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マギカ・バディ ―魔術とカバディが融合した、究極のノベルスポーツー   作者: 宇枝一夫
第一部 第四章 ハーフタイム、そして後半戦
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……そして、試合終了(第一部 完)

 「……終わった」

 観客誰もが心の中で呟いた言葉であった。


 龍堂学園のキャプテンであり、攻守において最強のディフェンダーであった甲斐が、味方への【マギディ】によって倒れる。

 そう、城壁の姫は、もろはかなく崩れ落ちたのであった。


 あゆむ、奈里もその様子を見届けた。


 しかし、アタックサークルの中の白鳥はその表情を崩すことなく、むしろ愉悦に満たされていた。

 まるで、昨年の全日本中学制覇の美女三人の視線を一身に浴びて、男冥利に尽きるかのように。


(あいつ……笑ってやがる。甲斐も魔力切れで自爆したし……こいつは楽勝ね!)

 ゴシックメイド姿の美月は、余裕の表情を白鳥に向けた。


「美月!」


 夜長は、油断する美月をたった一言でいましめた。

 白鳥は何かを決意したように、その体中に魔力をたぎらせる。


「では淑女達へとっておきの贈り物を……。奥の手は文字通り、最後の最後まで”隠して”おくものですよ!」

「なんだ? あいつのタキシード、光ってやがる。ステッキも、帽子も……」


 美月の呟きを遮るように夜長が吼えた。


「あれは……【元素解縛】! タキシードを魔力に変換して。あいつ、ヘボマジシャンでも召還師でもない……錬金術師!!」


 夜長の叫びを遮るかのように、白鳥が競技場に響き渡る口上を述べる。


『いりゃぁ~せ~よっとりゃぁ~せ~! この帽子の中から出てくるのはウサギか、はたまた美女二人に捧げる薔薇の花束か? ……そんなわけありゃ~すか! 白き炎の鳥に決まっとるだがね~!』


”ドゴ~~~ン”


 真っ白な煙を噴き上げながら爆発した白鳥の体から、白い炎をまとった巨大な炎の鳥が、美月へ向かって一直線に飛翔する。


「ステッキ、タキシード、シルクハットすら魔力に変換しての炎の鳥! 美月!!」

「こんな燃えカスの鳥、一刀両断にしてやるよ!」


 美月が右腕を上下に振ると、【風の刃】が、炎の鳥を一刀両断した。


「へっ! なんだい、あっけねぇの」


 しかし、白鳥の体から爆発した煙がアタックサークルを中心にコート上へと広がっていった。


「ちっ! また煙幕か!」

「美月! 後ろ!」

「えっ!」


 白い煙に紛れて、美月の後ろには白いブリーフ姿の白鳥が戦闘態勢をとっていた。


「私が錬金術しか使えないダメマジシャンだと思っていましたか? そんなわけありゃ~すか! 目黒君譲りの格闘家でもあるんですよ! さあ、かかってきやぁ~せぇ~! ハイア! ハァッ! セイ!」


 白鳥は拳を構えると、でたらめにシャドーパンチやキックを繰り出した。


「何が格闘家だ! 魔力も尽きたエセマジシャンのくせに!」

「おやぁ~? なにもパンチやキックだけが格闘ではないですよ」

「な……」


 【風の刃】によって二つに割れた炎の鳥は、アメーバーみたいにそれぞれが半分の大きさの炎の鳥へと変化し、白鳥のパンチやキックに合わせて美月の周りを飛び回った。


「こいつ!」


(あれは! ファーストレイドで俺に向かって掛けた技! しかも二体同時に操るとは!)

 大凶魔學院ベンチの倉が心の中で叫んだ。


「それ左フック! そしてアッパー!」

 白鳥の拳の動きに合わせ、二体の鳥が煙の中から美月の右こめかみ、そして地面すれすれに飛行して美月の真下で急上昇しアゴを狙う。


「くっ! このぉ!」


 そんな炎の鳥の攻撃を、美月は驚異的な反射神経でギリギリでかわしていった。

 それを眺めながら、白鳥は妖しく唇を歪め呟く。


「さぁ、踊りなさい。私に操られた美しき『黒衣の操り人形ゴシック・マリオネット』よ……」


 それでも美月は夜長に向かって叫ぶ。 

「夜長様! こいつは【術操舵(じゅつそうだ)】で足が止まっています! 私もろとも攻撃を!」


 ―【術操舵】のスキルは多大なる集中力を必要とするため、マギカは足を止めて行うものであるが、ベテランのマギカにおいてはその限りではない―。


 しかし、美月の叫びに夜長は答えなかった。


「夜長様! なぜ【黒炎爆(こくえんばく)】を撃たないんですか!?」

 術を唱えるのに躊躇している夜長に向かって、美月が叫んだ。


『美月。私はね……もう誰も……失いたくないのよ。わかってちょうだい』

”!!”

