手を取りて
哀しいことに、牙を通して弘明の脳裏に染み込んでくる銀竜摩耶の血の味は。
ただ苦いばかりで弘明の口腔に苦渋を湧きかえらせる。
(摩耶……太一……そうかお前等そんな名前だったんだ)
意識だけは人として生きていたころのままに、弘明はまぶたの裏に寄り添う二人の実像を目の当たりにして目を細めた。
「今なら俺にもお前らの気持ちわかるよ」
弘明の脳裏で様々な記憶が走馬灯のように駆け巡る。
(皆一緒に居たかったのに)
幼い頃手を繋いで笑顔を交わした父や母。
成り行きの出逢いだったのに情を絡めた明美。
(あの幼児は無事かな)
明美に託された乳児を思い出してまだある筈も無い父性を自覚して表情が緩んだ。
(預かった子供は安全地帯に届けた。もうそっちへ行ってもいいよな?)
暗霧が立ち込める校庭の中央で巨体を戦わせながら、銀竜摩耶、翼竜弘明、人間松明太一の3者の意識はもつれあっていた。
(太一、太一!)
(摩耶、摩耶!)
二つの激情が身をよじり周囲に暴風を呼び起こす。
太一の視界の端に美咲たちが乗るバンが暴風に煽られているのが見えはするが。
己の激情が暴虐の嵐を呼ぶと気付いた太一が弘明に叫んだ。
「先輩止めてくれ!俺達自分じゃもう止められねえ!」
弘明の意識の中で絡み合う太一摩耶二人の意識の暴走が目もくらむ光りを放ち始め弘明の意識も焼ききりそうな熱を感じさせた。
「俺達一度も後輩らしいことしたためしもねえし、先輩に頼れた義理じゃねえのは百も承知だけどよお」
太一の意識が弘明の意識の中に流れ込んできた。
「迷惑かけっぱなしであの世に行ったんじゃ寝覚めがわりいだろ」
燃え尽きて燐光だけになろうとしている太一の幻影がその首に縋る摩耶の幻影の髪を撫でながら弘明に懇願した。
「現世での悪さの罰は向こうで俺が受けるからよお。摩耶だけは……」




