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竜の贖罪  作者: 真行寺尭
19/74

帰還

「一体どんな化け物と戦ってきたんですか」

整備兵の質問に、あの時の状況を思い出して、答えあぐねる水橋。


降りて改めて偵察車を振り返って唖然とした。


小松製作所製偵察戦闘車、略称87RCVの姿は出撃前と似つかぬ姿。

天を向いていたはずのアンテナはあらぬ方を向き。

前部左右に合ったはずのバックミラーも見当たらない。


だがなにより水橋を驚かせたのは、車体の周囲、特に砲身と車体上部に挟まれた異様な物体。


一瞬人体かと思った水橋は目を背けそうになったが、それが人体では無いと確認して凝視する。


見たことも無いが、動物の身体の一部を思わせる、千切れた肉と腱の塊の如きもの。


「下がって!下がってください!」


気が付けば周囲を、頭まで白い防疫服に身を包んだ集団に偵察車は囲まれている。

防疫服の一団を囲むように更に一団の戦闘服の集団。

構えているのはM9機関拳銃。

中には一般には配備が確認されていないMP7を携行している隊員も居る。


見る人が見れば彼らが一般の陸自隊員でない事はすぐ解っただろう。



息を呑んで見守る水橋に、駆けて来た隊員が息を切らして告げる。

「水橋研究員殿!お客様がお見えです」


都下からここに派遣されてきた水橋に、臨時作戦本部となっているこの施設に尋ねて来る知り合いなど身に覚えが無い。


冷や汗をか、たっぷり水分を含んだヘルメットを水橋は脱ぐと隊員に続いてエレベーターに向かう。


「だけどよく霧の中からあの子を救出出来ましたよね」


エレベーターの閉ボタンを押しながら訪ねる若い隊員は興奮を隠せない。

「霧の中から住民を助け出すなんて初耳ですよ」


その時の実際の状況を耳にしても、この男は快哉を叫んでいられるだろうか。


若い隊員の矢継ぎ早の質問に苦笑しながら、待合室代わりに一応の応接セットがしつらえられた部屋に入った水橋は、女性自衛官の姿と、背中を向けてソファーに座る人影を見る。


ポニーテールが立ち上がり。振り向いた少女が抱く乳児の姿に、水橋の瞼の裏に何かの残像が重なる。


なんだ?

今何が見えた?


戸惑う水橋を真っすぐ見つめる少女の瞳。


誰だ?


水橋の意識が自問自答する。


初めて見る顔なのに、意識は知っていると言う。


あどけない容姿と裏腹に立派な乳房を持っている。

その乳房がこの半日ほどで張りを増し、成長したことをまだ水橋は知らない。



「霧の中へ向かったきり、戻って来ないんです」


少女の話しは平時であれば信じようもない話だった。


生身の高校生が自ら進んで霧の中に踏み出す。


つい昨日までの水橋だったら笑い飛ばしていただろう。


だが水橋は、子供を救う為霧中に飛び出した五十嵐の姿をその目で見ている。


一方で、正直少女が話すその男子高校生がまだ生き延びているとは水橋には思えなかった。


少女が語る話の流れから言って、その少年は少女等他の一般人を逃がす為、自ら囮になったと考えるしかなさそうだ。

少女に励ましの言葉を掛けられそうには無い。


少女に座るよう促して水橋は後ろに控えた女性自衛官に会話を譲る。


「その子の話しと」

一拍置いて恰幅のいい女性自衛官は少女に語り掛ける。

「その…あなたの身体に起こってると言う変化のお話、もう少し詳しく聞かせて貰えるかしら」


少女の視線が自分から女性自衛官に移り、話の内容が男の自分が口を挟めるものでは無い事を察して水橋はソファーから腰を上げた。

わざわざ霧の中を逃げ延びて、貴重な情報を持ち帰ってくれた少女に現状何もしてやれぬもどかしさは有ったが。



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