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竜の贖罪  作者: 真行寺尭
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運命

「!!」


看護婦に案内されて訪れた病室のドアを開けた弘明は、居並ぶ同窓生の一団の中に順子の姿を見て絶句する。


このとの出会いが事の始まりだったのだ。

霧に追われて逃げ込んだショッピングモールでの目撃。

邪念を抱いて接近を試みた逃走路。

あそこで明美と出会い、弘明は人生に目覚めさせられた。


その発端となった少女が今見の前に居る。


異形の怪物へと我が身が変身した衝撃で麻痺していた情念が弘明の脳裏に渦巻いた。


目覚めた時の明美の膝の温もり。

掴まれた小指の赤子の手の感触。

浴びせられた乳児の小水の感触。

のけぞった明美の肉の柔らかさと熱さ。

怒涛の様に記憶が駆け巡り弘明を翻弄する。


「あの、先輩……」

順子の声に弘明は頭を振って意識を集中する。


何度も後輩の前で醜態は晒せない。

今更と思いながらも弘明は一同の手前、かつての威厳をいくらかでも見せようと一同を見渡して事態の把握に努める。


「すまないが何が起きていたのか君等の知っている事だけでもいいから教えて貰えないだろうか」


自分でも気づかず控えめな態度で訊ねる弘明の様子に、潤は顔見知りらしい順子の視線を窺い弘明に答える。


「いろいろあり過ぎて何を何処から話したらいいのか…」

言い淀む潤に弘明が答える。


「俺は羽が生えた」


弘明の言葉に室内の全員が絶句した。


潤、美咲、順子、それに今ここには居ないとはいえ摩耶も太一も肉体的変貌を遂げた者は居ないのだ。


「羽が生えて、怪物と戦った」

息を呑む一同の前で弘明は嘆息しつつ語り続ける。


「なんで羽が生えたのか、説明なんかできないが、きっかけについては思い当たる事がある」

「たまたまだったのかもしれないが、現実にこの手で怪物の一体を倒した」

身震いして弘明は続ける。

「この事態を説明出来れば、この事態に対抗出来るかもしれない」

「一方で怪物を倒した時、自分の変身をコントロール出来てた訳でも無い」


弘明は大きく首を廻し、一同を見回して言う。

「恐ろしくもあるんだよ、自分がどうなってしまうんだろうって」


順子にしてみれば頼りがいのある先輩と見ていた弘明のその姿は、順子の中にあった弘明のイメージを大きく損ねる物ではあったが、自らの弱さも垣間見せる先輩の今の姿は、自分が霧からの逃走の途中、意識を失った弘明をたまたま居合わせた若い母親の言葉に甘えて世話を委ねてしまった負い目もあって好もしく見えた。


明美との詳細こそ省いたが、弘明は居並ぶ一同に自分の身に起きた異常事態をかいつまんで話した。


弘明の話しが乳児の話しに及ぶと、美咲と順子は気付かず我が子の小さな手を握りしめていた。


実の父親に望まれなかったというあの子だ。順子は他人事とは思えずほぞを噛む。

「今は医師団に見守られて居るらしい」

「ここに連れてくれば良かったのかな」

ベッド上に並んでむずむずと動き回る二つの可愛い生き物に弘明が優しい目を向ける。

ごく簡単な説明しか受けずにここへ連れてこられた弘明だが、元より聡明な弘明。

潤、美咲、順子の佇まいに二人の乳児。

明らかに家族の匂いだ。今の弘明にはわかる。

少し前の弘明だったらわからなかったろうが、今の弘明は家族という物を知っている。

家族を得る喜びも、家族を失う哀しさも。


偶然ここに集まった訳ではないだろう。

明美と出会わせてくれたのが目の前の順子なら、今こうして彼らと巡り合わせてくれたのは明美だろうか。


「俺達も霧との遭遇以来、様々な異変に巻き込まれはしましたし。特異な力も現れてはいますが流石に変身までは」


空気の張り詰めた室内に乳児の声にもならぬむずかる声、美咲が上半身を起こすのと順子が良平と呼んだ乳児を抱き上げるのが同時。


潤は目の前の少年に見覚えは有るものの、何処か記憶とのずれに戸惑いながらも語りだす。

「俺達も先輩と同じで、説明なんて出来ないんですが、何かに導かれるようにここに集まったんです」

居合わせた美咲も順子も小さくしかし深く頷く。

「そして、経緯こそ多少違いますが皆子供を授かりました」

潤が言い終わらぬうち弘明と潤の瞳は強く絡み合い二人は同時に確信する。

やはりみな呼ばれてきたのだ。


何に。

誰に。

何の為に。

潤とリンクすると同時に弘明は美咲、順子の流れ込む共感に打ち震える。


つい最近明美を通して知った他者との共感。

弘明は自分の知覚能力が一気に拡大するのを感じる。

潤が戦った霧の渦、順子が観た月光を背にする良平の姿、あまつさえ会った事すらない摩耶と太一の姿。

津波の様に流れ込むビジョンの最後、弘明はのたうつ銀の竜を見る。

「誰に説明された訳でも無いが俺がここに呼ばれたのは彼女の件か」

何故かビジョンの中の竜を女性と認識した弘明は口の中で呟く。
















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