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王立騎士団 ⑥

◆◇ 第二十七章 ⑥ ◆◇


 「やっぱり揚げたては美味しいわね。」

「本当ですね、お嬢様。これなら何個でも食べられそうですわ。」

二人は邸内では絶対に見せないであろう食べっぷりだった。


「ねぇ、アンナ、やっぱり帽子被った方がいいかしら?」

フェリシアはシンシアにすぐ見つけられてしまったことで心配になったのだった。

本当はルイスのこともあったがそれは黙っていた。

「んー、帽子ですか? それよりショールはどうですか?ゆるく被ったら大丈夫だと思います。席に行く間に買いましょう。」


パンも食べ終わりお店を見ながら三番通りへ向かった。

途中、アンナの見立てで目立たない色のショールを買い頭から被り首元でクルッと巻いた。

「これなら私ってわからないかしら?」

フェリシアは一周回って見せた。

「えぇ、これならじっくり見ないとわかりませんわ。」

「アンナがそう言うなら安心ね。」

フェリシアはホッとした。


三番通りに入ると沿道にはすでに人だかりができていた。

周りの声もフェリシアの耳に入ってきた。


「パン屋の次男坊がパレードに出るんだと。」

「もうそんなに立派になったのか。なら応援してやらないとな。」


「お母さん、お兄ちゃん気づいてくれるかな?」

「きっと気づいてくれるよ。」


そうか、みんな応援したい人がいるのね。


「第三王子って素敵よねぇ。」

「あー、わかる。私、年一回ここで第三王子を見るのが楽しみだもん。」

年頃の女の子たちの楽しそうな会話も聞こえてきた。

アンナにも聞こえたようでフェリシアの顔をチラッと見るとニヤッとした。

「殿下はモテますね。」

アンナはフェリシアをからかうように言った。

「そうなのよ、マティアス様は私の心配ばかりするけど、自分の方が絶対にモテるんだから。」

フェリシアはつい不満を口にしてしまった。


かなりの人が集まってきた。

もうすぐ始まるのかもしれないとフェリシアは気合を入れて座り直した。

観客が続々と集まりだしパレードの始まりが近づいていることが肌で感じられた。

フェリシアは後ろを振り向くとダレルに質問した。

「ねぇダレル、マティアス様は何番目位なのかしら?」

「はい、殿下は王族ですし騎士団の幹部ですのでおそらくフォークナー団長の次の二番目のはずです。」

「そうなのね、じゃあお楽しみはすぐ終わっちゃう感じかしらねぇ。」

フェリシアが少し複雑な表情をするとダレルはフフと笑った。

「フェリシア様、殿下は二番目ですが副団長と二人並んでの行進になると思いますので、もし殿下が反対側だったら見辛くなってしまいますね。」

「そうね、でも、その方がいいかもしれないわ。こっそり見るには丁度いいかも。」

そう言いながらフェリシアは右を見たり左を見たり周りをキョロキョロ見ていた。

「フェリシア様、あまりキョロキョロすると逆に目立ってしまいますよ。」

ダレルから注意を受けてしまった。

「だってぇ、初めてだから色々なことが気になってしまうんだもん。」

フェリシアがいつもシリルに甘えるように少し唇を尖らせるとダレルは急に横を向き自分の顔を手で隠した。

一部始終を見ていたアンナはニヤニヤしていた。


「お嬢様、騒がしくなってきましたね。そろそろパレードが近づいてきているのではないでしょうか。」

アンナが言うとフェリシアの胸が高鳴った。

「私がパレードに出るわけではないのになんだかドキドキしてきちゃったわ。」

「フフ、もうすぐですね。」

アンナはフェリシアの反応を見るように言った。


しばらくすると遠くで聞こえた歓声がだんだん大きくなってきた。

と同時に馬の蹄の音と騎士たちの靴が地面を踏む音もどんどん近づいてきた。

目を凝らしていると行列を先導すると思われる騎士が二名歩いて来た。

一人はリスティアル王国旗、もう一人は王立騎士団旗を持っていた。

「もうすぐね。」

フェリシアは興奮してアンナの手を握った。

先導する騎士たちが目の前を通り過ぎると割れんばかりの歓声が聞こえ、同時にリズミカルな蹄の音も聞こえた。

馬に跨った総騎士団長が現れた。

「アンナ、フォークナー総騎士団長よ。」

「凛として素敵ですね。と、言うことは次は殿下ではないでしょうか。」

総騎士団長はじっと前方を見ているようで実は満遍なく周囲を見ていた。

フェリシアとアンナは特別目立つような動きはしていないのに総騎士団長は二人の方を見た。

そして手を胸にあて軽く会釈をした。

フェリシアの握ったままだった手が小刻みに震えた。

「アンナ、今、総騎士団長こっちを見たわよね?」

「えぇ、確かに見ましたね。」

「私たちに気づいている感じだったわよね?」

「えぇ、まぁ、私たちと言うより完全にお嬢様に向かって会釈してましたね。」

アンナは冷静に答えた。

あぁ、これでマティアス様に伝わってしまう。。。。とフェリシアが思っていると黄色い歓声が一際大きくなった。


あっ、マティアス様だわ!


