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女装令嬢の日常  作者: マルコ
女装令嬢と男装王子とチート令嬢

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4-3

予告が水曜日(24日)のツモリで23日になってました……



「エイアンド殿下、おはようございます」

「ああ、兄上」


 学園の正門で話をしていたエイアンドたちに話しかけてきたのは、第二王子のラーテルだった。


「兄上、先に出たとばかり思っていました……」

「ああ、少し寄るところがありまして。それよりも――」


 と、ラーテルはエレンとルシアナを見る。


「こちらのお二人は、いつもの取り巻きとは違うようだけれども、もしかしてご自慢の婚約者殿ですか?」


 そんな風に軽口をたたくラーテル。

 世間の噂ほど兄妹仲は悪くないようだとエレンは感じた。


「これは、紹介が遅れまして。こちらが、先日お伝えした婚約者のエレン・クアマリン。そして、こちらがその寮の同室のルシアナ・オライト嬢です」


 エイアンドがふたりを紹介すると、ふたりも略式の礼をした。


「これは、5大公爵家のお嬢様方とは。――たしか、オライト嬢とは、何度か夜会で会った記憶がありますが、相違ないですか?」


 ラーテルの問いに、ルシアナは肯定の意を示す。


「はい。ですが、このような間近でご尊顔を拝するのは、これまで無かったかと」

「ああ、良かった。少し雰囲気が変わったようですので、別の方かも。と心配しました」

「ああ、昔の事はおっしゃらないでくださいまし」


 そんな会話をするふたり。

 エレンはルシアナの雰囲気が変わったと言われても、そういえば「お姉さまのおかげで変われた」というような事を漏らしていたのを思い出したくらいで、出会ったのは数日前だ。今のルシアナしか知らないので、どのような雰囲気だったのか、少々気になったが、横から口を挟むわけにはいかない。そして、ラーテルはルシアナの次にエレンに声をかけた。


「そして、エレン嬢とは……はじめまして。で良かったですかな?」

「はい。事情があり、夜会などには参加しておりませんでしたが、この学園に通うのは義務でありますので」


 夜会への参加は、()()()「正妻が禁止している」とのことであったが、エレン自身も出たいとは思っていなかった。むしろ、面倒ごとだと思っていたくらいなので、ちょうど良かったと言うべきか。


 ――それにしても……


 と、エレンはラーテルの顔をそれとなく観察する。

 その立ち振る舞いは流石に洗練されていると感じる。が、その顔は以前に見せられた肖像画に描かれているよりも幼かった。

 数年前の絵だという事を考慮すると、相当忖度して描いてアレだったということか。

 なるほど、「弟王子」と呼ばれる理由もよくわかる。知識として無ければ、エレンも弟だと思っただろう。


 そんな風に、皆で話をしつつ校舎へと向かっていた一行に、さらに声をかける者がいた。


「これはこれは、両殿下。それに、5大公爵家のご令嬢ではございませんか」


 言葉は丁寧ではあるが、その身体にねっとりと纏わり付くような声音に、エレンは背中に生暖かい氷を這わされたような、不快な感覚に襲われた。

 その声の主を見たくないという本能の要求に逆らい、声のした方を見ると、そこに居たのはでっぷりと太り、頭皮の薄い男だ。


「学園長。どうしましたか?」


 ラーテルがそんな風に男に問いかける。

 幼い容姿で聡明を絵に描いたようなラーテルと、醜悪の権下(ごんげ)のようなその男の対比は、ある意味()になった。

 そして、エレンはラーテルのその発言で、その人物が学園長であることを知った。正直、数人分の距離があるにもかかわらず、汗の(にお)いが漂ってくるような男が、学園長だとは思いたくもなかったが、エイアンドやルシアナの反応からすると、事実なのだろう。


