敵襲①
ガーンガーンガーン!!!
「魔物が村に迫ってきてるぞ!男は入り口に集まれ!女子供は村長の家に隠れるんだ。早く!」
騒々しい銅鑼の音で目を覚ました。急に眠りを妨げられ、少しイライラしながら、ベッドから跳ね起きた。バータルは既に部屋にはいなかった。
俺は先程から聞こえてくる、男は村の入り口に、という声に従い、斧を持ち上げ宿の外に出た。
村の中は恐慌状態に陥っており、ほぼ統率が取れていない状態のようだ。立場の高そうな老人が必死に村人を説得している。どうなっているんだ、という声が聞こえてくるが、おそらく誰も事態の全容は把握していないだろう。それがこの恐慌に拍車をかけている。
俺は村人たちの喧騒を尻目に、村の入り口に走った。恐らく、バータルやアズはそこにいるであろう。しかし、本当に何が起きているのだろうか。魔物が村を襲うということはこの世界ではそれなりにあることなのか。世界観的にはおかしくなさそうな話ではある。いや、それにしては、村人たちは動揺しすぎな気もする…。
村の入り口に着くと、十数人ばかり、主に若い男たちが集まっていた。期待どおり、バータルとアズはそこにいた。
「バータル、アズ、いったい何が起きているんだ?二人は何か知っているのか?」
「遅かったな兄弟。かなりまずい事態だ。ゴブリンに村を囲まれた。
先日の襲撃が気にかかっていたんで、ちょっと辺りを調べていたんだが…。くそっ、嫌な予感が的中しちまった。だけど、ゴブリンが村を襲うなんて…この辺りでは聞いたことがないぞ…!」
どうやら、バータルを持ってしても想定外の事態のようだ。村の若者のリーダーと思しき男が声をかけてきた。
「バータルさん、貴方の言ったとおりだった。数百を超えるゴブリンの集団が村を取り囲んでいる。こちらで戦えそうなのはここにいる十数人、ほとんどが実戦経験もない素人だ。正直、戦っても勝ち目はない。囲まれていて逃げることもできない。
貴方が最初に言った時、皆の避難を指示しておけば…すまない…。
こんな状態にしておいて都合の良い話だろうが、何か打開策はないだろうか。もう、貴方しか頼れるものがないんだ!」
若者たちのリーダー、ノホイは端正な顔を歪ませながら、吐き出すように言った。
「私からもお願いします。バータル、何か手はないの?」
アズもバータルの目をまっすぐ見る。
事態は一刻を争う状況だ。バータルの決断一つで、村人が全員の命が絶たれることも十分あり得る。バータルは少しの間、天を仰いだ後、覚悟を決めたようだ。
「こんな大集団を指揮できるゴブリンなんてゴブリンキングしかいない。王を倒せば奴らは自然と離散する。今できることは、数名を遊撃隊として王に差し向ける、それしか方法はない…!」
「数百体のゴブリンの群れから、王を見つけて倒すだって!?」
到底、現実的な話とは思えなかったのだろう。ノホイは信じられないと言った表情で、声を発していた。
正直にいえば、俺もノホイと同じ気持ちだった。けれども、バータルの決意に応えようと、気持ちを奮い立たせた。
「それで行こうバータル。その名誉ある遊撃隊には、もちろん俺も入ってるんだよな。」
「私も行くわ。私の剣の腕は知っているでしょう。」
「アズ!?」
バータルはアズが参加することには、少し渋っていたが、止めたところで無駄であろうことを察したのか、それ以上は何も言わなかった。
最終的にバータル、アズ、俺、ノホイ、村の若者、ネグとホユル、が2人、総勢6人でゴブリンキングを討ち取りに行くことになった。
俺たちが村を出た後、門を完全に閉め、一切の出入りを塞ぐことになる。この村は入り口はこの門一つしかなく、周りはそれなりの塀に囲まれている。そのため、門を閉めてしまえば、例えゴブリンが大勢で襲ってきたとしても、数時間、朝までくらいならば持つであろう。ただし、ゴブリンが攻城兵器みたいなもの、例えば、破城槌みたいなものを用意していたら一貫の終わりだが…。話を聞く限りゴブリンにはそこまでの文明を築く力は無さそうなので問題なかろう。
バータルの見立てでは、あと四半刻もすれば村への襲撃が始まる。
俺たちは限られた時間の中で、決死の作戦を敢行するため、静かに門を出た。目的地は最もゴブリンが密集している北の林だ。
バタリ、ガチャ
背後で門の掛け金が閉まる音がする。もう退路はない。俺たちは覚悟を決めて、ゴブリンの待つ林へと足を踏み入れた。