表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女装令嬢の日常  作者: マルコ
女装令嬢の新生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/42

ある男爵令嬢の呟き

令和でもよろしくお願いします

 プリンセス・レボリューションッ!


 大好きなアニメだった。


 最初に放送されたのは、小学校1年生の時。

 正直、その頃の記憶なんてほとんど無いけど、「プリレボ」ばかり観ていたのはなんとなく覚えている。


 高校生になった頃、家で加入していた動画配信サービスでプリレボが配信された時は嬉しかったなぁ……

 毎日観ていた。もう、セリフも丸暗記するくらいに。

 マンガ版も全巻買った。


 原作は小説らしいけど、私は読んでいない。

 いくら好きでも、文字ばっかりというのが先ずアリエナイし、ネットで調べたところだと、素人が趣味で書いた小説を漫画家の先生が素敵に翻案したのが、あの「プリレボ」ということだ。下手に素人が書いた下手くそな原作を読んで幻滅したくない。


 とにかく、プリレボ三昧な高校生活を送っていたので、ちょっと成績が落ちた。


 ……ゴメン、嘘ついた。凄く成績が落ちた。

 取り戻すためにプリレボを禁止されて、塾に通う事になった。

 もう、必死に勉強した。プリレボを取り戻すために。高校受験の時以上に勉強した。

 おかげで半年くらいで成績が戻って、プリレボ禁止令は解かれたけど、お次は大学受験があるのでそのまま塾通いは続けていた。


 そんなある日、塾へ行く前にコンビニに寄った時。中からオバサンが飛び出してきた。


「邪魔なんだよ!」


 そう言って突き飛ばしてきた。

 奥から店員らしきお姉さんがオバサンを追ってきていたので、高確率で万引き犯だろう。


 突き飛ばされた衝撃でたたらを踏んでいると、店員のお姉さんの悲鳴が辺りに響き渡り、すぐ横から甲高いブレーキ音が聞こえて……そこで私の人生は終わった。


 今思うと、アレは突き飛ばされた先で車に轢かれたのだろう。運転していたヒト、どうなったんだろうか? あのクソババァはちゃんと逮捕されたかな?


 なんて、死んだ私が考えられるのは、アニメみたいに転生したからだ。


 ……いくら私が筋金入りのプリレボキチでも、他のアニメや漫画を観ないわけじゃない。そういうお話がある事くらいは知っていた。


 そのテのお話にあるように神さまに会うような事はなかったし、生まれてすぐに自意識があるような事も無かった。前世を思い出したのは5歳の時だったけど、その時も高熱を出したりする事もなく、朝起きたら「ああそういえば」という感じだった。


 よく赤ん坊の時に前世の記憶が無くて良かった。という主人公は「オシメを換えられるのが恥ずかしい」なんて言うけど、実際に体験してみれば、一番のメリットは言葉をすんなり覚えられる事だと思う。


 だって、この世界……というか国の言葉、日本語じゃないんだもの。小学生で少し、そして中学高校と英語を勉強してもまるっきり喋れるようにならなかったのに、またイチから新しい言葉を覚えるなんて、絶対無理だ。


 5歳でそれなりに言葉を話せたのは、まっさらな状態だったからこそだと断言できる。


 さて、転生した私はどうやら貴族に生まれたらしい。

 とは言っても、最下級の男爵。平民とそう変わらないような立ち位置だ。


 それなりに裕福で、かといって礼儀作法にうるさ過ぎる事もなく。それなりに幸せな毎日を過ごす事が出来た。


 そんな毎日を過ごす中で、男爵令嬢としての勉強で気がついた事がある。

 この国の名前はローラシア王国。そして、その貴族たちの頂点に5大貴族が存在する。


 ──プリレボと一緒だ!


 私は嬉しくなって、色々と聞いてみた。

 物語の舞台になった学園も学園都市ローラポリスも存在した。だったら、ヒロインにも会えるんじゃないだろうか? そう思ってメジスト家にソニアという女の子はいるのか聞いてみた。


 ……が、メジスト家には子供はいないらしい。それもそうか。ソニアはずっと平民として暮らしていたんだものね。ならばと悪役令嬢の事も聞いてみたが……こちらも居ないようだった。

 あ、でも王子様はふたりとも居るみたい。でも、王族とかって、先祖と同じ名前をつけたりするみたいなのよね。


 ただ単に似ているだけなのか? それとも時代が違うのか?

