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35. 北北海道選手権大会準々決勝 (vs釧路湖畔)


 明くる日の第三試合、準々決勝最後の試合。

 栗川高校と、道東が誇る文武両道の名門、釧路湖畔との対戦だ。


 グラウンドに出ると、ファールゾーンでキャッチボールしている遥乃さんを早速見かけた。

「はるのさぁーん」

 笑顔で大きく手を振ると、遥乃さんもカナをチラッと見て、軽く手を挙げてくれた。


「はは、緊張感の欠片もねえなぁ」

「これから戦う敵だぞ? カナ、あんまり仲良くすんなよ」

 タッキーやスズから、次々と頭をわしゃわしゃされる。


「大丈夫さぁ、ソレはソレ、コレはコレで仲良くすっから」


 肩にポン、と置かれた手を見上げると、カナンがやれやれ、という表情でカナを見下ろしている。

「カナおめえ、少し変わったよな。も少し内気なヤツだと思ってたさ」


 ――ああ、そうかも知れんな。

 理由は分からないが、カナの身体はずいぶんと()()()が良い。


 それに、さ。

「カナンだって経験があるから、分かるっしょ? 遥乃さんは今日は敵だけど、カナとは深いとこで繋がってる仲間つーか、同志だもん」

 圧倒的に不利な世界で、少ない可能性を引き出しながら必死に頑張るという意味では、カナと遥乃さんたちは今までも、そしてこれからもずっと同じだ。


「ああ、そだな……確かに、そうだ」

 カナンは帽子を目深に被り直して、微笑みながらスッと眼を閉じた。




 一回表、栗高の先攻で試合が始まった。

 1番打者のカナは毎度の事だが、いの一番に相手ピッチャーと対決する役目だ。


 球場全体が、ざわめいている。

 打席に立っているカナ自身も、先発メンバーを聞いて、気持ちを切り替えようと、何度も深呼吸している。

 釧路湖畔の先発投手は、予想していたエースの小西さんではなかった。

 マウンドに立っているのは、釧路唯一の女子選手、折口遥乃さんだったからだ。


 本大会の準々決勝、こんな大事な試合に、まさか記念の意味で、ただ登板させているわけじゃないだろう。

 遥乃さんの仕事はおそらく、ただひとつ。

 出塁させるとうるさいバッター、カナを打ち捕り、ストレスのない状態でエースの小西さんにバトンを渡す事だ。


 しかも釧路湖畔の野手陣が採った守備体系が、かなり特異なモノだった。

 これもまた、球場がざわめく原因のひとつになっている。


 まずファーストとサードが、これ以上ないほどの前進守備を敷いている。

 言うまでもなく、カナのセーフティバント警戒だ。


 ショートとセカンドは、カナの流し打ちをケアするため、極端に三塁寄りの守備位置である。

 そしてファーストにはライトが就いていた。

 外野は、ふたり。

 センターは大きく空いた一二塁間をケアし、レフトは二遊間をバックアップしている。


 釧路湖畔は、内野5人、外野ふたりという特殊なシフトを、試合開始直後から敷いてきた。

 そしてマウンドには球速不足ながら、カナを最も良く知っている敵、遥乃さん。

 完全なカナ包囲網である。


 さあて、どうしよっかなあ……

 ほとんど隙間のない内野のフィールドを見ながら、カナは途方に暮れていた。


 これだけ前に出られては、バントヒットはまず無理だ。

 そして不用意にバットを合わせるだけでは、相手の注文にみすみす嵌まるだけである。


 相手の守備位置は、セカンドより左に手厚い状態である。

 つまり予測としては、遥乃さん、外のボール中心で攻めて来るんだろう。そうしてカナに流し打ちをさせるつもりだ。

 踏み込んで強引に引っ張ってみる? ――いやいや、カナのパワーだと、せいぜいセカンドかファーストゴロ。

 粘って四球狙いも、コントロールの良い遥乃さん相手では望み薄だろう。


 遥乃さんは、カナに考える暇を与えなかった。

 初球、二球めと、ポンポンとストライクを取って、早くもカナは追い込まれる。

 タイミングを合わせられなくはないが、注文通りのバッティングをさせられるイメージしか湧かず、敢えて見送るしかなかった。

 しかも遥乃さん、ベース手前で微妙に変化させて、芯を外すボールを投げてくる。


 さあ、さあ、どうする。

 三球め、外のボールを見送り、四球め、ぎりぎりボールだったかも知れないストレートを、カットで逃げる。

 ――少し冷静になってきたような気がする……朧気ながらプランが浮かび上がってきた。


 五球めはセオリー通りなら、緩いカーブかチェンジアップで、タイミングを外しに来るかな……

 カナは腹を括った。ストレートが来たら見逃し三振だが、それでもいい。

 カーブを、打つ。

 しかもジャストミートは要らない。


 イメージ通りのバッティングが出来れば、一縷の望みは、きっとあるさ……

 カナはそう考えつつ、バットを短く持ったいつもの構えで、ボールを待った。



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