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【連載版】未完成の夏~すれ違う思い、重なる夏の記憶~  作者: 空気人形


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episode.18「あの日の美術館と、未来の笑顔」

美術館のレストランの入り口に掲げられた、看板。

――『本日、貸切のため一般のご利用はできません』


まさか、人生の巡り合わせとはこれほどまでにドラマチックなのだろうか。あの夏、ただ遠くから見つめることしかできなかった彼と、まさか本当に人生を共に歩み、夫婦として結ばれることになるなんて――。当時の私には、想像すらできなかった未来だ。


純白のウェディングドレスの長い裾をスタッフさんが優しく整えてくれるのを感じながら、私は控え室の大きな鏡に映る自分の姿をぼんやりと見つめていた。ふと、今さらながらにこみ上げてくる奇跡のような実感を、ゆっくりとかみしめる。


少し離れた控え室の窓際の席では、今日という人生最高の日を心から祝福して駆けつけてくれたあいさんと、あの日からずっと私たちを見守り続けてくれたゆうちゃんが、楽しそうに声を弾ませながら賑やかに会話の花を咲かせていた。

二人のおしゃべりする笑い声を聞いているだけで、直前までの緊張でカチカチに張り詰めていた胸の奥が、ふっと温かく和らいでいくのが分かる。


しばらくして、二人がドレス姿の私のほうへとゆっくり歩み寄ってきた。

「かえでちゃん……っ、本当に綺麗! おめでとう!」

「二人とも、今日はこの最高の一日にわざわざお祝いに駆けつけてくれて、本当にありがとう」

私が心からの満面の笑みで感謝を伝えると、ゆうちゃんは目をうるうるとさせながら嬉しそうに目を細めた。

「なに言ってるのよ、こっちこそこんな素敵な晴れ舞台に呼んでくれて本当にありがとう! ……ちなみに私の方はね、最近会社の先輩とすごくいい感じで、なんだか順調に進んでるんだよねー」

そう言って少し照れくさそうにはにかむゆうちゃんの表情は、あの夏、一緒に恋に恋してバタバタしていた頃のあどけなさを少しだけ残しながらも、大人の女性の美しさを纏っていてとても輝いていた。


そして、私たちの恋の最強のキューピッドとなった先輩のあいさんはというと……、

「私? 私はね、後輩に先越されちゃったんで、最近はもっぱら気合を入れてマッチングアプリにいそしんでいるところよ! いい出会いがあれば、いつだって次の主役の座を狙ってるんだからね。今日の結婚式での素敵な出会いに期待してるわよ!ブーケは私がいただくわよ、ゆうちゃん!」

と、相変わらずの豪快でパワフルなリップサービスで、控え室の空気を一気に明るく、お祭り騒ぎのように盛り上げてくれる。

本当に、この二人の最高の友人たちに支えられて、笑い合って、今の私があるのだと改めて実感し、胸が熱くなった。


地元のあの美術館が、その開放的な屋上で素晴らしい景色を一望しながらアットホームな人前式ができるという素敵なサービスを最近始めたと知ったとき、私たちの結婚式を挙げる場所は、ここ以外に絶対にあり得ないと、迷いは一切なかった。

すべての始まりであり、切ないすれ違いと苦い思い出の舞台でもあったこの場所で、今度は私たちが主役となって、永遠の未来の誓いを立てるのだ。


「はい、お待たせしました! 花嫁様のお支度、すべて完璧に完了しましたよー!」


スタッフの明るく弾む声に続いて、ゆうちゃんとあいさんが驚きと称賛の入り混じった最高の笑顔で私の顔を覗き込み、「わぁ……めちゃくちゃきれいだよ!」とスマホのカメラを向けてくれる。

鏡越しに映し出されている純白のドレス姿の私は、自分でも驚くほど表情が柔らかく、幸せに満ちあふれていた。


彼とのすべての記憶は、あの日の美術館の緑の庭から、そしてあの木陰のベンチから始まった。

あのときは、夕闇の中に遠ざかっていく彼の後ろ姿を見送ることしかできず、「また会いたい」というたった一言さえも胸の奥に飲み込むのが精一杯だったあの夏の日々。あの切なさを思い出すと、今でも胸の奥がキュッと愛おしく締め付けられるような気持ちが蘇ってくる。


けれど、今はもう違う。

あの時の続きを、私たちは何年もの時を経て、しっかりと自分たちの手で繋ぎ合わせたのだ。あの優しくて、少し照れくさそうな笑顔を浮かべてくれた彼が、今、扉の向こうで私を待っていてくれる。


もう胸の高鳴りを抑えきれなくて、私はそっとドレスの裾を持ち上げた。

もう迷わない。


あの夏の青空の続きが果てしなく広がる場所で、私を待っている、最愛の彼の元へ。

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