 ほんの数刻前の夜長の言葉が、美月の体を支配した。 


「部下想いのいいキャプテンです。ですが、勝負の世界では、その甘さが命取りですよ」

「だったら! 私一人でお前を倒す!」

「できますかな?」


 白鳥は両拳を顔の前で構えると、上半身を左右に振りながら∞《無限大》の文字のように回転させ拳を放つと、炎の鳥も美月の前で∞を描きながら飛び回っていた。


「そんな付け焼き刃のデンプシーロールなぞ!」


 美月は両翼から襲いかかる炎の鳥を見切ると、体にぶつかる瞬間、すぐさま後ろへ飛び、


”ドグオオォォーン!”


 炎の鳥を相打ちにさせた。


「へっ! ざまぁ……なにっ!?」


 煙の中から白鳥が一気に間合いを詰めてきた。


「奥の奥の手! 一週間履いて、いい具合に熟した我が愛しの勝負パンツよ、【元素解縛】!」


 ブリーフが光り輝くと消滅し、魔力へと変換された。


「そして右拳へ【加速】と稲津さんよりパクった静電気ほどの【カミナリ】を付与! フリ○ン姿で美月様のチンへ逝かせて貰います!」


「しまっ……」


”ピシッ!”


 超スピードの白鳥の右拳が、美月の顎の先端をかすめた。

 その瞬間、付与されたわずかな【カミナリ】が顎から脳を感電させた。


「がっ!」


 美月の体が、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちると、龍堂学園のメンバーが心の中で叫ぶ。


 目黒が(やったぜ白鳥! もうヤツは立ち上がれねぇぜ)

 稲津が(白鳥君! 逃げて~!)

 金剛が(逃げて……羽斗君……走って!)

 鳥居が(でかしたエセマジシャン! 骨は拾って生物室の標本にしてやる!)


「ご安心を、皆さんの魂の声は届いていますよ! しかし! 私がフリチンで走ると思っていましたか? そんなわけありゃ~すか! ちゃんと”イチジクの葉”で隠してあります」


”はっはっは!”と叫びながら、白鳥は短距離選手のように両手を高らかに振りながら、龍堂学園のコートに向かってさわやかに駆けていった。


 煙が晴れ、倒れた美月を見た夜長は、憤怒の表情で右手を上に掲げた。


「【黒炎爆】!」


 大人の頭より二回り以上大きい、禍々しい黒炎を纏った炎の玉が、白鳥に向かって超スピードで放たれた。


「たとえよけてもすぐ第二発がきます。どうせなら……。夜長様! 貴方からの愛。この白鳥が全て受け止めて差し上げましょう!」


 白鳥は体をひねりながらジャンプし、その胸で夜長の【黒炎爆】を受け止めた。


”ドグォォーン”


 白鳥の胸で黒い爆煙が噴き上がり、爆風と衝撃波が大凶魔のコートを覆い尽くした。


 後方へ吹き飛ばされた白鳥はそのまま龍堂学園のコート上に背中から転がっていった。


 A、Bが驚きの声を上げる。

「あのマジシャン! わざと胸で受けて、その衝撃で自軍のコートへ!?」

「めちゃくちゃだぁ!」


『龍堂学園レイダー、レイド成功、並びにコートイン確認。レイダーダウンの為、カウントテン開始、十、九、……』


 神の眼から発せられるカウントの最中、龍堂学園のメンバーから白鳥に向かって、魂のげきが力の限り飛ぶ。


 目黒が(た、立てや~白鳥~!)

 稲津が(お願い立って~!)

 金剛が(羽斗君……立って!)

 鳥居が(別のモノがタッてもかまわん! 男なら立ち上がれ!)


