二人だけのお茶会 2
◆◇ 第十章 後編 ◆◇
馬車はいつもの慣れ親しんだ騎士団棟ではなく王宮側の東門に着けられた。
フェリシアがキョロキョロしていると察したルーファスは説明をしてくれた。
「殿下のご希望で今日は王宮内でのお茶会になります。ただ人目に触れぬようにと正門以外からのお入りで申し訳ございません。」
「そうだったのですね。」
フェリシアは冷静さを装って返事をしたが本当は非常に焦った。
お、王宮でのお茶会⁈
いつもの騎士団棟内だと思っていた彼女の心臓の鼓動は急に加速し始めた。
「ルーファス様、今日のお茶会は特別な催しなのでしょうか?」
「ご安心ください。以前と同じですよ。お部屋が変わるだけです。」
ルーファスはフェリシアの緊張を気づいてか微笑みながら優しく答えてくれた。
おそらく王宮内でも一部の人間しか知らないであろう秘密の通路を経由してお茶会が開かれる部屋に通された。
もしかして、ここはどなたかの私室なのでは?
いつもより磨きをかけてもらってよかった。
ふぅ、アンナ、さすがだわ。
「殿下、フェリシア様がいらっしゃいました。」
ルーファスが扉を開けるとちょっぴりおしゃれしたマティアスはもう椅子に座っていた。
「本日はお招きに預かりありがとうごさいます。」
フェリシアは淑女らしく挨拶をした。
「フェリシア、来てくれてありがとう。さぁ、座って。」
二人は向かい合って腰掛けた。
「殿下、いろいろご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。」
「フェリシア、もう気にするな。手紙を読んだから安心して。」
会話が進むかと思われたが。。。。
し〜ん。。。。。
先日の劇的な再会はどこへやら。
マティアスの脳内は。。。。。
この間はあまりにも劇的な再会過ぎて緊張することさえできなかったけど、
改めて目の前にいると困っちゃうなぁ。
しかも今日の彼女は可愛いを通り越して美しくすぎる!
ずーっと眺めていたいくらいだよ。
フェリシアの脳内は。。。。。
なんかドキドキして上手く話せないわ。
ルーファス様とは普通に楽しくお話しできるのに
殿下の前だと上手く言葉が出てこないのは何故かしら。
それにしても美味しそうなお菓子だわ。
王宮だものお菓子専門の職人が作ったのね。
ルーファスは退室しようとしたが、二人のポンコツぶりが気になり忘れ物を装い戻ってきた。
そして、棚の上を探すふりをしながらフェリシアに話しかけた。
「ランチェスター公爵夫人はフェリシア様の姉君だそうですね。」
「そうなんですよ。でも歳が離れているので物心ついた時には公爵と婚約しいてすぐ結婚してしまいました。」
「目元がフェリシアと似ていたからすぐ親戚かなと思ったよ。」
マティアスが割って入ってきた。
「そういえば殿下は何故あの場所にいらしたのですか?もしかしてお茶会に出席していたのでしょうか?」
「あぁ、アーサー兄上の付き添いさ。招待されていた訳ではないんだ。」
「王太子様?」
「そう、要は兄上のお見合いだったんだ。」
「お見合い?王太子様はご婚約されていないのですか?」
「そうだよ。」
二人が話し始めたのを見てルーファスはそっと部屋を出た。
マティアスは続けた。
「とにかくアーサー兄上が婚約しないと僕たちも正式な婚約ができないんだ。」
「僕たち?」
「あっ、私たち!」
「いえ、そこではないです。」
「?」
「僕たちって、殿下とご婚約者様ですよね?」
マティアスはゆっくり首を振ってから胸元で小さく指差した。
その指先をじーっと見つめたフェリシアは意味を理解するとアワアワした。
「あ、あの、殿下にご婚約者様はいらっしゃらないのですか?」
「いないよ。異性の付き合いが苦手で避けていたと話しただろ?」
「私、勘違いをしておりました。」
「何を?」
「てっきり殿下には決まった御令嬢がいてその方との会話を円滑にするために私と練習しているのかと。。。」
「ハァ〜、そうきたか。 そういうフェリシアには許嫁はいるのかい?」
「お、おりません。」
ニヤッと笑ったマティアスは嬉しそうに上半身を乗り出して顔を近づけてきた。
「フェリシアは僕のこと嫌い?」
「い、いいえ。」
「じゃあ、好き?」
「は、はい。で、でも、好きと言っても。。。これは。。。」
フェリシアの顔はみるみる赤くなり呼吸も荒くなってきた。
「じゃあ、決まり。」
マティアスは人生最高の笑顔をフェリシアに向けた。
「わ、私は。。。どうしたらよいのでしょう?」
私だって理解しているつもりだ。
貴族の結婚は自分の意思など尊重されないことを。
親が決めた相手、家の存続のため、望まぬ結婚をすることは多々ある。
私はこの歳まで自由お気楽に生きてきたのだから幸せだったのだろう。
でも、相手は貴族どころかこの国の王族ではないか。。。
お父様お母様助けてぇ〜
「フェリシア、安心して。明日急に婚約ということはないから。」
「はい?」
「とにかく王太子であるアーサー兄上が婚約しないと次に進まないはずだから。」
「・・・・」
「だからフェリシアはそれまでに俺のこと、あっ僕のことを受け入れてくれればいいからね。」
「殿下、私のような。。。」
マティアスはフェリシアをさえぎった。
「いわゆる完璧な淑女じゃないありのままのフェリシアがいいんだ。だから今のままでいて欲しい。」
「私も素の殿下が好きです。ですから私の前ではどうぞ俺とおっしゃってください。」
マティアスは天にも昇る気持ちだった。
「スィントン侯爵、お父上には書簡を送るからね。」
やり切った感満載の彼は美味しそうにお菓子を食べ始め、君は食べないの?と言わんばかりの顔をしていた。
フェリシアは微笑んでから大好きな乾燥果物入りの焼き菓子をじーっと見つめた。
胸がいっぱいでお菓子なんか喉を通らない。
お茶を飲むのがやっとだ。
無理やり押し込んでもむせてしまうのが目に見えている。
殿下の前ではもう醜態をさらせないわ。
「今食べたくなかったら持ち帰っていいよ。それ好きなお菓子でしょ。」
「あっ、はい。お気遣いありがとうございます。」
つい嬉しそうに返事をしてしまったフェリシアは思った。
私のことを一番理解しているのは殿下かもしれない。




