつをしておけよ」
「そんな」
「やめるか?」
「ううん。行く」
「それなら、続きは明日だ」
次の日。
俺は学校の外で、姉崎を待っていた。
「遅かったな」
「見つからないように来るの大変だったんだよ」
「別れのあいさつは……」
「してきたよ」俺の言葉を遮るようにして、きっぱりという。
「そうか。ついて来い」道中、俺は姉崎に『地下』のこと、吸血鬼のこと、『扉』のことをざっくりと説明した。
「ここだ」
「ここ? ただの森じゃん」
「そう見えるだけだ。おそらく、あいつもこれを通ったんだろ」
「ちょっと待って。それって、ノアが『地下』につかまってるってこと?」
「……ああ」まさか、探してるオトモダチが吸血鬼の女王かもしれない、なんてことはさすがに言えない。
これ以上、俺について探られても困る。
姉崎が何か言いたそうにしていたが、俺が気にせず右のポケットから折り畳み式のナイフを取り出すと、口を閉ざした。
何もお前を刺そうってんじゃないのにな。
信用されてるー。
ちょっと傷ついて心の中でおどける。
「いいか。『扉』を抜けたら騒ぐなよ、何があってもだ。それから、自分の身は自分で守れ」
「うん」
姉崎の返事を聞いた俺は、人指し指にナイフの切っ先を当て、スっと横に引いた。
飛び散る赤。
だが、次の瞬間には流れ出る血が俺の胸くらいの高さに集まり、水紋のように広がっていく。
「行くぞ」俺はそういうと、姉崎の腕をつかみ波紋の中に飛び込んだ。




