第22話 ふん、くだらない会話じゃな
「まさかこのわしが取り逃がすなんてな。しばらく剣を振るっていなかったから腕が鈍ったか……?」
わしはリゼルグを背中におぶりながら帰路についていた。リゼルグは未だ目を覚まさない。簡単な応急処置を施し一命は取り留めたが、まだ回復には時間が必要だろう。
おそらくゼオ様が帰神で雷を打ち付けたためであろう焼け野原を、死体処理のために奔走している魔族達を横目にゆっくりと歩く。
「すみませんえすてるさん……。トリンこそもう少し強かったら……」
おお、誰に言ったわけでもない独り言を聞かれてしまっていたようだ。隣を歩くことを許可してもいないのに、当たり前のように隣に並んできたトリンが言った。
「ふん、やっと自分が弱いということを認めたのじゃな」
「はい!? いやいや、今のはそういうことじゃありませんよ!? トリンが激つよなのは激つよなんですけど……、こう、もっと力があったら役に立てたのになーっていう話で……、トリンが激つよなのとはまた違う話です」
「それは激よわなんじゃないか」
「もう! 違いますってば!」
「ナメクジが口答えをするな」
「じゅるじゅるじゅる~、我はナメクジだぞ~、じゅる~……じゃなくてええええ! なにやらすんですか! 鬼ですか!」
「ふふふ」
トリンが顔を真っ赤にして地団駄を踏む。さくらの世界でのあの、トリンによく似たかりんとかいう女への溜まった鬱憤を晴らせて満足した。まあトリンにとっては知るところのない話なのだが、許せ。ムカついていたのだ。
「ごめんなさい! 僕こそ、本当になんの役にも立てなくて……」
黒髪の少年がトリンとは反対側に並んできて言う。
「ん? おぬし見ない顔じゃな? 誰じゃ?」
少年が目を大きく見開き、明らかにショックを受けた顔をした。
「そうですよね……覚えていただけないほどの弱さですもんね……ごめんなさい、覚えていただけているんじゃないかと調子に乗った発言をしてしまい……」
「ちょっと~、いくら全然戦力にならなかった激よわのくれいんくんだとしてもその扱いは酷いですよ~? ちょーっと新人に毛が生えたぐらいの強さで、正直戦闘中、いたかな~? 空気だったかな~? とか思いますけど、それは酷いですよ~?」
なるほど、彼は新人のようだ。さくらと入れ替わっていた際に関わりでもしたのだろう。クレインという少年の方を見た。
彼は……その穏和そうな顔に一筋の雫をこぼした。それは月夜の光によってキラキラと輝き、乾いた大地にポトンと落ちた。
「でっ、出直してきます」
その一言を最後に、彼は凄い勢いで走り去っていった。キラキラとした光を目からこぼしながら。
「あーあ、えすてるさんが泣かしちゃった。かわいそう~くれいんくん」
「ふむ。まあ鳥女のせいで気の毒だとは思ったが、あの程度で泣くならそれまでということじゃな」
「え? 鳥女? 誰ですかそれ! 面白そうな人ですね! 教えてくださいよ~」
「あ? まあまあ、大したことではない。気にするな――――
「えすてるさん!?!?」
エステルがぶっ倒れた。文字通り、ぶっ倒れた。リゼルグを下敷きにして後ろに思い切り。
「えすてるさん! 大丈夫ですか!? やっぱりお腹の傷が痛みますか!? ってちょ、りぜるぐさんが下敷きに……よいしょっと。えすてるさん、えすてるさん!!」
下敷きになったリゼルグをエステルの下から引きずり出し、気を失ったエステルの頬を引っぱたきながらトリンは叫んだ。
「えすてるさん! えすてるさ――――
「痛あああああああ! じゃない! 痛くない。 え? トリンちゃん?」
「えすてるさん!!! よかった!!!」
目の前には涙と鼻水を垂らしたトリンの姿があり、慣れない濃い血のにおいがした。
わたしはなぜか――――また魔族の世界にいる。
ふざけすぎた()
次回、さくらがエステルの体で気を失ってから、再びエステルの体で目を覚ますまでのお話です。