31. 栗高野球部、北北海道大会へ
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カナンと話し込んだ、次の日。
授業の合間に油断していたら、背後からサオリンにチョークホールドをカマされた。
格闘技でよく見られる、腕で首を絞める危険なアレである。
「サオリン、やめれぇ、首がしまるー」
背の低すぎるカナは、サオリンの腕で宙吊りになり、マジで息が詰まった。
「死ぬかと思った……いきなり何すんだよっ」
「カナこそ、ずいぶん水臭いじゃないかっ」
当然の抗議にも関わらず、振り向いて睨んだ先のサオリンは、まったく悪びれていない。
むしろカナに非があるかのような、ずいぶんなジト目だ。
「――何のこと?」
「おーお、白ばっくれちゃってえ。カナお前、カナンとキスしてたって、そこら中で噂になってんぞ?」
「どっ、どーしてそーゆう話になってんのさっ?!」
カナンとキスとかっ、冗談でもやめてくれっ。
自分とキスする趣味はまったくないわっ。
いつの間にかカナは、クラスの女子たちに取り囲まれていた。
「カナが認めないんなら、仕方ない。現場を再現して吐かせよう――あたしがカナやるから、ヨシノ、カナンやって」
クラス一長身の女子、バスケ部ヨシノを手招きし、サオリンが音頭を取って、椅子をふたつ並べる。
ヨシノとサオリンが並んで、椅子に腰掛けた。
「昨日の夕方、町営公園でこうしてベンチに座って」
それは確かにその通りだったけどっ。
「ふたりで何だか仲良さそうに話してるうちに、カナンがこうしてカナに覆い被さってきて」
ヨシノがサオリンにグッと顔を近付け、サオリンはヨシノの頬に両手を当てる。
――あ。そのポーズは確かにやってたかも知れんが。
「そん時、真面目な野球の話してたし、距離はそんなに近くなかったぞっ」
カナの抗議もまったくお構いなしに、ヨシノとサオリンはふたりの世界に入ってしまっていた。
「妖しい雰囲気のふたりは、ラブラブに見つめ合って」
「そのままブチューと」
「してねえっつーーーのっ!!!」
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いかん。このままじゃあ、まったく埒が明かない。
「カナーン。助けてくれえ」
仕方ないので、教室の後ろの壁に寄り掛かって駄弁っているカナンを呼んだ。
「え、ボクが? キス? カナと?」
カナンも噂は初耳だったようで、きょとんとした顔をしている。
「ぶわっはっはあ、冗談はよしてくれ。ボクにそんな趣味はねえさ。天地がひっくり返ってもカナとキスなんかしねえよ。な、カナ」
「ん、そだな」
良かった――意見が一致した。
一笑に付されたキスの噂だが、カナンが去った後の、サオリンたち女子の雰囲気が、なんだかおかしい。
誰も彼もが、哀しそうな顔をしている。
「みんな、どしたん?」
みんなの顔を見回していたカナに、ガバッとサオリンが抱きついてきた。
「カナぁ……あんたずいぶん、こっぴどいフラれ方、しちゃったねえ……」
「ふっ、フラれ……??」
ちょっと待った。みんな、何を勘違いしてるんだっ。
「あたしの胸で泣いていいからねえ……強く生きるんだよぉ、カナぁ……」
「いやだからっ、ちょっと待っておくれよぉ……」
委細構わず、うんうんとみんな肯きながら、涙ぐむ女子まで居た。
放課後辺りにはとうとう、カナがカナンに告ってフラれた、という話になってしまっていた。
もう、勝手にせえ。
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家に帰宅したら帰宅したで、ちょっと信じられないモノを見てしまった。
「ワン、ツー、スリー、フォー、ごぉろくしちはち、っと」
「お姉ちゃん……なにやってんの……」
家の大広間で美香お姉ちゃんが、正気とは思えない短さの白いプリーツスカートを穿いて、パンツ丸出しで踊っていた。
「なにって、野球部の応援だよ」
「お姉ちゃん、チアガールに立候補したんだってさ」
居間で母が、呆れたような声を出していた。
久々の本戦なので、学校も力が入り、希望者は野球の応援に行っていい事になっていた。
数名しか居ない吹奏楽部を中心に即席の応援団を組む事になり、若干名のチアガールも募集した話は知ってはいたが……
あろう事か、一ヵ月後にインターハイの全国大会を控えている姉が、立候補してしまっていた。
「だってさ、せっかくの香奈の晴れ舞台だよ? 高校最後の応援、行きたいっしょ」
「いや、だからって――お姉ちゃんの晴れ舞台の方は、どーすんのさ……」
「行かない方が精神衛生上悪いねっ、きっと」
