贖罪
弘明に遅れて病院に着いた八神達一行は受付に教えられた病室へ向かうエレベーターの中でにわか鳩首会談を開いた。
口を開いたのは八神。
「立花君。さっき言ってた始まってると言うのは?」
狭いエレベーターの中は八神、水橋、立花。更には立花が声を掛けたのか松山まで合流している。
「出来ればあそこで八神さん達に書いて頂いてたボードの説明してからお話ししたかったんですが」
一度大きく息を吸い込んで立花が続ける。
「俄かに起こった異常事態に、呼応するように現れた対抗勢力。そしてその勢力が全て若年層であるという事実」
既に皆承知の事だが、改めて語る立花の低い声に一同は互いの顔を見渡す。
「ここでは詳しい説明は出来ませんが。今起こっていることは、旧態依然とした人類が招いた『歪み』を巻き戻そうと、『歪み』に抗う新たな生命達との、世界の覇権を巡る世代間闘争じゃないのかと自分は考えたんですよ……」
立花の途方もない発想に、会議の部外者だった松山は勿論。八神も水橋も痩せぎすな立花の青白い顔を見つめるばかりだった。
(旧人類が産み出した歪み)
立花の言葉に水橋はボードに書き連ねた、立花の言う所の「今回の事態に関して思いつく単語」とやらを思い出していた。
あのボード、邪魔が入らなければ今立花が言う図式が見て取れたはずだというのか。
だがそれを待つまでもなく、言われてみれば世間話に疎い水橋でも思いつくことは幾らもある。
止む事の無い戦争。
世界的に進行する少子高齢化。
増え続けるゴミ問題に枯渇の進む化石燃料。
人々が善かれと思いやってきた様々が、寧ろ今の人類を、ひいては世界を苦しめている。
(世界がこの世界の有り様を是正しようと蠢いている……)
水橋と思いを同じくしたのか八神が二の腕を掴み身震いした。
人知を超えた今の状況は、人の力の及ばぬ世界そのものの所業だと言うのか。
世界そのものが歪みを具現化してみせ、その具現化された歪みに立ち向かう新たな命。
(だから私達大人には怪物に立ち向かう力は発現していない……)
急に押し寄せた寒気に怖気ながら八神は悪寒と戦う。
(私達大人はもうこの世界を委ねられる存在じゃないと世界は見放したというの?)




