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竜の贖罪  作者: 真行寺尭
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ファーストコンタクト

簡易ベッドにうつ伏せる少年の背中に指を這わせる医官の様子に、慣れぬ術衣を着込んだ八神は身を乗りだして成り行きを見守る。




デパート後を利用した対策本部に、霧と戦ったという少年が尋ねて来たのが小一時間ほど前。


腕を失った女性の遺体と、何故かその遺体の腕の間で安らかに寝息を立てる乳児を抱きかかえて施設の門に立った少年に守衛の隊員は驚きを隠せなかった。


医療班が遺体と乳児を引き取ると、弘明と名乗る少年は信じられぬ霧の怪物との遭遇とそれまでの経緯いきさつを八神達に話した。


あからさまにあり得ぬ少年の話しに呆れた一同だが、少年の語る一つ一つに、同席していた立花がいちいち頷いている。


立花の脳内ではどんなストーリーが描かれているのか八神には知り様が無かったが、常人の及ばぬプロファイリング能力を有する痩せぎすの予備役自衛官には合点がいく所があるのだろう。


自らが有翼の怪獣に変身したと語る少年に、立花だけが躊躇うことも無く身体検査させて欲しいと申し込んだのだ。


呆れ顔の周囲の視線を気にすることも無く、至って真顔で少年に語り掛ける立花。


この男は明らかに何か掴んでいる。

後方で大人しく見ていた水橋は、長身の立花の後姿を睨んでいる。


霧の最初の出現からかれこれ2か月近く。最初は東京の研究室で面白そうだと気楽な気持ちで取り掛かった案件。


事態が深刻さを増し、現地での調査に協力して欲しいと依頼を受けて来てみてからは、怒涛の展開に振り回されるばかりで何一つ掴めていない自分を他所に、後から来たこの青年は、子細しさいは語らないが着実に答えに近づいているようだ。


背中を触られて居ながら、死んでいるかのように身動き一つしない少年に。八神は妙な感覚を覚えて身震いする。


死体のように動かない少年の、決して力強そうには見えない背中から感じる不思議な熱量。


自分達に事情を説明して居る時も、今も感情を押し殺したように淡々と振舞った少年だが。その落ち着きようが逆に不自然で八神の気持ちに不穏な渦を描く。


あの腕を失くした女性は一体この少年のなんなのだろう。

あの女性が抱えていた乳飲み子は誰の子供なのだろう。

緩やかに、軽やかに動く女性医官の指先に見惚れて様々な思考が八神の脳裏で揺れ動く。


「大丈夫ですか」


立花の声に我を取り戻して八神は、自分がいつの間にか立花に腕を支えられて立っていたことに気付いた。


頭がくらくらしている。支えられている我が身が頼りなく、支えている立花の腕が思いのほか逞しく感じて眩暈を加速させる。


「検査結果は後で報告します」

言いながら立花は八神の腕を引きドアへ誘う。


いつもの八神なら男性の思いやりなぞ寧ろ唾棄してはねつける所だが、自分でも気づかぬ疲れが溜まっているのか、身体が言う事を聞かない。


「検査が終わるまで少し仮眠を取ります」

ノブに手を掛けて念を押す八神。

「終わったら直ぐに教えてね」


「わかりました。直ぐに叩き起こします」


立花の言葉に、背を向けながら八神は思う。

この子こんな大人びた表情していただろうか。


廊下を離れていく八神の後ろ姿を見送りながら、立花は室内に戻り掛けてもう一度八神の後姿に目を向ける。


名門大学を目指し、勉学一筋だった立花は、微かに揺れながら遠ざかる八神の姿にあの人も女性だったんだよなと今更のように思い出す。



室内に戻った立花に、壁際まで下がって様子を見ていた水橋が目配せを送って来た。


「彼女大丈夫そうか?」

検査をしている医官に気を遣って小声だが、水橋の顔色も決して良くはない。


「疲れが溜まっているだけだと思いますが」

立花の答えに水橋も頷く。

「無理も無いわな、俺だってどうにかなりそうなんだ」

肩を竦めて唇を尖らせてみせる水橋に、自分だってホントは休みが欲しいと思いながら、それでも現状の分析に傾く己の性癖にうんざりしながら、立花も肩を竦めて見せて答える。


「診察が終わったら、検査結果の報告が出るまで多少時間あるでしょうからお茶でもしますか」


思いがけぬ立花からの誘いに、訝しさも感じながらも少しでも立花の意見も聞きたいと思っている水橋は素直に首を縦に振る。


「何か?」


表情で促す水橋に、俯き加減で立花が答える。

「具体的には何もわかっちゃいませんが…」

言い淀む立花に続きを促す水橋の眼に、立花の躊躇いを代弁するかのように部屋の灯りが一瞬明滅する。


思わず顔を上げた女性医官に水橋が声を掛ける。


「霧の警報はでていませんよ。単なる電気系統のトラブルでは?」


水橋に顔を向けた医官はわずかに笑顔を浮かべると少年の診察に戻った。


言っておきながら、水橋は自分の言葉が今となっては気休めでしかない事が嫌という程分かって空しさを沸かせる。


「続きはお茶を飲みながら」


言い置いて水橋に背中を向けて再び診察の様子に注目している立花の背中を見ながら、一体いつになったらこの事態が収束するのだろうと水橋は想いを巡らす。















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