最強のサプライヤー
「そ、そんな! 龍一君! 体は何ともないのか? めまいとか、だるいとか?」
「大丈夫? 龍一君?」
鳥居と金剛が、龍一の体を隅々まで眺めながら、心配そうに声をかける。
「それ、白鳥先輩にも同じことを聞かれましたが、特に何も……」
改めて龍一は首をコキコキ鳴らしたり、腕を回してみるが、体調が悪いようには感じられなかった。
「これは……まさに魔力の泉だ! 私の眼に狂いはなかった! わっはっはっは!」
「珠美ちゃん、悪徳商人の顔になっているよ。でも龍一君、これはすごいことなんだよ!」
普段、感情を表に出さない金剛が、興奮した笑みを龍一に向けた。
「そうなんですか? 最初のうちはうまくいかなかったんですけど、体に流れる”気”を”蒼い水”と思って、ゴーレムに”注ぐ”ように念じたら思いの外、早く魔力を注入できました。もう少し練習すればもっと早く注入できるかも……」
話しを遮るように、鳥居が龍一の両肩をつかみ、血走った眼を向けながら唾を飛ばした。
「龍一君! この調子でどんどんゴーレムに魔力を注入してくれたまえ!」
「え? でも、もうゴーレムが……」
「心配するな! まだまだたくさんあるから!」
鳥居が端末を操作すると、倉庫からぞろぞろと透明なゴーレムが現れた。
「ええ~!」
※
「はっはっは! ゴーレムよ! どんどん私に魔力を送れ! 【なぎ払い!】」
ゴーレムから魔力を注入され、蒼く輝く鳥居から放たれた【なぎ払い】は、五体のゴーレムの足を一瞬ですくい、尻餅をつかせた。
「【だ~るまさんが~こ~ろんだ!】そして、【お座り!】」
同じくゴーレムから魔力を供給され、蒼く輝く金剛が言霊を唱えると、五体のゴーレムの動きが止まり、飼い犬のようにひざを曲げ、両手を地面につけてお座りをした。
「龍一君! 魔力が溜まったゴーレムを、どんどん私に送れ!」
「珠美ちゃんする~い! 龍一君、わたしにも!」
「は、はひぃ……」
「いやぁいい汗かいた! 実に気持ちいい!」
「珠美ちゃん、魔力使いすぎだよ。龍一君がダウンしているよ」
龍一は大の字に寝転がり、犬のように舌を出していた。
「だ、だひじょうぶでふ。むじろ、ご、ごえが……枯れぢゃって……」
「しかしあれだけ我々が魔力を使っても、まだ魔力満タンのゴーレムが二十体以上も残っているとはな……。龍一君の魔力は一体どうなっているんだ?」
「珠美ちゃん、龍一君って《サプライヤー(魔力供給者)》向きかも?」
「おお! 自分の術に酔ってて、すっかり気がつかなかった!」
「え? なんですか、その、サプライヤーって……」
ようやく体を起こした龍一が、金剛に尋ねる。
「サプライヤーってのはね……自分の魔力をみんなに与える専門家なんだよ」
「それは【マギディ】とは違うんですか?」
「むしろ【マギディ】を専門に行う術者だな。携帯電話とかの充電用バッテリーと思えばいい。パッケージにかいてあるだろう? 三回とか五回充電可能とか。正にそれだ!」
「つまり僕は【マギディ】という名のコードをレイダーに繋げて、電気じゃなく、魔力を送り込むのが仕事だと?」
「そのとおり! レイダーは、自分の魔力だけではすぐ空っぽになるから、みんなからの魔力が必要になる。さらに魔力の残量を計算しながら術を使わなければならない。だが、サプライヤーがいれば、己の最大級の術を魔力を気にせず、何度も使えるんだ!」
鳥居に続いて金剛も興奮した表情を龍一に向けた。
「それにね、サプライヤーって人は、ものすごい数が少ないんだよ。優秀な人はそれこそ他校からね、超特待生扱いで引き抜きが来るくらいに!」
「ああ、これはひょっとしたら、我が龍堂学園は無敵のチームになるぞ!」
「珠美ちゃん、現実を直視しようよ……うちらまだ三人しかいないのに……」
鳥居はふと何かに気がつくと、魔力ゴーレムの行列を睨み付け、心の中で呟いた。
(こんなにたくさんの魔力ゴーレムが倉庫に眠っていたのを不思議に思っていたが、ひょっとして龍一君の力を龍造先生が……?)
※
下校時間が近づき、後片付けをしている龍一は、ふと、なにかの気配を観客席から感じた。
「鳥居先輩、観客席に誰かいるみたいですが?」
「ほおっておけ! ここもだいぶ使われていなかったからな。”白アリ”とか”黒ゴキブリ”が湧いて出ているんだろ? そのうち殺虫剤を買ってきて駆除しないとな」
「珠美ちゃん、どうせなら、スプリンクラーから散布してみようか?」
「おお、それはいい手だ! 《神の眼》と相談してみるか? じゃあ龍一君、帰ろうか」
「あ……はい」
なにか観客席が気になりながらも、龍一は競技場をあとにした。
「……行ったか?」
「……そうみたいですね」
照明の消された観客席から”黒ゴキブリ”と”シロアリ”がフィールドへ飛び降りた。
「とりあえず俺の学生証で魔粒子のスイッチをと……よし、オッケー! 鳥居の野郎! 人を害虫扱いしやがって! 白鳥、そっちはどうだ?」
「す、すばらしい! 目黒君、これをご覧下さい!」
「うっほ~! すっげ~!」
倉庫を開けた二人の目の前に立ち並ぶのは、龍一によって魔力注入された、二十体以上の蒼く輝く魔力ゴーレムだった。
『魔! 力! み! な! ぎ! り! 今の俺は最大最強のプロレスラー、《ドリアン・ザ・ギガント》すら倒せるぜ! さぁこいやぁ! うおぉぉ!』
ゴーレムから魔力を注入され、蒼く輝く目黒は、むさ苦しい咆吼を奏ながら、七体のゴーレムを次々にパンチやキックでなぎ倒していった。
『わっはっはっ! 愚民共、この白鳥羽斗を崇めよ! みよ! 我が術【伝書鳩】!』
同じく蒼く輝く白鳥は、高笑いをしながら術を唱えると、シルクハットから炎の鳥が次から次へと飛び立ち、七体のゴーレムにぶつけ爆発させた。
『『うわっはっはっはっは!』』
すでに誰もいない学校の地下では、二人の男の馬鹿笑いだけが響いていた。
汗と魔力の残り香を漂わせながら、月の光の下で肩を組み、馬鹿笑いしながら帰路につく目黒と白鳥。
やがてその笑い声も微笑みへと移り変わる。
「なぁ……白鳥。やっぱりマギカ・バディで”遊ぶ”のは、気持ちいいよなぁ」
「そうですね……。その点だけは目黒君と同意見ですよ」




