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王立騎士団 ⑦

◆◇ 第二十七章 ⑦ ◆◇


 パレードも終わり参加した騎士と警備担当の騎士たちが騎士団棟に戻ってきた。

鍛錬場に集合した騎士たちを前に総騎士団長が挨拶をした。

「パレード参加者、警備担当者、今日一日ご苦労だった。今年のパレードも諸君の協力のもと滞りなく開催することがで出来たことを感謝する。今日は飲んで食べてと言いたいところだが建国祭はこれからが本番、隣国から使節団が派遣されてくるので気を緩めず任務を遂行して欲しい。以上。」


総騎士団長の話が終わると騎士たちはゾロゾロと騎士団棟へ吸い込まれて行った。

マティアスは皆が移動するのを見届けてから執務室へ向かった。

途中、一番後ろを歩いていた若い騎士たちの会話が聞こえてきた。

「今日さ、ウォーカー卿見かけたんだ。」

「ウォーカー卿って、あの? 大怪我した?」

「そう。今療養中らしいんだけどパレードを見に行ったみたいなんだ。」

「どこで見たんだい?」

「パレード前に順路の近くを巡回していたのだけど、ほら高級店通りの近くに小さな広場があるだろ?そこにいたんだよ。」

「あぁ、あそこか。まぁ別に広場で休んでたって問題ないんじゃないか?」

「まぁ、そうなんだけどさ、令嬢と楽しそうにしてたから驚いたんだ。」

黙って聞聞き流していたマティアスは震えた。


これってフェリシアとダレルのことでは?


マティアスは詳しく聞きたくて若い騎士たちにそっと近づいた。

背後に王子が聞き耳を立てているのに全く気づいていない若者たちはおしゃべりを続けた。

「へぇ、あの強面のウォーカー卿がねぇ。婚約者じゃないのか? 」

「あぁ、そうかもな。確か伯爵家の次男だと聞いたことがあるし婚約者がいてもおかしくないよな。」


婚約者は俺だよ、後ろにいる俺。


マティアスははらわたが煮えくり返りそうだった。


「その婚約者と思われる令嬢はどんな感じだった?」

「そうだなぁ、美しい淑女と言うより愛らしいお嬢さんって感じかなぁ。ウォーカー卿とのギャップがいい感じだったんだ。俺さ、なんか羨ましかったよ。」

「あー、わかる。俺も早く恋人欲しいよ。お互い頑張ろうな。」

「あぁ、そうだな。アハハ。」


マティアスは非常に不愉快になった。

どこがどのような理由で不愉快なのか。。。。

マティアスは自問自答できなかった。

ただただ感情的になってしまっただけ。。。

と、マティアスは自分を納得させた。


勢いよく扉を開けマティアスは部屋に入って来るや否やソファに崩れ落ちた。

はぁ〜とため息をつくとテーブルの上に足を放り投げた。

「戻られましたか、お疲れ様、、、あっ。」

部屋で待っていたルーファスはマティアスが不機嫌なのがすぐわかった。

ルーファスは今は刺激をしないようにお茶の用意を始めた。


何も気づいていない振りをしながらルーファスはお茶をテーブルに置いた。

「どうされました? お茶でも飲んで落ち着いてください。」

マティアスはチラッとルーファスの顔を見てからティーカップに手を伸ばした。

一口飲むとふぅとため息をつき天井を見つめた。

「パレードは無事に終了したと聞きましたが、何か問題でも起こりましたか?」

ルーファスはあまり気にしていない様子を出しながら聞いた。

「問題?個人的な問題なら、、、、あるかな。。。」

マティアスは力無く言った。

ルーファスはマティアスが話し始めるまで彼を見つめた。


「フェリシアがいたんだよ。」

「パレードを見に行かれたのですね。よかったじゃないですか。」

「・・・・」

マティアスの表情を見たルーファスは続けた。

「パレードに行かれたのが問題なのですか?」

「実は。。。」

マティアスが何か言いかけた時思いっきり扉が開けられた。

と、同時にフォークナー総騎士団長が入室して来た。

「殿下、ここにいらっしゃいましたか。今日はご苦労様でした。」

「あぁ。」

総騎士団長はマティアスの素っ気ない返事など気にもしていない様子だった。

「そうそう、殿下の姫君もいらっしゃっていましたね。仲がよろしいようで何よりですな。」

総騎士団長の言葉を聞いたルーファスはわざとらしい咳払いをした。

「団長、殿下が浮かない顔をしているのはどうやらその姫君のことで問題があったようですよ。」

「なんと、姫君とケンカでもしたのですか?」

総騎士団長はマティアスの顔を覗くとニヤニヤしながら言った。

「ケンカなんてしていないですよ。」

マティアスの言葉に総騎士団長とルーファスは顔を見合わせた。


「実は、、、、、」

マティアスは来て欲しくなかったのでパレードのことは話していなかったこと、知られてしまったが来てはいけないと伝えたことを話した。

「なるほど、来るなと言ったにもかかわらず姫君はパレードを観覧していたわけですな。」

マティアスは総騎士団長に向かって頷いた。

「単に来るなと言われたもののやっぱり見たいからお忍び風の装いで出かけただけではないのですかな。」

総騎士団長は顎の髭を触りながらつぶやいた。

「殿下は過保護すぎるのですよ。」

ルーファスはピシャッと言うとマティアスは頭を抱えた。

「フェリシア様がパレード観覧の為に街に行くと。。。えっと、何でしたっけ?」

ルーファスがわざとらしく言うとマティアスは小さい声で続けた。

「祭りの期間中は不特定多数の人が王都に来るから、、、変な男に声でもかけられたら困る。」

「うむ、殿下のお気持ちはわからなくもないですが、やはり自分の婚約者の晴れ姿は自分の目に焼き付けたいものでしょう。姫もちゃんと殿下の気持ちを汲んで護衛と侍女を伴っておいででしたよ。」

