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97. 練習試合ふたつ (vsアンビシャス国際、vs真駒大苫小牧)


 栗夕月奈に限らず連合チームにおいて、全体練習の出来る週末は大変貴重だ。

 明治神宮大会を控えた今週と次週の週末は、土曜に全体練習、日曜の午前中にも全体で合わせて、昼に練習試合を行うスケジュールであった。

 移動する時間が惜しいので、相手チームを栗川町営球場に迎え入れる手筈になっている。


「日曜に二週連続で、町営球場借りられるなんてラッキーだったなあ」

「なんだカナン、優勝報告会でメグさんが町長に頼んでたろ。聞いてなかったのかい」

 カナンの呟きに、呆れたようにフクローが突っ込んだ。


 そう、十一月の北海道はもう冬であり、上旬には初雪が到来する。

 実はこの時期、町営のスポーツ施設はオフシーズンに入っていて、本来なら借りるどころか使用する事さえ出来ない。

 しかしメグさん始め、佐藤監督に高橋部長が方々に頭を下げて回って、雪が降らないなら特別に使って良いです、という許可をもらってきたのだった。


「ったく……カナンお前、どんどん性格が雑になってねえか? 以前のお前は気付きすぎるくらい、細かいとこを気にするヤツだったぞ」

「なっ、何言ってんだよっ。ボクは昔から、ボクさっ」

 言わないで良い事をカナンが口走り、カナは少しビクッとする。


 だがフクローはあまり気にしてない風だった。

「まあ、いいさ。ピッチャーてのは少しくらい鈍感な方が良いのかもな。きっとさ、今まで出した結果がお前を変えたんだよ。細かいとこは俺が補ってやるから、カナンはズンズンイケイケで、そのまま突っ走っちまえ」




