王立騎士団 ②
◆◇ 第二十七章 ② ◆◇
今日は剣術や騎士としての心構え等を習っている練習生のお披露目会が開催される。
お披露目会に参加するのは騎士を目指している少年少女たちで日頃の練習成果を観客の前でお披露目する催しだ。
建国祭の一環として開催されるの行事なので誰でも観客になれるのだがほとんどが演者の家族なので騎士団主催の学芸会風と思えば分かりやすかも知れない。
リスティアル王国では訓練を受け基準に達すれば誰でも騎士になることができる。
男女平等であり身分差も関係ないが幼少期から騎士団で稽古できるのは貴族か裕福な商人の子供が多く、その為観客席はかなり華やかになりちょっとした社交の場になるのだった。
フェリシアはマデリンと一緒にエヴァンの応援に行く予定だ。
今、アンナに身支度をしてもらってるところだ。
「お嬢様、今日のご予定はお披露目会だけでしたよね。」
「えぇ、そうよ。お妃教育もジョジュア殿下のお世話もないわ。」
「では、今日はおしゃれにしましょうね。」
「えー、別に普段通りでいいわよ。」
「そんな、いけません。いつもはわざと目立たない格好にしているのですから今日は侯爵令嬢らしく華やかにしましょう。」
「そう?あまり気にしてなかったけどアンナに任せるわ。」
アンナはフェリシアの少しピンクがかった金色の髪を丁寧にブラッシングするとリボンを保管している箱の中を物色していた。
「あら、アンナ、何を探しているの?」
フェリシアは自分の髪を持ったまま片手でガサガサしているアンナに聞いた。
「お嬢様、今日殿下から頂いたブローチつけますよね? なのでリボンのお色をブローチと合わせようと思いまして。」
アンナは箱の底に手を回しながら答えた。
「あっ、ありました!この水色のリボンにしましょう。」
すっかりアンナの着せ替え人形化したフェリシアは愛らしく仕上げられ本当にお人形のようだった。
「お嬢様、お披露目会はお外での開催ですよね?ケープをお忘れになりませんように。」
「わかったわ。」
フェリシアは近い将来を考えると時々不安になる時があった。
自分が末娘で両親から甘々に育てられたので他の貴族令嬢より出来が悪いのではないかと心配になってしまうのだ。
アンナはそれを理解しているので時には厳しく時には優しく接してくれるが、結婚して王室入ってしまうと今と同じように侍女に甘えてはいられないなと思うのだった。
王宮に行くと大勢の騎士の姿があり、警備、案内と皆忙しそうにしていた。
フェリシアがキョロキョロしていると先に到着していたマデリンが見つけてくれた。
「フェリシア、ここよ。」
手招きをしているマデリンの側に行こうとした時、フェリシアはふと誰かに見られているような気がした。
これだけたくさんの観客がいるのだから誰かの視線が自分に向けられることもあるだろうと気にしないようにしていた。が、やはり気になって振り返った。
「あっ」
フェリシアは思わず声が出てしまった。
遠くからでもすぐわかる個性的な顔。
ダレルが立っていた。そしてバッチリ目が合ってしまった。
フェリシアはドキッとし目を逸らしてしまった。
こっそり視線を戻すと再び目が合った。
無視するわけにもいかず思わず会釈をしてしまった。
するとダレルも頭を下げた。
何だか恥ずかしくなったフェリシアはマデリンの元へ急いだ。
「お知り合いがいたの?」
マデリンが聞いてきた。
「う、うん。。。知り合いと言うか、これからお世話になる予定の騎士様。」
フェリシアが適当に答えるとマデリンはクスクス笑った。
「お世話になる騎士様って。。。何それ。まるで護衛みたいじゃないの。」
マデリンは笑いながら席はこっちとフェリシアの手を引いた。
すると今度はマデリンに一人の騎士が近づいて来た。
