濁流
一瞬にして黒き太陽が膨張し、、甲斐を始め、龍堂学園メンバーに展開された【対魔城壁】、そして《神の眼》の【絶対魔防壁】に包まれたコートが、黒炎の圧に満たされる!
「「「「「!!!!!」」」」」
悲鳴にならない絶叫をあげる、白鳥、目黒、鳥居、金剛、そして稲津。
”バァキキィィーーン!”
”バァキキィィーーン!”
すぐさま、一枚目、二枚目の【対魔城壁】が砕け、光の破片が黒炎に飲み込まれる。
さらに、黒炎と黒煙が最後の城壁を乗り越え、メンバーを頭から飲み込んだ。
【黒炎爆】の濁流にもみくちゃにされながらも、五人は腰を落とし、顔の前で腕を交差させ、何とか踏ん張るが
「あっ!」
「稲津さん!」
「なっ! 真理ぃ!」
稲津が場外へ飛ばされ、白鳥と目黒がわずかに気をぬいた瞬間!
「!」
すぐさま金剛が場外へ飛ばされた。
「め、目黒君! 生きてますかぁ!?」
「おう! 白鳥ぃ!」
一寸先も見えぬ中、二人は互いに声を出して確認する。
「鳥居はぁ! い、生きてるかぁ!」
「と、とりあえずな……だけど、もう限か……」
消えゆく声を吐き出しながら、鳥居の体も場外へ飛ばされる。
やがて、目黒の右に立つ気配が徐々に前へと移動する。
「お、おい! 白鳥! 何を!」
”バァキキィィーーン!”
最後の【対魔城壁】が砕かれ、漆黒の圧が目黒を襲い、足が滑るが
「し、白鳥ぃ! てめぇ!」
腕の間から目を懲らした目黒が見たものは、両腕を広げ、目黒と向かい合う白鳥であった。
「無駄死にではありませんよ。君のネイティブ・スキル、《魔術耐性》は……下手なストライカーよりも強力……ですから、君に……」
かき混ぜられたコーヒーが落ち着くように【黒炎爆】の濁流も治まっていく。
ほんのわずかな黒煙の流れで、白鳥の膝は崩れ、ゆっくりと倒れていく……。
目黒は、それをただ見守ることしかできなかった。
アンティー時はいかなる時も、味方の体に触れることは反則になるからだ。
黒煙の中、”立っている者”は黒の者二人!
漆黒のドレスを纏った夜長と、黒の学ランに身を包んだ目黒。
目黒は己のすべてを費やして、重い一歩を踏み出した。
「……あら、これは意外。どおりで倉君がムキになる……そうか、《魔術耐性》ね」
髪の毛から足の小指まで、すべてを引きずりながら、夜長へ近づく目黒。
だが、その歩みも止まる。【黒炎爆】のダメージではなく、夜長の後ろに輝く
”半分に縮まった”
”白い光”によって!
「か、会、ちょ……」
目黒は最後のつぶやきを発すると、夜長の後ろで腰を落とした甲斐に、すべてをゆだねたかのように、ゆっくりとコート上に倒れ込んだ。
突然! 夜長の腰を包み込む二本の腕!
「か、甲斐!」
「【黒炎爆】の弱点は夜長さん、貴女自身よ!」
「な!」
「貴女自身がいわば避雷針になって、貴女の周辺、特に足下は【黒炎爆】の影響を受けない。私も夜長さんと何年も寝食を共にしてきましたから……ね!」
甲斐の気合いと同時に、夜長の体を持ち上がる!
「あらぁ、それぐらい想定済みよ!」
夜長の左手が甲斐の顔に食い込み、甲斐の頬と唇が歪む。
「さぁ! ジャーマンとやらをこの私にかけてみせなさぁい! 逆に貴女を地面に叩きつけてさしあげますわよぉ!」
勝ち誇った声がコート上に轟く。
”二人分の!”
「はらはぁ《あら》、じゃれがじいめんにちゃちゃきちゅけるぅってひっちゃかすらぁ《誰が地面に叩きつけるって言ったかしら》?」
「え?」
『【ひゃいぶちゅぼふえくぃ《対物防壁》】!』
頭の後ろから感じる光の圧。
振り向いた夜長が見たものは、自分に迫ってくる【対物防壁】の光の盾だった!
「えっ!?」
「ひょいひょぉ《よいしょ》~~!」
”バァキイィィ~~ン!”
空中に浮かぶ【対物防壁】に頭部を叩きつけられた夜長の目は、ゆっくりと白くなっていく。
”ドドズズゥゥ~~ンン!”
ティーンズファッション誌のモデル並みの体型二人が倒れただけなのに、その衝撃波は競技場全体を轟かせるほど、見る者に錯覚を与えた。
『……』
沈黙する《神の眼》。
目黒と火室の時のように協議に時間がかかると誰もが思っていたが、
『アンティーがダウンする直前にレイダーが気絶した為、レイド失敗!』
『うおおぉぉぉ~~!』
雄叫びを上げる龍堂学園応援団。
『以上、前半戦を終了します。十分のハーフタイムの後、コートチェンジ。競技者はすみやかにコート外へ移動して下さい』
すぐさま夜長の元へ駆け寄る大凶魔學院メンバー。
体を引きずりながら甲斐の元へ歩む龍堂学園メンバー。
「や、やったぜ会長!」
体を揺らしながら、目黒は、いの一番で駆け寄った。
「夜長様!」
美月の呼びかけに眼を覚ました夜長は、すぐさま起き上がり辺りを見渡した。
「……」
頭を軽く振り立ち上がった夜長は、甲斐には眼もくれず、無言でメンバーを引き連れベンチへと下がっていった。
「おうおう、さすがお嬢様。負けてもお高くとまってらぁ」
口を尖らせる目黒に、起き上がった甲斐は夜長の背中を見つめながら顔の筋肉を緩めた。
「あれが、夜長さんよ。何事にも負けない。自分が負けと思わなければ敗北ではない、気高きキャプテン。そんな彼女の背中を見てきたから、みんな中学三年間戦えたのよ」
「おっとわりい、会長」
目黒が甲斐に向かって右手を差し出し、甲斐はそれを握りしめ、ゆっくりと立ち上がった。。
「「「「!!!!」」」」
夜長の【黒爆炎】を見た時よりも、驚愕の表情を浮かべる龍堂学園メンバー。
白鳥、鳥居、金剛が恐る恐る稲津の表情を伺うが
「まったく、打算だか天然か知らないけど、”アイツ”はああいうことを不意打ちするのよねぇ」
過去に”数え切れない不意打ち”を喰らったかのように、稲津は軽く微笑みながら二人の様子を眺めていた
「……って、なにみんな私を見てニヤニヤしているんですか!」
目黒から手を離した甲斐はベンチへと向かう。
そして両校のキャプテンがサイドラインを超えた瞬間!
『夜長様ぁ!』
『会長ぅ!』
黒と白の姫は、そのまま深い眠りにつくかのように、ゆっくりと崩れ落ちた。




