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目の保養

――部活勧誘五日目


「どうぞ」

 生徒会のドアをノックした龍一の耳に、副会長、稲津の事務的な返事が届いた。


「庵堂龍一です。失礼します」

 何となく緊張しフルネームで名乗ると、すぐドアを閉めれるようにゆっくりと開ける。


「いらっしゃい龍一君。君が来るのを心からお待ちしておりましたわ」

 甲斐の笑顔と薄桃色の花から香る音色が、重い龍一の心を軽くさせた。


 龍一も健康的な男子高校生であるがゆえ、アイドルのような生徒会長である甲斐と、クールビューティーの稲津、対極的な美女が二人いる生徒会室に入室する時は、何かしら期待の妄想を抱きながらドアをノックした。


 ましてや兆に一つ、昨日のマジュツ部で起こった痴態を、今度は生徒会室で美女二人が、裸エプロン……は、さすがに学校内では倫理的に無理と思うが、下着、せめて水着エプロンでお出迎えする妄想に酔う龍一を、誰がとがめることが出来ようか。


しかし、そんなふざけた妄想を現実に引き戻す甲斐と稲津の学校規定の制服姿は、特に変わった様子が見られなかった。

 残念な気持ちと、なぜかほっとする気持ちが龍一の中で交錯していた。


「それでは龍一君、今日はこちらの椅子へ」

「ほら、先日、おっかない部が妨害したじゃない。今日はなるべくドアから離れた方がいいかな……って」


 龍一は会長机のすぐ前にある事務机の椅子に座る。

 稲津が電気ケトルでお湯を沸かすと、ティーポットにお湯を注ぐ。


「な、なんか今日、暑いわね。真理ちゃん」

「そ、そうですね。会長」

「え、そうですか? 僕は特に……」


「真理ちゃん、サーキュレーターをつけようか?」

「わかりました。では私のイナヅマを使って超出力で……」


(サーキュレーター? 扇風機かな? そんなモノどこに……)

 そんな龍一の疑問にかまわず、稲津は二股コンセントを手で握ると、先日みたいに体中に白い電気の糸を纏い始めた。


 モーター音と共に二人の足下からものすごい突風が噴き上がり、スカートがめくれあがる。

 男子のさがか、龍一の目は思わず二人の下半身に釘付けになった。


 目に飛び込んできたのは、甲斐の黒い下着と稲津の白い下着。

 稲津は薄い黒のストッキングに覆われているが、むしろそれが大人の色気を龍一に与えていた。


 さらに二人は時代劇に登場する、帯をほどかれる芸者みたいにクルクル回りながら、今度は二つの桃を龍一に向けて晒した。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 感電した時と同じ悲鳴を叫びながら、龍一はそのまま魂ごと固まった。


 昨日のマジュツ部のように、固まった龍一の前にお茶とお菓子が出される。

”食べなさい”と二つの笑顔で”命令”された龍一は慌てて口に放り込み、無理矢理飲み込んだ。


「あ、あの……」

「な・あ・に? 龍一君?」

 甲斐の笑みは、これ以上の会話も質問も許さない恐怖の笑顔だった。


「し、失礼しました!」

 慌てて立ち上がると、転がるように生徒会室を飛び出していった。


 ――部活勧誘六日目


「失礼します」

「やぁ龍一君。よく来てくれたね」

 オカルト&占い部の部室で出迎えたのは鳥居のみであった。


「あれ? 金剛先輩でしたっけ? 今日はお休みですか? あぁ、部活の占いですか」


「いや、三日目に君が来ることになっていたから、部活占いは二日間だけだ。今日は単に体調不良だ。授業には出ていたがつらそうだったから私が帰らせた」


「そうですか、じゃあ、お大事にと伝えてください」

「ありがとう、やさしいな。後でメールしておくよ。ここに来てくれたと言うことは、って、その顔を見るに、あまり気分がすぐれないようだな」


「いろいろと身に降りかかってきたので、正直何が何だかわからないです」


 龍一は、両親から聞かされた龍造の本当の姿から、昨日拝んだ甲斐と稲津の”観音様の片鱗”を淡々と話した。


「そうか、確かに一般人から見れば、魔術や各術も、よくわからない宗教的なモノにしか思えないだろうな」


 鳥居も、あらかじめ用意されていた答えのように淡々と龍一に話した。


「あの? こんな事を聞くのもなんですが、なんでマジュツ部の人とか……下半身がすっ裸だったんですか? 生徒会の方達はその下着姿で あ、稲津さんはストッキング? って言うんですか? それを履いていましたが?」


「生徒会の連中に関しては、君に対して行った報いだ。先日、凶悪犯の犯人のように、君を校内中さらし者にしたんだろう? もっとも稲津に関しては一応”想い人”への貞操を考慮して、ストッキングを履かせることにしたがな」


「そういうことですか。じゃあ、マジュツ部の人たちは、僕の制服を燃やしたから?」


「あ~、そういうことがあったな。ならそういう理由付けが出来たな。いやぁ、龍一君がひょっとしたら”そっち”系だと思ってな。どうせ生徒会を”さらしモノ”にするなら”男女平等”の方がいいと。なぁに、魔術の世界では同姓同士なんてよくあることだ」


「白鳥先輩もそうですが、僕をそういう眼で見ないで下さい」


「そうかそうか、龍一君は普通の男子高校生だったか。なら昨日、会長と稲津の『観音様』を”お参り”できたのをよしとしようではないか。いろいろな事が起こった分、龍一君自身、英気を養わないとな。もっともここに来た時、生気がないように見えたのは、すでに”精気”を搾り取った後だったか?」


 鳥居の下ネタ系冗談も、今の龍一には反論も笑う気にもならなかった。


「あの……正直、僕はどうすればいいんでしょうか?」


「マジュツ部や生徒会が何を君に話したのかは知らないが、我々おっかない部は、君に伝えることは全て伝えた。私と金剛の身の上、生徒会の現状、そしてマギカ・バディ……。後は龍一君が決めることだ。それについては私たち、そしてマジュツ部や生徒会も何ら文句も、ましてや危害も加えない。これは保証しよう」


「そうですか……失礼します」


下校時、龍一の頭の中はまるでスライド写真のようにマジュツ部、生徒会、おっかない部での出来事。そして、ビデオで見たマギカ・バディのことが浮かんでは消えていった。

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