 それにしても、何故学園長がこんな朝から話しかけてきたのだろうか? そもそも、誰に用事があるのかも不明だ。

 ――もしラーテル王子ならば、さっさと先に行こう。

 そんな決意をしたエレンを知るはずも無いだろうが、学園長は告げる。


「いやなに、王子おふたりに挨拶をと思いましてな」


 ――これには、エレンも迷った。

 ラーテルだけならば、今この瞬間にはもうエレンの姿はどこにも無かっただろう。

 しかし、エイアンドにも挨拶をしにきたとあれば、婚約者としては付き合わないわけにもいかない。

 このときだけは、エレンも婚約者となった事を少々……どころではないくらいに後悔した。


「挨拶……? 入学前にもしただろう?」


 そんな事をエイアンドが言う。

 それが本当ならば、それで良いではないかとエレンは思う。なにもこんなところまで来る必要は無いではないか。


「いえいえ、お二方は大切な生徒でもありますからな。おっと、5大公爵家のお二方もですぞ」


 そう言いつつ、気持ちの悪い顔……おそらくは笑顔のツモリなのであろう表情で、エレンとルシアナに向き直る学園長。


「学園長ともあろうお人が、そのような事でこんなところまで来るとは……暇なのですか? それよりも、()()()()()()はやっているのですか?」


 顔に似合わず、辛辣な言葉をかけるラーテル。

 しかし、そんな言葉をかけられた学園長は顔を歪ませ――笑顔なのであろう――て言う。


「もちろん、()()()()()()は終わらせておりますとも、ラーテル殿下。これは、5大公爵家として、王国の臣下として、お二人の殿下への忠誠心の表れでございます」


 どうやら、この学園長は5大公爵家の人間らしい。

 限りなく関係ないとはいえ、同じ肩書きをこのような人物と共有するという事実に、エレンは虫酸が走る思いがした。


「そう、例えば……お二方が誘拐されるような事があれば、このアウダークス、一命を()してお救い申し上げる所存にございます!」


 大仰なポーズでそんな事を言う学園長

 ――名前が出たようだが、エレンは覚える気がない。


「お二方が誘拐されるような事――というのは、いさかか不穏な発言ではございませんか、学園長?」


 そんな風にルシアナが声をあげる。


「おお、これは真意が伝わらなかったようでございますな。なに、そのような事が起こっても、このアウダークスが――」

「――それに」


 不快な声を遮る形でルシアナは続ける。


「学内はもとより、この(ローラポリス)の警備は貴方の――学園長の責任だった筈です。それなのに、お二方が誘拐されるような事がある。とおっしゃるのですか?」


 ルシアナの言うとおり、王立学園の学園長というのは、このローラポリスの警備責任者――代官でもある。

 つまり、この街で王子が誘拐されるなどという事があった場合、学園長は二人を救いに行くどころか、即刻責任を問われて首を切られることになる。――物理的に。


 その事をルシアナが告げると、学園長は目を泳がせ、脂汗をかきはじめた。


「あ、あああ、そ、そうでした、こ、これから行くところがあ、ありましてな、ここ、これで失礼します!」


 そう言い残して学園長は学外へと飛び出して行った。


「結局、何だったんだ?」

「さぁ……?」


 エイアンドとエレンがそんな風に不思議に思っている後ろで、ルシアナもラーテルに話しかけていた。


「ラーテル殿下、学園長とは個人的なお付き合いがおありで?」

「――なぜそう思うのかな?」


 質問には答えず、ラーテルは逆にルシアナに聞き返した。


「先ほどの学園長が、殿下を頻繁に見ていたようなので」


 質問に質問を返す事をとがめる事もなく、ルシアナは答えた。


「……なるほど、ね。いや、特にそういうことはないよ。単に、彼の好みだったんじゃないかな? ほら、ボクってこういう容姿だろ? 多いんだよ。()()()()()で見てくる変態は、ね」


 そう言って肩をすくめるラーテル。


「なら、良いのです」


 それを聞いたルシアナは、学園長が出て行った正門の先を見ながら、最後に呟くように言った。


「あのような悪意の塊のような者には、関わらない方が身のためですので」


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