髪は明るい茶色で茶色の瞳、女性にモテそうな爽やかな若者だった。
「失礼ですがガーランド辺境伯のご令嬢でしょうか。」
騎士は少々不安そうに聞いて来た。
「は、はい、そうですが。。。」
マデリンが肯定すると騎士は安心したように続けた。
「あぁ、よかった。実は私は去年までガーランド領に配属されていまして。」
騎士が言いかけるとマデリンは遮るように言った。
「あっ、思い出しましたわ! お名前は分かりませんが朝礼の時に最前列の右から三番目に並んでいた方ですね。」
マデリンが微笑みながら話すと騎士は飛び上がる程嬉しそうにした。
「そうです!覚えていてくださったんですね。ありがとうございます。ところで辺境伯はご一緒ではないのですか。」
「残念ですが継父は一緒ではないんです。建国祭最終日の式典には出席する予定ですわ。」
騎士はマデリンの継父親のガーランド辺境伯が不在なのを知るととても残念がっていた。
マデリンを見かけたので辺境伯も一緒かと思い挨拶をしようと声をかけたとのことだった。
「マデリンってすごいわ。自分の知り合いじゃないのにちゃんと顔を覚えているのね。」
フェリシアは驚き、感心した。
「ふふ、知りたい?前にも話したでしょう?私は領地では引きこもり令嬢だったって。エヴァンは男だし剣術の練習で騎士たちと仲良くしてたわ。お母様も領主夫人として対応してて皆んな楽しそうに会話してたの。羨ましかった私は窓から朝礼を眺めることだけしかできなかったの、本当は皆んなとお話ししたかったんだけどね。毎朝見てたから顔を覚えちゃっただけよ。」
「でも、すごすぎるわ。私だった絶対に忘れちゃうもの。」
フェリシアが目を輝かせているのをマデリンは笑いながら受け流し観客席へ急いだ。
スゴイ、スゴイと繰り返しているフェリシアにマデリンは冷静に言った。
「ねぇ、向こうの少女騎士がさっきからこっちを見てるのだけどフェリシアのお知り合いなんじゃない?」
「えー、私、男だろうが女だろうが騎士に知り合いはいないわ。」
「そう?でも、気を引こうとしてか一生懸命手を振っているわ。やっぱりフェリシアよ。」
マデリンがあまりにも気にするのでフェリシアは言われた方向を見ると騎士服を着た愛らしい少女が手を振っていた。
・・・・・誰かしら?
・・・・・ん?
・・・・・あっ!
フェリシアは頭の中で記憶の糸を少しずつたぐり寄せ答えを導き出した。
手を振っている少女と出会ってからあまりにも印象深い出来事が続いたのでフェリシアの記憶からすっかり忘れ去られていた。
「マデリンの言う通り私の知っている女の子だったわ。ちょっと声をかけてくるわね。」
ファリシアは他の観客をかき分け少女騎士の元へ急いだ。
そうだった。。。
王宮に呼び出されて一番最初に知り合った、
そう、マティアス様より先に話した大事なお友達だった。
嫌だわ、私ったらすっかり忘れてしまっていたわ。
「エレン!」
フェリシアは呼びかけた。
「フェリシアお姉様!」
エレンは弾けるような笑顔で答えてくれた。
「ごめんね、エレン。気がつくのが遅くなって。」
「気がついてくれて嬉しいです。」
エレンは少女から女性へと成長する過程のいわゆる思春期の年頃だ。
ある時は子供のように屈託なく笑い、またそうかと思うと時々ふと大人びた表情をした。
「しばらく見ない間にすっかりお姉さんになったわね。とても素敵よ。」
フェリシアはエレンの変化にドキッとした。
「全然お会いできなので寂しいです。もう練習には来られないのですか。」
エレンは目をキラキラさせて聞いてきた。
「うーん、そうね。素質がないことがわかったから辞めちゃったの。」
「せっかくお友達になったのに残念です。」
エレンはちょっぴり寂しそうに言った。