 でも、私はそれでも良かった。

 時代が違っても、他世界の空似でも。プリレボの世界で生きていけるなんて、これ以上幸せな事はない。


 それから月日は流れて、私は憧れの学園に入学する事になった。前世を合わせても独り暮らし(ふたり部屋だけど)なんてはじめてだけど、この日のために準備もしてきたし、「お姉様」も優しい人で良かった。

 ──プリレボのソニアみたいに、意地悪なお姉様に無理矢理仕事を押し付けられる事もなさそうだ。


 でも、入学が秋というのは未だに慣れない。

 5歳で記憶が戻ったから、食事が1日2食しかないとか、食前の祈りをするとかは、生活習慣として受け入れていたけど、学校に関しては前世の感覚の方が強くて違和感が凄い。中学と高校の間くらいの年齢の子が通うのに、2年制というのも、謎。

 マンガだとちゃんと春入学で3年制だったのになぁ……

 まぁ、気にしても仕方がない。


 そして、入学の日。

 ……そうそう、入学式とかも無いらしいのよね。変なの。

 とにかく、私はクラス分けの掲示を確認した。

 やたらに混んでいる掲示をかき分けて確認した結果、私は第1王子と同じクラスになった。

 多くの女の子は王子の目にとまる事を期待しているみたいだけど……私はもう婚約している。領内の商会の御曹司。ええ、政略結婚……もとい、政略婚約ですが、何か? 良いのよ。仲良いし。前世から合わせても初彼氏なんだよ。ちょっと10歳差なだけよ。下に。


 まぁ、それはさておき、王子の名前の他にある名前を見つけて、私はその名をじっと見つめてしまった。


 エレン・クアマリン


 言わずもがな、プリレボの悪役令嬢の名前だ。ヒロインのソニアに数々の嫌がらせをして、王子との仲を裂こうとする。最後はそれまでの悪事が原因で国外追放になる悪女。

 でも、待って。クアマリン家に女の子なんて居ないはず。社交でも1こ下の男の子しか見たことない。

 同姓同名の別人? でも、5大公爵家と同じ家名なんて許されるの?


 色々と疑問はあったが、周りが混雑してきたので、さっさと自分のクラスへと向かう。


 黒板があるとか、クジ引きで座席を決めるとか、微妙に前世ぽいところがあるなぁ……とぼんやりしていたら、急に教室の入り口が騒がしくなった。

 何事かとそちらを見ると、猫が立っていた。


 ……ああ、いや、本物の猫じゃなくて、ビースト。魔族とひとくくりにされる事もある彼女たちだけど、その姿も生態も言語も何もかもが異なる多種族連合だ。

 よくもまぁ、一国に纏まってるものだとウチのお父さんなんか感心している。


 みんな怖がってるけど、ウチの使用人にもビースト何人か居るんだよね。その関係でビーストなら怖くはない。と、いうわけで、軽く挨拶して席のクジを引くように伝える。

 んー、なーんか素っ気ない感じ? 緊張してるのかな?

 黒板に書いた名前も魔族文字だし。……えーっと、ちゃーとれうくす……? ダメだ。読めない。

 そんな風に教室の入り口付近でボーっとしていると、新たな生徒が入ってきた。


 その生徒に目をやった私は思わず硬直した。


 黒い髪。スラリとした肢体。優雅な身のこなし。そして、全てを射抜く黒い眼差し。


 間違いない。何度も見たその姿。──いや、アニメより3割ほど美しい。

 クイーン・オブ・悪役令嬢とも讃えられる、プリレボヒロインのライバル。


「エレン……様?」


 思わず口から漏れたその名前。

 そう、エレン・クアマリンだ。

 本人だ。同姓同名の別人なんかじゃなかった。

 でも、何で? 社交界でも今まで一度も見たことなかったのに!?


「なにか?」


 そんな風に混乱していると、エレン様がこちらに話しかけてきた。

 マズイ! さっき名前が口から漏れたのをしっかり聞かれていたらしい。


「あ、あの、その、そこのくじで席を決めてください」


 咄嗟に口にできたのは、そんな言葉だった。


「くじ……?」


 エレン様はその目線をくじの方へと向ける。


「なるほど、ね。教えていただいて、ありがとう」


 ……あれ? なんか、思ってたのと違う?

