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初デート 2

◆◇ 第十五章 中編 ◆◇


 「さぁ、着いたよ。」

マティアスはウィザードから降りるとまた赤ん坊を抱えるようにフェリシアを持ち上げそのままお姫様抱っこをした。


「あ、あの降ろしてくださいませ。」

「ダメだよ。ここは馬を放す為用の土地だから女性の靴では歩きづらいよ。」

「わ、わかりました。」


フェリシアは観念して抱かれることにしたが、なるべく身体が密着しないように上半身を反らしていた。


う、うっ、この体勢はちょっとツライかも。。。。

でも、殿下に密着することを考えれば。。。。。


「ねぇ、フェリシア。そんなにのけぞっていたら辛いでしょ?それに抱きにくいよ。両腕を俺の首に回してくれる?」


自分より力の強い者にしっかり抱かれていては反抗もできない。

フェリシアは諦めて両腕をマティアスの首に回した。

それでも頭だけはナナメの方向に向けていた。


「フェリシアったらどうしたの? そんなに俺の顔を見たくないの?」

「い、いえ。顔をそちらに向けると殿下の襟元に私の顔が近づき過ぎて触れてしまいそうになるからですわ。」


マティアスはビクッとし立ち止まり、体内が熱くなってくるのを落ち着かせようとした。

マティアスの呼吸が荒くなり体温も上がっているのが抱かれているフェリシアにも伝わってきた。


「フェリシア。。。」

マティアスは何か言いかけたが黙り込んだ。

「はい?」

フェリシアは返事をしたがマティアスは答えることはなく再び歩き始めた。



「ここが一番眺めがいい場所だよ。」

マティアスはフェリシアを解放すると続けて言った。

「フェリシア、俺は君の顔が触れることに嫌悪感など全くないよ。むしろその柔らかい唇で触れてもらいたいくらいだよ。」


フェリシアはこれでもか!というくらい目を見開いてマティアスを見つめた。

で、殿下は何を言い出すの!