「あら、エレン、私たちはお友達のままよ。剣術の練習には参加しないけど実は王宮には時々来ているの。だからまた会えるわ。」
「本当?」
「えぇ、本当よ。今日もしっかり見届けるわね。」
久しぶりの再会でまだまだ名残惜しいところだが演者はテントに控えるよう告げられた。
エレンは手を振りながら控え所へ走って行った。
フェリシアはエレンの後ろ姿を見ながら可愛い妹を送っている気分に浸っていた。
ほんのわずかな時間だがフェリシアがエレンと会った時間を思い出していると背後から男性の低い声が聞こえた。
「スィントン令嬢」
驚いたフェリシアが鬼の形相で振り返るとダレル・ウォーカーが立っていた。
あまりにもびっくりして睨み続けているフェリシアを見て今度はダレルが驚いてしまった。
「驚かせてしまって申し訳ありません。」
ダレルはオドオドしていた。
「ご、ごめんなさい。びっくりしすぎて睨んじゃった。怒ってる訳ではないのよ。」
フェリシアは改めてダレルの顔を見つめた。
ダレルもフェリシアが萎縮しないようにぎこちないが笑顔を作っていた。
フェリシアは今気がついた。
ダレルのまつ毛が意外と長いことを。
ウォーカー卿ってよく見ると美しいお顔なのね。
まつ毛も長いし綺麗な瞳だわ。
フェリシアはダレルの瞳に吸い込まれそうになった。
「そうそう、ウォーカー卿、私に何か用があったのではありません?」
「そうでした。マティアス殿下より伝言を承りました。お披露目会終了後、王太子殿下のお付きの者がマデリン嬢のお迎えに来るそうです。」
そうだわ。
今日はエヴァンの応援もあるけど
王太子様とマデリンのとても大事なお茶会があるんだった。
「わかったわ、マデリンに伝えるわね。ありがとう、ウォーカー卿。」
フェリシアはやっと自然な微笑みをかけられた。
「どうぞ、ダレルとお呼びください。」
「わかったわ、ダレル。じゃあ、次からダレルも私のことをフェリシアと呼んでね。」
フェリシアはそう言うと急いでマデリンが待ってる観客席へ戻った。
フェリシアはマデリンの顔を見るとすぐにダレルからの伝言を伝えた。
「わかったわ。ちょっと気が重いけどフェリシアの顔を立てなくっちゃね。でも私に会いたい理由って何なのかしらね。」
フェリシアは細かいことを説明していなかったのでマデリンは深く考えていないようだった。
「マデリンの今日のドレス、とっても素敵よ。王太子様もきっと喜ぶわ。」
ファリシアは先走ってしまった。
「はぁ?やーね、フェリシアったら何を言ってるのよ。このドレスは去年のなの。私には必要ないのに毎年お継父様が誂らえてくれたのだけど、念の為持ってきてよかったわ。でもね、二回りも細くなったから侍女と夜なべでお直しして大変だったわ。」
マデリンは笑い話しをするようだった。
「綺麗に着飾ったマデリンを見てきっと王太子様は恋する殿下になるわ!」
フェリシアの言葉にマデリンは呆れ気味だった。
「もう、まるで私が王太子様とお見合いの続きをするみたいじゃないの。あっ、始まる見たいよ。」
上層部だろうか騎士団の礼服を着た男性陣が入場して来た。
観客席から拍手が沸き起こった。
騎士団棟へはちょこちょこお邪魔していたがフェリシアが初めて見る人たちばかりだった。
彼らはそれぞれの席の前で止まったが立ったまま誰も座ろうとしなかった。
まるで誰かを待っているみたいだった。
「ねぇ、まだ誰か来るの?」
フェリシアは周りに聞こえないようにヒソヒソ声でマデリンに聞いた。
「もしかして王族の方がお見えになるのかしら? あっ、マティアス殿下は?」
フェリシアはマデリンに言われてよく見るとマティスは副団長と思われる者の隣にいた。
「マティアス様はいらっしゃるわ。」
では、誰がいらっしゃるの? まさか国王陛下?