ウィザードと共にマティアスが現れた。

ダレルが言っていた通り二人並んでおり残念なことにフェリシアとは反対側だった。


わぁ、マティアス様素敵。


フェリシアはアンナの手を離すと胸の前で組みまるでお祈りをしているような格好で彼を見つめた。

マティアスの銀色の髪は日差しを反射してキラキラ光っているようだった。

そして後ろに纏められた髪には以前フェリシアが贈った緑色のリボンが結ばれていた。

フェリシアにはマティアスとウィザードだけがスポットライトを浴びているように見えた。


いつも横を向けばマティアス様のお顔があったから気づかなかったけど

遠くから見ると本当に美しいわ。

髪の色は陛下でお顔は王妃様譲りね。

でも、、、、

せっかくお祭りのパレードなんだからもっと愛想良くて良さそうなものだけど

他では無愛想なのは噂通りなんだわ。

そう考えるとシンシア様って鋼の心臓の持ち主なのね、フフ。


フェリシアの脳内はマティアスが目の前を通り過ぎるわずかな時間でフル活動した。

「殿下素敵ですねぇ。お嬢様見辛くないですか?」

「えぇ、大丈夫。このぐらいの距離があった方が落ちつて見られるわ。」

フェリシアとアンナが顔を寄せ合って話した時、一瞬マティアスの目が二人に向けられたように感じられた。


ん? 今こっち見た?


フェリシアはドキッとした。

隣りのブロックで観覧している令嬢たちがキャーキャー騒ぎ始めた。

「今、王子様と目が合ったわ。」

「違うわよ、私のことを見たのよ。ステキー」

「えー何言ってるのよ。絶対私よ!」


そうよね、お隣りのグループを見たのよね。

手も振っていたみたいだし。


フェリシアはそう自分に言い聞かせた。

そしてマティアスの姿はだんだん遠ざかり次の騎士たちが続いて現れた。

地元出身の騎士が通ると沿道の歓声は高まりパレードを大いに盛り上げていた。


パレードが終わると観客たちはゾロゾロと移動して行った。

「お嬢様、この後はいかがいたしましょう?」

「そうね、どうしょうかしら。」

「どこかで一息つきましょうか。」

「それがいいわ。」

フェリシアたちは場所取りをお願いしたお店に入ることにした。

「お嬢様、ここは大衆食堂になりますが大丈夫ですか?」

アンナは念の為確認した。

「えぇ、平気よ。こういうお店にも来れなくなるかもしれないしね。」

「では、一休みしましょう。」

ダレルが店の扉を開けた。

「いらっしゃい。あっ、お客さんたち、どうぞ、どうぞ、奥の方へ。」

先程の男が愛想よく現れた。

どうやらこの男は店主らしい。

「あいにくこんな時間なんで大したもんお出しできないんですけど。。」

店主が申し訳なそうにいうとアンナは微笑みながら答えた。

「大丈夫ですよ。軽食をお願いしますね。」

お昼時を過ぎているせいか店内に客は二、三組しかいなかった。

フェリシアとアンナが店内の奥に行こうとしたがダレルは外で待っていると言って入って来なかった。

フェリシアは店外に戻るとダレルの腕を掴んだ。

「今日は任務じゃなくて私の私的な外出に付き合ってくれたのだからいいの!」

ダレルはフェリシアに引っ張られると諦めたのか店主に何か言った。

どうやらテーブルを彼女たちと一緒ではなく離れたところにして欲しいと頼んだようだった。


三人が落ち着いた頃店主がニコニコしながらテーブルに来た。

フォークやスプーンをセットしながら話しかけてきた。

「お嬢さん、パレードはどうだったかい?」

「とっても楽しかったですわ。」

フェリシアは答えた。

「第三王子の人気はすごいだろ?お嬢さんも王子目当てかい?」

店主は自分の息子を自慢しているようだった。

フェリシアが返事に困っているとアンナがすかさず反応した。

「えぇ、王子はとても素敵でしたわ。」

「でもなぁ、あんなにいい男なのに許嫁もいないらしいからなぁ。王族も色々あって大変なんだろうねぇ。」

何も知らない店主のおしゃべりは止まらない。

二人はクスクス笑った。

「俺が王子と知り合いだったらお嬢さんを紹介するんだけどなぁ。」

フェリシアがどうして?という顔をすると店主はダレルをチラッと観ながら言った。

「うん?まぁ、見た感じいいとこの娘さんみたいだしな、お付きの者もいるようだし。それに王子にはお澄まししている人よりお嬢さんのような可愛げのある人の方が似合いそうだなと思っただけさ。」

