突入
「度胸はあって?」
挑むように、普段は使わない女のイントネーションで水橋に問う八神。
ご丁寧に小首まで傾げて見せる。全く食えない女だ。
「もちろん行きますよ。行かなきゃ先へ進めない」
生意気な態度の八神に対する見栄も有ったが、そもそもその八神が行くと言うのだ、無事に帰れる目算が無ければ行くまい。
八神が同行すると言うのが水橋にとっては何よりの担保。
地下駐車場で二人を待っていたのはまるでプラモデルを実物大にしたようなカーキ色の車両。
「自衛隊の車両ですか?」
傍らの八神に問う水橋に、八神は答えず手にしたごついトランシーバーに語り掛ける。
呼ばれて車両から出て来た自衛官に受けた簡単な説明に水橋はげんなりする。
事に後部ハッチから乗り込む後部偵察席に搭乗して見て、その狭さ暗さに辟易する。
水橋は狭い所や暗い所が苦手なのだがこの87式なんとかとかいう車両はそれをダブルで備えている。
つくづく八神という女は俺に嫌がらせをしたいのだろうかと被害妄想も湧く。
地下駐車場の一角に張られたいかついテントに案内され、自衛官に出された紙コップの麦茶を口に水橋は向かいの八神に問う。
「あの車両、あてにしていいのか?」
「戦闘能力は無いけどね」
八神の言葉に水橋が口を尖らす。
「戦車砲とは言わないが、それなりの砲が付いてるようだが?」
「25ミリ砲とかなんとか」
八神は大して興味も無さそうに呟く。
「当たれば結構な威力だそうよ」
言う口振りはあくまで他人事のよう。
「それなら怪物達とも…」
水橋が言い終わらぬうちに八神が口を挟む。
「水橋さん」
「?」
「自衛隊にはもっと強力な兵器が山ほどあるわよね?」
八神の物言いに水橋の脳裏に警報が鳴る。
こいつ俺にカマを掛けている。
「あれでは役に立たないと?」
「当たれば役に立つわよ、当たればね」
何故そんな言い方をするのか聞きたいのはやまやまだが、聞けば自分の無知をさらけ出すだけの事になりそうで聞けない。
ここは言葉を呑んで、理由は兎も角砲は役に立たないと言う事で納得しておいた方が良さそうだ。
「戦果は無いけど前回の出動でも乗員に一人の被害も出さずに生還してるわ」
何か口にするたびに引っ掛かりを残す八神。
「乗員に」とはどういう意味だ。
暗に住民の救助には使えないと言いたいのか。
乗用車でも社内に籠っていれば生還できたのだというし、装甲車ならば偵察には充分と言う事だろう。
「それにね、水橋さん」
丁寧な口ぶりが再び水橋に警戒心を呼び起こす。
「車内には多数のカメラが設置されてて、万が一乗員の我々に何か起きても、記録はリアルタイムで本部に送られて記録されてるから何も心配無いのよ」
ニッコリ微笑む妙齢の八神を張り倒したくなる水橋。
(こいつもしかして初めから自分の安全に興味ないのか?)
こんな危険な任務に何故俺より早く派遣されていたのか考えてみるべきだったかもしれないと水橋は今更のように気付いた。