総騎士団長は諭すように言った。

「そ、そうだが。。。それだけじゃない。」

マティアスはここに来る前に若い騎士たちが話していた内容を二人に伝えた。

本人は真面目に話したつもりだったがマティアスが話し終えると総騎士団長とルーファスはゲラゲラ笑った。

「殿下はまた病気が発症したようですね。」

ルーファスはヤレヤレと言った表情をした。

「殿下にはご幼少のみぎりから剣術を指南して参りましたが、まさか恋の指南まですることになるとは思いませんでしたな。」

総騎士団長は孫を見るような目でマティアスを見た。

マティアスは二人の顔を交互に見ると憮然とした。

「何だ、何だ。二人して俺を悪者にして。」

「悪者になんかしていませんよ。」

ルーファスの一言に対してマティアスは黙って顔を見ただけだった。


「殿下、過保護は嫌われますぞ。それにパレードを黙っていたとは。。。後から知ったら姫君はかなりのショックを受けて寝込んだかもしれませんな。そして殿下のことを信用しなくなること間違いありませんぞ。」

総騎士団長はわざと大真面目な顔をしながら話した。

「そ、そんなフェリシアに嫌われるなんて。。。」

マティアスは先程までの怒りはどこへやら、今は泣きそうな顔をしていた。


「そ・れ・に」

ルーファスはわざとゆっくり話し始めた。

「若い連中が話していたことは仕方ないじゃないですか、彼らはフェリシア様のことはもちろん、ましてやダレル殿との関係なんて全く知らないのですから勘違いくらいしますよ。それを勝手に怒るとはダレル殿もいい迷惑ですよ。」

「うっ。」

ルーファスに正論をぶつけられ返す言葉もないマティアスだった。

「で、でもダレルは笑ってたらしいぞ。」

マティアスは反撃にでた。

「そりゃ、若い令嬢と話す時は笑うでしょう。叱責されているならまだしも、楽しい祭りで楽しい会話なら笑うしかないじゃないですか。」

ルーファスは何を言っているんだコイツと言いたげな顔をしていた。


マティアスは捨てられて仔犬のようにじっとりした瞳でルーファスの顔を見つめた。

「フフフ」

総騎士団長は笑い出した。

「殿下はフェリシア嬢とダレルが仲良くしているのが悔しいのでしょう?」

「い、いや、そういうわけではない。。。。」

マティアスはモゴモゴした。

「いや、そういうわけでしょう。殿下、それは嫉妬ですな。」

「もしかしたらフェリシアに優しくされてダレルが彼女に好意を寄せたかもしれないじゃないか。」

「ハハハ、殿下、それはヤキモチですな。」

「フォークナー総騎士団長、そうんなですよ。ヤキモチと嫉妬は殿下の持病なんですよ。」

マティアスは両手で膝を抱え込み、完全に拗ねた子供のようだった。

「殿下、私は殿下に剣術を指南致しましたが騎士の心得を教えるのを忘れたようですわい。」

総騎士団長が宥めるように言った。


「殿下、心配無用ですよ。ダレル殿は信頼できるお人です。殿下もそうお思いでしょう?だからフェリシア様の護衛に抜擢なさったのですよね?」

ルーファスは淡々と話した。

「ルーファスの言う通りです。ダレルは信用できる奴ですよ。それに殿下の姫君も中々タフなお方とお見受けいたしました。殿下、二人を信頼したらいかがですか?絶対殿下の思い過ごしですから。」

総騎士団長の言葉にマティアスはしばらく考え込んでいたが、ポツンと言った。

「・・・・・そうだよな。」

「そうですよ!」

総騎士団長とルーファスは声を揃えた。

「殿下はこれから王族としての公務がおありで忙しいでしょうから、式典が終わったら時間を作ってお二人でゆっくり過ごしたらよろしいですぞ。建国祭で忙しくて会えなかったのが誤解の原因でしょうからな。」

総騎士団長は「問題解決!」と言うと手を振って部屋を出ていった。


総騎士団長が出ていくとマティアスは再び小さなため息をついた。

「問題解決したのですからため息なんてついたらいけませんよ。」

マティアスはルーファスの顔を見ると次の心配事があるような素振りを見せた。

「実はさ、ルイスのことも心配なんだよね。」

「あぁ、ルイス様ですか。。。」

「どうもルイスの奴、フェリシアに付き纏っている気がしてさ。」

今度はルーファスがしばらく考え込んだ。

「んー、どうでしょうかね。実はフェリシア様とルイス様が一緒にいるところを見たことがあるのですが、フェリシア様はちゃんと距離を取って接していましたので彼女は理解していると思いました。ですから、先程同様全く心配御無用かと思います。」

「そ、そうか。。。」

マティアスは頼りなさそうな声で答えた。

「で・ん・か、フェリシア様を信じてください。殿下が選んだお方なんですから。」

マティアスはフッと笑った。

「そうだな。」

「でも、団長がおっしゃってたように二人の時間は作ってくださいね。ちゃんとお茶にご招待するのですよ。」

「あぁ、わかったよ。」

「あっ、ちょっとした贈り物もお忘れなく。」

ルーファスは冷めたお茶を捨て新しくお茶を入れ直した。

マティアスは熱いお茶を口に含むと落ち着きを取り戻すように深呼吸をした。

「こんなこともあと少しの辛抱だな。」

自分に言い聞かすようにマティアスは言った。

ルーファスも同意するように微笑んだ。

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