は、恥ずかしくて隣にいられないじゃないの。。。


フェリシアはお決まりのごとく顔を赤らめマティアスから顔をそむけた。


「あれ?また七変化が始まったのかな? さぁ、行こう。」

マティアスはフェリシアの手を引いて一番見晴らしのいい場所に移動した。


「どう? パルトを上から眺めているようでしょ?」

「わぁ、すごいです! 以前見た時よりもっと広い範囲が見られるんですね!」

「ここは俺のお気に入りの場所なんだ。前はつまらなくなるとウィザードとここに来てパルトの街並みを眺めていたよ。」

「つまらないと?」

「そう。でも、今はフェリシアがいるから退屈になることなんかないけどね。」


頬にあたる風も心地よく、先ほどまでの羞恥心も風と一緒に飛んで行ってしまったようだ。


「この辺りはあまり人が来ないのですか?」

「そうだなぁ、厩舎から結構距離があるからなぁ。」

「シロツメクサがいっぱい咲いていますね。」

「あぁ、この白い花?」

「はい。幼い頃よくマデリンと花冠作りをしましたわ。マデリンは綺麗に作れるのに私は不器用なのでいつもぐちゃぐちゃになってしまうんです。」

「ハハハ、フェリシアらしいな。それで花冠はどうしたの?」

「見かねて姉のヴェロニカが作り直してくれました。」


二人はシロツメクサを見ながら付近を散策した。


「今度は王宮から出て遠乗りに行こう。 そうだ!ピクニックだ!」

「うふふ、いいですね。楽しみですわ。」


いつも微妙な距離で会話をする二人だったが、丘上の爽やかな空気がお互いの小さな溝を払いのけてくれたようだった。


丘に到着した時はあまり気にならなかった雲が次第に二人の頭上に近づいてきた。

「なんだか雲行きが怪しくなってきましたね。」

「そうだな。ダンが言ってた通りだな。」

「風も冷たくなってきましたし。」

「そろそろウィザードの所に戻ろうか。」


マティアスは嬉しそうにフェリシアに近づいた。

帰りも当然お姫様抱っこだ。

フェリシアも諦めて素直に抱かれた。


「殿下、腕をお首に回した方がよろしいですか。」

「もちろん!」


フェリシアはマティアスに身体をゆだね目の前の草原を見つめていた。


小さい頃お父様に抱っこしてもらった感覚とは明らかに違う。

自分が成長したのもあるけれどそれとはまた違う何か。。。

殿下は見目が良いからついお顔に注目してしまうけど、騎士様だから身体ががっしりしているのね。

抱かれ心地がいいというか。。。。

・・・イヤだわ、私ったら変なこと考えちゃって。



ポツン、ポツン

降り出した雨がフェリシアのおでこにあたった。


「あっ、雨が。」

「まずいな。少し急ごう。」


ウィザードを繋いでいた場所まで戻ると雨は先程より強く降り始めた。

今は大木の下で凌げる程度の雨だが見上げると空は益々暗くなってきた。

マティアスは腰に手を当てじっと空を見上げていた。

フェリシアはマティアスの邪魔をしないようにウィザードを撫でていた。


「よしよし、ウィザードはいい子ね。濡れちゃうけど少しの間我慢してね。」


ウィザードの額には小さな白斑があった。

「ふふ、ウィザードの額には木の葉みたいな模様があるのね。可愛いわ。」


「フェリシア、雨はもっと強くなるよ。もう少し戻った所に小屋があるから今のうちに移動しよう。」


二人は急いでウィザードに乗り小屋を目指した。

小屋はそんなに大きくはないが大人二人が休憩するには充分な広さだった。

中は物置化しており藁や鍬が転がっていた。

もちろん椅子などあるはずもなく二人は横倒しになっていた丸太に腰掛けた。

雨は更に強く降り出し気温も下がってきた。

小屋といってもかなり隙間があり吹き込んでくる雨風が更に二人の身体を冷やした。


クシュン。フェリシアはくしゃみをした。

「フェリシア、もっとこっちに来て。」

フェリシアはもじもじしていた。

マティアスは躊躇しているフェリシアに自分の上着を掛け強引に膝の上に抱えた。

「大丈夫です、殿下。殿下が風邪を引いたら大変ですわ。」

「何が大丈夫だ。、寒くて震えているじゃないか。」


マティアスはフェリシアをギュッと抱きしめた。

「手もこんなに冷たくなって。。。こんなことになって申し訳ない。。」

「殿下謝らないでください。天気がこんなに急変するなんて誰も想像つきませんわ。」


雨音は二人の会話を妨げる程激しくなってきた。

マティアスに抱かれたフェリシアは今日のことを考えていた。


異性への免疫がない殿下と私は始まりは一緒だったはずなのに最近の殿下には余裕すら感じてしまうのは何故?

まるで恋人にするように優しくされると私のような未熟者でもトキメキを感じてしまうわ。

しかも今日のウィザードの手綱をさばいている殿下の凛としたお顔ったら。。。。

こんなんじゃ。。。殿下のこと


「好きになりそう。」

「えっ?」


あっ、私、うっかりしてそこだけ声に出してしまったわ!

恥ずかしくて思わずマティアスの胸に顔を埋めた。


「俺のこと好きになってくれたんだね!ありがとう、フェリシア。」


初めてのデートなのに雨が降るなんて。。。

マティアスはつい今し方までは雨を忌々しく思っていたが、フェリシアの呟きで180度変わった。

フェリシアをこんなにたくさん抱きしめることができるなんて!

雨に感謝だな。


二人にとって激しい雨音は雑音ではなく美しい旋律に変わっていった。

沈黙の中、二人はだんだん睡魔に襲われウトウトし始めた。


「フェリシア?」

「はい?」


「フェリシア?」

「・・・はい?」


「フェ・・リシア?」

「・・は・・・い・・」


どのくらいの時間が過ぎたのだろうか。

子守唄代わりだった雨もだいぶ小降りになってきて小屋の外の音も少し聞こえるようになってきた。


ザク、ザク

誰か近づいて来ているのか小屋の周りを歩いている足音が聞こえてくる。

夢の中なのか現実なのか話し声もかすかに聞こえてくる。

すると軒下に繋いでおいたウィザードが鳴き声を上げた。



ドンドンドン!

扉を激しく叩く音が響いた。


「殿下いらっしゃいませんか?」

ルーファスの掛け声と共に扉が開けられた。


「あっ!」

マティアスとルーファスは同時に叫んだ。

入り口にはルーファスとダスティンが立っていた。


「困った(あるじ)ですね。心配して探しに来たらこんな雨の中で昼寝ですか。」

ルーファスは笑いながらマティアスに雨用のマントを手渡してからフェリシアに向かって言った。


「フェリシア様もこのマントを。こちら騎士用なので大きくて重いですがしっかりしてますので。」

「ありがとうございます、ルーファス様。 ダスティンもね。」


「さぁ、急いで小降りのうちに戻りましょう。言いたいことは執務室に戻ってから聞きますよ。」

ルーファスはテキパキと馬の支度を整えた。


「フェリシアだいぶ体が冷たくなっているな。大丈夫か?」

「はい、殿下。」

大丈夫と返事をしたが、髪もドレスも濡れて冷たくなりフェリシアの体力は限界だった。


「幹部用の浴室に湯浴みの用意をしてありますから。」

「ルーファス、気がきくな。助かるよ。」


四人と三頭は騎士団棟へと急いだ。



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