王立騎士団 ③
◆◇ 第二十七章 ③ ◆◇
「第一組 ポール・カーター ジャスティン・コンラッド」
総騎士団長が名前を読み上げると二人の少年が控え所から現れ整列すると先程同様上層部に一礼し観客席にも礼をしてから向かい合った。
「始め!」
再び総騎士団長が声を上げると二人は剣を振り上げた。
バキッ ピシッ
木剣でも剣と剣がぶつかると激しい音が響いた。
剣術にあまり縁がなかったフェリシアは音が鳴るたびにビクッとして祈るような仕草をした。
一組につき二回行われ型が決まると拍手が起こった。
一組目が終わり二組め三組目と滞りなく進められた。
「次、第四組 エレン・フォークナー マシュー・ドレイク」
総騎士団長の声が響いた。
「エレン?次はエレンだわ。」
フェリシアは掌が痛くなるほど拍手をした。
王宮内でなければ声を出して応援したいくらいだった。
「始め!」
号令と共にエレンと相手の少年が動き出した。
カキーン
木剣がぶつかるたびに目をギュッと閉じるフェリシアを見ていたマデリンは安心させようと話しかけた。
「彼女、さっきの女の子よね。女の子だからどうしても体格や力の差が出ちゃうけど、彼女、剣術のセンスがあるのではないかしら?」
「マデリンわかるの? すごいわ。」
「毎朝、正式な騎士の練習を見てたのよ、うまく言えないけど何となく微妙な違いがわかるようになるのよ。」
「そうなのね。」
フェリシアはマデリンの話を聞きながら「エレンが怪我をしませんように」と呪文のように唱えていた。
フェリシアの心配をよそにエレンたちの組の模擬は無事終了した。
あぁ、よかったと安心してるといつの間にか五組目が始まりあっという間に終わった。
十組参加のちょうど半分終了したところで休憩が入った。
周りのご婦人方は知り合いへの挨拶で大忙しだった。
フェリシアは場内をキョロキョロ見回していると出入り口にシリルが立っているのを見つけた。
「ねぇ、マデリン。お兄様が来ているの見つけちゃった。声かけに行ってくるわね。」
フェリシアが言うとマデリンも一緒に行くことになった。
「お兄様!」
フェリシアが呼びながら手を振るとシリルはまるで恋人に会ったかのように嬉しそうに近づいて来た。
「わぁ、今日は愛らしい装いだね。とっても似合ってるよ。朝、会えなかったから気になってたんだよ。」
「アンナが頑張ってくれたのよ。ところでお兄様もエヴァンを観に?」
「そろそろ出番かなと思って抜け出して来たよ。」
シリルはそう言いながら右手でフェリシアの手を握り、左手で彼女の髪の毛を優しく撫でた。
「シリルお従兄様は相変わらず妹にデレデレなのですね。」
マデリンはクスクス笑いながら
「やぁ、マデリン。王都に来ているとは聞いてはいたけどなかなか会えなくて。元気そうだね。」
「お久しぶりです、シリルお従兄様。はい、とっても元気ですわ。もしかしてエヴァンの応援に来くださったのですか。」
「そうだよ。間に合ってよかったよ。エヴァンも大きくなっただろうね。」
こうしている間もシリルの手はファリシアの腕、腰、そして頬を順番に撫でていた。
フェリシアとシリルの関係を知らない人から見たら二人は恋人同士であると疑わないだろう。
こんな二人を気を揉みながら見てる男がいた。
ダレル・ウォーカーだ。
険しい顔をしてジリジリと近づいて様子を伺っていた。
困った、
不審者ではなさそうだが
殿下の大切なお方に対しあのような行為はいかがなものか。
殿下に報告すべきか。。。
ダレルが物凄い形相でフェリシアとシリルを見ていると誰かに肩を叩かれた。
振り返るとマティアスが立っていた。
「心配しなくていい。彼はフェリシアの兄上だ。」
ダレルは絶句した。どう見ても恋人同士だろう。
「あ、兄上でしたか。。。。」
「シリルは宰相補佐官なんだが妹を溺愛していてな。年が離れているからか可愛くて可愛くて仕方ないらしい。」
「そうでしたか。。。」
「仲が良すぎると思わないか?俺もあの二人の中には入れないよ。」
「・・・・」
ダレルもマティアス同様剣術一筋の人間なのでどう答えればいいのかわからなかった。。