 第一週めの日曜日、朝は寒かったが、昼には10℃まで上がり、絶好の野球日和となった。

 相手はアンビシャス国際。

 ここ数年、空知地区ナンバー1の座を滝川北と争ってきた強豪である。

 市立の滝北が年度次第で強さにバラつきがあるのに対し、体育コースもある私立のアンビシャスはコンスタントに強い印象がある。

 いずれにしろ栗高入学時には、向こうから是非に、と試合を申し込まれるなんて思いもしなかった。


 エースの鈴木叶夢さん、通称トムさんとも再会した。

「お。香奈ちゃんも、久しぶりたい。優勝おめでとな」

 フクローと親しげにしゃべっていたトムさんが振り向いて、挨拶をしてくれた。

 あらららトムさん、熊本弁まったく抜けてない。


「それにしても、良か球場たい。ありがとな、オファー受けてくれて。栗夕月奈さんと試合すんの、楽しみにしとったんよ」

 ぐるっと球場を見回してからトムさんがニカッと笑う。

 いやいや、カナが試合OKしたわけじゃないですからー。

 それはさておき、栗川の町民球場もサッカー場も、プロが使えるほどの規模と設備で、手入れも行き届いているのは、栗っこたちの自慢のひとつである。




 この練習試合は失礼ながら、栗夕月奈にとっては調整を兼ねている。

 基本的に全員出場で六回まではカナンが投げ、次の二回をマッチー、最後の締めをカバちゃんが投げる予定である事を、既に先方にも伝えてあった。

 七回の守りからセカンドにメグさん、ショートにモーリー、八回守りからキョロちゃんが交代するのも決定事項である。


 アンビシャスの先攻で、プレイボール。

 両チームの先発投手はもちろん、エースのカナンとトムさんだ。


 全道大会を経験したせいだろうか、カナンはピッチングの形が出来上がってきたように思われる。

 立ち上がりは様子を見るように、コントロールの効いたストレートを軸に、カーブとチェンジアップを織り交ぜる。

 初対戦ではないので、奥の手である高速スライダーは早めに使うのだろうが、今日も調子は良いようで、初回はあっさり3人で打ち捕った。


 一回裏、カナがバッターボックスに行くのもいつも通り。

 そしてトムさんは相変わらずの荒れ球だった――いや、前より速い。

 三球めのストレートに手を出してみる。

 うわっ、重いっ……当たり損ねの打球が三塁ファールゾーンに転がり、半端なく手が痺れる。


 ――こりゃトムさん、一ヵ月見ない間にエラい事になってないかい。

 以前の認識とは違う、速く重いボールに面食らうカナであった。


 両エースともそんな感じで快投を見せ、四回を終わってノーヒット。

 トムさんは2四球、カナンに到ってはパーフェクトに抑えていた。


 五回表の先頭打者は4番ピッチャー、トムさん。

 1ボール2ストライクと追い込んだ四球め、満を持して投げた高速スライダーを見送られる。

 ボール。やっぱり曲がり過ぎるのかな。

 それならばと五球め、今度はインコースから外に逃げていくスライダーを投げると、トムさんのバットはそれに付いて行った。

 カキーン。

 ライトに飛んだ打球は詰まらされていた事もあり、ルイさんが後ろに下がってキャッチした。




 六回までは0対0だったが、選手交代が入ってからは、選手層の差が浮き彫りになった。

 七回表から左投げマッチーの登板。

 アンビシャスから初ヒットが生まれ、2アウト二塁でトムさんの打順。

 外角のストレートが少し甘く入ったとこを、トムさんが踏み込んで捉えた。


 カキーン。

 左中間、定位置より少し浅めに守っていたカナとスズの間を、打球は真っ二つに破っていった。

 トムさん、タイムリー二塁打、先取点はアンビシャス。

 そして次打者からもタイムリーが生まれ、栗夕月奈は2点を失った。


 九回表からはカバちゃんの登板。

 ストレートは130km/hそこそこだが、独特のクセ球でポンポンとアウトをふたつ取り、トムさん四打席め。

 何か余裕のようなモノさえ感じられるスイングから、ガキーンというもの凄い音が飛び出した。

 レフトのカナ、バック。

 得意のフェンスよじ登りを繰り出したが、打球は残念ながらカナの遥か頭上を通過していった。


 ソロホームラン。

 カバちゃんのクセ球も関係なくスタンドに叩き込んでしまう、呆れるほどのパワーだった。


 そしてピッチングも絶好調だったトムさんは、結局完投した。

 栗夕月奈打線は最終回にルイさんからの連打で1点を取るのがやっとで、1対3の敗戦。

 今日はトムさんのワンマンショーであった。


 後の話に依れば、アンビシャスはこの試合、なり振り構わず何が何でも勝つつもりだったらしい。

 秋季大会の仇を取られてしまった恰好になった。





 二週めの試合は、数日前に初雪が降り、開催が危ぶまれたが何とか天気は持ってくれた。

 しかし寒い。

 朝夕はとっくの昔に氷点下で、グラウンドも霜と雪が溶けて整備が必要だった。

 真駒苫の選手たちはそんな状況に慣れているのか、てきぱきとグラウンドを整えてくれ、どっちが手伝っているのか分からなかった。


「栗夕月奈さんとの対戦、楽しみにしてたさぁ。雪積もんなくて、良かった良かった」

 せっせとグラウンド整備をしている最中に、エースの手嶋さんがカナを見つけ、爽やかに話し掛けてきた。

 えーえー分かってます、一度やられたからやり返すつもりでしょ、アンビシャスの時に思い知らされました、とは思ったが、それは口には出さない。

「カナこそ、真駒苫さんと、また試合出来るなんて光栄です。お手柔らかにー」

 そう言って可能な限りめんこく微笑んだ。


 で案の定、真駒大苫小牧は思い切りベストメンバーで組んできた。

 手を抜くつもりはこれっぽちもないらしい。




 ビジター真駒苫の先攻で試合は始まった。

 この試合、カナンにとっては試金石かも知れない。

 積雪こそなかったが、霜と雪でマウンドは少し緩い。

 気温は6℃。これほど寒い中で投げるのは多分初めてになる。

 