フェリシアとマデリンは顔を見合わせた。
すると場内がザワザワと騒々しくなってきた。
何か動きがあったようで場内が一瞬水を打ったように静まり返った。
アーサーが現れたのだった。
アーサーが先程登場した上位騎士たちの前を通ると皆順番に頭を下げた。
マティアスも例外ではなかった。
場内からは次第に拍手が起こり始めた。
アーサーは空いている席の前に立つと一度場内を見回してから席に着いた。
アーサーが座ると他の団員も一斉に着席した。
フェリシアはすでに姿を見ているので気にならなかったが、周りの貴族たちはスッキリしたアーサーを知らないので驚いている様子だった。
「あら、王太子殿下、雰囲気が変わったと思いません?」
「少しお痩せになったようだわ。体調が悪いのかしら?」
「前が少しふっくらしてたのよ。」
「とても見目麗しくなられたわ。」
ご婦人たちの囁きがフェリシアの耳をくすぐった。
マデリンさえも格好良くなったと嬉しそうにしていた。
皆がアーサーの容姿を褒めている中、フェリシアはマティアスに釘付けだった。
考えてみればフェリシアが今まで見てきたマティアスは『私』のマティアスで公人のマティアスを見たことがなかった。
笑ったマティアス様
照れたマティアス様
拗ねたマティアス様
出会ってから色々な表情のマティアス様をのお顔を拝見したけど
今壇上にいるマティアス様は私が今まで見たことがないマティアス様だわ。
いつもは少し伸びた髪をリボンで結んでいるが前髪や脇の髪はサラサラのままだ。
今日は髪全体をきちんと纏めている。
そして何よりキリッと引き締まった顔をしていた。
マティアス様、こんな表情をなさるのね。
フェリシアは彼から視線を動かせなかった。
「まぁ、フェリシアは恋人の姿に見惚れちゃってるのね、フフフ。」
マデリンはフェリシアをからかった。
「えっ? やだ、マデリンったら。」
フェリシアは照れて頬を紅潮させた。
「ほら、赤くなって。図星でしょ。」
「だって、公務中のマティアス様を見るの初めてなんですもの。あんなに凛々しとは思わなかったわ。」
フェリシアはマデリンだからこそ本音が話せた。
「本当ね、王族一お美しい容姿なのではないかしら。令嬢たちが夢中になるのも無理ないわね。」
「そ、そうね。。。」
フェリシアは自信なさそうにポツリと言った。
「でもね、その一番素敵な王子の横に立てるのはフェリシアだけなのよ。もっと自信を持ちなさいな。」
マデリンはフェリシアの膝をポンと叩いた。
二人がヒソヒソ話しをしていると、アーサーの横に座っていた総騎士団長と思われる男が立ち上がりお披露目会の開催を宣言し演者たちの入場を指示した。
すると成人騎士を先頭に少年少女騎士が一列に並んで行進して来た。
こうして見ると大人の正騎士は彼らよりも二回り以上も大きくがっしりした身体で、だからこそ少年少女が可愛らしくそして緊張した様子が初々しく見えた。
エヴァンもエレンも大勢の観客と騎士団のお偉いさんを前にかなり緊張している様子だった。
「エヴァンったらすごい緊張してるみたい。」
マデリンはエヴァンを見つめながら言った。
「怪我しないといいわね。」
ファリシアは手を組んで言った。
「それは大丈夫だと思うわ。トーナメントと違って木剣を使って型を披露するだけだから。」
「あぁ、よかった。本当の剣を使うのかと思っちゃったわ。」
「でも、優秀な生徒が選抜されるんですって。エヴァンに自慢されたわ。」
マデリンは嬉しそうだった。
先頭騎士が号令をかけるとまずアーサーたちに礼をした。
もう一度号令をかけると今度は観客席の方に向き変え礼をした。
再び拍手が沸き起こった。
拍手が鳴り止むと三度号令がかけられ少年少女たちは控え所に戻って行った。
いよいよ始まるのね。
怪我の心配はないと言っていたけど
何だかドキドキちゃう。
エヴァンもエレンも頑張って。
フェリシアは祈るように手を組み場内を見ていた。
何気に壇上の方に目を向けるとマティアスもこっちを見ているような気がした。
あっ、マティアス様。
もしかして私のこと見てるのかしら?
フェリシアは胸の辺り小さく手を振ってみた。
気がつくかしら?
反応があった。
わずかだか目を大きく開いてこっちを見た。
少し微笑んだようにも見える。
近くに座っていた令嬢が王子が自分を見たとはしゃいているが、フェリシアは気にもならなかった。
マティアス様は絶対私に目で合図してくれはずだわ。
フェリシアは横を向いてマデリンを見たが彼女は何も気づいていないようだった。
総騎士団長が一番目の演者の紹介を始めた。
少年二人がテントから登場した。
お披露目会が始まった。




