捜索
館内の監視を請け負っている保安部でも子供に関する情報は無いと返事が返って来た。
館内の監視モニターに映っていないのもおかしいが、受話器を首に挟みながらパソコンに向かっていた女性自衛官の言葉がその異常な状況に拍車をかける。
「該当データが見つかりません!」
女性医官が跳ねるように顔を上げる。
「みつからないってどういう事?」
報告した自衛官に詰め寄る。
「医療ネットワークに照合試みましたが少年の画像からは該当する住人は見つかりません」
医療ネットワークには住所を問わず、全ての日本人の顔認証基礎データがストックされている。
医療ネットワークに使用されている顔認証システムは、出生時の3D骨格データを基に最新の補正プログラムを組み合わせて、年齢変化、整形による変化をも補正照合してみせる。
仮に海外からの入国者であっても、イミグレーション時に登録される顔認証から逃げる事は出来ない。
海外からの観光客の中に、世界でも珍しい日本の医療保険システムの不備をついた不正受診が表面化してからは、全ての外国人も顔認証の対象となった。
日本の高度な顔認証システムと医療ネットワークにデータが無いと言う事は即ちこの世に存在していない事を示す。
「あの少年が存在しない存在?」
矛盾したそのセリフが事の異常さを際立たせる。
消えた乳児の行方を捜しに保安部に赴いた順子達だが、既に保安部では霧の中から救出された少年を探す女性医官と保安部員の慌ただしいやりとりの真っ最中。
霧から離れたこの施設の中で迄異常事態が起き始めている。
女性医官と保安部員の不穏なやりとりに、順子をここまで案内してきた女性陸自隊員が口を挟む。
「誰が居なくなったんですか?」
自衛官たちの狼狽え振りを順子は一歩引いた立ち位置から聞いていた。
友人である良平の変容を間接的とはいえ見て来た順子は、霧がもたらす異常に対する受容力が高まっているようだ。
霧の中から姿を現す怪物どもはいずれも人の見知らぬものばかり。
順子はぼんやりと思いを巡らす。
居なくなったという霧の中から救い出されたという少年。
順子の脳裏に赤ん坊を抱いて路上を歩く少年の姿が浮かぶ。
隊員達が話す、霧の中から救出された少年とやらが怪物達と同じく霧が産み出したモノだとしたら。
取り返さなくちゃ。




