庭園パーティー 1
◆◇ 第十六章 前編 ◆◇
『庭園パーティー』は二年毎に王宮庭園で開催されている王妃主催のパーティーで、今年は今後の為にフェリシアもヘレナ王妃の手伝いをすることになった。
準備期間はお妃教育もお休みでそれはちょぴり嬉しかった。
早速今日も準備の為王妃の部屋に向かった。
「王妃様、フェリシアでございます。」
「お入りなさい。」
部屋に入ると机の上にはすでに書類が並べられており女官達も忙しそうにしていた。
「フェリシア、来て早々に悪いのだけど招待名簿の確認をお願いね。」
「はい、王妃様。」
フェリシアは王妃の指示のもと慎重に名簿の確認を行なった。
こういうお手伝いはしたことないから緊張しちゃうな。
絶対に間違えないようにしないと。
皆が黙々と作業をしていると扉が開く音がした。
「母上、フェリシアの手伝いに来ました。」
マティアスだった。
王妃は「しょうがないわね」と言いたげな顔でフェリシアの隣に座るように指示した。
「フェリシア、心配だから来ちゃったよ。」
マティアスはフェリシアの耳元に話しかけながら席に着いた。
「ヒャッ。 殿下、耳元は反則ですわ。」
王妃はチラッと二人を見るとすぐ視線を書類に戻して気にする素振りを見せなかったが、
実はこれは自分の顔がニヤけてしまうのを女官達に気づかれないようにするためだった。
マティアスが手伝いに加わってから5分も経たないうちにまた扉が開いた。
「母上、入ってもいいですか?」
「まぁ、ジョシュアまで来たのね。」
ジョシュアは王妃の言葉など気にする様子もなくマティアスとは反対側のフェリシアの隣に座りニコニコして彼女を見つめた。
ハァ〜、両方からこんなに見つめられたら間違えそうで怖いわ。
それにこれだけで終わらない気がする。。。
彼女の感は当たった。
「お仕事中失礼します。」
今度は誰?
室内にいる全員が一斉に扉に向かって振り向いた。
「ノア兄上どうしたんですか?」
マティアスの声にノアは怪訝そうな顔をして立っていた。
「何なんですか。皆で何しに来たんだみたいな顔をして。」
ブツブツ言いながらノアも躊躇なく室内に入ってきてジョシュアの隣に座った。
「全く困った息子達ね。」
仕事にならないと判断した王妃はお茶の用意と女官達に席を外すように指示した。
ヘレナは一息ついたら王子達を退出させようと考えたがそんなに簡単にはいかなかった。
トントン またノック音だ。
今度は誰が来たのだろう。
もう、誰も気にもしていなようで誰も振り向かない。
せいぜい侍女がお茶を持ってきたのだろうと思っているようだ。
フェリシアは誰が来たのかチラッと扉の方に目を向けた。
そこには小太りの男が立っていた。
誰かしら?
小太りとはいえ金髪碧眼に仕立ての良さそうな服、きっと上位貴族の方ね。
「あのぉ、どなたかお見えになっていますが。。。」
フェリシアは小声でマティアスに告げると、マティアスは入口を見て驚いた。
「アーサー兄上、どうしたんですか?」
その声に一同が一斉にアーサーを見た。
「な、何ていう目で見るんだ、皆んなして。」
アーサーって、まさか王太子様なの?
フェリシアは思い出した。
あの言葉、『白豚』。。。。。
どうしましょ、笑いが止まらないわ。
フェリシアは吹き出さないよに机の下で手の甲をつねっていた。
一生懸命笑いをこらえているフェリシアなど気にもせずマティアスは紹介しようとした。
「アーサー兄上、こちら婚約者のフェリシアです。フェリシア、兄上、王太子のアーサーだよ。」
「王太子様、お初にお目にかかります。スィントン侯爵家が次女フェリシア・スィントンでございます。」
「あぁ、よろしく頼むフェリシア嬢。」
「どうぞ、フェリシアとお呼びくださいませ。」
フェリシアが挨拶する姿をアーサーはびっくりした顔で見つめノアと同じことを考えていた。
この令嬢がマティアスの婚約者?