「言われなくても、立ち上がりますよ。じらしているのは……どんなポーズで立ち上がろうかと……考えて。やはりここはサイドチェスト、いや、サイド・トライセップス!」


 白鳥は、背中で一方の手首をつかむと、ひざを曲げ片足を前に出し、ボディビルダーのようにポーズを決めながら立ち上がった。


『龍堂学園レイド成功。1ポイント獲得。スコア、大凶魔學院16。龍堂学園9』


 目黒と稲津が「「やったぁぁぁ!」」

 金剛が「羽斗君……やったね」

 鳥居が「やってくれるじゃねぇか変態マジシャン! これでダブルスコアはなくなった!」


 しかし白鳥はそのままコートへ沈んでいった。


「白鳥ぃ!」

「会長!」


 目黒と稲津の叫びがコートを貫く。

 白鳥がレイド成功したのにもかかわらず、甲斐はコート上でうずくまったままだった。


 A、Bが観客を代表して呟いた。

「これで終わりだな……」

「ああ……龍堂学園もよくやったよ」


 歩、奈里はただ甲斐を見つめていた。


『大凶魔學院アンティ一名ダウン。龍堂学園レイダーダウン。すみやかにコート外へ』


 《神の眼》の命令が両チームメンバーに届けられる。

 洞と氷耶麻が美月の元へ、そして目黒と稲津は白鳥、鳥居と金剛は甲斐の元へと力なく歩いて行く。

 目黒が片膝をつき、白鳥の体を起こそうとした瞬間!


『Ladies and Gentlemen!! Attention! Please Welcome! The Princess of Castle Wall!!』


 突然白鳥が大の字に寝転がったまま、天井へ向けて甲斐の口上を叫び始めた。


「お、おい、白鳥……」

 目黒ですら、白鳥が気が触れたかと素で心配したが、


「か、会長……ま、まさか!」

 甲斐を見つめる鳥居が一歩、二歩と後ずさる。

 夜長は腕を組みながら甲斐の体を注視する。


”ボワッ!!”


 湯気のように甲斐の体から魔力が沸き上がると、


”ドッバァ~!”


 間欠泉のように魔力が噴き上がった!


 蒼き魔力の炎を纏いながらゆっくりと立ち上がった甲斐は、真正面に立つ夜長をまっすぐに見据え、夜長は微動だにせず甲斐の視線を受け止めていた。

 

「な、なにが……」

「……起こっているんだ」


『マギディ・コルドロン』


 奈里の呟きはすべての観客、そしてメンバーの鼓膜を貫いた。


「へっ! やりやがったぜ、あのお嬢ちゃん。一人でマギディ・コルドロンを完成させやがった」

 歩も奈里の答えを是とした。


「そ、そんな……一人でマギディ・コルドロンを!?」

「あ、ありえない」

「し、しかし、この現実をどう説明する!」

 狼狽える大凶魔派の観客達。


「いやったぁ~!」

「会長! いけぇ~!」

 龍堂学園側は風紀委員の竹ノ内を始め、水を得た魚のように叫んでいた。


「はっはっは! やったぜ会長! てか白鳥、知っていたのかよ?」

 白鳥に肩を貸した目黒は問いただした。

「私は……反対しましたが……まさか、成功……なさるとは……まさに……マジシャン顔負けの……イリュージョンですね……ハハハ」


 白鳥をベンチに寝かせた五人の顔にも血色が戻り、目黒が力の限り叫んだ!


「会長! 足手まといは全員ベンチだぁ! 俺たちに気兼ねなく思いっきりぶっとばせぇ!」


”ハハハ!”と他の四人から笑いが漏れる。


『死ぬときは、みんな一緒よ』 


 白鳥の脳裏に甲斐の微笑みと言葉が思い起こされる。

 もうここまでこれば勝ち負けは関係ない。

 どのみち試合が終われば、自分たちには次がないから……。


 三回戦も……。

 この先の……未来も……。

 

『両校一名のみの為、ただいまよりサドンデスを始めます。カウントテン後に開始。十、九、八……』


 甲斐は顔を上げ、神の眼に向かって、体の奥底から声を絞り出した。


『神の眼よ。我が龍堂学園は、ただいまをもちまして……ギブアップを……宣言致します』


『龍堂学園キャプテンによるギブアップ確認。ただいまをもちまして大凶魔學院学園チームの勝利と致します』


 《神の眼》は淡々と試合結果をアナウンスした。


 そして、すべてが凝固した競技場があとに残される。


『ふ……ふ……ふっざけんじゃねぇ~~~!!』


 目黒の魂の咆吼でも固まった観客、メンバーは微動だにしなかった。

 ただ一人、甲斐だけがゆっくりと顔を落としていった……。


(第一部 完)

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