「見てくれ、あんな笑顔俺の前で見せたことないよ。」
目を細めフェリシアを見つめてるマティアスは切なそうな表情をしていた。
「一緒にいる期間が違いすぎますから。ご心配なのでしょうが殿下の隣に立つのはスィントン嬢だけなのですからもっと自信を持っていいと思います。」
ダレルの精一杯の励ましだった。
相変わらずフェリシアとシリルは楽しそうにしていた。
そんな二人を見てマデリンは半ば呆れながらも笑っていた。
休憩終了の合図が鳴った。
「じゃあマデリン、僕はエヴァンを見たらこのまま政務棟へ戻るから、またね。」
「はい、シリルお従兄様。またお邸に伺いますね。」
シリルと別れるとフェリシアたちは座席に戻った。
席に着くとすぐ六組目が始まり見慣れたこともあり順調に進んでいった。
エヴァンはまだかしら。
ちょっと飽きてきちゃったかも。。。。
剣術に然程興味がないフェリシアは少し退屈になってきた。
マデリンは小さい子をなだめるようにフェリシアに話しかけた。
「もうすぐエヴァンの出番だと思うわ。」
フェリシアは欠伸を噛み殺しながら聞いていた。
「第八組 エヴァン・ガーランド イーデン・ギャラガー」
エヴァンの名前が読み上げられた。
フェリシアとマデリンは顔を見合わせ喜んだ。
「エヴァンよ、エヴァン。」
マデリンは興奮気味だった。
数年ぶりにみるエヴァンはすっかり大きくなっていた。
最後に会ったのはいくつの時だったかしら。
エヴァンももうお兄ちゃんね。
でも、ジョシュア殿下といいエヴァンといい
どうして年下の男の子はこんなに可愛らしいのかしら。
本物の姉の隣で気分はすっかりお姉さんだ。
お姉さん気分のフェリシアは木剣がぶつかると「エヴァン、しっかり!」と心の中で応援した。
横にいる本物のお姉さんをチラッと見ると、先程までどっしり構えていたマデリンもいざ弟が出場しているとなるとハラハラしてるようで、姿勢が前のめりになっておりいつの間にか手はギュッと握られていた。
二人の心配をよそにエヴァンとイーデンは迫力のある手合わせを披露した。
終了すると白熱した演者に拍喝采が送られた。
「エヴァンってすごいわね。」
「毎日お継父様に鍛えさせられているもの。確か相手のギャラガー家は騎士の家系だったはずよ。」
「だから本物のトーナメントみたいだったのね。」
フェリシアとマデリンは口を動かしながらもしっかりエヴァンに手を振った。
エヴァンは二人に気付き顔を見たがすぐに目を逸らしてしまった。
「あら?ねぇ、マデリン、エヴァン今こっち見たわよね?」
「絶対見たわ!あの子ったら無視して。せっかくフェリシアが応援してくれたのに。」
「きっと恥ずかしいのよ。お年頃だもの。」
ファリシアは理解しているような振りをしたがジョシュアとは違うのだなと感じていた。
ジョシュア殿下だったら絶対手を振りかえすと思うわ。
それに「どう?僕すごったでしょ?」
なんていいながら抱きついて来そう。
フェリシアは想像しながら笑ってしまった。
その後九組目、十組目と順調に進み無事終了した。
最後に演者全員が登場し一礼するとアーサーが労いの言葉をかけた。
そして総騎士団長の言葉で閉会した。
終了すると再び周りのご婦人方がザワザワし出した。
休憩時間の続きの‘ご挨拶巡りだ。
フェリシアとマデリンは関係ないので観客席から離れた。
「マデリンはこれからが本番ね。」
フェリシアはマデリンを少しからかった。
「いい気分だったのに急に不安になってきたわ。」
「マデリンなら大丈夫よ。ねぇ、お部屋まで一緒に行ってもいいかしら?」
「もちろんよ。」
先程までシリルが立っていた場所にルーファスとアーサーの従者が二人を待っていた。
フェリシアとマデリンが到着するとルーファスはマデリンに挨拶をしそのまま去って行ってしまった。
従者を筆頭にマデリン、フェリシアの順に三人は無言のままアーサーとのお茶会の部屋まで進んだ。
一番後ろのフェリシアは何となく誰かがいるような気配がして後ろを振り返るとダレルが着いて来ていた。
そ、そっか。。。
そうよねぇ、護衛みたいなものだしね。。。
早くダレルが側にいるのに慣れなくっちゃ。。