騎士団で知り合ったっていうから筋肉隆々の女性騎士かと思ったらこんな可愛らいしい令嬢だとは。。
あいつ異性に興味なかったんじゃないのか。。。
いつまでも立ったままのアーサーを見かねて王妃が声を上げた。
「さぁさぁ、いい加減にしなさい。ここはパーティーの準備をするための部屋ですよ。」
王妃は続けて言った。
「何故ここに来たのか順番に説明してもらいましょう。では、アーサーから。」
「あっ、はい。ノアに用事があって探していたらこの部屋だと言うので。。。」
「そう、わかったわ。次、ノアは?」
「私はフェリシアのお妃教育で参考になればと思って本を持参しただけです。」
「なるほど。で、マティアスは?」
「もちろん婚約者を手伝う為です!」
「あら、私のことは手伝わないのかしら?まぁいいわ。ジョシュアは?」
「フェリシアの側にいたいんだ!だって僕はフェリシアのことが大好きだから。」
「まぁ。ませた子だわね。」
フェリシアは顔を上げられなかった。
これでは私が原因みたいじゃないの。。。
フェリシアがうつむいたままモジモジしていると王妃は声をかけてきた。
「フェリシアは何も気にすることはないわ。王子達はあなたのことが気になって仕方ないのよ。可愛い妹ができたから。」
フェリシアは顔を上げると王妃は満面の笑顔だった。
あっ、この笑顔は。。
「お気遣いありがとうございます、お義母様。」
王妃は非常にご満悦の様子だったが逆にアーサーは驚きを隠せないようだった。
これを見たノアも負けじと持参した本を出し切り出した。
「あぁそうだ、忘れないうちに渡しておこう。はい、フェリシア。」
そしてあのキツネ顔がタヌキ顔に変わった。
ということは。。。
「お義兄様ありがとうございます。とても助かりますわ。」
「えぇー!お義兄様だと?」
アーサーは目が飛び出るほど驚いてそのまま固まっていた。
「お、お前、いつの間に!」
「兄上、何を驚いているのですか?フェリシアは家族になるんですよ。可愛い義妹ですからね。」
ノアはどうだと言わんばかりに勝ち誇った顔をした。
「兄上達、辞めてくださいよ。可愛いフェリシアが困ってるじゃないですか!」
マティアスは声を出さずにはいられなかった。
「そもそも彼女は俺の婚約者なんですからね!」
あぁ、マティアス殿下
穴があったら入りたいですわ。
フェリシアはただ目を閉じていることしかできなかった。
王子達の様子を見ていた王妃の眉間のシワが次第に大きくなり出した。
「あなた達、また始めるつもり?ここは仕事をする部屋だと言いましたよね?」
鶴の一声とはこういうことを言うのだろう。
王妃の一言で水を打ったように静まり返った。
王妃であり母でもあるヘレナはやはり強い。
「アーサーとノアは用が終わったら退出しなさい。マティアスは手伝いを続けるのなら席を離れなさい。そしてジョシュアは私の隣に座りなさい。以上よ。」
二人の王子は部屋を出て行き、入れ替わりに女官達が戻ってきた。
こうして何事もなかったように作業は進められ王妃は最後の書類に署名をした。
「フェリシア、これは当日の食事メニューよ。確認の署名をしたから料理長に渡してちょうだい。それで今日は終わりでいいわ。」
「はい、承知しました。」
「マティアス、一緒に行ってあげなさい。」
「はい、母上。」
二人は部屋から出ると長い廊下を進んで行った。
時間帯なのかすれ違う人もなく歩いているのは二人だけだった。
「殿下、わざわざ申し訳ございません。私一人で出来ますのでどうぞ公務にお戻りくださいませ。」
「フェリシア、母上はわずかだけど二人だけになれる時間を作ってくれたのだと思うよ。」
「まぁ。。。王妃様のお気遣いだったのですね。」
「厨房までの王宮内デートだね。手を繋げないのは残念だけど。」
「ふふ。」
こうして仲良く厨房にやってきた二人は料理長に書類を渡した。
王子から直々に書類を渡され腰を抜かした料理長は何度も謝った。
「謝る必要はないよ。まぁどうしてもと言うならお菓子でももらうかな。」
料理長はマティアスの案に喜んで試作品のお菓子を持ってきてくれ目の前で毒味をしてから包んでくれた。
「殿下、このことはどうかご内密にお願いします。」
料理長が心配そうな顔をするとマティアスはポンッと彼の肩を叩いた。
「さぁ、戻ろう。フェリシア。」
マティアスが歩き出したのでフェリシアは慌てて料理長にお辞儀をして後をついて行った。
フェリシアはふわふわした見えないベールに包まれたような優しい気持ちになった。
何だろうこの気持ち。
ただ、王宮内を歩いただけなのに。。。
ただ書類を渡すという業務を行っただけなのに。。。
殿下と一緒だととても満たされた気持ちになるわ。
「ん?フェリシアったらまた何か考えてるでしょ?」
「あっ、いえ。。ただ厨房まで歩いて来ただけなのに殿下と一緒だととても優しい気持ちになったので不思議だなと思いまして。」
「俺も同じだよ。何気ない行いもフェリシアと一緒だととても充実した気分になるさ。今回は母上に感謝だね。さぁ、戻ってお菓子を食べよう。」
そして庭園パーティー当日になった。




