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マギカ・バディ ―魔術とカバディが融合した、究極のノベルスポーツー   作者: 宇枝一夫
第一部 第四章 ハーフタイム、そして後半戦
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魔力欠乏症

「会長!」

 一番近い目黒が駆け寄り、

「すまねぇ!」

 すぐさま甲斐を抱え込むと、ゆっくりとベンチに寝かせた。

 慌ててベンチに駆け寄る龍堂学園メンバー。


「真理! バスタオル!」

「うん!」

 稲津と金剛が自分のバスタオルを甲斐の上に被せた。


「くっ! うぅっ! うあはぁ!」

 甲斐の顔に苦悶の表情が浮かび、苦しみから逃れるように体をひねらせる。

 被せたバスタオルが下に落ち、荒い息、揺れる乳房、スリットからのぞく太ももが女性メンバーから見てもエロティズムを感じさせた。

珠洲(すず)、稲津さん、会長の体を押さえてくれ!」

 鳥居は甲斐の横で片膝をつくと、手首や首筋、乳房の上や下腹部に手を当てる。


「お、おい、鳥居。どうなんだ? 会長はよ……」

「脳筋のくせに情けない声を出すな! ……大丈夫だ。おそらく『魔力欠乏症(けつぼうしょう)』による一時的な失神だ」


「で、でもよ。こんなに苦しそうだぜ?」

「失われた魔力を急速に回復しているゆえの苦しみだ。魔力が回復すれば治まると思うが……」


「……が?」

「会長の魔力量は私たちより遙かに膨大だ。例えるなら、私の魔力量が二リットルのペットボトルなら、会長はドラム缶並のキャパがある。どれぐらい回復すれば復帰できるのか……」


「じ、じゃあ、会長がこのままだったら……」

「ああ、後半が始まってもこのままなら、《神の眼》から競技続行不可能として、負傷退場を宣告されるかもしれない。あるいは大凶魔の狙いはそこにあったのかも……」


「いえ、そこまでの考えはないと思います」

 白鳥が顔を向けた先は大凶魔學院のベンチ。


『マギディ! マギディ! マギディ! マギディ! マギディ!』


 そこでは、同じようにベンチに横たわる夜長を取り囲み、メンバーが左手を夜長に向けながら、【マギディ】による魔力補給を行っていた。


「お、おい! 俺たちもアレをやろうぜ!」

「はい! もはやそれしか手はありません」

「し、しかし、我々の【マギディ】の魔力で、会長が眼を覚ますか……」


 目黒、白鳥の提案に鳥居は難色を示すが、白鳥が一喝した!

「もはや一刻の猶予もありません。言いたくないですが、キャプテンである会長がこの状態では、副キャプテンであるこの私の指示に従って下さい!」


「白鳥君の言う通りね。やりましょう! あたし達の魔力が空になっても会長一人復帰すれば、大凶魔を倒すことができるわ!」

 ミーティングでの甲斐の言葉通りになりそうながらも、稲津はみんなを鼓舞させる為、声に力を込めた。


 マギカ・バディの経験はともかく、メンバーで一番冷静な判断ができる稲津の声により、龍堂学園メンバーは甲斐を取り囲み、【マギディ】の基本ポーズをとった。


「副キャプテンの私が指示を出します。皆さんよろしいですね」

 白鳥の声にうなずく他のメンバー

「三、二、一! いきます!」  


『マギディ! マギディ! マギディ! マギディ! マギディ!』


 一方、観客席では

「お、おい! 両校とも、キャプテンが倒れちまったぜ!」

「あれだけの死闘を繰り広げたんだ。おそらく魔力欠乏症だな。むしろよくコート外までったな。もしコート内で倒れていたら、《神の眼》から負傷退場を宣告されてもおかしくなかったぜ」


「でもよ、大凶魔學院はともかく、龍堂学園のメンバーはほとんど素人だろ? サプライヤー(魔力供給者)がいるわけでもないし、メンバーの【マギディ】だけであのキャプテンが回復するのか?」

「どうだろうな……むしろ、龍堂学園はここまでかも」


 男子学生A、Bの辛口分析も耳に入らないかのように、龍堂学園の生徒達は甲斐を見守り、そして風紀委員長の竹ノ内は、竹刀を握りしめながら祈っていた。

(あ、あたしは祈ることしかできないけど、少しでも会長が回復しますように……) 