「どうぞこちらでお待ちくださいませ。王太子殿下はまもなくいらっしゃいます。」
従者は扉を開けマデリンを案内した。
フェリシアはそれ以上前には進まずしばらく立っていた。
するとカツカツと男性が歩く足音が聞こえてきた。
マティアスだった。
マティアスも心配を建前に興味津々で着いて来たのだった。
「マティアス様」
フェリシアは駆け寄った。
「もう二人は入ったの?」
マティアスが尋ねた。
「いいえ、マデリンだけです。王太子様はまだですわ。」
野次馬根性に火がつきニヤニヤしているとアーサーが現れた。
「お前たち、ここで何をしている?」
悪さをして親に見つかった子供のようにマティアスとフェリシアはビクッと肩を上げた。
パニックになってしまったフェリシアはとりあえず挨拶をしようと思い行動を起こした。
「お、王太子殿下にフェリシア・スィントンがご挨拶申し上げます。」
フェリシアは心の中で「これでヨシ!」と思った。
ところが。。。
「フェリシア、何を白々しいことをしているんだい? マティアスと一緒に騎士団棟へ戻りなさい。」
アーサーはチクリと言うとマデリンが待っている部屋に颯爽と入って行った。
一度は戻る振りをした二人だが顔を見合わせるとニヤッと笑いまたお茶会が行われる部屋の前まで戻ってきた。
人の恋時は気になるものでマティアスは扉に耳を押し付けてみた。
フェリシアも無意識のうちにマティアスに身体を寄せ耳を扉に傾けた。
「やはり、聞こえないか。。。」
マティアスはボソッと呟くといきなり扉が開いた。
「キャッ」
フェリシアは思わず声をあげたが扉の取っ手を握ったままのアーサーの言葉にかき消された。
「お前たち、まだここにいたのか!」
「兄上のことが心配で。。。」
フェリシアがマティアスの顔を見ると唇を噛み締めているものの上目遣いで何となく笑いを堪えているようだった。
「何言っているんだ。本当は笑っているくせに。フェリシアを連れて早く行け。」
バタンッ
アーサーは強い力で扉を閉め部屋の中へ入って行った。
「二度目は本当に怒りそうだな。フェリシア、行こうか。」
さすがのマティアスも王太子の逆燐に触れたくないようだった。
「そうですね。」
「そうだ、総騎士団長を紹介するよ、いつもの部屋に行こう。」
二人は騎士団棟へ向かった。
今までの二人の行動を顔色ひとつ変えずに見ていたダレルも黙って着いて行った。
騎士団棟の慣れた部屋に入ると先程のお披露目会の時にいた総騎士団長と初めて見る若者二人、そしてルーファスがいた。
中に入った途端、皆んなの視線がフェリシアに向けられた。
「あー。フェリシア紹介するね。」
マティアスはそう言うと総騎士団長の方を向いた。
白髪混じりの髪の男は立ち上がりフェリシアに近づいた。
「フェリシア、こちら我が国が誇る王立騎士団の総騎士団長のアントン・フォークナー卿だ。」
総騎士団長は一歩前に出た。
「殿下からお話は聞いております。私がリスティアル王国王立騎士団総騎士団長のアントン・フォークナーです。」
あれ?
フォークナー? フォークナーって。。。
フェリシアはどこかで聞いたことのある名前だと思った。
「あっ、エレンだわ!」
ついエレンの名前を口にしてしまった。
「おっ、エレンをご存知なのですか?」
総騎士団長は嬉しそうな顔をするとマティアスが説明した。
「お披露目会に出ていたエレンは総騎士団長のお孫さんなんだ。」
「まぁ、そうだったんですね。 あっ、失礼しました。私はスィントン侯爵家のフェリシア・スィントンでございます。」
総騎士団長はニコニコしていた。
マティアスは続けて説明した。
「エレンのお父上、アントン卿の息子は爵位を継承してフォークナー伯爵として王都担当の統括団長をなさっているよ。」
エレンって騎士界ではエリートの家系だったのね。
マティアスの紹介は続いた。
「で、今度はこっちの二人がジョン・クレイグ卿とデニス・クーガー卿だ。夜会の時に悪い虫から守ってくれるはずだ。」
王子と総騎士団長同席で極度の緊張状態の若者二人はペコッと頭を下げた。
フェリシアも合わせてペコっとお辞儀をしてから微笑んだ。