今までの姉の言動を見ていると、確かにそんな気がするから、不思議だ。
「かっとぉばせぇー、かぁーなっ、くっりこお、ふぁ・い・とぉ、おー」
姉自身は、何ともあっけらかんと、楽しそうにチアの練習をしている。
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だが、姉がほんとに凄かったのが、そこからだった。
「美香、お友達が来てて、衣装を決めたいって――来てくれるかい」
おばあちゃんが店から顔を出して、お姉ちゃんを呼ぶ。
「ほいほーい♪」
美香お姉ちゃんはカナの目の前で、パッとシャツを脱いだと思うと、パステルカラーの袖無しチア用シャツを引っ張り出して、スッと着た。
お姉ちゃん、それ露出多過ぎ……ヘソ出てるっしょ。
「香奈もおいでっ、お仕事だよ」
姉はそう言うと、カナにドサッと衣装のカタログを渡すと、返事も聞かずに店へ駆けて行く。
カナがついて行った店先から、華やかな嬌声が聞こえてくる。
「きゃあ」
「美香、セクシー」
「身ぃ、出過ぎだべ。尻見えてんぞ」
店に来た三人は、今度チアガールをやる三年のお姉様方だった。
どうやら美香お姉ちゃん、チアガールに立候補したその足で学校に掛け合って、チア衣装の注文を取ってきたらしい。
お姉ちゃん、やるなあ。
「おばんです(=こんばんは)、いらっしゃいー」
カナもまた営業スマイルをしながら、お姉様方にカタログを渡した。
「きゃあ、香奈ちゃんこんばんはぁ」
「相変わらずめんこいねー」
会うなり皆さんに頭をわしゃわしゃされる。
――ちいさくて童顔のカナは、年上のお姉様方にかなりの人気だった。
それからはみんなで何だか楽しそうに、ああだこうだと候補を絞っていった。
「美香が羨ましいっしょ、こんなめんこい妹がいてさぁ」
カナはお姉様のひとりに、ねこっ可愛がりにベタベタされていた。
これも営業、営業。何だか良い匂いはするし。
「注意しなぁ。香奈はこう見えて、中身は男だから――でも最近、やっと女らしくなってきたかなあ……」
「はは……ははは……」
中身が男になったのは、その最近なんだけどなあ……
カナは複雑な笑いを浮かべつつ、お姉様の為すがままになっていた。
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七月初めに早めの学校祭が終われば、次の週末から、旭川で北北海道大会が始まる。
今大会は、あくまで北海道限定かも知れないが、それなりに話題になっていた。
北北海道地区で認定試験に合格した女子選手、三人すべてが、本戦に出場を果たしたのだった。
まず釧根地区。古豪釧路湖畔は第3シードで、ライバルとの決戦を制し、本戦出場。
遥乃さんは背番号11でベンチ入りし、一回戦のオープナーとして二回を投げ、無失点。
緩急が巧く使えた、と声を弾ませていたそうだ。
名寄地区は代表枠1校を9校で争う、最激戦区である。
今年は稚内の私立校と名寄の道立、そして葉月さんの士別高校の3校が横一線だったそうだ。
葉月さんは背番号17。
代打の切り札として、なんと三試合すべてに出場した。
3打席で1安打だったが、打撃面での信頼は相当に厚い、との事。
決勝戦ではダメ押しの追加点になる犠飛を上げ、打点もマークした。
カナは、ふたりとの再会も楽しみだった。
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さらに、移動の問題も、佐藤監督と部長の高橋先生が走り回って、解決してくれた。
栗川から旭川までは、バスで約二時間。
日帰りで往復も出来なくはないが、ひとつでも多く勝つためには、可能な限り野球に専念出来る環境にしたい。
と言うわけで、監督たちのご尽力で、マイクロバスを借り、旭川市内に宿泊先も練習場も確保した。
一回戦の相手は、北旭川高校。
今年はノーシードからの勝ち上がりで、4校ある旭川地区代表の中では、3~4番手の評価だ。
「いきなり優勝候補とじゃなくて、ラッキーだったな」
「勝とうぜ」
滝川と硯の会話に、フクローが思わず苦笑した。
「――多分向こうも、まったく同じこと言ってるっしょ」
現在の実力はいざ知らず、最近の実績では、30数年ぶり本戦出場の栗高が、参加16校中断トツの最下位だ。
かくて北北海道大会の開会式に出るため、栗高野球部を乗せたマイクロバスは、春季大会とは比べ物にならないほど多くの見送る人々に囲まれながら、旭川スタルヒン球場へと出発した。
栗高のモデルになった学校ですが、資料を調べていると、驚愕の事実を発見。
なんと空知予選の一回戦から、ブラバン付きで全校応援をやっていました。
栗っこたちのお祭り好き、イベント好きを舐めてたわぁ……