フェリシアは驚き、焦り、ドキドキし、最後はキョロキョロ店内を見回した。

「まぁ、ご主人、気が合いますね。私もそう思いますわ。うちのお嬢様は王子のお相手にピッタリだと思いますわ。」

アンナはちゃっかり店主の話しに乗って会話を楽しんでいたが、フェリシアは恥ずかしいのと素性がバレたのかもしれないとずっと俯いていた。


アンナ、、、、お願いもうやめてぇ。。。。


フェリシアが心の中で叫んでいると厨房から女の人の声が聞こえた。

「ちょっと、アンタ! いつまで喋っているんだい。早くスープを運んでおくれ、冷めちまうよ。」

「うちの女房なんですよ。」

店主は頭をかきながらエヘヘと笑いながら厨房へ料理を取りに行った。


「はい、お待たせ。今日は売り切れてこんなものしか出せないんだけど。」

店主はスープとサンドイッチをテーブルに並べた。

「いえいえ、十分ですよ。あっ、サンドイッチは多いから少し彼の方に足してくださいな。」

アンナはテーブルの上のスープとサンドイッチをフェリシアに取り分けながら店主に言うと、店主はダレル用の皿に足して持って行った。

「お嬢様、お熱いのでお気をつけて下さね。」

フェリシアは頷くとフゥフゥしてからスプーンを口元へ運んだ。

「熱っ。」

アンナは心配そうにフェリシアを見た。

「あっ、でも美味しい。」

「お口に合いますか?」

「えぇ、さっきの揚げパンもそうだけど、出来立ては美味しいわ。」

「邸だと厨房から食堂まで距離がありますものね。」

「マティアス様もおっしゃってたわ。王宮と違って街の店で食べる料理は出来立てで美味しいって。」

「たまにはいいものですね。」

フェリシアとアンナが楽しく食事をしていると窓を見ていたダレルが誰かに反応していた。

フェリシアの席からは見えなかったがルイスが店の前を通ったのだった。

ダレルの容姿はどうしても目立つようでルイスも当然気づいた。


「ねぇ、ここの店で休憩しない?」

ルイスは一緒にいるシンシアの取り巻き令嬢に言った。

「えー、嫌よ。だってここ大衆食堂でしょ。」

「・・・・・チッ。」

ルイスは思わず舌打ちをした。


せっかく偶然を装ってマリアの隣に座ろうと思ったのに。。。。


ダレルはルイスをチラッと見ただけだったが、ルイスはダレルのことを穴の開くほど見つめていた。

「先ほどからずっと見てますのね。誰かお知り合いでもいらっしゃったの?ルイス様。」

「いや、いない。ごめんごめん、さぁ行こうか。」

ルイスたちが見えなくなってからダレルはフェリシアを見た。

奥に座っていた為何も知らないフェリシアはアンナと楽しそうに食事をしていた。

ダレルは報告すべきか迷ったが黙っていることにした。


食事を終え店を出た。

「ごちそうさまでした。とても美味しかったです。」

「お嬢さん、また来年もパレード見にきてね。いい席確保しておくよ。」

すっかり店主に気に入られたフェリシアたちは礼を言って外に出た。


できれば来年も見に来たいわ。

ホント一年後はどうなっているのかしら?

正式に婚約者になってしまったら来られないのかしら?

ん? そっか、今日みたいにお忍びスタイルでくればいいのよね?


フェリシアは一人で解決するとアンナに早く他の店を見に行こうとせがんだ。

「では、お店を見ながら組紐を受け取りに行きましょうか。」


その後服飾品、雑貨、化粧品など令嬢が好むお店を数軒見てから依頼していた組紐を受け取りに行った。

「すみません、青と緑の組紐2本出来上がってますか?」

アンナが聞くと二つ返事で出来上がりを見せてくれた。

「こんな感じに仕上がったよ。どうだい?」

「わぁ、綺麗。」

「お嬢さん、リボン1本オマケするよ、好きなの選んでおくれ。」

フェリシアは短めの水色のリボンを選んだ。

「はい、毎度あり。来年も来てね。」

「えぇ、ありがとう。」

フェリシアは商品を受け取るとダレルの顔を見た。

ダレルが不思議そうにフェリシアを見るとフェリシアは嬉しそうに笑った。

「はい、コレ。」

フェリシアが差し出した手にはオマケで貰った水色のリボンがのっていた。

「はい?コレを私にですか?」

ダレルは困ってしまい助けを求めてアンナを見たが、アンナは私に聞かないでオーラを出し目を逸らした。

「やーね、ダレルにリボンをつけて欲しいわけじゃないわ。」

「ハハ、そうですよね。」

ダレルは苦笑いをした。

「猫ちゃんよ。厩舎の。」

「そ、そうでしたか。」

ダレルは恥ずかしくなって下を向いてしまった。

「あの猫ちゃんの首に結んで。瞳と同じ色のリボンで可愛いでしょ?」

「えぇ。」

ダレルのか顔が綻んだ。

「あの、猫ちゃんは絶対女の子よね?すごいダレルにべったりだったわ。だからダレルがリボンをつけてあげて。」

「はい、承知いたしました。今日王宮に戻ったらすぐつけますね。」

ダレルはリボンを胸ポケットにしまうとフェリシアにお礼を言った。

「猫に代わってお礼を言います。フェリシア様ありがとうございます。」

フェリシアはケラケラ笑った。


こうして楽しい一日は終わった。

フェリシアはマティアスに見つからずにうまくいったに違いないと確信していた。


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