「フェリシア、この二人とダレルが夜会の見守り隊だから変な男が近づいてきたら助けてもらうように。」
マティアスはにこやかな口調ではあったが目が笑っていなかった。。。ようにフェリシアには見えた。
「はい、わかりました、マティアス様。」
ここは真面目に答えようとフェリシアは思った。
一番緊張し生きた心地がしなかったのはジョンとデニスだろう。
ジョンの瞳はキョロキョロしデニスの手はかすかに震えていた。
この何とも言い難いやり取りをおもしろそうに眺めていた総騎士団長は吹き出すのを堪えながらマティアスに言った。
「殿下、お話しはまだあるかと思いますが明日の件の会議が。。。」
「あぁ、そうだった。君たちもう戻っていいぞ。」
解放された喜びが滲み出ている笑顔で部屋から出て行った。
二人を見ていたフェリシアも王子の依頼は断れないだろうに色々お気の毒と思った。
ただダレルだけは相変わらず無表情で立っていた。
「フェリシア、俺はこれから会議があるのだけどフェリシアはどうするのかな?邸に戻る?」
マティアスが聞いてきた。
「私はマデリンを待ちますのでもしばらくいる予定です。待っている間厩舎に行ってウィザードを見ていてもいいでしょうか。」
「わかった、出口まで送っていくよ。」
ダレルはサッと扉を開けた。
マティアスとフェリシアは廊下に出た。
ダレルも後に続いた。
「厩舎まで行って大丈夫か?」
「大丈夫とは?一人で行かれますわ。」
「違う、違う。厩舎に着く頃にはお茶会は終わってしまうのでは?」
「そんなに早く終わるとは思えませんわ。マティアス様、王太子様をご覧になりました?」
「?」
「王太子様、とてもおめかししていらっしゃいましたよ。と、言うことはお茶会にかけてると言うことなんです。」
「で、お茶会に力を入れているからすぐには終わらないと言うことか?」
「そうですわ。」
フェリシアは勝ち誇ったような顔をした。
「ハハ、そうか、フェリシアがそう言うのならそうかもな。」
マティアスに見送られフェリシアは厩舎へ向かった。
ここを通るのも久しぶりだわ。
お気に入りの小さな花壇を見ながら歩いて行った。
ダレルは黙った後ろをついて来た。
厩舎に着くと掃除をしようと箒を持ったダスティンに会った。
ダスティンは「あっ」と言った後頭を下げるとダンを呼びに走って行った。
ダンは慌ててバケツを持ったまま厩舎から出て来た。
「お嬢様、どうなさいました?」
「こんにちは、ダン。ウィザードを見に来たの。入っても大丈夫かしら?」
ダンは辺りを見回すとダレルが離れた所にいるのに気づいた。
「どうぞ、お入りください。あ、あのぅ、お一人でしょうか?」
「えぇ、そうよ。マティアス様は会議なの。」
ダンはフェリシアの話を聞きながら目だけはダレルの方を見ていた。
「彼は気にしないで、マティアス様が何かあった時のためにって。」
フェリシアはダンに話しながらすっかり慣れた厩舎の中へ入って行った。
ダンはフェリシアが中に入って行くのを見ると背後を振り返りダレルに会釈をした。
ダレルは療養中にこの辺りを散歩していたのでダンには見覚えがあったのだった。
ダレルはフェリシアがウィザードを見に行ったのを確認すると邪魔にならないように厩舎から少し離れた場所で見守っていた。
ウィザードはフェリシアが近づくとひょっこり長い顔を柵から出してきた。
「フフフ、ウィザードは私を覚えていてくれたのね。よしよし。」
フェリシアはウィザードの首周りをポンポンと優しく触れた。
「最近マティアス様はお忙しくて一緒にお散歩も行かれないわね。」
フェリシアがウィザードに話しかけてるとかすかに猫の鳴き声が聞こえた。
ニャァー
耳を澄ましてると確かに聞こえた。
フェリシアが鳴き声に反応していることに気づいたダンは厩舎の裏に猫が来ることを教えてくれた。
勝手を知ってるフェリシアは猫を見に行こうと厩舎から出て裏の方へグングン進んで行った。
慌てたのはダレルだった。
馬を見てる安心感からか少し気を緩ませていた時にそそくさと厩舎の裏へ向かうフェリシアを目にしたのだった。
あっ、そっちは!