 そして、大凶魔學院のベンチでは。

『マギディ! マギディ! マギディ!』

「……ありがとう。もういいわ」

 夜長がゆっくりと眼を覚ました。

「夜長様!」

 夜長に向かって、美月はすぐさま夜長の水筒を差し出した。

 体を起こし、一口飲むと、凛とした顔と声をメンバーに向けた。


「前半戦お疲れ様でした。おのおの、すぐさま休息をとるように! もはや龍堂学園に力は残っていません。後半、一気に叩きつぶします!」

『『『『『御意!』』』』』


「夜長様、お召し替えを」

「ええ、お願い、美月」

 美月は折りたたみ式の着替えテントを組み立てると、残りのメンバーは背中を向けながら四方を取り囲んだ。


『マギディ! マギディ、マギディ……』

 空気が抜けた風船のように、龍堂学園メンバーは一人、また一人と地面に崩れ落ちていった。

 それでも甲斐は依然、苦悶に満ちた表情を変えることはなかった。

「ここまでか……」

 男子学生Aが、観客すべての声を代弁するかのように、一人呟いた。


 火室もまた、大凶魔學院メンバーを代表するかのように、龍堂学園に向かって吐き捨てた。

「フン、よくある手だ。魔力欠乏症になったエースに向かって、メンバー全員で【マギディ】を唱える。エースが復帰できぬまま、残りのメンバーも魔力が空になり、《神の眼》からメンバー全員競技続行不可能と判断され試合終了。弱小チームの精一杯のプライドだ……」


 その言葉に異を唱える者は大凶魔學院メンバーにはいない。

 中学時代、対戦した数多くのチームが同じような道を歩んできたのだから。

 しかし、火室の幼なじみであり、たしなめ役でもある氷耶麻は

「火室! まだ《神の眼》は……」


「だからといって、このまま終わるのを望むか? 倉よ?」

「……ふんっ! 火室よ、なぜ我がお主の”代弁”をせねばならぬのか?」

 そう言いながらも倉は、唇の端をわずかにつり上げる。

「ならおとなしくコートで突っ立てろ。甲斐もろとも全員、この俺が串刺しにしてやる!」


「ほほう。お主にあの脳筋馬鹿が倒せるとでも?」

「二度はやられぬ! ……残念だな倉よ。この試合のトップポインター(最高得点者)どころか、龍堂学園相手に一点も取れなくて」

「お主の心遣い、誠に痛み入る。安心しろ! おまえが取りこぼした分をおこぼれとして頂戴しよう」


”よろしいのですか? 夜長様?”

 着替えの手伝いが終わった美月は、一触即発のような両者の雰囲気に、思わず夜長にささやくが

”大丈夫よ。ごらんなさい”

 火室は術を放つ五指、倉は固く握られた拳を差し出すと、ほんの一瞬触れあった。


 意もしない火室と倉とのやりとりに、もっとも驚いたのは氷耶麻であった。

 別の意味で……。

(ええっ! 火室が倉君がぁ!? なにこの”熱い”展開!? 二人はいつの間に”そんな関係”にぃ!?)

 そんな氷耶麻を冷ややかな眼で眺めている洞であった。

  

 刻一刻とタイムアウト終了時間が近づいてくる。

 絶望と疲れが龍堂學院メンバーに重くのしかかってきた時に


『……《マギディ・コルドロン(【マギディ】の大釜)》』


 魔女コスプレ姿の金剛が、その姿に似つかわしい単語を呟いた。

「ハァハァ……ん、珠洲? なんだそれは?」

 鳥居の問いを遮るように、白鳥が力のない叫びを放つ!

「い、いけません! ハァハァ……それだけは!」

 今度は白鳥の叫びを目黒が覆い被せた。


「な、なんだぁ白鳥。も、もったいぶるなよ。ハァハァ……もしかしたら……一発逆転を狙える、大技かぁ?」

「……マギディ・コルドロン。文字通り、ハァハァ……『悪の魔術師の大釜』。一般的には魔力回復を増幅させる術、いえ、『儀式』……といっても…いいでしょう」


「ンならよ……今すぐやろうぜ! ど、どうせこのまま座して死を待つよりはよ!」

「せ、成功は万に一つもありません! それどころか、ぎ、儀式に関わった者の魔因子が破壊されて……二度と術が唱えられないどころか……廃人のき目に……」


「し、四の五の言っている暇はないわ。やれることは……やりましょう!」

 稲津は不退転の決意を放ち

「……だな、どの道ここで勝っても負けても、ハァハァ……私たちは大凶魔派に八つ裂きにあうんだ。そうなったらもはや……祓い師どころではないからな」

「……いいだしっぺはあたしだからね。さ、最初からそのつもりだよ」

 鳥居と金剛の言葉に、白鳥も意を決する!


「わかりました。時間がありません。すぐ開始します!」

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