 こう、プリレボのエレン様なら、この私はくじなんて引きません! とか、貴女が代わりに引きなさい! とかワガママを言うところなんだけど……

 ああ、いや、違うなら違うで良いんだけど、なんか落ち着かない。


「あら、まぁ……」


 エレン様のそんな呟きが聞こえたので、何事かとそちらを見ると、なんと、先ほどのビーストの彼女の隣の席に自分の名前を書いていた。


 教室がざわつく。

 そりゃぁ、一般的に言えば、魔族の隣の席など、大ハズレだ。それを引き当てた彼女を哀れんでいるのだろう。

 今、エレン様は黒板に家名を書かなかった。もし、書いていたら……クアマリンの家名を書いていたら、この程度のざわつきではすまなかっただろう。


 そして、当のエレン様は平然とビーストの彼女と話をしている。

 プリレボのエレン様なら、絶対に嫌だと癇癪を起こしていただろうに。

 やはり、ここは物語とは似て非なる世界なんだろうか?

 そんな風にエレン様を眺めていたら、ビーストの彼女がいきなりエレン様に口付けをした。


 ……ああ、いや、ちがう。

 アレは鼻をくっつけただけだ。ウチの使用人もよくやっている。けど、他の種族にはやってるの見たことないんだけど!? ああ、エレン様も固まってる。……ちょっとカワイイ。


 なんて思っていると、廊下が騒がしくなってきた。

 正しくは、なにやら騒いでいる生徒の声が近付いてくる。

 ……ちょっとまって。この声って……!?


 ほどなくして入ってきたのは、王子様……第一王子のエイアンド様と、その取り巻きたちだ。お城で開催されるパーティでよく見る光景。まさか、学園でも金魚のフンをぶら下げてるとは思いもしなかった。


「チェイン」


 ビーストの彼女──シャルトリューという名らしい──の呟きが耳に入ってきた。

 なるほど。この世界では金魚なんていないけど、チェインならいる。なるほど、図鑑の挿絵で見たチェインだ。

 英語のchainと同じ音なのも面白いよね。

 そんなことを考えていると、またあの声が聞こえた。


「あぁん、もう、まってよぉ〜」


 これだ。

 この声だ。


 前世で何度も聞いた声。大好きだった声。

 プリレボのヒロイン、ソニアの声。


 でも、なんでだろう?


 アニメと同じ声なのに、現実の声は酷くイラつく。


 それに、彼女が着ている服。

 ドレス。しかも、ピンク。


 確かに、プリレボでもドレスを着ていた。

 ネットでもツッコミどころとしてネタになっていた。

 まさか、現実でドレスを着て学園に来るなんて!

 常識が無いにもほどがある!


 ……いや、そういえば……


 プリレボのソニアは公爵が使用人に産ませた子供で、学園の入学までは父親が誰か知らなかったのだ。

 それが、学園に入学する年齢で発覚して、そのまま入学。平民だったから貴族の常識がない。

 元庶民で貴族や学園の常識がない彼女を貴族たち……特にエレン様が虐める──という流れだ。


 あえて言おう。

 コレは虐められる方が悪い。


 公爵様も、寮のお姉様も、ドレスを止めなかったの!?


 ああ、いや、お姉様には服にケチをつけられてる描写がアニメにもあったっけ?

 アニメだと、貴族は全員ドレス姿だったけど、現実は平服。そりゃぁ、「そんな格好」呼ばわりされるよね。


「この私こそ、ソニア・メジストよ!」


 思考が飛んで行っていたけど、そんな声に現実に引き戻された。

 もしかして、あの子も転生者なのだろうか?

 自分はヒロインだぞ。って?


 ……あ、違うな。


 イーチェ様にケンカ売ってる。プリレボ知ってたら、オライト家の冷血メガネに喧嘩売るとか、絶対やらない。

 単に、平民から5大公爵家の令嬢になって舞い上がってるんだ、コレ。


 あ、今度はエレン様に矛先向けた。

 おーい、そのヒトも5大公爵家だぞー。


 そういえば、教室のみんなもエレン様が5大公爵家って、気付いてない? 社交にも出てきてなかったからだろうけど、なんで出てないんだろう?


「さて、不勉強で存じ上げませんが、メジスト家はクアマリン家よりも格上なのでしょうか?」


 あ、このセリフ。アニメの1話でソニアが言ったセリフだ。家名は逆だけど。


 悪役令嬢のエレン様が元平民のソニアを5大公爵家の娘とは知らずに蔑んだ発言をして、満を持してこのセリフをを返すのだ。


 そうして、王子様の前でやり込められたエレン様は、それを恨んでソニアを王子様とは別のクラスに変えてしまうんだけど……


「そもそも、メジストは同じクラスではない」


 ──ですよねー。名簿に名前あった記憶無いし。


 なんか、色々違うけど、アニメや漫画と同じ部分も多いのよね……

 もしかして、原作小説の世界……なのかな?



次回(金曜日)から2章です。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