護衛魂に火がついたダレルは物凄い勢いで走って来た。
「フェリシア様、そちらへ行かれてはいけません。」
フェリシアは一度振り返ったが不思議そうにダレルを見ただけで立ち止まることはしなかった。
「裏には行かれない方がよろしかと。。。」
ダレルはもう一度言った。
流石に二度も言われたらフェリシアも歩くの辞めて振り返った。
「どうして裏に行ってはいけなの?何かあるの?」
ダレルは言葉に詰まった。
「そ、それは。。。」
「あっ、わかったわ。馬の落とし物がいっぱいあるからでしょ?」
フェリシアは笑いながら言った。
「そ、そうです。フェリシア様の素敵なお召し物が汚れてしまいますので。」
ダレルは苦し紛れに言ったがフェリシアも簡単に言うことを聞かなかった。
「大丈夫よ、何度か来たことあるもの。それにさっきダニエルが掃除したと思うから平気よ。」
「いえ、そうではなく。。。」
上手く言えないダレルは歯痒かった。
どんどん進んで行くフェリシアを止められないダレルは最後に叫んでしまった。
「そこには猫がいるんですよ!猫が!」
フェリシアはピタッと止まった。
ダレルはホッと一安心した。
が、それで終わったわけではなかった。
フェリシアはまたも振り返るとダレルに向かい一言言った。
「そうよ、その猫を見に行くのよ。」
「フェリシア様、大丈夫ですか。あそこにいるのは猫ですよ。」
ダレルは必死だった。
「もう、ダレルったら。いくら私が世間知らずでもあそこにいるのが猫ぐらいわかるわ。」
フェリシアはケラケラ笑った。
戸惑いを隠せないダレルは頭を抱えるようにしていて絞り出すような声で説明した。
「すみません、混乱してしまいました。フェリシア様は猫が苦手だと聞いたものですから。」
今度はフェリシアが固まってしまった。
え? 私が猫が苦手? 何それ。
猫が好きとも嫌いとも話した記憶がないのだけど
誰がそんなことを言ったのかしら。
ダレルが私に関することを知るなんてここ二、三日の間じゃない。。。
と、言うことはマティアス様かルーファス様よね。
でもルーファス様はありえないからマティアス様だわ。
きっと何かを考えてだと思うけど。。。。
なぜかしら。でもここは合わせておいた方がいいかもしれないわ。
「あっ、えっと、最近は見るだけなら平気になったの。」
フェリシアはヘラヘラした笑顔で誤魔化そうとした。
二人はゆっくり歩き香箱座りをしている白猫に近づいた。
「わぁ、白猫ちゃんだわ。」
フェリシアは抱き上げようと両手を伸ばしたが猫はフェリシアの手をスルリと避けダレルの足元で止まった。
猫も餌をくれる人がわかっているようだった。
フェリシアはポカーンと猫を見つめていた。
ダレルは気まずそうにしゃがみ自分の足元で戯れている猫を撫でた。
「きっとこの猫ちゃんはメスなのね。」
フェリシアはダレルが少し照れたように見えた。
フェリシアも撫でようと手伸ばしたがダレルはサッと猫をどかした。
「もし猫の爪でフェリシア様の綺麗な手に引っ掻き傷がついたら大変です。」
ダレルは真剣な顔をしていたのでフェリシアは大人しく手を引っ込めた。
「そ、そうね。見てるだけにするわ。」
フェリシアはしばらくダレルを見つめていた。
屈強なダレルが目を細めて猫を撫でている姿ははなんとも可愛らしい風景だった。
「猫、好きなの?」
「えぇ、まぁ、特別猫がと言うわけではなく。。。」
「動物が好きなのね。ダレルは優しいのね。」
ダレルはほんの数秒黙った。
「そんなことありません。優しかったら騎士になれません。場合によっては人を殺めなくてなりませんから。」
「でも、好きで殺めるわけではないけど動物を可愛がるのは好きなのですからやっぱり優しい方なんですわ。」
ダレルは令嬢のように頬を赤くし、しばらく猫を見つめてから恥ずかしそうに言った。
「フェリシア様、ありがとうございます。」
その後ダレルは猫を構いフェリシアはそれを見ていた。
「フェリシア様、そろそろ戻りましょう。もうすぐお茶会も終わる頃でしょうし、殿下が出席している会議も終わっているかもしれません。」
「そうね。」
転がっていた丸太に腰掛けていたフェリシアは立ち上がった。
ダレルはフェリシアが歩き出すまで待っていた。
そしてフェリシアが歩き出すと数歩後ろを続いた。
猫と遊んでいる時とは打って変わりキリッと護衛モードになっていた。
フェリシアは歩きながら思った。
ダレルと少し話しができて良かったわ。
猫嫌いなんて誰が言ったのかわからないけど
逆にダレルとの距離が縮まるいいきっかけになったもの。
嘘を吹き込んだのはきっとマティアス様よね。
少しだけ感謝だわ。
騎士団棟に戻ってくるとちょうどルーファスが迎えに来ようとしている所だった。




