嘘を暴く舌
その日の午後、控えの間にルシアが訪ねてきた。
今度は一人ではなかった。侍女を二人連れ、銀の盆に美しく盛られた菓子を持っている。
「セラフィーナ様。先日は失礼いたしました。わたくしの振る舞いが至らなかったと反省しておりまして——こちら、わたくしの実家から届いた焼き菓子です。お詫びのしるしに」
微笑み。完璧な社交辞令。
だが目が笑っていない。前世でも今世でも。
「まあ、ご丁寧に。ありがとうございます」
菓子を受け取る。三つの焼き菓子。見た目は美しい。表面にアーモンドスライスが散りばめられ、粉砂糖がかけてある。
メイが控えの間の隅で不安そうにこちらを見ている。
「お気に召すとよいのですが」
ルシアが促すように微笑む。「食べて」と言外に言っている。
一つ手に取る。鼻に近づける。
バターの香り。アーモンド。小麦粉。砂糖。——そして。
粉砂糖の下に、かすかに混じる匂い。甘い中に紛れた、ほんの少しの酸味。
——蒼鈴草の粉末。
致死量ではない。だが食べれば数時間後に激しい腹痛と嘔吐を起こす。毒見師としての信用を失墜させるには十分だ。
「毒見師が体調を崩した」。それだけで、ルシアが後任になる口実が生まれる。
ダリウスの筋書きだろう。殺すのではなく、信用を潰す。巧みだ。
だが——私は前世で蒼鈴草の毒を三回味わっている。この匂いは忘れない。
「ルシア様」
「はい?」
「こちらの菓子、大変美しいですわね。ところで——ヴァルトハイム家の領地では、蒼鈴草が自生していると聞きましたが」
ルシアの表情が一瞬固まる。
「……ええ、山の斜面に多少」
「この菓子の粉砂糖に、蒼鈴草の粉末が混じっているようですが」
広間の空気が凍った。
ルシアの侍女たちが目を見開く。ルシア自身は——顔から血の気が引いていく。
「な——何をおっしゃっているの?」
「毒見師として申し上げています。この菓子には蒼鈴草の粉末が含まれています。致死量ではありませんが、摂取すれば数時間以内に激しい腹痛を引き起こします」
菓子を盆に戻す。
「もちろん、ルシア様がご存知なかった可能性もあります。輸送中に混入したのかもしれません」
逃げ道を作る。わざとだ。ここで完全に追い詰めるのは得策ではない。ルシアの背後にいるダリウスを警戒させすぎたくない。
だがルシアの顔色は、もう元には戻らない。
「そ、そんな——わたくしは何も知りません! お菓子は侍女に任せて——」
「ではお調べになったほうがよろしいですわ。ヴァルトハイム家のお名前に傷がつく前に」
穏やかに、だが一切の曖昧さなく告げる。
ルシアが盆を引ったくるようにして、控えの間を去っていく。侍女たちが慌てて後を追う。
扉が閉まった瞬間、メイが駆け寄ってきた。
「セラフィーナ様……! 本当に毒が?」
「本当よ。食べていたら今夜は大変だった」
「なんということ……ルシア様が?」
「ルシア嬢は——駒よ。指示した人間が別にいる」
メイの表情が厳しくなる。少しずつ、この子にも見えてきている。
翌日、噂は宮廷中に広がった。
「ルシア嬢がセラフィーナ嬢に毒入り菓子を贈った」——事実とは少し違うが、宮廷の噂とはそういうものだ。
ルシアは数日間、公の場に姿を見せなくなった。
一方で私の評判は上がった。「あの毒見師は、贈り物の毒すら見抜く」。
廊下ですれ違う貴族たちが、前より丁寧に挨拶をしてくる。
だが本当に重要なのは——ダリウスの反応だ。
翌日の晩餐の毒見を終えた後、廊下でダリウスと目が合った。
微笑んでいた。
だがその微笑みの質が変わっている。穏やかさの下に——氷。
「ルシア嬢がご迷惑をおかけしたそうですね」
「大したことではありません。毒見師の日常です」
「日常で毒入り菓子を贈られるとは、大変なお仕事ですね」
「ええ。おかげさまで、舌が鈍ることはなさそうです」
ダリウスの目が細くなる。一瞬——ほんの一瞬、仮面が剥がれた。冷たい怒りが覗いた。
すぐに穏やかな表情に戻る。
「お体にはくれぐれもお気をつけて」
去っていく。
心臓が速い。だが——足は震えない。
自室に戻り、メイに報告する。
「メイ。ダリウスが動き出すわ。ルシアの失敗で、次はもっと直接的な手を使ってくる」
「どうすれば……」
「一人では守れない。——味方が必要ね」
窓の外を見る。中庭の片隅に、いつものように書物を読む影がある。
エドワルド。
彼もまた、ダリウスに命を狙われている。
味方にするには——信頼が必要だ。
ざまぁ回、来ました。
ルシアの罠を逆手に取るセラフィーナ、いかがでしたか?




