子供
「子供だけ?」
八神の問いにモニターの向こうから顔を出した立花が答える。
コーヒーを飲み終えた八神を伴って研究室として割り当てられたフロアに戻った水橋達は立花の推論に耳を傾けていた。
「ええ、確認出来る限り特異な能力を発現させているのはいずれも子供です」
元より筋骨隆々というタイプでは無い立花だが、痩せぎすの体躯に釣り合った青白い顔には髭の剃り跡が見え始めている。
次々起こる不測の事態に皆焦燥を隠せなくなってきている。
「正確に言えば上は17歳、下は…本人の意思の確認出来る範囲に限定してですが、3歳ですかね」
「3歳!」
立花の言葉に八神も驚きを隠せない。
「予知能力の一種でしょうかね。霧の中で両親に対して安全な避難誘導を行った様です」
八神にも一連の出来事に朧気ながら方向性が見え始めてはいた。
だが現実に起きている事態が悉く八神の予測を越えて来る。
「あまりにもサンプルが少な過ぎて口にするのも憚られるんですが」
その口ぶりから、人一倍慎重だと思える立花が言いたくも無い何かを口にしようとしていることを感じさせて周囲の視線を集める。
「何が起きているのかは未だ何も分からないんですがね」
一拍置いて周囲をぐるりと見回す。
「どうやらこの事態のキーを握っているのは子供達の様ですね」
キーボードを操作してモニターに映ったリストを眺めて八神はため息をつく。
フードコート後で立花が言った、霧の出現と怪物達と、そしてその異常事態に抗っている人々の因果関係。
「事態の発生原因を理論立てて説明することは出来ないんですが、起きている事実だけを並べて、俯瞰して見ると見えてくるものが有るんですよ」
言いながら立花は、キャスター付きの大きなホワイトボードを二人の前にしつらえる。
ボードの左側、上段に大きく「霧」と書き込む。
一体立花は何をみんなに語ろうとしているのか。水橋、八神の両名は身を乗りだして立花の握るマーカーペンの行方に注目している。
霧の文字の下、およそ2行分程度の間を空けて「怪物」「物理法則」「捕食」「命」一見取り留めも無く、しかしここしばらくの異常事態がもたらした災厄に纏わる単語を書き連ねていく。
ホワイトボードの左半分に、続けて「理不尽」「歪み」「溢れ」
そこまで書いて立花はホワイトボード下部に置かれたマーカーペンを2本掴むと八神と水橋の前に置く。
顔を見合わせて立花の顔を見返す二人に立花は言葉を掛ける。
「お二人とも、思いつく単語をこの白板に書き加えて見て貰えますか」
立花の意味ありげな言葉に水橋が問い質す。
「そんな事をして何かが分かるとでも?」
あからさまに訝し気な表情をぶつける水橋に怯むことなく立花が答える。
「その何かとやらを見せてくれるのがお二人の書くキーワードなんですよ」
水橋と同じくまるで要領を掴めていない八神はそれでもマーカーを手に立ち上がる。水橋も倣いペンを手に取って身の内に湧きあがる不安に身震いする。