 今日のカナンはストレートこそ走っていたがカーブのキレが今ひとつで、右の指を気にする動作が時々見受けられた。

 やはり気温が低いので、ボールの感覚が掴みづらいのだろう。

 それにフクローが気付いたのか、初回からスライダーも投げさせて、立ち上がりの攻めを凌ぐ事になった。

 我慢のピッチングが続くカナンだったが、打たれながらも六回を1失点に切り抜けたのは収穫だった。


 真駒苫は手嶋さんと小谷内さんの継投策を採った。

 ここ最近でカナが取り組んでいたのは、バントフォームの改良である。

 秋季大会決勝戦には膝の動きでセーフティを見破られていたので、ぎりぎりまでボールを引き付け、可能な限りいつものバッティングフォームに近い下半身の動きでバントをする練習を繰り返していた。


 ――トムさんの速球には歯が立たなかったけど、手嶋さんなら。

 一打席めはボールの見極めに終始したが、三回裏1アウトの二打席め、二球めのストレートを狙って、カナはセーフティバントを敢行した。

 ボールをよく見てぎりぎりまで引き付け――直前に膝を沈め、バットを寝かせる。

 コンッッ。

 若干悪めのグラウンドコンディション、打球が上手い具合に勢いを殺された事もあり、カナのセーフティは成功した。


 そしてカナの出塁を足掛かりにフクローがタイムリーヒットを放ち、1点をもぎ取った。

 ピッチャーが小谷内さんに交代した六回裏にも1点を追加し、2対1と栗夕月奈がリードする。




 しかし。

 メンバーを落とした七回表、相手打線が牙を剥いた。


 どうやら真駒苫さん、カナンだけでなく、マッチーとカバちゃんも研究し尽くしてきたらしい。

 まず七回から登板のマッチーは、あらゆる球種にタイミングを合わされてきた。

 七回表は何とか同点止まりで切り抜けるも、八回表に連打を浴び、3点取られた処で予定の二回を投げきれず、カバちゃんに交代となる。


 カバちゃんはマッチー以上にめった打ちを食らった。

 そもそもカバちゃんのクセ球は、一見素直そうな棒球と相手が油断した時に、最も効力を発揮する。

 相手が毛ほども舐めずに、しかも研究までしてきた日には、丸裸にされたも同然だった。


 そしてキャッチャーがフクローではなく、控えのキョロちゃんに代わっていた事も痛かっただろう。

 キョロちゃんもカバちゃんと長くコンビを組んでいる仲であるが、フクローが正捕手に鎮座しているせいで、圧倒的に経験が足りない。

 しかも相手が悪すぎる。

 北海道の高校野球を長らく引っ張ってきた、真駒大苫小牧である。


 こんな時だって、カナたちは諦めちゃいけない。

 必死に声を掛け、マッチーをカバちゃんを励まし続けた。


 ヘロヘロになりながらもカバちゃんは良く投げた、と思う。

 しかし九回表の3アウトめを、スズのダイビングキャッチで切り抜けた時には、既にスコアは2対9と大きく突き放されてしまった。




「まあ、その何だ――優勝したからっていい気になるなよ、てアンビシャスさんと真駒苫さんが、教えてくれたよな」

 大会前の連敗に怒る風でもなく、佐内監督は淡々と話した。

「神宮の大会までは日もねえし、そのままでぶつかって行こうぜ。とにかく冬だよ、冬。今の悔しい気持ちはさ、冬の練習に思いっ切りぶち撒けるしかねえよ。町谷も鈴野も泣いてないで、顔上げろや――あの相手にお前らは精いっぱいやったんだ、今んとこは、それで良いんだよ……」


小ネタをひとつ。

練習試合を行った高校のモデルであるクラーク国際、駒大苫小牧、そして連合チームの総監督が在籍する月形高。


この3校に共通している事がありまして、何と監督の名字が全員『佐々木さん』なんです。


そのまま出すと混乱するにも程があるので、月商は『佐内』、アンビシャスは『佐崎』と微妙に変えて、真駒苫の監督は登場させない、という措置を取りました。

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